第20話 わし、3人に本当の話をする 後編

「迷わず宿に到着っと。街の構造が同じせいか導かれるようにして歩けたぜ」


「モンスターとかはしっかりしているし、別に不満はそこまで無いけど、これは手抜きと言われても仕方ないわね……」


A達はだべりながら宿へ入り、前と同様に部屋を2つ取る。だが、今は4人が1部屋にいる状態である。普段は男性3人組とリカと分かれるのだが、今日はAから話をしたいということで集まったのだ。いつもならウェイウェイしている3人だが雰囲気を感じているのか顔が強ばっている。それに対し、Aは普段通りの仏頂面。だが内心は震えている可能性だってある。それほどの内容とは――――――


「話すのは、わし自身のことについてじゃ」


「Aさん自身……?」


「おう。……みんなは知っているかの?わしは元々はAI……この世界での村人役であったことを」


Aの問いに答える3人。


「もちろん知っていますぜ、なぁ?」


「うん、少し前に話題になっていたもんね」


「暴走したAIとかなんとか――――――」


「それは違うぞ」


あっさりと否定するA。村人だったA本人が言うのだから間違いない。即否定も当たり前だろう。Aは話を続ける。


「今言ったようにわしは元々村人Aとしてこの世界でモブをやっていた。日々チュートリアルで殺され、記憶を失う。それだけだったんじゃ」


Aは一瞬、思い出したくもないことを思い浮かべてしまったのか、苦い顔をした。


「もしかしたら……俺達も1度Aさんを殺してしまっていたかもしれないんだな……」


暗く、後悔をしているのが見て分かるくらいに3人は目線を下に向けていた。彼らにとっては知りたくなかったことなのかもしれない。自分達のリーダーを過去に殺していたことなど。一方、その事実に被害者であるはずのAは全く動揺していない。Aにとってはもう割り切っているのことなのだろう。


「顔を上げてくれや。別にわしはそのことでお主らを責めたりはせんよ。むしろ感謝しておる。わしの今という時間を作り出してくれているお主らにのう」


「ボス………」


それに……と言葉を続けるA。


「Pkをして復讐というのはわしが掲げた目標というか趣旨というかなんというか。これは続けたいと思った。じゃが、今の優先度は魔王討伐の方が上。わしは1人のプレイヤーとして魔王を倒そうと思うぞ」


〔あ〕と戦ったあの日とは思いが少しずれているが、それも意思を持つ者の定めだと思っている。


「お主らも……わしについてきてくれるか?共に戦ってくれるか?」


A以外の3人は目を見合わせ、微笑みあっていた。そしてAへと向き直り返答する。


「リーダーの頼みならば受けないわけないわよね!私達、ずっとついていくわ!」


3人の目は確かなようだ。目は口ほどにものを言うとも聞く。Aは口にこそ出さなかったが心の底では安心しているはずだ。


「ありがとう……………そしてもう1つか。前、わし達には時間が無いと言ったじゃろう?そのことなんじゃがのう…………」


「「「ごくりっ………」」」


唾を飲み込む3人。彼らは気づいた。雰囲気からこの残り日数がとても重大なことだと。


「理由は知らん!!唯一知っているのは〔あ〕というプレイヤーのみじゃ!」


断言するA。Aのはっきりとした言葉に、3人は糸が切れたかのように気が抜けてソファに背をつけた。


「嘘ん………知ってるって言う展開だと思ったのによ………」


「まぁ、知らないものは仕方ないわよ。とりあえず早く進むというのは分かったけど」


「そうじゃ、それでいいよな。……わしからは特に無いが、3人からはあるかのう?」


もし意見があるならここで聞きいれておきたいというAのはっきり考えだ。リーダーとして部下のことを考えてあげるのは当然だ。


「あ、なら俺から1つ質問だ」


口を開いたのはマチスだった。


「何かのう?」


「ボスはそんな若い見た目なのにどうして老人のような話し方をするんだ?キャラ作りとは思えないし」


「あー、それか………」


おそらくマチス以外の2人も心の底では思っていることだと思う。Aは素直に話した。


「村人Aって言うのは元々1人の老人よ。わしが神に意思を与えられた時よりも前からずっとな………あ、わしはその神に意思を与えられ、こうして自由にしているんじゃ」


「ほう………」


「んでな、ある日突然よ。朝に鏡を見たらこのような若者の姿になっていたんじゃ。しかも形だけでなく、中身まで。その日まではスキルで肉体の補助をしなければ戦うことすら困難であったが、それがきっかけでスキルを無理に使わなくてもよくなったんじゃ。おそらくこれも神のおかげじゃな」


経緯を話し終えるA。それにより、3人の疑問は解消されただろう。


「へぇー、まさに見た目は若者、中身は老人か。コ○ンみたいだな」


マチスがふいに呟いた言葉だが、それがどうもおかしいらしく、4人は笑っていた。どれだけ小さなことでもみんなで笑い合える。これが良いチームの証だとAは思った。


「ふぅ、ではこれで終わりかのう。他に質問は無いじゃろうし」


「じゃあ、これで解散だな。また明日な」


「ああ」


「ええ」


リカは自身が取った部屋に行き、残った3人はシャワーを浴びたり、買っておいたパンを食べる。食事はゲーム内でのコンディションにも影響する。飯抜きで戦いに行くなど有り得ないだろう。


「さてと、Aさん。俺とマチスは1度ログアウトするぜ。また明日な」


ベッドに横たわるキースとマチス。


「2人共リアルでもしっかり休んでおくれ」


休息を促すAにマチスは親指を立てる。


「んじゃ、おやすみ」


「おう」


2人のアバターは人形のように動かなくなり、やがてAも眠りについた。今日はシャドウダイバーとの戦いにより、かなりの疲労が溜まっている。しっかりと休み、また戦うであろう六天王に備えることにする。


この短い安息を手に入れ、安心しているAだが、一方、すでにログアウトしたキースとマチスはそれぞれのリアルの家の布団の中で今日Aに聞いた話から未来を予想し、この先Aに待ち受けるであろう運命に身を引いてしまっていた―――――――――――――――。

















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