第18話 わし、2度あることは3度あることを知る 後編の後編
「ぷっはあっ!やべぇ、溺れかけたぜ……」
「無事だったかマチス。俺も急に水が流れてきてビビった。だがなんとか水中から顔を出してこうして空気を吸っているんだ」
今2人がいるのは水の中である。正確には水面から顔だけが見える状態だ。これはシャドウダイバーのスキル[大海]によるもの。このスキルもおそらくシャドウダイバーのオリジナルスキルであり、見たところ自分の周りの空間に大量の水を発生させるものらしい。それ単体ではただ水が流れるだけだが、もし今いる窪みの中のような場所で発動させたらどうなるか。その現状が今の2人だ。
「おーい、生きとるかー」
窪みへ届くAの声。
「ああ、2人ともなんとか生きてるぜー」
その報告にAは1度は頬を緩ませたが、すぐにいつもの仏頂面に戻る。
「無事ならよい。だが気をつけろ。シャドウダイバーはまだ水中にいるはずだ。やつが何をモチーフにしたモンスターかを思い出すんじゃ。常に気を張っておれ!」
「分かってますぜAさん!やつのモチーフはおそらく…………っ!!」
キースが言葉を放つと同時に水中から何か鋭利な物が突き放たれるのをAは見ていた。それはシャドウダイバーの銛だった。キースは水中で変に感じた水流により、何かが迫ってくるのを理解した。そのため、不意をつかれることなく避け切ることが出来たのだ。
「よく避けきれたな!水の流れでも感じとったか?………そう、俺様のモチーフは魚人!本来の俺様のステージはこの水中!お前達では水中では上手く身動きなど出来ないだろう!だが俺様には余裕だぜ?なんなら地上を超えた高速で移動ができる!さぁ、俺様を捉えられるか!?」
水面に顔を晒して喋るシャドウダイバー。その姿はまるで処刑台に乗せられた生首のような不気味さがあった。キースが手に持つ剣を振るうが、すでにシャドウダイバーは水中へ再び潜っていた。キースは舌打ちをし、どこから来るか分からない恐怖に身構えていた。
「くそ!俺達には不利すぎるフィールドだ!攻撃してきたところをカウンターするしかないか!?」
作戦を考えている間も、シャドウダイバーは水中から突きを行っており、致命傷ではなくとも2人の身体には所々赤いエフェクトが浮かんでいた。2人はカウンターを狙うも、ヒットアンドアウェイを繰り返すシャドウダイバーに苦戦している。そんな様子をAとリカは上から見守ることしか出来なかった。Aは歯ぎしりをしてイライラを募らせている。
「めんどくさいやつじゃな!スキルで攻撃しようとしてもやつに有効なスキルは雷属性のみじゃ。もし攻撃してしまえば2人にも水を通して最悪死亡させてしまうではないか!」
2人はひたすら治療系のスキルを発動し、水中の2人が倒れないように動くしかなかった。
(いや、なぜわしは躊躇う?元々こいつらは囮にでも使うのではなかったのか?)
Aが3人を加えたのは囮として、命が1つしかない自分を守るため。なら今ここで見捨ててすぐにでも魔王の元へ急ぐべきではないのか?そんな思いがよぎったAは先程まで動かなかった右足を後ろへと―――――――――
「くっ!」
動かさなかった。
「キース!マチス!わしも行くぞ!」
「ええ!?リーダー、自殺するつもり!?」
顔に驚愕を浮かべる3人。
「キシャシャ!お前も死にたいなら死なせてやるぜ!」
水面に顔を出すシャドウダイバー。彼のセリフに対してAが返す。
「いや、わしは死なんよ。わしが行くのはただわしがいたい空間を守るためにじゃぞ!決して壊させはせん!」
「Aさん…………」
「ボス…………」
(そうじゃ、わしはこの少ない時間でもこいつらに助けられていたんじゃな…………)
Aは3人と出会うまでは1人であった。ただ1人で食事をし、寝る。他のプレイヤーとは違い、戯れることも出来ず、お互いに笑うことなど無かったのだ。だからこそ、この3人に出会い、共に過ごすことに対する感謝という人間の大切なものを覚える事が出来た。もし3人に出会うことなく進んでいたらどうなっていただろうか。もしかしたら最後はプレッシャーと負の感情に飲み込まれていたかもしれない。
Aは自分に大切な感情を教えてくれた3人に笑みを見せた。もしかしたらこれが3人に見せた初めての笑顔かもしれない。
Aはこの笑顔を再び浮かべるために今戦う。今のAは輝いているはずだ。Dナイトの時よりも。〔あ〕の時よりも。
「よし、行くぞ!」
Aが飛び込もうとすると、
「いや、いい雰囲気のところ悪いが、Aさんは来なくても大丈夫だぜ?」
「なぜじゃ!?わしにもやらせてくれ!」
訴えるAに返答するマチス。
「さっき言ったじゃないっすか。俺達に任せてくれってな。俺達だってやれるとこ見せてやるさ!」
「キース………マチス…………」
Aは水中へと進む足を止めた。
「なら任せたぞ2人とも!死んでも勝て!」
Aの声を聞いたキースとマチスは安心したようにお互いの顔を見やる。
「だってよ、キース。なら本当に死んでもやるしかねぇよな?」
「ああ、絶対あの野郎に一泡吹かせてやろうぜ!マチス!」
この瞬間にもシャドウダイバーは水中へと潜っている。こちらからは水流でしか感じられず、カウンターしようにも早すぎて出来ない。ならどうするか。答えは―――――――
「行くぜ![雷鳴斬]!!」
「ああ![
2人は自身の持つ武器をスキルを発動させながら水中へと突き出した。水中が光で輝く。
「おい!やめろ!そんなスキルを使ったらどうなるか分かってるのか!?」
あのシャドウダイバーの戦慄する声。2人が使用したスキルは両方とも雷属性。それが水中で放たれたのだ。
「ああ!覚悟の上だ!」
「そもそも、俺とキースは自爆前提で飛び込んだのよ!水で満たされるとは思わなかったが相打ち上等!予定に変更はない!」
Aがスキルを使わなかったのは2人が水中で感電死しないようにするためだ。それなのに2人は自らそれを発動させている。本当に相打ちに持ち込むつもりだ。
(そうじゃ……登って帰ってこれないはずの窪みに飛び込んで行ったのも死んで再び帰ってくることを前提だったんじゃな……)
2人はダメージに耐えながらスキルを発動させている。それはシャドウダイバーも同じで、苦手である雷属性に耐えねばならない。それは困難だと感じたのか、スキルを発動させている2人を攻撃しようとするシャドウダイバー。電撃に耐えつつ、スキルを放ったまま無防備の2人に銛が突き立てられようとしていたが―――――――――――――――
「2人は殺らせんよ!」
シャドウダイバーの銛を持つ手に1つの弾丸が放たれた。
「「[水針弾]!!」」
Aとリカのスキルが、2人を守ったのだ。シャドウダイバーは手を撃ち抜かれたことにより、力が抜け、銛を水中へと落としていく。
シャドウダイバーの攻撃から2人を守りつつ、[治療]により回復させていく。シャドウダイバーを倒すまでは2人を決して死なせはしない。そう決めたのだ。
そしてやがて――――――――――――――
「ぐっ、この俺様も……ここまで……か。だがまだ俺様を超える六天王がいる!……せいぜい勝てるように祈るんだな!」
シャドウダイバーがついに赤いエフェクトを身体中に刻みながら光の結晶となり、水中へと沈んでいった。[治療]の効果が追いつかず、シャドウダイバーを倒した瞬間に体力の尽きた2人と共に―――――――――――。
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