第12話 忍び寄る影

 空に出ると、すぐにユイナたちの居場所が分かった。


 森の中に氷柱が生えていたからだ。


 そこから超絶強大な魔力を感じる。


 間違いなくウェイニーだろう。


 僕は強化魔法をかけて、直ぐにその場所へ向かった。


「ひぃぃぃぃぃぃ」「ぎゃぁぁぁぁぁぁ」


 2人が悲鳴を上げていたが、今速度を落とすわけにはいかない。


 ごめんね2人とも。




 ——氷柱の場所に辿り付き、いつものように急降下すると、2人からより一層大きな悲鳴が上がった。


 やっぱりだった。


 氷柱周りには3体のリッチがうろうろしている。


 ユイナたちは、ウェイニーが氷柱で作った囲みの中に、避難しているようだ。


 ……ん、この氷柱は。


 考えたものだ……ウェイニーの氷柱に、ユイナが聖魔法を付与している。これではリッチは入って来られない。


 僕は足に炎魔法をまとい、氷柱の一部を蹴破り、中に入った。


「ウィル!」「ご主人様!」「……誰だ!」


「3人とも無事だったようだね」


 コッツェンは怯えていたが、ユイナとウェイニーは安堵の表情を浮かべていた。


「ウェイニーの機転で助かりました」


「そうか、流石ウェイニーだな」


「流石と言われるほどのことでは……ないです」


 言葉と裏腹にウェイニーは照れ臭そうに頭をかいていた。ウェイニーほどの者でも、褒められると嬉しいようだ。


「ユイナも聖魔法でコーティングするなんで、凄いアイデアだね」


「そ……そうですか……」


 ユイナも照れ臭そうにしていた。


「あの……」


「「「ん」」」


「お話が盛り上がっているところ、申し訳ないけど……もう、下ろしてもらってもいいかな……それと、どさくさに紛れて、どこ触ってるのウィル」


「……私もですわ」


 ……またやってしまった。


 2人を抱き抱える時、僕はおっぱいを掴んでいたようだ。


 指からこぼれるセリカのおっぱいもいいが、手のひらに収まる、ジーンのおっぱいも中々のものだ。


 って、そんな事、バカな事、言っている場合じゃないな。


 ——僕は急いで2人を下ろした。


「ご主人様は本当におっぱいが好きだな」


 好きだけど……わざとじゃないからね。


「ウィル……言いたいことはありますが、帰ってからにします」


 その心遣い助かります。


 とにかくここからは僕の仕事だ。

 

「なあ、3体のリッチはどこから来たんだ? リッチなんて、この森には居ないはずだろ?」


「ご主人様……ネクロマンサーだ」


 ネクロマンサー……死霊使いか……だから、アンデッドの大群がいたのか。


「それって例の?」


「分からない……でも、我等を囮だと言っていた」


 囮……ユイナとウェイニーが?


 陛下を呼び寄せるためか……。





 ——だが……ここで悩んでいても仕方がない。まず、リッチを片付けることが先決だ。


「とにかく僕は外に出てリッチを倒すよ」


「ご主人様、まだ他にも何かいるかも知れない、気をつけてくれ」


「分かった……ありがとう、ウェイニーみんなを頼む」


 ウェイニーの言う通り、油断は出来ない。デュラハンといい、リッチといい、こんな高位アンデッドを使役出来るなんて只者じゃないはずだ。


「承知した」


「じゃぁ、セリカとジーンはウェイニーの指示に従ってくれるかい?」


「うん」「分かりましたわ」


 皆んな聞き分けが良くて助かる。なんて思っていたら……。


「ちょ……ちょっとまてよ」


 今まで押し黙っていたコッツェンがいきなり口を開いた。


「お前、いきなり登場して……なに学園3位の俺を無視して、偉そうに仕切ってんだよ」


 コッツェン……いけ好かないヤツだとは思っていたが。


「リッチなんて、今から俺の火魔法で退治してやるところだったんだからな、余計な手出しするんじゃねーよ」


 と言い、コッツェンは紅蓮の炎をてのひらに実体化させた。


 てのひらに魔法を実体化させるなんて、誰にでも出来る事ではない。


 さすが学園3位、相当鍛錬しているようだ。


 だが、残念ながらリッチはそんな次元の敵ではない。


 悪いなコッツェン。


「ウェイニー、コッツェンを頼む」


「承知した」


 僕はスタンドで、氷柱を飛び越え、リッチの元へ向かった。


「待てよ、勝手なことをするな」


「おい」


「はっ……はい」


「炎を消せ」


「えっ……」


「早くしないと、貴様ごとその炎を凍らせるぞ」


 コッツェンはその後、直ぐに炎を消したそうだ。





 ——リッチが3体か……。


 このリッチはユイナとはじめて会った時のリッチより強力な感じだ。


 魔力が全然違う。


 術者が側にいるからか?


 このクラスのリッチ……流石の僕も、3体同時に襲い掛かられたら面倒だ。


「ホーリーソード!」


 ホーリーソードは無数の聖剣を顕現させ、相手をめった斬りにする、無慈悲な聖魔法だ。


 これで一気にカタをつけさせてもらう!


 僕がリッチに向け腕を振り下ろすと、無数の聖剣がリッチに襲い掛かった。


 リッチは無数の聖剣になす術なく、滅多斬りにされた。


 魔法には相性がある。


 アンデット相手だと、こんなもんだ。


 まあ、ドラゴンゾンビクラスが出てくると流石の僕も苦戦するが……。


「……」


 まさかな。


 いくらネクロマンサーでも、死体も無しにドラゴンを召喚する事は不可能だ。





 ——リッチを倒すと気配を察知したのか、ウェイニーが氷柱を解き、僕たちは合流した。


「流石ご主人様……手が早い」


 手が早いって……言い方!


「ああ、いくら強くてもリッチだしね……僕の敵じゃないよ」


 セリカとジーンとコッツェンはぽかーんと口を開けていた。




 ——しかし、ゆっくり話してる暇はないようだ。


 森の奥から強い魔力が近付いてくる。


 魔力の主は黒のスーツに身を包んでいた。


 あの青白い肌の色は……。


「魔族か」


「フフフ、流石『王国の至宝』よくご存知で」


「「「王国の至宝!」」」


「王国の至宝……え……ウィルが王国の至宝?」


 普通に混乱するセリカ。


「……ウィルが……ウィルが……至宝にパンツ見られてた」


 混乱してしつつもお約束を忘れないジーン。


「嘘だ……嘘だ……あいつが、そんなはず……」


 現実を受け入れられない、コッツェン。


 まあ、そんなことはいい……。


 何故、僕が『王国の至宝』だと知っている?


「探しましたよ、ウィル・ギュスターヴ……ユイナ姫に危害を加えれば必ず、あなたが現れると思っていましたよ」


 探した? 僕を? 何のために?


「しかも都合がいいことに、ここは数少ない『ドラゴンの墓場』です」


 ドラゴンの墓場……まさか。


「ウィル・ギュスターヴ、あなたの力は驚異だ……ここで死んでもらいます」


「出でよドラゴン! その暗黒の炎で、王国を焦土と化すのだ!」


 ド……ドラゴンだと……。


 大地が揺れ負の魔力が溢れ出す。




 そして、大地が裂け……。



 ……ドラゴンゾンビが現れた。


「ゴアァァァァァァァァァァァァァァァァァ」


 この世のものとは思えない咆哮をあげる、ドラゴンゾンビ。


 森の魔物や獣たちが騒いでいる。


「私は戦いが得意ではないので、これで失礼しますよ」


 魔族の男はこの場を立ち去った。


 このまま逃げられては、何がなんだか分からない。


 だが……このドラゴンゾンビを何とかしなければ……くそっ!


「逃すか!」


 そんな僕の気持ちを汲んでくれたのか、ウェイニーが魔族の後を追った。でも……。


「戻れ! ウェイニー! 危険だ!」


「自分は大丈夫だ!」


 ウェイニーは僕の静止を無視して、そのまま魔族の男を追った。


 そして、そのタイミングでドラゴンゾンビがいきなりブレスを放ってきた。


「プロテクト!」


 とりあえず、防御魔法で凌いだが長くは保たない……。


「みんな! 逃げてくれ!」


「でもウィル……」


「頼む……長くは保たない……」


 皆んな察してくれたようで、この場を離れてくれた。


「絶対死なないで!」


 皆んな何か言っていたが、その言葉だけは聞き取れた。


 だが……「ひぃぃぃ」コッツェンが腰を抜かして逃げ遅れていた。


 僕は、もう一度プロテクトを貼って、コッツェンの救助に向かった。


「スタンド!」


 間一髪だった。


 コッツェンを抱き抱え空に逃げた後、僕たちのいた場所は、ドラゴンゾンビのブレスにより焼き尽くされていた。


 だが、この強敵相手にコッツェンを抱えたままでは勝てない。


 それになんというか……男なんか抱えていると力が抜けていくようだ。


「コッツェン! 君を下ろす。君は森から脱出して、このことを学園に知らせて皆んなを避難させるんだ!」


「嫌だ……怖い……見捨てないでくれよ」


 僕がはもっと嫌だ。お前と運命を共にするなんて。


 僕は続けた。


「コッツェン! 学園3位は嘘なのか! 君にしかできない大事にな任務だ。このままでは皆んな死ぬぞ、君にも守りたいものがあるんだろ?」


 コッツェンが目を見開いた。


「分かった……やるよ……下ろしてくれウィル」


 何が刺さったかわからないが、とにかく助かった。


 男を抱き抱えって人生が終わるなんて、死んでも死にきれない。


 僕がアンデッドになってしまうまである。



「頼んだぞ!」


 僕はコッツェンを下ろし、見送った。


 ドラゴンゾンビがまたブレスを放ってきたので、僕はスタンドで空に逃れた。


 森が燃えている。


 このままでは大惨事だ。まあ、もう大惨事っちゃ大惨事だけど……。


「レイン!」


 僕は魔法による雨で消火を試みた。


 だが僕ができるのはここまでだ。


 このドラゴンゾンビを倒さなければ……問題は解決しない。


「ホーリーレイン!」


 僕はホーリーレインをドラゴンゾンビに浴びせ、空におびき寄せた。


 ドラゴンゾンビは簡単に挑発に乗ってくれた。


 こんなのと地上で戦っていたら、自然破壊が気になって戦いに集中できない。


 舞台を空に移し、僕とドラゴンゾンビの戦いの幕が、きって落とされた。


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