第13話 わし、ギルドを知る

やあ、田中だ。最近、正直僕の存在がいらないと思っているのだが気にしては負けだろう。とりあえずあらすじを言おうか。


前回、〔あ〕の言葉により、困惑してしまったA。だが自らの意志によってこの先も戦うことを決意した。進んだ道が自分の道なのだと。ぜひとも頑張ってもらいたいね。では、僕はこれで。




〖〗

「うむ。いつも通りの良い朝じゃの」


いつも起きる度にこんなことを呟いている気がする。だが本当のことだ。小鳥が空を羽ばたく様子がなんと愛らしいことか。窓を開け、換気をする。朝は日光を浴びるのが1日を過ごすこと。長生きすることにも繋がる大切なことだ。


「さて、朝ごはんとするかね」


今日の朝ご飯は近くにある店のパンだ。昨日スキル集めの際に立ち寄った所がある。試しに食べてみたのだがとても美味い。焼きそばパンが1番いけた。推せるな。


Aは徒歩でパン屋まで向かい、焼きそばパンと、それだけではお腹を満たすには少し足りないのでコッペパンを買った。コッペパン自体は初めての試みだ。とりあえず口に運んでみた。うむ。コッペパンも悪くない。飛び抜けて凄いというわけではなく、シンプルだからこそいいと思ったのかもしれない。


ちなみにパンはお持ち帰りにした。以前来たときはあまり客がいなかったのでその場で食べたが、今日はわりと来ていた。飯を食べるにはいつも着けている忍びの装備を外す必要があり、もし外してしまうと指名手配中の顔が丸見えだ。お持ち帰りを選択できるのはとてもありがたい。よって、今わしはあまり人の来ないであろう場所の森にいる。


「よし、今日もいけるな」


今日の予定は8の街へ行くことだ。もう例の2週間をきっている。あと街は10個ある。魔王領に着いてのこと、レベルのことも考えると時間が足りなすぎる。

(レベルは現在43)


今いる森から第7の街へ行くことができるのでこのまま向かうことにする。マップをひらいてみたが、街まではそこまで遠いと感じることはなかった。


Aが森で歩き始めてから数十分経っただろうか。草木は中々深く、人がいる様子もない。第7の街へ向かう者と出くわすと思っていたが間が悪いのか、良くも悪くも出会うことはなかった。


そう、この瞬間までは。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「!?」


突然、奥から響いた悲鳴。誰も周りにはいないと思っていたので急に悲鳴が上がった時はさすがに驚いた。人間が襲われているのか?つい好奇心で見に行ってしまった。


その場には複数のプレイヤーらしき者達がいた。5人の男達が3人の男女を囲っている。

これは――――――――――――――――


(PKか…………。いつもは自分が殺る側なのにいざその場面に出くわすと変な感情になるんだな………。せっかくプレイヤーに出会ったのなら殺してあげるのが礼儀だろう)


Aは双刀を抜き、最も近くにいた男の背を斬りつける。


「ぐはァッ!……な、何をする!?」


何か喚いているが気にせず首元を一刀両断。世界から消えてもらった。だがまだ残っている。さっさ片付けよう。Aは両人差し指を男達に向ける。


「[水針弾]!!」


「カッ………………」


「ウッ!」


2人とも喉元に命中。喉元に水とは言えウォーターカッターレベルが突き刺さったのだ。当然即死判定。


「貴様!!何者だ!俺達は今PKを成敗しているところだ。邪魔をするな!」


は?え…………まさかわしが倒してたのはPKじゃなくてただのプレイヤー………?

見た感じだと明らかに目の前の男らの方が悪者っぽかったんだがなぁ。


「……………………………」


「……………………………」


お互いの目線が合わせる。


「ホワチャ!!」


「うっ………………………」


双刀で男の胸を突き刺す。特に理由は無いのだがなんか勝手に腕が動いたんだ。わしは悪くない!わしは悪くない!


「さてと……………」


「ヒッ」


残りの1人に目を向ける。その瞬間に男は何かを感じたのか悲鳴を出しながらその場を速攻で離れていった。


これで5人の男は片付いた。だが問題はPKと呼ばれていたこの3人組だ。とりあえず目を向けてみた。ビビって逃げ出すだろうか?

そして今わしの装備は忍び服のため顔が分からない。誰から見ても圧倒的不審者である。


「す…………すげぇ…………」


「5人を一瞬で……なんて強さなの………」


「俺達に出来ないことを平然とやってのける!そこにシビれる憧れるゥ!」


(なんなんじゃ、こいつらは……………)


何故かわしを褒めたたえている。よりにもよってPKに褒められるとは………。よく分からない世界だ。Aは覆面の下で少しニヤケながら3人を改めて見てみる。嬉しさが隠しきれていないぞ(天の声)。


1人目の男は短い黒髪で目はキリッとしていて、革のジャケットを着た長剣使いの男性。見た感じ、優しい若者のイメージがある。うーん、なんかわしより背高くないか?姿が変わって若者になったのにのう………。

(わしは大体170cmくらい)


2人目の女性は金髪ロングの女性。まだ20代前半に違いない。杖とローブを装備していることから役職は魔法使いだろう。


3人目は銀髪の、槍を持った男。彼がさっき痺れて憧れていたやつだ。温厚というか、なんというかネタキャラ感を感じる。こちらも20代前半の若者のようだ。


Aが3人を見ていると、黒髪の男が口を開いた。


「すまねぇ、自己紹介を忘れていたな。俺の名前はキース。一応役職は剣士だ」


「次はわたしね。わたしの名前はリカ。見た通りの魔法使いよ」


「俺はマックス吉田。何故この名前にしたのかは分からない。マチスとでも呼んでくれ。あ、槍使いね」


それぞれが簡単な自己紹介を終え、今度はAの目を見てくる。こちらも名乗れと?向こうだけ話して自分だけというのはあまり良くないだろう。覆面の上から一応名乗ることにする。を。


「わしの名前はA。お主らも知っておるかものう。PK兼魔王討伐を目指しておる」


ここで本名を名乗る理由はある。自分で言うのもあれだがこれでも自分は名の知れたPKだ。少しでも自分が上の存在だと見せつけることで対面において心の面で有利に立つことが出来る。こういった行いは普段の戦闘でも役に立つだろう。


実際、3人は口を開けて固まっていた。ここまでAの名が響くとは………。だがこのまま放置しておくわけにはいかないので、自分から話しかける。


「まあ、わしのことなんかどうでもええ。そんなことよりこの3人組はなんじゃ。どういう集まりなのか。とてもPKをするような輩には思えんぞ」


みんはわしからの視点じゃ優しそうだったからのう。大体のPKはイラついたとかそんな理由がほとんどらしいが、理由も無しにPKを起こすほど短気ではないと思う。


「俺らはPKを得意としたギルドだ。といってもギルドなんてこの世界では非公式の存在だけどな」


「PKをするのにはそれぞれが理由を持っているの。その人が偶然にも集まったのがこの3人ってわけ」


理由か………。ぜひとも聞きたいな。わしはプライベートな理由かもしれなかったが気になって仕方がなかったので聞くことにした。


「俺はある日、前入っていたギルドから戦力外通告を受けて捨てられたんだ!その日から俺はそいつらを見返すためにプレイヤー同士の戦闘を繰り返した。ただ力を上げるのではなく、俺を捨てたやつら自身の身体に分からせてやりたい!ただ、練習をするのにPKが楽だったというだけだ」


理由としては十分じゃな。見返すためにという行為は神(意思を与えた男)からは現実でもよくあると教えてもらった。


「わたしはこの世界で出会った男性と付き合っていたわ。遠距離恋愛ね。自分でもリアルで知らない人と恋をするっていうのは少し疑問に思っていたの。それでも途中までは楽しかったわ。………そう、途中までは。急に彼はわたしを捨てた。他に好きな子ができたらしいの。それからわたしはこの出会いゲーとなった世界を少し荒らしてみたいなって思ったのよ。ほぼ嫌がらせね」


なんて悲しい。というかこのゲームは出会いゲーにもなっていたのか。オンラインゲームならよくあると聞いていたがこのゲームにまでそういったことがあるとは…………。

んで、出会い、そして捨てられたとな。


「俺は弟を探しに来たんだ。弟はロクでもないやつさ。あんたはこの世界にも課金要素があるのは知っているか?ていってもリアルマネーをこの世界で使える金に変換するってだけなんだがな」


この男が言おうとしていることがなんとなく予想がついてしまった。


「このゲームにハマりすぎた弟は廃課金者になってしまった……。借金をするくらいまでな。俺としては止めたかったが言う事を聞かないんだ。そしてある日、気づいた時には弟は家を出ていっていた…………」


わざわざ借金をしてまでこのゲームにのめり込むとはな。わしがリアルの人間なら身内にまで迷惑をかけてまでゲームをやりたいとは思わんだろうな。


「弟はまだこのゲームをプレイしているだろう。もし出会ったら言ってやるんだ。両親にまで迷惑かけてんじゃねぇ!馬鹿野郎!ってな。そういってぶっ殺してやる。だが弟は廃課金者だ。簡単には倒せないだろう。そのためにPKで練習………キースと同じだな」


苦労してるんだな。リアルの人間ではないわしがとやかく言う資格は無いが。


Aはため息をつき、3人へと声をかける。


「それで………?お主らはどうしたい。ここでわしに殺されるか逃げるか。さあ、好きな方を選べ」


すまないがめんどくさいことには関わる気はない。せめて経験値くらいにはしてやろうという考えだ。


3人は目配せをしたあと、Aに向かって笑いながら言う。


「「「弟子にしてください!!!」」」


「あ………?」


わしは思いもよらぬ返答に凍りついてその場に立ちすくむのみだった。















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