第2話 わし、賞金首になる
覚えているかい?僕だよ。田中だよ。前回のあらすじを話そう。
前回、僕はVRMMOゲームであるグランドワールドのモブである村人Aに意思を持たせ、ゲームの世界を壊すために彼に勇者等を倒すように頼んだんだ。案の定彼は勇者を倒していき、順調に強くなっていったんだ。
だけど、ついに運営が動いたんだ。ほら、このようにね。
〖〗
この自然や魔境に包まれた世界グランドワールドは今、1人のモブによって狂い始めていた。そこで運営は全てのプレイヤーにこのような事を言い渡す。
「こちらグランドワールドの運営です。現在の状況についての御報告があります。今、この世界は1人のモブがバグを起こし、PK(プレイヤーキル)を行っております。そこで勇者であるプレイヤーの皆さんにはどうかそのモブを倒して頂きたい。もちろん報酬は用意しよう。そのモブを倒した者にはゲーム内通過を100万円分用意しよう。これは初心者はもちろん上級者でもなかなか得られることのない金だ。なお、ギルドで討伐した場合は山分けとなる。倒した場合は私たち運営に報告をしてくれ。よろしく頼む。では、そのモブの名前を言おう。その名は、[村人A]だ。ご武運を願う」
そこで運営からの報告は終わった。それと同時にプレイヤー達が一斉にザワつく。この状況に驚くもの。我こそはとすぐに駆け抜けて行くもの等だ。
「よっしゃあ!!金稼ぎのチャンス到来だぜぇ!!」
「村人Aがバグるとは驚いたな」
「村人Aを討伐?余裕でしょ」
このような感想が主だ。色々感情はプレイヤーによって違っていたが、それでも考えることは同じだった。
「「村人Aを討伐するか」」
このような状況になっていることを村人Aはまだ知らない。
〖〗
「ふう。勇者を倒して数日たったねぇ。どれくらい強くなったかな?オープン。
彼の前にステータス画面が現れる。
名前:村人A,Lv:6,役職:一般人,スキル:肉体強化.発火魔法,2連斬り,……………。という感じである。 彼は顔を緩ませ、嬉しさにより笑う。
「ただの村人Aと呼ばれたこのわしがこのような強さを得られるとはな。あの者には感謝せんといかん」
そう、彼が村人A。今、全てのプレイヤーが狙うターゲットである。Aが感謝しているのは、自分に意思を与えてくれた、田中のことだ。彼が意思を与えてくれたからこそ、チュートリアルで死ぬことなく今まで生きて来られたのだ。
「さて、村にずっといても先客の勇者を倒すことはできん。次の街へいくかのう」
Aは自分の家を後にし、森を通り、次の街へと向かうのだった。
〖〗
「ここが第2の街、か。割と村から近くにあったのう。肉体を強化してしまえばほんと楽じゃったわ。道中モンスターが出てきたが余裕だったのう」
彼の敵はプレイヤーだけではない。仮にもプレイヤーの1人としての扱いであるAはモンスターの攻撃対象である。
最初はモンスターはプレイヤーと全く違う動き方で混乱したが、最初の村の周りということもあり、雑魚モンスターだったのでそう苦労はしなかった。あと、ちなみに街の名前は細かく設定されておらず、第2の街、第3の街、第nの街というかんじで、この数字の順番に街を巡っていけば正しい攻略ができるという訳だ。
「さて、まずやるべきことは……」
真っ先にAが向かった場所は街の中心部だ。どの街にも中心部には街の見取り図があり、どこに何があるのかが分かる。マップでは街の構造や仙人の場所がしれても、細かな店の場所は分からないのだ。
「ひとまずは宿の場所を把握しておくかのう。金は勇者のドロップしたものやモンスターからも得られたことだし」
本当に楽しいのう。ただ、金というものがないと過ごせないというのは面倒じゃが。
この世界では基本的に物を買ったり、宿をとるには金という物が必要だ。
金はリアルと同じ数えかたである。稼ぎ方はモンスターやプレイヤーなどを倒して落とすドロップ品。たまに街に貼られるクエストを達成することでもらえる報酬金が主である。
しばらく宿へ向かうために宿へ歩くと、Aは妙な物を見つけた。看板だ。でも注目したのは看板に貼ってある指名手配書だ。指名手配書は主にゲーム内での悪徳な行為を行ったプレイヤーが載せられるものだ。
Aはそこに載っている者をみる。プレイヤーのアイテムを盗むプレイヤー。わいせつ行為を行ったプレイヤー。プレイヤーの暗殺者のギルド等など細かく載っていた。そして、
「プレイヤーキラーの村人A、か……」
遂に
さすがに勇者が全く第2の街に来ないというのもおかしな話だ。しばらくの間Aは沈黙する。そして、Aは思った。ここにいたらやばくないか?と。プレイヤーにあまり出会うことのない森などのフィールドならともかく、こんな街の中心部だ。既に来ていた他のプレイヤーに見つかってしまえば面倒な事になるだろう。案の定、
「おい、あいつ指名手配犯の村人Aじゃないか?」
「よし、倒せ!!」
プレイヤーの何人かが自分に気づき、こちらに向かっているではないか。Aは焦った。そして、次の瞬間には肉体強化のスキルを使い、第3の街の方向の森へとかけていく。
(やばいぞ。今のわしでは同時に数人相手にするのはきついぞ…)
〖〗
Aは今、第3の街へと、続く森の中で身を潜めていた。森の出入り口には勇者達。
もう見つかるのも時間の問題だろう。もっと慎重に行くべきだったかとAは後悔する。
こうなれば仕方ない。せめて何人かは潰して消えるとしよう。Aは自分の持つスキルの再確認をするためにステータス画面を開く。そこでAの目に止まったのは、マップだった。よく見てみるとこの森には仙人がいるらしい。
(このスキルはなんだ?××××という名前か。その通りなら上手くいけばこの窮地をのりこえられるのではないか?)
Aはそう考え、スキル[忍びの極意]を使い、勇者達にバレることのないようにその仙人の元へ向かうのだった。
〖〗
「よくぞここまで来た。では[加速]を与えよう」
仙人がそう言うと、Aの体が光り、ステータス画面にスキル[加速]が追加される。[加速]は一時的に敏捷力を上げることがでかかる。このスキルはどの役職でも習得ができるため、どんな役職のプレイヤーでもこのスキルは欲しいものだ。Aは嬉しくなった。これでこの危機を抜けられると。Aはほくそ笑み、勇者の構える場所、森の出口へと向かうのであった。
〖〗
「おい!奴が現れたぞ!」
「遂に観念したか」
「では、くたばってもらおうか」
勇者達がAの方へとかけてくる。普通は絶対絶命の状況。だが、Aは自信を持って言う。
「くたばるのはお前達じゃよ。[加速]![肉体強化]!」
Aはスキルを使い、腰にかけていた剣を抜く。Aに剣を持った勇者が襲いかかる。だが、それをAは自身の剣で受け止める。そして、次の瞬間には勇者の背後へと回り込んでいた。
「遅いぞ」
「後ろだと?!ぐはぁ!!」
Aが剣を振るい、そしてそれは勇者の胴体を斬り飛ばす。赤いエフェクトと共に勇者の胴体が地面に落ち、それらは光の結晶となり消えた。
(想像以上に動けるのう。これならいけるわい)
スキル[加速]を得る前のAならばこのように回り込むことは出来なかっただろう。やはりスキルの恩恵は大きい。
だが、これで安心してはいけない。まだ勇者はいるのだ。警戒しろ。そう思っていた矢先、Aの目の前に何かが迫って来た。Aは反射的に体を逸らし、それを避ける。何かと思ってそれを見てみると、弓だった。
「ふん。弓使いか。さて、どこにおるかのう。[遠眼]。おっとあそこにおるのか」
Aが見た方向には確かに弓を構えた男が木の上にいた。まず普通なら肉眼では見えない位置だ。
だが、スキル[遠眼]は本来よりも遠くの位置を見ることができる。このスキルは本来、弓使い用のスキルだ。Aは冷静に弓使いの勇者の方を見つめ、スキルを使う。
「くらえい![発火]!」
その時、弓使いがいた木が燃え始めた。
「くそ!」
スキル[発火]はその名の通り火をつけることのできる分類上は魔法である。[発火]の射程は魔法使いの目の見える範囲である。基本的には魔法の範囲はそのようになっている。普通は届かない魔法でも[遠眼]を使えば簡単に射程が伸びてしまうという訳だ。
「ばれた以上仕方がない」
弓使いが木から飛び降り、逃げようとする。
だがそれをAは逃さない。
「ふん。その速さじゃ逃げられんぞ」
Aは[加速]の恩恵もあり、弓使いにすぐに迫る。弓使いは所詮は後衛。そのため、剣士ほど速さというものが育たないのだ。
「[2連斬り]!」
Aがスキル[2連斬り]を使い、弓使いに斬りかかる。
「うわぁぁぁ!!!」
[2連斬り]により、弓使いの体が3等分にされる。そして、Aは止まることなく迫りくる勇者へと向かうのだった。
〖〗
(さてと、わしのステータスは?」
あの後、Aは自分の持つスキルを駆使し、勇者をひたすら返り討ちにするという繰り返しだった。勇者が誰を来なくなるまで戦い、いなくなったため、今は第3の街へ訪れ、プレイヤーにバレないように来て宿に泊まっている。
宿はどの街にも1つあり、金はかかるが、宿の部屋には自分が許可したものしか入ることができず、攻撃されてもダメージを受けないため、基本的にはプレイヤーはログアウトする場合は宿を使い安全を確保するのだ。
(うむ。さらに強くなったぞ。なんかよくわからんがそれっぽさは感じるぞい)
Lvは12とかなり上がっている。また、勇者を倒したことで金も多く落としてくれた。
(スキルだけでなく、金もたんまりあることだし、これで良い装備でも買うかのう)
装備品は基本的に買うか、モンスターのドロップ品である。装備の強さであればモンスターからのドロップがよく、強いモンスターほどよい装備品が手に入る。
主にボスモンスターと呼ばれる、クエストを受けることで戦うことのできるモンスターのドロップ品は相当豪華だ。ただ、Aはまだボスモンスターと戦うほどの力は持っていない。
(もっと強くなってからボスモンスターのクエストでもやってみるかのう。ただ少し怖いがな)
こう恐れるのも無理はない。プレイヤーである勇者は何度死んでも少しのデスペナルティで蘇るが、Aの命は1つだけだ。死んでしまえばそこで終わりという状況に置かれている。
(恐れていても仕方ないか。明日にはこの街で得られるスキルなどを片っ端から取っていきたいな)
そんなことを考えながらAは眠りに落ちた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます