第17話 ロリっ子でドジっ子で……な彼女

 1回戦の対戦相手は、ロリっ子美少女サージェシカ。序列7位の強者だ。


 この戦いから、今日の長〜い1日が始まる。




 ——学内序列は、トーナメント以外にも、普段の成績が反映される。つまり普段の成績が良ければ、トーナメントの順位よりもランクが上がる。


 逆も然りだ。


 普段の成績が悪くても、トーナメントの成績がよければ、ランクは上がる。


 そして僕の直感では、恐らくサージェシカは後者だ。


 ……理由は察して欲しい。


 そんなわけで多分、サージェシカは強い。


 サージェシカがウェイニーのように力押ししてくる脳筋タイプなら、問題ない。でも技巧派タイプだったら、普段の僕の戦闘スタイル、スタンドと強化魔法が使えない分、苦戦は免れない。


「よく逃げ出さなかったね! ウィル! ぎったんめったんにしてあげるから覚悟しなよ!」


 この手の相手は、突っ込むとこっちまでドツボにハマる。無視するのが一番だ。


「ねえちょっと、聞いてるの? この変態!」


 聞こえていない、聞こえていない。


「私の胸……ガン見してたくせに!」


「まじか」「特殊性癖」「ロリだ」「勇者だ」「同志」「まじもんだ」「変態だ」


 容赦のない外野の声にダメージを受けるサージェシカ。


「うぅぅぅぅ……」


 サージェシカはまた自爆した。


 学習能力のない子だ……これは脳筋っぽいな。


「許さないからね! ウィル!」


 ……僕は彼女に対して何もやっていないと思うのだけれど。




「はじめ!」


 そんな事情は置き去りに、サージェシカとの対戦が始まった。


 開始の合図と共に、会場全体が、物凄い冷気に包まれた。


 これは……床が凍ってきている?


「はっはっはっは! どう、ビビった?」


 こんな瞬時に広範囲を凍らせることができるなんて……正直ビビった。


「ウィル! 君は機動力に優れていると聞くけど、これじゃあ真面まともに動けないでしょ! 行くよ!」


 サージェシカは四肢に、魔力をまとい、正面から仕掛けてきた。


 が……。


「わ、わ、わ、わ、ちょっ、ちょっと待って!」


 自分が凍らせた、舞台に足を滑らせ、


「あ痛ぁぁ!」


 見事にすっ転び、その拍子にスカートがめくれ上がり、パンモロ状態で僕の前まで滑ってきた。


 ロリっ子のくせに、わりとエちい下着だった。もちろん容赦なくガン見した。


 えーと……この隙に攻撃してもいいのだろうか。


「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 サージェシカは顔を真っ赤にして、スカートを押さえ、キッと僕を睨み付ける。


「こ……このケダモノ!」


 サージェシカは泣きべそかきながら、走って僕から距離を取った。


「あ痛ぁぁ!」そしてもう一回すっころんで、パンモロを披露していた。


「い……1度ならず2度までも! 絶対に許さないからね!」


 色んな意味で顔を真っ赤にするサージェシカ。


 ……許すも許さないも、僕は何もしていないと思うのだけれど……ただ立っているだけだ。


 これはもしかして、何もしなくても勝てるのでは? 何て思っていたけど、そこは腐っても序列7位。


 そこまで、楽はさせてもらえなかった。



「アイスストーム!」


 サージェシカが放ったアイスストーム、これは中々厄介な魔法だ。


 アイスストームは範囲型の魔法でもあり、追跡型の魔法でもある。


 しかも魔法の性質上、四方八方から攻撃を繰り出せる。


 アイスストームを完全に防ぐには、バリアで凌ぎきる、もしくは術者に魔法を解除させるの2択だ。


「黒炎龍!」


 取り敢えず、前方の魔法だけなぎ払い、僕はサージェシカとの距離を詰め、後ろに回り込んだ。


 彼女自身を盾にすることで魔法の解除を狙ったのだが……、


「いっ!?」


 サージェシカは魔法を解除せず、自分もろとも僕にアイスストームを喰らわせた。


 サージェシカが盾になったので、僕のダメージはそんなに深刻ではないが彼女が心配だ。魔法を解除する時間的余裕はあったはずなのに……、


「ウィル! なかなか卑劣な手を使うじゃないか! ますます、私の手で叩きのめしたくなったよ!」


 心配ご無用だった。


 アイスストームはそんなに威力の高い魔法ではないが、まともに直撃して、こんなにピンピンしているなんてありえない。



 ……分かってしまった。


 サージェシカは身も心も、ありえないぐらいタフなんだ。


 なんというか……泥仕合の予感しかしないのだけど、気のせいだろうか。


「アイスストーム!」


 サージェシカは構わず、アイスストームを放つ。


 また同じように、サージェシカを盾に、回避する。


「くっ……また卑劣な手を……でも、私はそんなことぐらいじゃ屈しないよ!」


 おや……心なしか、サージェシカの顔がほころんでいるような気がするが……。


「いくよウィル! アイスストーム!」


 何度やっても結果は同じだった。


 サージェシカはとっても頑丈だった。



 ……だが、彼女の衣服は違う。


 何度も何度もアイスストームのダメージを受けて、ボロボロだ。


 あと2、3回も同じことを繰り返せば、きっとサージェシカはあられもない姿を晒すことになるだろう。


『『サージェシカ! サージェシカ! サージェシカ!』』


 事態に気付いた男子生徒がサージェシカに熱い声援を送る。


「ふん、どうやら皆んなも君の非道っぷりに気付いたようだね! 観念するといいよ!」


 男子生徒の熱い視線と女子達の凍るような視線。


 試合会場は異様な雰囲気に包まれた。


 なんだろう……ある意味僕は、全弾被弾したのかもしれない。


「アイスストーム!」


 同じことを繰り返すのも芸がないけど、僕にはそれしか出来なかった。


 アイスストームの直撃を受けても、サージェシカは苦痛に顔を歪めるどころか……喜んでいるようだった。


「……」


 分かった……こいつドMだ。


 ダメージを受けて喜んでいるから、ダメージにならないんだ。


 魔法のダメージ耐性は精神力だ。


 サージェシカの場合、ダメージを受けることで心が満たさるから魔法ダメージを無効化しているのだろう。



 もしかして、これ詰みじゃね?


 恐らく、僕が攻撃を加えても結果は同じだ。


 彼女を一撃で消滅させるような殺傷性の高い魔法なら、倒すことができるだろうけど、そんな物騒な魔法はこのトーナメントでは禁じられている。


 魔法を介さない攻撃も禁止だ。




 ……僕に残された道は持久戦だけだ。


 彼女の魔力が切れるか、僕の魔力が切れるか……。


 完全に僕の方が有利なんだけど、サージェシカが魔法を使うたびに、何か別のものが削り取られていく。





 ……でも、あと一撃くらうと彼女の服はヤバイ。


 ドMだったらきっと見られることでも喜ぶんだろうけど、一応警告しておくか……。


「サージェシカさん」


「なんだいウィル、降参する気になったのかな?」


 この状況でそんな言葉が出てくるなんて……こいつ絶対頭おかしいよ。


「あの……多分、次同じことしたら、服がヤバイことになりますよ?」


「へ……」


 サージェシカは視線を下げて自分の状態を確認した。






「……」






「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 そして、その場にしゃがみ込み、身を隠した彼女の悲鳴が会場中に響いた。


「き、き、き、き、君はなんて破廉恥なことを!」


 ……あれ……恥ずかしいの? つーか、今まで気付いていなかったの? そして僕は何もやっていないからね。



「か……完敗よ、私の負けね」


「へ……」


 サージェシカは目尻に涙を溜め、突然、敗北を宣言した。



 持久戦と思われたが、あっけなく勝負がついた。





「勝者ウィル!」


『『ブ————————————————————————っ!』』


 僕の勝利に、会場から野次と共に凄まじいブーイングが起こった。


「ウィルてめー! なに自分だけいい思いしてやがんだ!」「余計なことすんなや!」「あと少しだったのに!」「ウィル、ぶっ飛ばす!」


 もちろん男子生徒によるものだ。


 勝つには勝ったが……なんか失うものが多かったような気がする。



 とりあえず、僕は自分の着ていた上着をサージェシカにかけてあげた。自爆とはいえ、半分は僕の責任だ、なにか後ろめたさを感じてしまう。


「ウィル……」


 しゃがみ込んだまま、サージェシカが上目遣いで僕を見つめる。


「……なんかごめん」


 そんな彼女を見ているといたたまれなくなって、つい謝ってしまった。


 するとサージェシカは、


「責任……とってね」


 と僕に告げた。


 おや……責任ってなに?


 モジモジ、している僕にサージェシカは続けた。

 

「こんな辱めを受けたら、もうお嫁になんていけない! ちゃんと責任取ってよ!」


 はい————っ?


 そして、サージェシカが僕に抱きついてきた。


『『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』』


 割れんばかりの大歓声に包まれる、僕とサージェシカ。


「ウィル!」「サージェシカ」「ウィル!」「ウィル!」「ウィル!」「ウィル!」「ウィル!」「サージェシカ」「サージェシカ」「サージェシカ」


 巻き起こるウィルコールとサージェシカコール。


 何これ?


 僕に抱きついたままうっとりするサージェシカ。


 どうしよう……突き放してしまったら、その拍子に服がやばいことになるかもしれない……かといってこのままってのも。


 ——結局大会運営委員がひっぺがすまで、サージェシカは僕に抱きついたままだった。


 ほとんど何もしていないけど、地味に削られた戦いだった。


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