第20話 困惑
本日の最終戦に挑む僕。
対戦相手は序列上位を瞬殺した転入生……手強いことは容易に想像できる。
まあ、今日は泥試合続きで、魔力的な消耗は殆どない。
連戦ではあるが、メンタル以外は万全の状態で望めるのが、せめてもの救いだ。
——そして、舞台に上がった僕を待ち受けていたのは、サージェシカにも勝るとも劣らない、超絶美少女だった。
胸の大きさも勝るとも劣らない、見事なまな板だ。
「ジュンナ・シドウだ。楽しい試合を期待している」
こ……この声は男?
赤毛のショートヘアーに、ぱっちり二重の大きな赤い瞳。なんか唇も妙に艶っぽい。見た目と名前は女っぽいけど、声と喋り方はどう聞いても男だった。
もしかして、これが噂に聞く男の
それにしても、ジュンナって……どこかで聞いた名前だ。
「はじめまして、ウィル・ギュスターヴです。お手柔らかにお願いします」
握手を求められたので、舞台中央でガッチリ握手を交わした。
手も柔らかい……。
「腑抜けたことを言うな……俺をガッカリさせないでくれ」
その柔らかい手で思いっきり握られて、虫けらでも見るような目で睨まれた。
挑発しているのかもしれないけど……普段からカレンセンパイの怪力にやられて、学校中から汚物を見るような視線に晒されている僕からしたら、こんなの苦痛でもなんでもない。
どんと来いって感じだ。
「はじめ!」
開始の合図と共に僕は度肝を抜かれた。
「ホーリーレイン!」
ジュンナが繰り出してきたのが、聖魔法のホーリーレインだったからだ。
しかも、出会った時のユイナよりも威力がある。
「黒炎龍!」
とりあえず、黒炎龍で前方のホーリーレインを打ち消し、ジュンナとの距離を一気に詰めた。普段なら、距離をとって様子を見るところだけど、連続攻撃に対処しきれない苦肉の策だ。
僕は一気に勝負を決めるつもりで、闇魔法を凝縮した剣、ダークブレイドで斬り掛かった。
だが……、
「ケラウノス」
光の剣、ケラウノスを顕現させ防がれた。
「ふっ……ただの腰抜けではないと言うことか、楽しませてくれる」
ケラウノス……僕の聖魔法を凝縮して作る、ホーリーブレイドとは根本から違う、神の剣を顕現させる聖魔法だ。
ケラウノス……僕も一応使うことは出来るが、燃費が悪く、とても実戦向きじゃない。となれば……。
僕はそのままダークブレイドで打ち合った。
彼のガス欠を期待したのだが……、
目論見は大きく狂った。
剣を合わせる度に彼の剣撃が鋭くなる。
逆の結果になってしまった。
だが、こうなってはもう、引くことは出来ない。僕はさらに激しく彼に斬り込んだ。
光の剣と闇の剣が衝突し、異様な魔力が周囲に拡散する。
「いいぞ、ウィル・ギュスターヴ! この俺をもっと楽しませろ!」
しかし、僕の攻撃はジュンナの気合のこもった一撃に押し切られた。
「くっ! ……ダークレイン!」
仕方なく、ダークレインを放ち、距離を取ったが、
「あまい!」
ジュンナはダークレインに、臆することなく、そのまま突撃してきた。
「ダークバレット!」
ダークバレットで、迎撃するも、構わず突進してくるジュンナ。
どんだけタフなんだよ!
「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!」
僕は、ジュンナの剣撃を受け止めることができず、たまらず受け流した。
ジュンナは前のめりになり、体勢を崩した。
ん……彼はもしかして戦闘は素人?
僕は後退しながら、彼にダークバレットを連射した。
ジュンナはそれを避けようともせず、また一直線に僕に仕掛けてきた。
今度は反撃できる体勢だったから彼の剣を受け止めた。
……驚愕だ……あんなにもダークバレットの攻撃を受けていたのにも関わらず、殆どダメージを受けていない。
まさか、彼もドMって落ちはないよね……。
「やるなウィル・ギュスターヴ……だが、その戦い方は
力任せにケラウノスを振るうジュンナ。
このままでは、僕がガス欠になってしまう。
しかし……彼の魔力は一体どうなってるんだ。
ダメージも通らないし、尽きる様子もない。もうこのタフさはドラゴンクラスと言っても過言ではない。
……勝てるイメージが浮かばない。
「うらぁぁぁぁぁぁっ!」
何か嫌な予感がしたので、ジュンナの一撃を避けると、闘技場の舞台が真っ二つに裂けた……なんて威力だ。
「よく、見切ったな。受け止めていたら貴様の
……え、なに、やだ、こいつ、僕の事、殺すつもりだったの?
これマジで、やばくね?
「行くぞ! ウィル・ギュスターヴ!」
唯一の救いは、彼が戦い慣れしていない? もしくは戦闘技術がないと言うことだ。
勝てる気もしないが、負ける気もしない。
だが、このままだと僕の方が先に魔力切れを起こすのは必至だ。
何か作戦を考えなければ……。
——激しい撃ち合いが続いた。そして剣を重ねるごとに、ジュンナの切り込みが鋭くなってきている。
戦いの中で、成長しているということか……。
ミスったか……でも、遠距離の魔法の撃ち合いで、この魔力タンクに勝てる見込みはない。
くそっ……どうすればいいんだ。
そして、さらにしばらく撃ち合うと、ジュンナの方から距離を取った。
「ウィル・ギュスターヴよ……楽しませてもらった。だがもう、この戦いにも飽きた……そろそろ決着をつけさせてもらう」
……ハッタリじゃない……ぐんぐん魔力が上がってくる。
客席もこの異様な雰囲気にざわついている。
こんな魔力の波動……今までに感じたことがない……、
いや、違うな……2回目か。
だが……ジュンナはあいつよりも得体の知れない感じがする。
どうする……使うか、
闇魔法に絞ったリミットブレイク。
だが、それだと明日の戦いは棄権することになる。
どうする……どうする、僕!
「終わりだ! ウィル・ギュスターヴ!」
ジュンナがこの戦いの中で、一番鋭く斬り込んできた。
「ダークプリズン!」
覚悟ができていなかった僕は、ダークプリズンを放ち、いったん時間を稼ぐことにした。
ダークプリズンは悪夢を見させる程度の精神干渉魔法だ。
ジュンナ相手にそう時間が稼げるとも思えない、何か別の手を考えなくては。
闇魔法で何ができる?
……ブラックホール。
だが、それは殺傷力が強すぎる。
いくらジュンナでも耐えられないかも知れない。
こっそり強化魔法だけでもつかうか……。
でも、速攻で学園長にバレてしまう。
くそっ! 八方塞がりじゃないか。
……しかし、いつまで経っても、ダークプリズンは解除されなかった。
え……もしかして、ダークプリズン効いちゃってる?
もうしばらく待ってみたが、ダークプリズンが解除される気配はなかった。
まさか……、
僕は恐る恐るダークプリズンを解除した。
ジュンナはうつむいて三角座りで何かぶつぶつ呟いていた。
審判が、ジュンナの様子を確認に行った次の瞬間、
「勝者、ウィル!」
僕の勝利が告げられた。
客席からは歓声もブーイングもなかった。
ただ呆気にとられているだけだった。
な……なんで?
まだ、三角座りで動かないジュンナの様子を見に伺うと、
「暗い、怖い、悪夢、怖い、やめて、もう僕の負けでいい、暗い、怖い、やめて、怖い、許して、僕の負けでいいから、出して、許して」
まだブツブツと呟いていた。
あんなにもタフだったから、ダークプリズンなんて効くはず無いと思っていたのだけど……、
効果覿面だった。
しかも……可愛い声で、おっぱいもあった。
擬態だったの? 何で?
ジュンナは美少年じゃなくて、やっぱり美少女だった。
聖魔法使いだし、わざわざ男装しているとか謎だらけだ。とりあえず、事情を聞こうと思い声をかけると、
「あの……」
目があった瞬間に、
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
泣きながらジュンナに抱きつかれた。
『『ブ————————————————————————っ!』』
会場から当たり前のようにブーイングが上がった。
もちろん男子によるものだ。
4回戦って3回ブーイング受けるってなかなかのヒールっぷりだ。
でも、ジュンナの胸の感触は……なかなか。
……いやいや、そんなのはあと回しだ。
ジュンナの肩をもち、とりあえず引き離そうと思っても、離れなかった。めっちゃ怪力だった。
「いや……離さないで! 離れたく無い!」
どんな悪夢を見たんだろう。
「いや、でも流石に、ずっとこのままってわけには……」
「また私を置いていくの! 捨てないで! 何でもするから!」
……おや……なにか穏やかならぬ発言が。
『『ブ————————————————————————っ!』』
鳴り止まぬブーイングと、ジュンナの意味深な言葉に、ただただ困惑する僕がいた。
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