第18話 悪夢
「ダーリン!」
なんの因果か……ロリっ子超絶美少女につきまとわれる僕。
「サージェシカさん、その、僕にはユイナという婚約者がいまして……」
「知ってるよ? 有名だもんね」
「だから、そのダーリンって呼ばれると、色々と誤解が……」
「やだなぁ、ダーリンは愛しい人って意味だよ? だから大丈夫だよ、ダーリン!」
何が大丈夫なのだろうか。
一度頭の中がどうなってるのか見てみたい。
「それよりも、次の対戦相手、ゼルドの対策は考えてる?」
僕の話しなどお構いなしに話を続けるサージェシカ。そのタフさは羨ましい。
つーか、序列5位のゼルドか……考えているどころか、何魔法の使い手かも知らない。
「いや、全く……何魔法の使い手?」
「ダーリンそれガチ?」
「う……うん」
だって、つい最近までトーナメントの事なんか頭になかったもん……むしろ闇魔法に身体を馴染ませるだけで、精一杯だったし。
「仕方ないなあ、私がブレーンになってあげようか?」
「いや、いいです」
「即答! 私は去年ゼルドと対戦してるんだよ!」
って言われても……ねえ?
「誰に同意を求めてるのよ!」
「え……何のこと?」
……まな板の件と言い、こいつもエスパーかよ。
「まあいいよ、ゼルドはね、炎魔法と風魔法の使い手だよ。特に炎魔法はヤバいよ」
グイグイくるサージェシカ。
タフだ……やっぱ、色々タフだ……なんか断る方が体力使いそうだし、とりあえず、流れに任せよう。
「あの……サージェシカさん去年は、ゼルドに負けちゃったの」
「……うん、残念ながら」
炎魔法と風魔法が相手だと、氷魔法のサージェシカでは確かに分が悪いな。
「噂ではね、ゼルドはインフェルノが使えるらしいよ」
ま……マジか、禁呪が使えるレベル程の実力なのか。
「少し前に、中庭で凄い魔力の衝突があったの覚えてる?」
ウェイニーがコキュートスをぶっ放した時の事かな。
「あれね、噂では氷魔法と炎魔法が衝突したらしいんだけど……」
その通り、コキュートスとインフェルノが衝突した結果だ。
「ここだけの話、ゼルドがやったらしいよ」
……うそん。
「それって……どこ情報?」
「本人が言ってた!」
嘘つきじゃん。
「ゼルドからは、問題になったら嫌だからって、口止めされてたんだけど……」
あっさり喋っちゃったね。
「でも、ダーリンのためだからいいよね!」
いいも何も……。
「——テメーが、俺の次の対戦相手のウィルか」
「ゼルド!」
噂をすれば影……ゼルドが挨拶にやってきた。つーか、物凄い顔で睨んでくるんだけど、何で?
「……はい、ウィルです」
「サージェシカを倒したっつーから、どんな凄げーやつかと思って来てやったのに、モヤシじゃねーか!」
ゼルドは、金髪で角刈りで、なんか無精髭まで生えてて、とても学生には見えないゴリマッチョだ。確かにゼルドから見たら僕はもやしかもしれないけど……脱いだら凄いんだぞ!
「私のダーリンになんてこと言うんだ!」
あなたこそ、知らない人になんてこと言うんだ。
「な……だ、だ、だ、ダーリンだと」
うん? もしかして、こいつダメージ受けてる?
「お前ら……まさか、付き合ってるのか?」
「いや、ちが「そうだよ! これから良い仲になるんだよ」」
何で、この子は平気で嘘ついちゃうかな……つーか、今の話だけでも矛盾してるじゃん。
「ま……まじかよ」
いや、君もちゃんと話聞いてね! 『これから』って言ってるじゃん。
マジで落ち込むゼルド……こいつもちょっと弱い子だ。
「くっ……」
ゼルドはうつむいてワナワナしている。
もう分かってるよゼルド……サージェシカの事が好きなんだよね。
「ウィル! テメー俺と勝負しろ!」
うん、するよ次の対戦相手、君だし。
「サージェシカ!」
「なに? そんな大きな声出さなくても聞こえてるから」
「俺が、そいつに勝ったら、俺と付き合ってくれ!」
『『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』』
ゼルドの告白に、外野が反応した。
「え——っ、ヤダよ」
即答だった。
肩を落とすゼルド……なんか気の毒になってきた。
と、思っていたけど、ゼルドの魔力がグングン膨れ上がってきた。
「ウィィィィィィィィルゥゥゥゥゥゥゥ」
血走った目で僕を睨むゼルド……めちゃくちゃ怖いわ!
「テメー……テメーだけは、ゆるさんぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
……めっちゃ燃えてる。
つーか、物理的に燃えてるけど、こいつ大丈夫……なのか?
「あちっ! 熱い! あちちちちちちちっ!」
大丈夫じゃなかった。
魔法を暴走させてしまったようだ。
「アイスリズン!」
サージェシカが氷の牢獄で、消化してくれて、大事には至らなかった。
つーか、何がやりたいんだよ。
「——テメーだけは絶対許さない、絶対だ!」
なんかまた、対戦相手がおかしなテンションになってしまった。……大丈夫か! 魔法学園!
——まあ、そんなこんなで、2回戦が始まった。もちろん対戦相手はゼルドだ。
「ウィル、焼き尽くしてやる!」
ゼルドはヤル気満々だ。凄んごい敵意を向けられているけど、今回も僕は何もしていない。
「ダーリン頑張って!」
火に油を注ぐサージェシカ。
「ぐぬぬぬぬぬぬ!」
コイツら本当はわざとなんじやないかと疑ってしまう。
「はじめ!」
開始の合図と共にゼルドが四肢に、炎魔法をまとい、仕掛けて来た。
「オラァ!」
巨体の割に素早い、でも、力任せ過ぎて、造作もなく避けれる。
「くそっ! 何で当たんねーんだ!」
それだけ大振りだと、当たる方が難しい。
「ダークバレット」
ただ、避けるだけでは脳が無いので、闇の弾を放ち反撃した。
「ぐあっっ!」
頭に血が上っていたゼルドは、避けようともせず、全弾命中し、後方に吹き飛んで行った。
「チクショウ!」
声を上げて悔しがるゼルド。
つーか、これで序列5位って……本当に魔法学園大丈夫か?
「ファイヤーバレット!」
ゼルドは無数の炎の弾を放った。肉弾戦を諦め、魔法戦に切り替えたようだ。ゼルドの放ったファイヤーバレットは、威力もスピードもなかなかの物だった。
魔物相手なら充分通用するだろうが……
「ダークバレット!」
僕には通用しない。
全弾、闇の弾で撃ち落とした。
「フッ……実力は本物って事か」
ゼルドの表情から怒りが消えた。冷静になったか?
「ファイヤーバレット!」
だが、同じようにファイヤーバレットでの攻撃を繰り返す。
僕も同じように迎撃する。
が、今度は違った。
「ファイヤーストーム!」
ゼルドは瞬時に僕の上方に回り込み、ファイヤーストームを放ってきた。おそらくエアーブーストで移動したのだろう。ファイヤーストームはアイスストームと違い、追跡性はないが、アイスストームよりも広範囲で厄介な魔法だ。
前方と上方から……強化魔法が使えれば、避けきれるが、
「ダークプリズン!」
僕は、自身に闇の牢獄魔法をかけて、ゼルドの攻撃を凌いだ。外部からの攻撃を受け付けず、内部からも魔法が使えない。
そして……魔法効果により暗闇の中で悪夢を見させられる、精神干渉系の魔法だ。
術者であっても例外じゃない。
ちょっと……この悪夢は尾を引くな……。
自ら創り出した悪夢により、ゼルドの攻撃を防ぐ事は出来たが、あまりいい選択では無かった。
もう二度と同じ事はしない……。
「くそっ!」
でも、ゼルドはめっちゃ悔しがっていた。
そう思うと、有りなのかも?
……いや、無しだ。
あんな悪夢、2度とごめんだ。
……ゼルドと対戦してみて分かった。
今の僕は波状攻撃に対応しきれない。
となると、攻めて攻めて攻めまくるしかない。こんな事なら闇魔法でも使える、対魔法ぐらいは習得しておくべきだった。
兎に角、攻勢に転じる事だ。
「ブラックサンダー!」
甘いお菓子ではない、文字通り黒い雷だ。
「こんな、ヘナチョコ魔法、全部避けてやるせ!」
見た目だけなら、1番好きな魔法なのだが、ゼルドの言う通り、威力も命中精度も低いヘナチョコ魔法だから、実戦では殆ど使わない。
でも、その反面、消費魔力が少なく連射性も高いので、今みたいな状況で、相手の攻撃を牽制するには充分だ。
僕はブラックサンダーを連射した。ゼルドに攻撃させない為、次の攻撃を有利に運ぶため、とにかく連射連射した。
そして、次の魔法、黒炎龍を放とうとした時には……、
「へ……」
ゼルドは倒れていた。
変に避けたのが災いしたみたいで、あの命中性の低いブラックサンダーを全弾被弾していたようだ。
付け加えるなら無駄に発達した筋肉が、的を大きくしたのもあると思う。
「勝者ウィル!」
『『ブ————————————————————————っ!』』
僕の勝利に、会場から野次と共に凄まじいブーイングが起こった。
2戦連続なんですけど……。
「今の見たか?」「もう勝負は決まっていたのに」「あそこまでやる必要ないよな」「ゼルドかわいそう!」
「……ダーリン」
サージェシカ……性格はアレだけど、この四面楚歌の中での唯一の味方。
彼女が居てくれて助かったかも知れない。
「見損なったよ!」
え……。
「勝負はとっくに着いていたのに! そんな事して私が喜ぶとでも思った?」
ええええええええええっ!
何だこのB級なシナリオは……僕が完全に悪人じゃん。
「ゼルド!」
サージェシカはゼルドの元へ向かっていった。
「さ……サージェシカか……あんな大口叩いて負けちまった……俺、格好悪いよな」
「そんな事ない! そんな事ないよ! アンタは格好いいよ」
「サージェシカ……」
「さあ、私の肩に掴まって」
ゼルドとサージェシカが僕の元へやってきた。
「ウィル、ごめんなさい。私やっぱり彼を……」
「サージェシカ! 本当なのか?」
「本当だよ」
『『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』』
大歓声が会場を包み込んだ。
なんだろう……僕凄い可哀想な人じゃね?
幸せそうに笑うサージェシカとゼルド。
2人の嬉しそうな顔を見ていると、告白もしていないのに振られた事なんて、どうでも良くなって……、
こないよ!
1回戦と2回戦……魔力的な、体力的な消耗はゼロと言っても過言ではない。
でも、精神はマックスで削られた。
何かしんどい。
それとも、これもダークプリズンの悪夢の続きなのだろうか。
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