第22話 わし、今日は特に何もしない。だがもう1人は―――― 後編
「さてと、ちょっと本気出してやろうかな」
街付近から森の中心辺りまでヘルスケルトンを誘い出し、いざ勝負。〔あ〕が手に持つバスターソードを構え、巨漢も〔あ〕と同じ態勢で構える。お互いに瞬間的に超火力を出すことの出来る武器である。だがバスターソードは扱いが難しく、初心者が見よう見まねで使える武器ではない。だが〔あ〕はその隙すら最低限まで減らし、Aを翻弄していたのだ。〔あ〕からすれば一撃でも当てれば砕くことが出来そうなヘルスケルトンは怖くないのだろう。余裕の笑みを浮かべている。
「おい巨漢」
「俺の名前はジムだ。普通にジムと呼んでくれよ」
「ならジム。先に言っておくが邪魔はしないでくれよ?こいつに叩き斬られちまうぞ」
ジムは〔あ〕の小馬鹿にしたような忠告に鼻で笑い、手に持つ大剣――バスターソードを構え、ヘルスケルトンの元へ走りだした。
「俺のこいつもお前のクソデカ大剣君程ではないが十分でけぇ。自分が使う系統の武器のリーチは大体見て把握できんのよ!」
ジムの振り下ろした大剣はヘルスケルトンの頭部へと放たれたが、ヘルスケルトンへ当たることなく空を切った。気づけば、そのヘルスケルトンはジムの背後に回っているではないか。
「斬ッ!」
「!?」
ヘルスケルトンの刀の軌道を読み、斬られる寸前に後ろへ飛ぶジム。完璧に避けられたかと思えば、ジムのほぼ上裸とも言える身体に明らかに斬られたエフェクトが浮かび上がっていた。
「こいつ、早いぞ!!」
ジムは巨漢という体型に相当した防御力を肉体に秘めているらしい。それにより、斬られたダメージもそこまで深くはなかった。刀で斬られる寸前に後ろへ飛んだのも大きいだろう。気にせず戦闘続行だ。
「ジムはバスターソードを振りやすくするために装備を軽くしているようだがそんなもん当たらなけりゃ意味は無いね」
「ふん、〔あ〕よ。お前はやけに自信があるみたいじゃないか。ならやってみてくれよ」
「ああ。やってやるさ―――っと後ろの2人も特に何もしなくていいぞ」
ジムの後ろで小声でスキルの詠唱をしていた2人だが〔あ〕の自信に溢れた言葉によりスキルの発動を止める。〔あ〕からすれば変にスキルを使われて計画を狂わされるのが嫌なのかもしれない。
「さてと………」
首をバキバキと鳴らし、バスターソードを握る〔あ〕。
「やるか!」
[加速]によりヘルスケルトンへ一瞬で近づく〔あ〕。今の〔あ〕の装備は白のロングコートを着ていて、鎧程の防御力があるわけではない。だがその分動きが早くなる。ジムのように上裸にしないのは〔あ〕の体格には似合わないのと、[リテイク]で武器を入れ替える際に多重装備できるクナイやナイフを仕舞う場所があるロングコートの方が良いと判断したからである。
「む、お主、なかなか早いな」
ヘルスケルトンへ振り下ろしたバスターソードは地面を斬りつけており、命中していなかった。
「まぁ、スキルの
ヘルスケルトンを有利にさせず、常に一定の間合いを管理しつつバスターソードを振るう〔あ〕。ヘルスケルトンの刀ではいくら早く振ることができてもバスターソードの破壊力には勝つことが出来ないのだ。つまりヘルスケルトンは〔あ〕が極端な隙を晒しでもしない限り攻めに移ることが出来ない。
「なかなかガードの固いやつ……。できればキャラのイメージを守るために使いたくはなかったがやむを得ん……」
気づけば、ヘルスケルトンは〔あ〕の攻撃を避けつつ何かの詠唱を始めていた。徐々にヘルスケルトンの刀が黒の炎で包まれていく。
(スキルか……)
危険を感じた〔あ〕はすぐに今までの間合い管理をやめ、ヘルスケルトンから数メートル離れる。
「さあ受けてみよ![
「!?」
〔あ〕は自分の想定外の攻撃に驚き、回避への反応速度が遅れた。ヘルスケルトンが刀に炎を纏ったため、単に炎属性を追加するものかと思えば、自分に目掛けて炎の斬撃が飛ばされたのだ。
(やべぇ!こんなの1種の大砲じゃねぇか!無事に受け切れるか!?)
もう回避は間に合わない。斬撃は縦横に幅がある。横に飛んでも確実に当たるだろう。なら避けずに受け止める。これが〔あ〕の考えであった。
「うおおおおおおお!!」
バスターソードを盾変わりとして受ける〔あ〕。なんとか受けることはできているが徐々に押されている。それに加え、[闇炎斬撃]は炎属性。鉄でできているバスターソードにはかなり効く。耐久するのも困難だろう。
「受けることには成功したか……だが拙者はその隙を着く![
炎で押されたバスターソードに、スキルで追い討ちをかけるヘルスケルトン。[突撃刺突]によってバスターソードの中心部へ炎の上から刀が突きささる。その時、〔あ〕は不穏な音を聞いた。
―――――パキッ
(あ、やべぇ)
炎により、耐久値を減らされ続けたバスターソードは刀の刺突により、中心からヒビが入り、崩壊していく。それが何を指すか分かるだろう。受け止めていた炎の斬撃波がストッパーを失ったために、それは直進して〔あ〕へと向かうのだ。そして、確実に避けられないであろうスキル。
(マジでオワタ………最後にパン屋の焼きそばパン食べたかったなぁ………そして、あいつとの決着も………)
〔あ〕は死を覚悟していた。今すぐに訪れる死を半分受け入れていた。だが半分はどうだろうか。下唇を噛みしめる〔あ〕。やるせない気持ちと怒りが交互に浮きでている。
「まだ……死ねねぇっ!情けねぇっ!こんなところで終われねぇぇぇぇ!!」
〔あ〕は残りの半分が完全に全て心へ埋まる瞬間を知ったのだ。どれだけ覚悟しようとも生き物というのは最後まで足掻き続けたいものということだ。本音をぶちまけつつ、持てる力を使い、バスターソードで斬撃と刺突を押し返していく。
―――火事場の馬鹿力
今の〔あ〕にはその言葉が最も似合っているだろう。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「くっ、押されているだと!?」
押し合いで優勢に立った〔あ〕。ヘルスケルトンに足を踏ん張らせ、パキパキと骨を鳴らしていく。このまま行けば脆い骨はすぐに砕ける。素早さに全振りしたようなモンスターだ。その分の代償はある。
(このまま押せば勝てる!!)
だが1つの不愉快な音で全てが失われた。
――――パキパキパキ
完全にバスターソードが壊れた瞬間である。
(ダメだ、[ロールバック]は間に合わねぇ)
今度こそ本当の終わり。
「クソッ、神でも仏でもいいからなんとかしてくれよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
絶対的な死を前にし、ついに神頼みときた。
「だったら僕が神か仏ってことですよね?」
炎の斬撃が〔あ〕に直撃する寸前で何者かの声が聞こえ、それと同時に斬撃が打ち消された。それに驚いたヘルスケルトンは後ろへ回避する。先程の声は少し高く、後ろから聞こえていた。少なくともジムではない。おそらく彼だろう。
「何もしなくていいって言っただろうが」
ジムの連れの青年が、腰に下げていた片手剣を振り下ろした体勢でそこに立っていた。
「今まで死にそうになっていたのによく言えますね。ここで死ぬのを見てるだけというのも中々胸糞悪いので助けただけですよ」
「そうかい。まぁ、サンキューな」
〔あ〕が青年の目を見て簡単な礼をする。
「そうやってよそ見してるとまた危ないですよ。――――[
〔あ〕がヘルスケルトンの方へ目線を変えた時には青年がスキルを発動していた。[空気斬撃]はヘルスケルトンの[闇炎斬撃]の元となるスキルだ。[空気斬撃]は特に属性こそないが剣系統には珍しい遠距離攻撃だ。おそらく先程の[闇炎斬撃]を打ち消したのもこのスキルの力だろう。
「かかかっ、そんな斬撃じゃ拙者のには程遠いぜよ!」
[空気斬撃]を自身の刀で打ち消すヘルスケルトン。それと同時に青年が叫んだ。
「アリサーーー!!発動しろーー!!」
青年は叫んだ先はアリサという女性。
「なんだと!?」
青年が叫んだ次の瞬間、ヘルスケルトンの周りを雷の檻がヘルスケルトンを捕えていた。
「[
「あんたはとても早く、簡単には捉えられない。早い原因はその身体である骨が関係している。骨は超軽量を実現する変わりに耐久性と筋力がないだろ?あのバスターソードを押していたのも高速で繰り出す刺突。つまりあんたの攻撃力は速さに依存しているんだ。ならそれを封じ込めてしまえばいい」
「無念……」
ヘルスケルトンが膝を地面につける。
ずっと無口だった青年だがずっとヘルスケルトンの行動を見ていたらしい。彼はそれを分析し、どのようにして倒すのか?という疑問の解答をを組み立てることのできる策士だ。
「さてと、助けてもらって正直に感謝しているが手柄は最後に取らせてもらうぜ?」
〔あ〕が行動不能のヘルスケルトンへとバスターソードを持って歩き出す。
「いや、俺にも取らせろよ」
〔あ〕の肩に〔あ〕より一回り大きな手のひらが被せられる。ジムだ。
「ふん!その前に俺が叩き割ってくれる!」
ジムに鋭い目を向ける〔あ〕。その目は絶対に俺が倒すという強い意志であった。〔あ〕とジム。お互いにバスターソードを持ってヘルスケルトンの元へと走り出し、トドメとなる一撃を振り下ろした―――――――――。
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