第10話 わし、再びレベル違いの敵と戦う 後編

「〔あ〕。勇者〔あ〕だ!再来週くらいまでに魔王を倒す者!」


ふざけてんのか。なんだよ〔あ〕って。……適当すぎる…!〔あ〕により死を回避することはできたがまだ完璧に動ける状態ではない。ここは〔あ〕に任せるしかないというわけだ。


(頼むぞ。なんとかしてくれよ?お前に全てがかかっておる)


「ふん!〔あ〕とはふざけた名前だな。なんだ?ゲーム攻略RTAでもやってんのか?……まあいい、貴様も倒してくれよう。さあ、来い!」


〔あ〕が腰に下げている短剣を抜く。


「んじゃ、遠慮なく殺らせてもらうからな?いくぜ![リテイク]!」


スキルを発動した瞬間、〔あ〕が握っていた短剣が砕ける。だが次の瞬間には〔あ〕がバスターソードを砕けた短剣の代わりに握っていた。[リテイク]による効果だろう。まだAが見たことのないスキルだ。〔あ〕の持つバスターソードはかなりの大きさだ。剣の持ち手から先端まで大体170cmとみた。まず普通の人間なら振ることすら厳しい代物。その問題を〔あ〕は軽く突破していた。


「[肉体強化]!」


(肉体強化じゃと!?あれは格闘技スキル。バスターソードを扱う剣士には使用は不可能だというのに!何故?)


Aは困惑する。本来、スキルは適した役職のものしか使えないはずなのだ。そのルールを無視しているのはイレギュラーである村人A1人だった。困惑している間にDナイトが〔あ〕の間合いに入っていた。バスターソードのリーチの長さを利用して〔あ〕は自分が斬られることのないようにしている。だが攻められ続けるDナイトではない。指先を〔あ〕に向ける。


「[雷撃弾]!」


スキル[雷撃弾]によりDナイトの指先から放たれる弾丸。それは〔あ〕のバスターソードに直撃し、バスターソードを破壊することに成功する。あの大きさの武器を一撃で破壊することから当たれば今の〔あ〕では耐えられないだろう。〔あ〕はバスターソードを失ったにも関わらず余裕な顔をしている。


「[ロールバック]」


そのスキルが発動するともに〔あ〕の手に壊されたはずのバスターソードが握られる。これもスキルによる力だろう。バスターソードを握りしめ駆けていく。


「オラァ!」


ひたすら振るわれる大剣にDナイトも少し余裕が無くなってきたようだ。〔あ〕はバスターソードを上手く両手で握って叩き斬るようにしたり、片手で振り回している。


「くっ!貴様、役職は何だ!?使えるスキルがおかしいだろう!」


Dナイトが〔あ〕の攻撃に自身の剣で対応しながら聞く。


「は~ん。そんなの教えてやんねぇよ!くたばれや!」


悪態をつき、〔あ〕が振った大剣がついにDナイトの2本の剣を飛ばす。その瞬間Dナイトは後ろへと跳び、


「[獄炎弾]!」


巨大な火球が〔あ〕を襲うが避けきられる。だが火球を避けたことにはDナイトはかなりの間をあけるための隙を得ることが出来た。

指を構える。どうやらここからは遠距離戦らしい。


「ハン!こざかしいねぇ![リテイク]!」


〔あ〕が再び[リテイク]のスキルを発動する。バスターソードが砕け、その手にあるのは弓だ。〔あ〕が弓を構える。それには光の矢が現れていた。


(今度は弓使いと来たか。スキルなどの縛りが本当にないのか?一体何者なんだ!?)


Aが疑問に思っている間にはもう〔あ〕とDナイトはお互いの技を撃つ準備ができている。


「[雷撃弾]!」


「[光白の矢シャイニングアロー]!」


放たれる互いのスキル。雷の弾丸と光を帯びた白色の矢。それらはすれ違い、それぞれの獲物へと向かう。

ドッ!


「ぐう!ガァァァァ!!………」


先に〔あ〕の放った矢がDナイトの腹部へ突き刺さる。ついにDナイトが地面に膝をつくことになった。だがまだDナイトの攻撃が残っている。矢を放ったばかりの〔あ〕は動くことが出来ずそのまま弾丸は直撃するかのように思われた。

バァンッ。弾丸が何かに当たって四散する。辺りに泥が飛び散った。


「おお、サンキューな」


「ふん、このまま貴様に倒れてもらっては困るからな。最後まで働いてくれ」


そこには力を取り戻したAの姿。今Aは飛んでくる弾丸をスキル[泥撃マッドショット]で撃ち落とした。このスキルは指の先端から生み出した泥を飛ばすというシンプルな物。あまり強力なスキルではない。だが電気系は泥に弱いと聞く(ポケ○ンで言っていた)。相性次第じゃ強力なスキルにも対抗できるというわけだ。


「んじゃ、終わらせるか」


〔あ〕が弓を構える。


「そうだな」


Aと〔あ〕が横に並ぶ。Aは手を銃の形にしてDナイトに指を向ける。そして〔あ〕はDナイトに弓の狙いを定める。


「ち、ちくしょぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


「[光白の矢]!」


「[水針弾]!」


「ああああああああぁぁぁ!!!!」


弾丸が心臓を撃ち抜き、矢が鎧を貫通して腹を抉る。


「おのれぇぇぇぇ!!俺が殺られようともまだ残りの5人がいる……きっと貴様らを潰すだろう!さらばだぁ!」


この言葉を最後にDナイトは光の結晶となり消えていった。その場にはナイトが使っていた2つの剣が落ちていた。Aと〔あ〕は近づく。


「俺はこっちの白い方を貰っていくぜ」


「ならわしは黒い方か」


お互いに手に取った剣を掲げてみる。白と黒の対立した色が輝いている。美しい。そうAは感じた。


「さてと」


「!?」


カンッ

剣のぶつかる音。Aは驚いてその音を起こした人物を見る。


「おお、反射神経凄いなあんた。1人で勇者を何人も相手にしたと聞いていたがやはり実力は高いな」


「ふん!貴様もわしを狙っている者か!」


「ああ、村人A。貴様は俺が倒させてもらうぜ!……はあ、最初は顔を隠してたから分からなかったがその多重スキルで分かったぜ。Aは役職関係なく色々なスキルを使ってくると聞いていたからな」


「いいぞ。相手をしてやる」


お互いが持つ白と黒が弾かれた。一難去ってまた一難。2人の戦いはその瞬間に始まった。

















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