第11話 わし、運命のライバルができる

やあ。僕は田中だ。前回のあらすじ役である。2話に渡り続いたDナイトとの戦い。

途中Aは絶対絶命の危機に陥ったがそこに現れた謎の勇者〔あ〕。彼はAと同じく役職関係なくスキルを使うイレギュラーだった。Dナイトは2人によって倒され、無事にピンチを切り抜けたかのように思われた。


だがそこに〔あ〕のAを狙う刃が迫った。

さあ、新たなピンチを乗り越えられるか!

〔あ〕………お前のその顔は…………どうしてだ………?








〖〗

「ああ、そうだ。〔あ〕、貴様に聞きたいことがある。何故わしを助けた?そしてもう1つ。どうして役職関係なくスキルを使える?答えて貰おうか」


響く金属の音。煌めく黒白こくびゃく。その中に紛れて話すA。おかしな点は他にもあるがまずこれを聞いておきたかった。2人の剣が交錯し、顔の額をぶつけ合う。その顔を互いに見つめ合い、〔あ〕が答える。


「あんたを助けた理由?そんなんあんたを倒すのは俺の役目だからさ!……オラァ!」


「ぐっ!…ああ。お前が何者かは知らんが迷惑なやつだなぁ![肉体強化]![加速]!」


押されるもののAも負けられない。自身を強化し、押し返す。


「迷惑なやつで済まなかったなぁ!」


〔あ〕は叫ぶとともに回し蹴りでAの脇腹を狙う。


「[風の盾]!」


風によりAに届くことの無かった足。だが〔あ〕が攻め続けるのは変わらない。


「[爆印]![爆破]ぁ!」


〔あ〕が握っていた白色の剣が爆発した。彼自身の手が触れている剣の柄の部分に刻印を押し、そのまま起爆したのだ。剣は粉々になったもののAを退かせることには成功した。


(離れるためにわざわざ剣を棄てるか……。だがやつにはスキルがある。


「[ロールバック]!さらに[リテイク]!…ほら、再開だぜ?」


この[ロールバック]というスキルがどうにも厄介だ。例え武器が壊れようとも元に戻してくる。[爆印]らのスキルとは相性がかなりいいと言える。〔あ〕はあのバスターソードを握っていた。この武器はリーチの長さや重量によってDナイトすら防御を徹底させた。そして〔あ〕の場合、[肉体強化]により軽く振ることが出来るようになっている。


「ああ、そうそうスキルを役職関係なく使えるかってのに答えてなかったな!」


〔あ〕がバスターソードを横にぎ払う。


([風の盾]を使ったところで防ぎようがない…。ここはこの手で行くか)


Aは黒色の剣でバスターソードを受けることはせず、しゃがんでうまく避ける。[加速]によりその速さは増加していた。バスターソードは頭部ギリギリを通っていった。バスターソードを振ることによって出来る隙。そこを狙う。Aは剣を手放す。


「[ポイズンブロウ]」


剣技から格闘技にチェンジ。[ポイズンブロウ]により拳に毒性を与える。


(離れていればそれだけ不利!ならバスターソードを振る暇がないくらい攻める!)


「[リテイク]!」


「そら!!」


ゴスッ

Aの拳が〔あ〕の足に払われた。[リテイク]により武器をバスターソードから短剣に変えることで身体にかかる負担を減らし、体勢を早く整えた。


「俺がスキルをこんなに使えるのはだからなんだぜ!」


「ん?言っていることが分からん!わしにはそういった関係の者はいない!あくまでわしは村人A。そんなことはありえない!」


Aは〔あ〕の発言によりさらに混乱する。そこに飛んでくる短剣。咄嗟に避けようとしたが間に合わずに肩に命中。赤いエフェクトが飛び散る。


「まぁいいや。んじゃ、俺も格闘技に切り替えさせてもらうわ。[雷拳らいけん]」


〔あ〕の拳が帯電する。拳からはパチパチと鳴る電気。〔あ〕は拳を握りしめ構える。Aも刺さっている短剣を抜き、〔あ〕を睨みつける。ここからが本番だ。


「さあ、行くぜ!」


〔あ〕が地面を蹴り、Aの前へと踏み込んでくる。

〔あ〕が拳を繰り出す。Aは反射的に出た左腕で受ける。帯電した拳を受けたため、身体に電流が走った。


「ぐぅぅぅ!」


だが簡単に落とされるようなAではない。

腕で〔あ〕の拳を押し出し、右腕で腹に1発送る。


「ぐはぁぁっ!ああ……」


「これでおあいこだ。無論おあいこなど認めないがな」


腹に攻撃を受けたものの1度Aから距離をとる。


「[加速]!」


「こっちもそれでいかせてもらうかのう。[加速]!」


お互いが一直線上に並んで走り始める。ほぼ密着した状態になり、拳を振るう。Aの右拳と〔あ〕の左拳がすれ違った。


「…………っ!!」


「うっ!!」


お互いの頬にめり込む拳。口の中が切れ、ダメージエフェクトが漏れる。

〔あ〕も同じくだ。まるで鏡を見ているように。

だが若干Aの方が押され気味である。相手の〔あ〕は自分よりレベルが上であろう者だ。単純な力の押し合いなら〔あ〕に分がある。


(だが負けるわけにはいかんのよ!力で負けていても己の信念が相手を上回ることがあれば力など小さいわ!)


「ぬ……ぬぉぉぉぉぉぉ!!」


めり込む拳を押し返していく。それと同時にめり込ました拳の勢いも上げる。


〔あ〕が身体のバランスを崩した。


(そこを見逃すわしではない!)


拳はお互いに頬から離れる。押し返された勢いで〔あ〕は体勢をすぐに戻すことは出来ない。身体を捻り、右足で回転蹴りを繰り出す。


手応えあり。


上手く蹴りをさばくことが出来なかった〔あ〕は横に飛ばされる。


「くっ!」


だが地面に叩きつけられる瞬間に手のひらを地面につけ、思いっきり押すことによって浮く。そのまま足を地面に擦りながら着地して腰にある2本目の短剣を抜き、



「[リテイク]!」


短剣が砕け、あの弓が現れる。


(遠距離戦に持ち込む気か!させんぞ!)


Aは[加速]により得た速さで〔あ〕へと接近する。だがその時、〔あ〕は弓を引いていた。もう拳では間に合わない。

反射的に感じたAは指で銃の形を作る。


「[光白シャイニングの――――」


「[水針だ―――――」


Aの首元には矢が当てられ、〔あ〕の額には指先が向けられている。お互いに動いたら死ぬ。それは確実だった。それが分かったように、


「今日はここでやめようぜ」


〔あ〕が戦いの終了を持ち出してきた。


「逃げるのか?」


「ふん!分かっているだろ?死ぬぞ」


正論であった。Aは普通のプレイヤーではない。ただのデータでできている。

普通のプレイヤーなら死んでも復活できる。

だがAは死んだら終わり。今のAのデータは消滅し、記憶を無くした元のAへと戻る。


「お前はいいんじゃないのか?死んでも生き返るんじゃろ?」



「そうか」


Aは指を下ろし、〔あ〕は[リテイク]を使って弓から短剣へ持ち替える。そのまま腰へ戻した。


〔あ〕はAに背を向けて言った。


「んじゃな。今度また戦えるのを楽しみにしてるぜ。俺が殺すまで死ぬんじゃねぇぞ。俺のライバルさん」


「待て。聞き忘れたことがある。何故お前は2週間で魔王を倒すと言った?そんな時間を気にする必要はないだろう」


〔あ〕の足が止まった。


「2週間。それがこのゲームの残り時間だ。俺はこのゲームが自主的に終わる前にこの手で自ら終わらせる。気分的な問題だけど」


「なんじゃそれは………。そんなことは聞いたことがない!」


「いいよ。まあ、どこかでちゃんと分かるんじゃない?今度こそバイバイ」


「………………………………………」


〔あ〕は森の入口とは逆の方向へと歩いていく。その様子をただAは眺めていた。


(2週間がこのゲームの残り時間……。サービス終了。この世界の崩壊か………。今考えても仕方ないか。一旦街へ戻ることにするか」


森から出てAは街の宿へと向かうのであった。色々な思いをのせて。


















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