第19話 場外戦
なんとか無事? 午前の部は勝ち進むことができた。
色々思うところはあるが、体力も魔力も温存できたので取り敢えずよしとする。
午後の部は昼休憩を挟んでから執り行われる。
この休憩の間に、消耗したメンタルをしっかりユイナに癒してもらおうと思っていたのだが、
「ダーリン、三回戦進出おめでとうございます」
あてが外れた。
情報が早い……そして、ユイナの笑顔が超怖い。
「ダーリン、ご活躍だったみたいだね」
聖女ニナからどす黒いオーラが溢れてる。
「ダーリンは、まな板が好き」
カレン先輩違います。まな板もです。
「ダーリンね……んとにもう、なんでそんな事になってるのよダーリンは……普段から脇が甘いって教えてあげてるわよね? ね? なんで? なんで? なんでそうなるの? 実は狙ってるでしょ? ……」
セリカの小言は久しぶりだ。
「ダーリン、ハンカチが落ちましたわ! 拾いなさい」
ブレないジーン。
「ダーリン……あんなに服がボロボロになるまで激しく……ハァハァ」
ウェイニーもブレない。つーか見てたの?
「人気者だったね、ダーリン」
ジト目のユア……こいつ絶対2回の大ブーイングのこと知ってる。
「ダーリン、何か言いたいことはないのですか?」
怖い……本当に怖い……笑顔ってこんなに怖かったんだ。
「……ごめんなさい」
とりあえず、謝った。
——そしてその後、詳しい事情を説明した。
「なんだ、今回はウィルは悪くないのですね」
ユイナはあっさりと許してくれた。
「そんなことないですよ、ユイナ様。ウィルは脇が甘いんですよ」
セリカの言う通り、脇が甘かったのも事実だ。
「まあ、その辺でいいじゃない。それよりお昼にしましょ」
そう言ってニナは巨大な弁当を取り出した。
……しかし、弁当が巨大だったのはニナだけじゃなかった。
ユイナもユアもセリカもジーンもウェイニーも巨大な弁当だった。
ちなみにカレン先輩は手ぶらだった。
『『あはは……』』
皆んな考えることは同じようで、顔を見合わせて苦笑していた。
多分、僕のために用意してくれたんだよね……。
カレン先輩が耳元でささやく、
「後輩、ここは完食しなければ男じゃない」
と……。
そ、そうだよな……、
この量……食べることができたとしても、午後から戦えるのだろうか。
でも、みんなの好意を無駄にするわけにはいかない……まず目の前の戦いに集中しよう。
『『いただきまーす』』
そんなわけで、僕の場外戦、第一ラウンドが開始された。
まずは、ニナだ。
鳥の唐揚げ……流石幼馴染、僕の好物をおさえているけど、ちょっと重い気がする。
「いただきます」
……でも、めっちゃ美味しかった。下ごしらえがしっかりしていないと、この味はでない。愛情のこもった一品だ。
「ニナ、すごく美味しいよ!」
「いっぱいあるから、たくさん食べてね」
「うん、ありがとう」
ニナからどす黒いオーラが消え笑顔が戻った。
しかし、それはニナだけで他の皆んなのフラストレーションが溜まる。まさに、あちらを立てればこちらが立たずってやつだ。
「はい、ウィル……好きだって言ってたでしょ」
セリカが作ってくれたのはハンバーグだった。
ユイナが転校してくるまでは、よく御馳走になった懐かしの味だ。
「いただきます」
……やっぱ美味しい。セリカのハンバーグは幸せの味だ。
僕は思わずセリカの手をとった。
「セリカ美味しいよ! やっぱセリカは僕の癒しだよ!」
「えっ、えっ、何なの急に……」
セリカの機嫌は直ったが……以下略。
「さぁ、ウィルお食べなさい」
問答無用でジーンが僕の口に突っ込んできたのは、ローストビーフだった。
これもうまい! 肉だけど、さっぱりしてるからバクバクいける!
重い重いのあとのローストビーフは、まさに肉の砂漠のオアシスだった。
「美味しいよ、ジーン、もう少しもらってもいい?」
「し……仕方ありませんわね、あーんしなさい」
「あーん……」
ローストビーフは無事僕の口に収まったが、この場が無事に収まるかは、別の話だ。
「はい、お兄ちゃん、あーん」
「んぐっ」
ユアが強引に口に押し込んだのはサンドイッチ だった。ハムと卵とシャキシャキレタス。
ユアめ……なかなか心得ている。
美味いじゃないか……。
「どう? 美味しい? お兄ちゃん」
「うん、美味しいよ! 腕を上げたな」
「てへ」
ユアは素直に喜びを表現した。ユアの彼氏になるやつは大変だろうけど、幸せだろうな……なんて思わず考えてしまった。
そして、いよいよ……、
「どうぞウィル……」
ユイナだ。
「こ……これは?」
何だろう? 唐揚げ? にしては平べったい。
「これは、東の島国のトンカーツというものです。何でも戦勝を祈願して食されるらしいですよ」
「トンカーツ?」
そんな縁起物があるのか。
見たことも聞いたこともない……取り敢えず、いただくか。
「いただきます」
……こ……これは。
サクッとした歯触りから口の中に広がるジューシーな味わい。これは豚肉? 豚肉ってもっと硬いよね? こんな分厚かったら、普通噛み切れないよね? でもフワッと柔らかく濃厚な旨味。
……めっちゃ美味いやん!
「サクッとしててジューシーで、美味しいよ! 豚肉だよね! なんでこんなに柔らかいの?」
「がんばりましたので……」
お……おう、その照れる仕草が超可愛い。
「ユイナ様、私も食べてみたい!」「私も」「わたくしも」「自分も」「ボクも」
「どうぞ、たくさんありますので」
『『美味し〜い!』』
皆んなほっぺを抑えユイナのトンカーツを絶賛していた。
ダーリン事件のギスギスした雰囲気が、ユイナのトンカーツによって淘汰され、僕は平穏を取り戻した。
ありがとう! ユイナ!
……でも、ちょっとトンカーツは重かった。
できれば、試合のない日に、じっくりとディナーで味わいたいものだ。
忘れていたけど、ウェイニーの巨大な弁当は自分用だったみたいで、あっと言う間に平らげていた。
ちなみに、みんな午前の部は無事に勝ち進み、このあとの組み合わせも、よほどの大番狂わせがない限り大丈夫とのことだ。
ジーンが、明日のコッツエン戦が不安だと漏らしていた。
——「君がウィルかい」
皆んなと別れHブロックの会場に戻るとまた、誰かに話しかけられた。これまで通り次の対戦相手だろうか。
「そうですけど、あなたは?」
「なっ……ぼ、僕を知らないのか!」
自分を知ってる前提で話かかけてくるって……なんかまた面倒臭そうな人だ。
「僕は、ラーフラ 、魔法学園序列1位のラーフラだ、覚えておきたまえ!」
お……おう、序列1位か。
なんというか……イケメンだ。身長も僕よりちょっと高いんじゃないだろうか。茶髪でクリンクリンのロン毛、目は切れ長で青い瞳、鼻筋はすっと通っていて、肩幅が少し狭く見えるぐらい、首から肩の筋肉が隆起している細マッチョ。
序列1位に相応わしい風貌っと言ってしまえば、外見だけで物事を判断するやつと思われるかもしれないけど、そんな外見だから仕方ない。
遠巻きにこっちをみている女子達は、こいつの取り巻きなのだろうか。
なんて羨ましいやつだ!
「ど……どうもウィルです」
「知ってるよ!」
うーん、ちょっと短気だな。ここはマイナスポイントだな。
「その、序列1位のラーフラさんが何の御用でしょうか?」
「ああ、そうだったな。君にひとつ忠告をしておこうと思ってな」
忠告ってなんだろう。
「男の僕が言うのもなんだけど、君はなかなかいい男だ。僕は君に凄く興味があるんだよ」
「僕に興味……」
忠告……はっ、まさか!
「ごめんなさい、僕にそっちの趣味はありませんので」
「違うわ! そう言う意味じゃない!」
……てっきり自分に襲われないように気をつけてねって忠告に来たのかと思った。
ラーフラ とは対照的に、取り巻きの女子達は凄く残念そうだ。僕たちに何を期待しているんだ。
「君の戦いは見させてもらったよ。できれば決勝は君と戦いたいと思っている」
「それは、どうも……」
あんな泥仕合で興味をもってもらえるなんて……なんか申し訳ない。
「君の実力なら、ドライドやネイネル相手に取りこぼすことはないだろう」
序列8位と序列10位だな。
「いや……でも序列上位の方ですし」
「何を言う、君は彼らよりも上位にいる、ゼルド、サージェシカに勝利しているではないか」
なんか、勝利というより、自滅してくれた感じだったけど……。
「だが、フェイミン……序列6位の彼女はそう簡単に勝てる相手ではない」
……序列6位なのにか。
「まあ、一方だけにアドバイスを送るのはフェアじゃない、だからこれだけ言わせてもらうよ」
なんか、外見通りの感じだな……ちょっとキザだこいつ。友達にはなれそうにない。
「闇魔法のスペシャリストはギュスターヴ家だけではない、肝に命じておきたまえ」
……それ、完全にアドバイスだよね。フェイミンは僕と同じ闇魔法使いだから気をつけてねって言ってるのと同義だよね。
「……わざわざ、ありがとうございます」
ラーフラは言いたいことだけ言うと、
取り巻きと共に。
羨ましいやつだ。
それにしても、闇同士の戦い。
結構な消耗戦になりそうだな。
それよりも、一発勝負は何があるか分からない。気を引き締めていかないとな。
——序列10位の地魔法師のネイネルとの対戦は、極々普通の特筆することのない戦いになり、普通に勝利した。
そして、今日、最後の対戦相手になるはずだった序列8位のドライドが、編入生に敗れる大番狂わせがあった。
しかも、瞬殺だったと言うから驚きだ。
そんなわけで、今日最後の対戦は謎の転入生に決まった。
……なんか、嫌な予感しかしないんだけど。
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