第7話 国王直属特務隊

 ウェイニーの調教……じゃなくて、協力をこぎつけることに成功した僕は、この件について僕が知り得る限りの情報を伝えながら、一緒に魔法師団の駐屯所に向かった。


「……信じられん。まさかジェイク様がそのような御命令を」


 主君の暴挙にショックを隠せない様子のウェイニー。


「証拠が無いから本当のことは分からないよ……でも、僕はユイナを襲っていないし、リッチを倒したのも僕だ」


「……くそっ、クラムめ……」


 ウェイニーをたぶらかしたのは副団長のクラム。


 団でもウェイニーに次ぐ実力者で、ウェイニーからの信頼も、ジェイクからの信頼も厚い人物だ。


「とにかく急ごう、やつは私よりも冷酷無比だ。冷酷非道と言っても過言ではない……姫が心配だ」


 そんなやつなら一刻の猶予もないじゃないか……呑気にお尻ぺんぺんなんかするんじゃなかった。


「ウェイニー、空を走るよ。どっちの方向か教えてね」


「へ……空を走る?」


 説明するより、身をもって知ってもらった方が早い。


「暴れたら死ぬよ」


 僕はウェイニーを抱き抱えた。


「ご……ご主人様! 何を……?」


「スタンド!」


 僕はウェイニーを抱き抱えたまま、空間に足場を作ることができる魔法『スタンド』を使って空を走った。


「きゃっ! な、な、な、な、何!」


 絶対零度の魔女と称されるウェイニーも、空を走ることには面食らっている様子だ。


「ひぃぃぃぃぃっ!」


 強化魔法で結構なスピードが出ているせいか、ウェイニーは完全にビビっていた。


 性格はアレだけど、こんなにも女の子っぽい仕草でしがみつかれると、何かくるものがある。


 ……それに、なかなかいい匂いだし。


 って、バカなことばかり言っていられない。


 彼女にはナビ役をお願いしなければならないのだ。




 ——ウェイニーが根性見せてくれたおかげで、予想よりも早く駐屯所に着いた。


 でも、何か様子がおかしい……。


「なあ、あれ煙だよね?」


「す……すまない……怖くて下が見れない」


 ……これがギャップ萌えか……案外可愛いところのあるウェイニーだった。


「じゃぁ、目つぶっててね!」


 僕はスタンドから飛び降り、駐屯所に急降下した。


「キャァ————————ッ!」


 悲鳴を上げるウェイニー。これは僕も怖いと思う。


 そして、駐屯所に降り立った僕たちを待ち受けていたのは……。





「よ、後輩」「お兄ちゃん!」「ウィル!」「ウィル!」



「カレン先輩……ユア、ニナ、……ユイナまで」


 皆んな勢揃いだった。


 でも、どうしてとは聞かない……この駐屯所の惨状を見れば分かる。


 きっと特務隊の皆んなが動いたのだ。


 エリート集団で知られる、ウェイニー団長の魔法師団が壊滅していたのだから……。



「ご……ご主人様……これは、いったい?」


『『ご主人様!』』


 こら、なんてこと言うんだ! 皆んなと一緒の時はウィルと呼んでって、お願いしたよね?


「お兄ちゃん……ご主人様って何?」


 ……言えない。


「ウィル……あなた本当は違ったの? する側がよかったの? 言ってくれれば私……」


 そっち!? つかニナ……お前もか!


「ウィル……あなたまさか、ウェイニーの純潔まで奪ったのですか?」


 奪ってないし! そもそもウェイニーは純潔じゃねーし……。


「「「事情を説明してくれるかな?」」」


 ユアとニナとユイナの息がぴったり過ぎて怖い。


「ま……待ってくれ……我が団は、どこの軍の襲撃を受けたのだ……こんな簡単にやられる奴らでは……」


 事態を飲み込めていないウェイニーが、1人取り残されたいた。


「特務隊」


 そんなウェイニーにカレン先輩がサラッと真実を告げる。


「……特務隊?」


「世の中、上には上がいる」


 国王直属特務隊。


 僕やカレン先輩、学園長も所属する、一人ひとりが一個師団に匹敵する実力を持つと言われる、国王直属のとんでもチート部隊だ。


「その特務隊が我が団を、壊滅させたというのか……一体どれほどの数で攻めてきたというのだ」


「ボクとサラフィーナの2人」


 他の皆んなは来ていなかったのか……ちなみにサラフィーナは学園長の名前だ。


「ふ……ふ、ふざけるな! 我が団がたった2人に壊滅させられたというのか!」


「うん」


「ありえん……ありえんぞ」


 ウェイニーの魔力がまた膨らみだした。どうも感情に抗えないタイプのようだ。


「でも事実、なんなら試してみる?」


 これこれ煽るのはやめなさい。


「ほう……貴様……なめるのも大概にしろよ」


 だから直ぐにブチ切れる性格を大概にしろって!


 2人の魔力が恐ろしいほどに高まっていく……。


「ちょ、カレン先輩やめてください! ウェイニーも」


 カレン先輩とウェイニーの間に割って入り、両手を広げて2人を制した。


「後輩大胆……」「はうぅ……ご主人様こんなところで」


 信じられないことに僕は、突っかかってくる2人のおっぱいを、ガッツリ触ってしまった。これぞラッキースケベの真髄。


 どうせ怒られるんだからと思い、むにゅむにゅしておいた。


「お兄ちゃん何やってるの!」

「ウィル、私に言ってくれれば!」

「ウィル、不潔です!」


 皆んなそれぞれ反応が違うなと思いながら、至福の時間を堪能した。


 それはそうと……この状況……もうユアとニナに特務隊のことを話すしかないんじゃないのか?


 事情を説明しないことにには、この状況も収拾がつかない。


 ……どうする……強引に誤魔化すか、正直に話すか。


「ウィル……」


 ユイナ……また何か助け舟を出してくれるのか?


「真剣な顔をしていてもダメです。婚約者の前でいつまでお二人の胸をむにゅむにゅしているんですか!」


 あ……つい……。


 カレン先輩も少し紅潮し、ウェイニーは完全に恍惚の表情を浮かべていた。



 ***



 ——「後輩、これ陛下から」


 少し落ち着いたところで、カレン先輩から陛下の手紙が手渡された。


 早速開封してみた。


 —————


『あーウィル。

 ユイナ可愛いだろ!

 よろぴくね★


 それともう特務隊のこと隠さなくていいよ。

 その設定飽きたし★


 PS・俺の言った通りユイナぷにゅんぷにゅんでぱいんぱいんだろ?』


 ————



「……」




「ビリビリッ!」


 ざけんなっ! 思わず手紙を引き裂いてしまった。


 設定ってなんだよ……設定って……隠密行動がどうたらって、もっともらしい事言ってたじゃないか。


 それにバレたらクビだって……。


 ……そのおかげで、僕がどれほど苦労したと思ってんだ。


 ウェイニーにムチで打たれたこと、ゴーレムに追いかけまわされたこと……。


 全部いらない苦労だったじゃないか!


 僕の頬に一筋の涙が伝った。




 ——僕はユアとニナに事情を説明した。


 設定云々は腹立たしいことだったが、状況としては好転した。


 皆んなの身に危機が迫った時、実力を発揮できないんじゃ、この力も意味がない。


 なんか肩の荷が降りたような気がした。


「そ……そうだったの、お兄ちゃん……知らなかった」


 うん……なんかユア……白々しくないか? もしかして知っていたのか?


「ウィル……言ってくれれば私……」


 ニナ……なんか今日そればっかりだね。




 ***



 ユイナ襲撃事件の首謀者、クラムは素直に罪を認めた。


 だが、誰の命令かについては口を固く閉ざしたままだった。


 ウェイニーが、責任をもってクラムを王都に送り届け、ジェイク侯爵にもこの件を問いただすということで、クラムの身はウェイニーにあずけた。


 ただし、ジェイクにこの件を問うことはダメだと強く命令した。


 ウェイニーに危機が及ぶ可能性があるからだ。


 まあ、僕がご主人様である以上。ウェイニーは僕の命令には逆らえない。


 アレな性格もこんな時には役に立つ。




 ——「ところでウィル、何故ウェイニーはあなたのことをご主人様と呼んでいたのですか?」


「そうよお兄ちゃんどういうこと」


「私もそう呼んだ方がいいの?」


『『え……』』


 ニナの一言で変な空気が流れてしまった。


「後輩のことだからどうせ、エッチなことで……」


 あれ……僕そんなキャラでしたっけ?


「そうなのですか! そうなのですか! 答えなさいウィル!」


 ユイナは赤面しながらも興味津々といった感じだ。


「エッチなことなんかしてないです!」


「怪しい」

「怪しい」

「怪しい」

「怪しい」


 どんだけ信用ないんだよ僕……。


「とにかくウィル、私と言う婚約者がいるのです。みだりに他の女性とその……いやらしいことをするのは許しませんよ!」


「あ……お兄ちゃん……まだユイナ様の件についての話の途中だったよね」


 そうでした……。


「ウィル……詳しく聞かせてね」


 笑顔がとっても怖い聖女様。


「とりあえず後輩の家に行こう」


 えぇぇ……。




 ——このあと僕は、ユアの精神干渉魔法をかけられ、これまでのことを洗いざらい白状させられた。


 その後の皆んなの冷たい視線が忘れられない。


 つか……何を白状させたんだよ!


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