第24話 わし、禁断のサイトを使う 前編

「よし、今日も頑張るかねぇ」


布団からでて首の骨をパキパキと鳴らしつつ洗面所へ向かう。冷水で完全に目を覚ますのだ。眠気のある状態で戦っては実力を出し切ることなど出来ない。


洗面所から戻ると、すでにキースとマチスはログインしており身体を伸ばしたりして宿を出る準備を整えている。


「おっ、Aさん。おはようございます」


真っ先に声をかけてきたのはキースだった。いつも通り元気そうだ。


「おはよう。挨拶はやはり大切じゃな。一日のコンディションに繋がる。」


「そりゃそうですぜ。コンディションが良くなけりゃ勝てるもんも勝てないっすよ」


マチスも「おはようございます」と良い、言葉を紡ぐ。マチスの言う通りである。いわゆる気持ちの問題といつやつだ。Aは頷き、次に、宿を出る準備を始める。準備と言ってもただ装備を装着し、スキルを見直すことくらいだが。



――――――――――――――――――――

宿を出る際に、リカとも合流し、次の街へと続く森へ向かう。


「なんか毎回次の街へ行く時って森を通らないか?大丈夫かよ運営。もっとバリエーションを増やしてくれ。まあ、VRMMORPGというだけで楽しいしいけるか」


「うむ。モンスターもあまり変わらずただ強くなっているだけ。そりゃあ少し物足りない気はするのう」


「面白い事でも起きてくれたらワクワクするんだけどね~」


キースとリカが軽い愚痴を言う中、ただ一人マチスだけはニヤニヤとこちらを見ていた。

何がおかしいのだろうか?疑問に思ったAはマチスに声をかける。


「何故ずっとニヤニヤしているんじゃ?少し気色悪いぞ(直球)」


「ふふふ、よくぞ聞いてくれたァ!!」


マチスはAの辛辣な言葉を気にすることはなく、ただならぬハイテンションで話し始める。その時、元々汚れがついている鎧が少し輝いた気がした。鎧君までハイテンションのようだ。装備は装着者に似るらしい。


「実は、リアルでこのゲームの攻略サイトを見ていたんだが、その中のバグ情報一覧サイトこと『ワジャップ』こんな情報があったんだ」


マチスが決して噛むことなくすらすらと語ったその内容とは―――。


『謎の場所バグ』


だった。


説明しよう。謎の場所バグとは、特定の場所でとあるコマンド入力をすることで通常では入れないフィールドに入ることのできるバグである。謎の場所は主に運営がゲームを作る際に、ボツとなったフィールドを消さずにどこかに残したものと言われている。


大抵のゲームの謎の場所では未知のフィールド、実装されていないはずのアイテムなど、魅力的なものが多くある。それは謎の場所に限っての話ではないが。


「面白そうじゃが……大丈夫か?」


眉をひそめてAが言う。おそらくAが感じているのは不安だろう。変に謎の場所のような所に出入りすれば運営にバレた際にどのような処置をとられるか分からない。Aはすでに運営に狙われている身であるが、この3人はただのPKを主流としたギルド。それくらいは運営も見逃している。その3人が重い処置――BAN等されたら洒落にならない。Aはプレイヤーデータこそあれど、実際にはゲームのアカウント自体は持っていない。ようするにAはこの3人がいなくなることを恐れているのだ。


「さらに問題を上げるとするならばその情報がガセってこともあるぞ。『ワジャップ』なんてガセの方が多いだろ?」


キースが言う。その通りだ。他のゲームの話であるが、何人かのプレイヤーが『ワジャップ』に記載された裏技に騙され、セーブデータが破壊されたのだ。そんな危険なものに足を突っ込むほどの度胸があるのだろうか?


いや―――


「まあ、大丈夫だろ」


この男、マチスはノリでやる男だ。長くマチスと過ごしたわけではないが、調子に乗ればすぐふざけるし、根性論で戦おうと言い出す時もあった。


だがAはそんな自由(?)なマチスに不思議と嫌な気はしなかった。A自身も実際は刺激を求めていたのかもしれない。シャドウダイバーの時もそうだが。


「はあ……キース、リカ。行くぞ」


「え、行くってどこへ?」


リカが惚けた顔で言う。


「そりゃあ『謎の場所』に決まっておるだろうがい」


「「ふぁっ!?」」


2人は予想もしなかった返答がAからでて驚きの表情を浮かべている。おそらく2人安全第一の道を通り、堅実に動くAなら断ると思っていたのだろう。


「本当に行っていいんですかAさん!?」


「最悪、BANされるかもしれないわ!?」


「ボス……自分から出しておいてアレなんですが……みんなの言う通り、やめておいた方がいいんじゃないですか?」


3人が交互にAへ言葉を投げていく。だがAの気持ちはゆるがない。「行くぞ」と一言A。あの慎重なAが何故?

Aは『謎の場所』に対しての心境を語り始める。

「正直、これっぽっちも『謎の場所』に

行きたいなんて思っちゃあおらん。――じゃが、不思議なことに何故か行かなければという使命感に駆られるんじゃよ」


「使命感……?」


Aの言葉にハテナを浮かべるマチス。


「ん~む。わしにはこの使命感とやらがよく分からん。わしの考えと矛盾しておるんじゃがどちらかというとこの使命感を優先しろと何かが呼びかけてくる。わしはこのモヤモヤとした気持ちを解消したい。このままきっぱりと忘れることなんかできん」


言い終えると、Aはいつもの真顔で、今度はマチスに話かける。


「じゃから―――行くぞ。『謎の場所』へ」


Aはそれだけ言い、3人に背を向ける。すると次第に、マチスの強ばっていた顔が緩んでいき、笑顔に変わった。


「ハハ、俺のわがままなんか聞いてしまって……後悔しても知らないっすよ」


「後悔なんてせんわ。わしが決めたことよ。例え何があってもわしの自己責任じゃ」


躊躇う必要はない。この人とならどこにでもついていける。今から死にに行くわけではない。ただのフィールド探索。いつもの森や洞窟と変わらない。


(そう思うと、なんだか未知の土地を開拓するみたいで楽しみに思えてきたな……。本当にいつもと変わらない。雑談しながら歩き、笑って楽しくモンスターと戦う。――行けるぞ)


マチスは一度深呼吸をした後に口を開いた。


「……じゃあ、サイトに書いてあった場所に案内するっすよ」


「あ……頼む」


マチスがAの向いていた方向と逆の方向へ歩き始める。それを見たAは口を開けて静止してまっていた。行くぞとカッコつけて背を向けたのはいいが、『謎の場所』の位置が分からないAは本当にただ背を向けただけでキマらなかったのだ。そのままの向きでマチスと同じ方向へ歩けたらカッコ良かったのに。ダサい醜態を晒してしまったためにAは悲しみで静止さしてしまったのだろう。


「「ハハ……」」


ずっと黙っていたキースとリカが苦笑いを浮かべながらマチスの後ろへついていく。


「……カッコ良さというものを求めるには少々遅すぎたかのう?」


3人に聞こえないように小声でつぶやき、Aもマチスの後ろへと着いた。














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わし、「世界の破壊者」村人 39ZOU @39ZOU

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