第16話 わし、2度あることは3度あることを知る 中編

「「行くぞ!!」」


まずはAが先陣を切り、シャドウダイバーへ横に斬りかかる。シャドウダイバーは手にした銛を構え、迎撃の態勢に入る。


「[雷鳴斬らいめいざん]!」


双刀が電気を帯び、双刀に雷属性が与えられた。シャドウダイバーは雷属性に弱い。それは先程の[雷撃弾らいげきだん]で分かっていることだが、それでも六天王の1人。そう簡単には倒れてくれなかった。


「さすがに俺様でも直接斬られればただではすまんよ」


「くたばれぃ!」


「それでも、斬られればの話だがな!」


Aは斬りにかかっている途中で気づいた。シャドウダイバーは姿勢を低くし、銛を定めていた。まるで魚を狙っている漁師のように。


「[激流槍アクアスプラッシュ!」


水の力を纏った銛が高速で突かれる。だがAは踏みとどまることが出来ずに銛へと突っ込んでしまう。


(早いっ!?避けられないぞ!)


「キシャァァァァァァ!!」


シャドウダイバーが奇声をあげながら獲物であるAが銛に突きささるのを見つめている。


「[風神の加護]!!」


突然Aの腹を穿とうとしていた銛が風に弾かれた。[風神の加護]は[風の盾]の上位互換にあたる魔法である。もちろん魔法を発動したのはAではない。


「ふう、危なかったわ」


「助かったぞ、リカ」


リカが魔法を発動してくれなかったら死んでいたかもしれない。あの高速の突きはかなりの脅威だ。しかも銛のリーチは長いときた。

双刀じゃ距離を詰めなければキツい。やはり手強いと感じる。焦燥の汗が背筋を通る。


「今は奇跡的に間に合ったが次はどうかな?この突きの早さをお前らの目じゃ到底見切れまい!」


(まぁ、そうじゃよな………)


再び双刀を構えようとした時、足音が後ろから聞こえた。何かと思って振り返ると、それらはマチスとキースだった。


「Aさん、ここは俺らに任せてくれ」


「向こうが銛使いならこっちは槍使いよ。使い手なら同じ武器の対策は怠っていないさ」


マチスは槍使い。キースは長剣使い。どちらもAの双刀よりもリーチがあり、シャドウダイバーに対して強く出られる。1番助かるのはこの2人はあくまで一般プレイヤーのため死んでもまたリスポーン出来る点。最悪、逃げるための時間稼ぎにはなるだろう。まぁ、そうなことにならないように祈るがね。あと信頼度は高めておきたい。ここで逃げるようでは男が廃るではないか。


「ヒャハッ、4対1か!それでも俺様は構わないぜ?まとめて串刺しにしてやるよ!」


地に向けていた銛をA達に向ける。


「ならやってみることだな。俺らだってそう簡単にはやられねぇよ」


キースが長剣[白銀はくぎんの剣]を。マチスは槍[風雷槍ふうらいそう]を構える。どちらもモンスターからのドロップ品である。わしの[血塊の双刀]と[白夜びゃくやの剣]もドロップ品である。基本的に店で買う武器よりもドロップ品の方が性能は良い。簡単に武器が揃えられるという点は店の方が優秀だ。


「2人が前へ出るというのならわしとリカでサポートに徹する。安心して戦ってくれ」


「ああ、頼んだぜAさん。野郎は俺がぶっ倒してやるよ」


「いや、だろ。抜け駆けは許さんからな」


「2人とも、そんなこと話してないで構えてよぉ………。ほら、来るよ!!」


シャドウダイバーが銛を構えながら突撃してくる。それに対してキースとマチスが前衛に出て剣と槍で刺突を受け止める。その瞬間になった時にはシャドウダイバーは後ろに引き、反撃を受けることがないようにする。槍は戦闘において間合い管理が大切だと言うが銛と同じだろう。銛や槍は近距離では本来の力を活かしきれない。中距離で相手の攻撃をいなしながらリーチを活かして攻める。それがこの武器の戦い方だ。


「はぁっ」


今度はマチスが下がるシャドウダイバーに対して突きを繰り出す。その速度は申し分なく、繰り出されてから目で見て動くのは困難だろう。だがシャドウダイバーは軽快なステップで避けていく。モンスター特有のの力だ。


「そんな単純な突きじゃ俺様を穿つらぬくことなんて出来ないぜ?」


シャドウダイバーは余裕の笑みを浮かべている。


「別に穿くだけじゃねぇよ」


「………っ!!」


ステップを踏んでいたシャドウダイバーの背後に回り込んだキースが剣で首へ斬りかかる。本来ならそのまま首を飛ばしたはずだが、惜しくもシャドウダイバーの反射神経の方が強く、剣は空を切った。


頭部を下げ、危機を回避したシャドウダイバーはキースの隙を見逃さない。


「[水針弾]!!」


シャドウダイバーは自身の指先をキースに向けていた。このままでは水の弾丸がキースの身体を撃ち抜いていくだろう。それは阻止せねばならぬ。Aはシャドウダイバーが魔法を唱え始めたと同時に自身の魔法を発動。


「[風の盾]!!」


弾丸がキースを撃ち抜くよりも早く展開された風がキースの心臓部に届くはずだった弾丸を弾く。ついさっきまで「あ、終わった」みたいな顔をしていたのに今では嬉しさからか微笑んでいる。揺れた体勢を整える際にAの目を一瞥していた。体勢を戻すと、シャドウダイバーからステップで距離を取っていく。


(サンキュー、Aさん)


ここまで数秒の出来事である。


「はぁ、この数秒で何度死を感じただろうな。隙をつくのも骨が折れるぞ?」


「さすがに体力戦になっちまったら俺はキツいぜ?」


そう。見た感じシャドウダイバーは全く息を切らしていない。余程肺が強いのだろう。魚人という見た目からしてもそれは分かる。


「とりあえず[治療]ね」


全員の身体に光が刺し、気力が取り戻されていく。それにいつも自身が使っていた[治療]とは次元が違うことにも気づいていた。やはりその役職に特化した者の方が効果は強いのだ。


「まぁ、安心せい。わしがなんとかやつの動きを止める。その隙に倒せ」


Aが3人より前に出て、シャドウダイバーの方へその指を向ける。そのAの顔は自信に満ち溢れていた。「勝てる」と分かりきっているように。


「さぁ、どう回避する?――――[雷撃弾]!さらに[雷撃弾]!」


単発で撃つのではなく、複数。それもようにして。シャドウダイバーへ向かう弾はどれもシャドウダイバーに直接当たることはなかった。だが地面に着弾したことにより、少しの間だけ雷が激しくバチバチと地面を鳴らしている。


「小癪な真似をっ!」


シャドウダイバーはその場から動くことが出来なかった。なぜなら擬似的に地面からうねる雷が檻のような役目を果たしているからだ。シャドウダイバーが雷属性に弱いことは分かっている。


「さぁ、お前のステキで軽快なステップで避けてみるがよい!動けるものならな!」


Aが言い放った時には、キースとマチスがシャドウダイバーを左右から挟んでおり、武器を構えながらそれぞれのスキルを発動させていた。


「うおおおおお!!――――――――[無尽の剣撃エタニティ・エッジ]!!」


咆哮するキースの発動したスキル[無尽の剣撃]は斬りつけた相手に目にも止まらぬ早さで複数の斬撃ダメージが入るというものだ。当たればただではすまない。


「くたばれぇぇぇぇ!!

――――――――[螺旋刺突エクストリーム]!!」


マチスの使用スキル[螺旋刺突]は槍に風属性を付与したうえで、強力な貫通力を得ることができる。穿かれたら最後、腹には1つの穴が残るだろう。


(さぁ、この即死とも言えるスキルをどう回避する!!)


シャドウダイバーは特に動くこともなく、武器も構えていない。このまま抵抗しなければ確実な死。それとも何か隠してあるスキルの力があるのだろうか。Aは一瞬だがそう思ってしまった。


スキルが直撃する寸前、シャドウダイバーは腹をくくったかのような今までに見たことのない表情をした。


「――――――[??????]!!」


そのまま2人の勇者は止まることなく2つの武器がシャドウダイバーを捉えた――――。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る