第15話 わし、2度あることは3度あることを知る 前編
「うわぁ、もうこんな時間かよ。まだ宿あいてっかなぁ?」
「はぁ……はぁ……ごめんね………」
リカはここまでほぼ全力で走っていたA達について行くだけでかなりの地獄を見たようだ。顔からは大量の汗が見え、腕を膝につけている。やっぱり女性なら大変よな……。
「大丈夫だ、問題ない。なんとか辿り着くことができたし」
A様御一行はスキル[加速]により本来ならかなりの時間がかかるであろう第8の街へ到着することに成功。少し遅れたが予想はしていたため実質予定通りだ。
「街に着いたはいいがあまり長居する気はないぞ。観光したいなら明日の午前にしておくとしよう」
Aが3人を見て言う。Aも今までにないくらいの体力を使ってかなりキツいはずである。余裕の表情を見せているのはギルドボスとしての誇りを一応持っているからだと思う。
「了解っす」
まずは街の中心部へ行き、宿の位置等を把握する。見た感じ、この街は今までと同じ構造のようだ。名前が変わっているだけで洋風という点も変わっていない。宿は何個かこの街にはあるようなので、とりあえず現在地から最も近い場所を選んだ。その宿も今までと同じ構造であった。ここまで変化が無いとは運営の手抜きが考えられるではないか。そんなことはいいか。重要なのは進んでいるかということである。
運良く宿は2部屋分空いていたので、男3人とリカで別れた。部屋にはすでに3人分の布団が敷かれており、真っ先に飛び込んだのはマチス。
「やっほー!」
寝転がった布団の上で枕を抱いている。
「俺は疲れた!2人がシャワーから出たら起こしてくれ!寝てるからな!」
そう言ってマチスは横向きで寝始めた。
「いつもこんな感じか?」
「ああ、マチスは大抵布団に潜るのは俺より先なんだ。どうもリアルの布団よりは寝心地がいいらしい」
「ほーん」
「んじゃ、Aさん。俺から入られてもらいますぜ」
「おう」
キースはシャワールームへと消えていった。
Aはこの世界でしか生きられないし、向こうの世界に行く手段も無いだろう。だからこの世界でシャワーを浴びるし、ご飯も必要である。だがマチスらみたく、普通のプレイヤーであれば汚れは残るがシャワーを浴びなくてもいいし、腹は減っても向こうの世界で食べればこちらでも満腹になったのをゲームの機械が読み取り、空腹が無くなるという仕様。
それに対し、あくまでこちらの世界の食べ物は仮想なので向こうの世界で腹が満たされることはない。それでもこちらの世界で食事をするのは、美味い特別料理があるからだと思う。ここでしか体験出来ない味に挑戦するのも〔グランドワールド〕の醍醐味である。
5分程布団の上で座って待っていると、短髪を湿らせたキースが出てきた。顔はさっぱりとして頬が緩んでいるように見えた。
(では、わしも入ろうか)
Aはタオルを持って、シャワールームの中へと入っていった。入るとシャワーが単体で置いてある。辺りには水滴が多く飛び散っていた。シャワーのレバーを倒して水を出すと、それからしばらくは水の音を感じて安らぎに浸るのであった。
〖〗
「おーい、出たぞー」
シャワールームから濡れたタオルを肩に乗せて出てくるA。
「Aさんが出たぞ。マチス起きろー」
キースが揺さぶるが中々起きない。ただ、いびきをかきながら枕を抱き、深く眠ってしまっていた。
「ダメだ。起きねぇ。まぁ、いつも通りなのは安心するがな」
キースの独り言から、マチスは相当のスリーパーらしい。これでいつも出発が遅れていたりするのではないか?という素朴な疑問を浮かべつつ自分も布団に潜る。
「あ、晩飯はいらないのか?」
「ああ、今日はもういいかなってな。なんか今更買いに行くのもめんどくさいんじゃ。お主もさっさと寝るがよい。明日は早いぞ」
「そうか……。んじゃ、俺はここで落ちさせてもらうぜ」
「おう、7時くらいでいいか?」
「明日は………日曜日だ。バイトも無いし、バキバキ余裕よ。では、また明日」
キースがログアウトボタンを押し、アバター本体だけが力を無くして布団に倒れる。中身である人はもうリアルに戻ったようだ。
なんか少し騒がしそうなメンツではあったがいざいなくなると寂しくなる。今までは元々1人だったからチームっていうのが分からなかったんだ。
「わしも寝るかねぇ」
Aも直に眠り始めた。良い睡眠である。ただ、中身ごと寝ているマチスだけがリアルの用事等を済ますことが出来なかったのは言うまでもない………。
〖〗
「ふぁ~………よく寝たわい」
いつも通りの清々しい朝。いや、少し湿気がある。外の天気はあまり良くないかもしれない。洗面所へ行き、顔を洗いに行こうとしたその時だ。
―――――ズドーンッ
「!?」
「な、なんだ!?テロか!?」
宿の外からとんでもない破壊音が鳴った。その音で起きたマチスと今ログインしてきたばかりのキースが驚いた顔になっている。無論Aもだ。テロとか………するなら心当たりがあるのは1つだけだな………。部屋を飛び出し、隣の部屋のリカも合流。
外へ出ると、やはり先程の破壊音に合った惨状であった。建物は破壊されて倒れており、NPCがその辺に吹き飛ばされている。NPCなので基本的には死なないので大丈夫だ。建物も自動で修復されるが、治らないものだってある。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「くたばれ化け物!」
街の真ん中で戦闘が起きているようだ。叫び声が聞こえてくる。[遠眼]で見てみると、そこには何人かのプレイヤーと思われし者と、肌に鱗があり、魚のようなひれをつけた青色のモンスターがそこにはいた。その姿はまるで本に出てくる半魚人だ。
そのモンスターに剣、魔法、弓等で攻撃を何度も仕掛けるプレイヤーだが、どうしてだか全ての攻撃が通らないのだ。プレイヤーの焦燥が浮かぶ。
「この俺様にそんな攻撃が効くと思うか?
………残念だが無意味だ」
半魚人が装備している
それから数分で半魚人を囲んでいたプレイヤーは全滅してしまった。観察に回っていたAだがその強さは先日のDナイトを超えるかもしれない。圧倒的な耐久性に加え、鎧をいとも容易く貫通する銛。厄介な相手だ。
まだやつはこちらに気づいていない。
(先手必勝よ…………)
Aは指先を半魚人に向ける。
「[
「!?」
突如撃たれた弾丸に、半魚人は肉体を焦がされ、よろめいた。やはり半魚人は雷属性の攻撃に弱い。[雷撃弾]は簡単に言うと[水針弾]の雷属性版。直撃した者は雷により、その肉体を焦げるような痛みが襲う。
「おっと、まだ生き残っていたのか。大人しく逃げれいればいいものを…………」
([雷撃弾]が直撃したにも関わらずよろめいただけ!大ダメージをは行かないか………)
安全に倒すことは出来なかったが仕方ない。
真っ向から勝負してやろう。
「わしらはお前に負ける気など1mmもない。それでも勝とうというなら相手をしてやろうか」
[血塊の双刀]、長剣、槍、杖。4人それぞれが武器を構える。半魚人は小馬鹿にするような態度で笑った。
「ハハハッ。俺様に勝つだと?この俺様を誰だと思っている?俺様は魔王軍六天王の1人であるシャドウダイバーだ!勝てるものならやってみやがれ!村人Aさんよぉ!」
やはり六天王!まさか街に直接乗り込んでぬるとは…………。予想の上を行くとは魔王軍も中々やるではないか。と賞賛を心の中で送る。
「ふん、知っていたか!ああ、わしは村人Aだ。貴様ら魔王軍は滅ぼしてくれる!」
銛を構える半魚人。お互いの視線が一直線になる。
「では、」
「ふん!」
睨み合うA達。その時間は1秒にも満たないかったが不思議と長く感じた。
「「行くぞ!!」」
人生で3度目となる強敵との戦いがこの瞬間に始まった。その様子を空に現れ始めた暗雲か見守っていた――――――――――。
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