魔法学園でドSな彼女達のオモチャな僕は王国の至宝と謳われる最強の魔法師です

逢坂こひる

第1話 僕は「はい」としか言えなかった

 得も言えぬ息苦しさで目が覚めた。


 しかし目を開ける事は出来なかった。


「んぐっ……!」


 口も開ける事が出来なかった。


 どうやら目も口も、ガムテープでふさがれているようだ。


 ていうか……目や口どころか、手足を大の字にしてベッドに縛りつけられていてる。


 これでは、身動きひとつ取れない。


 しかも、パンイチだ。


 ……僕に何があった。




 ——そして追い討ちをかけるように、混乱する僕の頬を、誰かが冷たい金属のようなものでペチペチと叩く。


 まさか……ナイフ? 剣?


 一気に冷や汗が出てきた。


「死にたくなかったら、俺の言う事を聞け、分かったら、大きく鼻の穴を2回膨らませるんだ」


 僕は言われるがままに、大きく鼻の穴を2回膨らませた。


「よし、いいだろう」


 なんで鼻の穴……首を縦にふるじゃダメなのか?


「今から口のテープを剥がす。だが、俺の許可なしに声を出すな。出すとどうなるか分かるな? 分かったら大きく鼻の穴を3回膨らませるんだ」


 僕は言われるがままに、鼻の穴を大きく3回膨らませた。


 すると声の主は、ノーモーションで口のガムテープを引っぺがした。


 痛っ! めちゃめちゃ痛いわ!


 声を出して欲しくないなら、もっと丁寧にやれよ! 


 と突っ込みたかったが、命が惜しいのでこらえた。


 こいつの目的はなんだ……もしかして僕のを知っていて色々聞き出そうとしてるのか?




「いいか、これから俺が言う言葉を、一言一句たがわず繰り返すんだ。分かったか?」


 一言一句違わずだと? いったい何を言わせるつもりだ?




 でも、僕は「はい」としか言えなかった。




「僕、ウィル・ギュスターヴは、ユア・ギュスターヴに絶対服従を誓います」


 寝起きにおこった突然の出来事、極限まで混乱していた僕は、言われるがままに続けた。


「ぽ……僕、ウィル・ギュスターヴは、ユア・ギュスターヴに絶対服従を……誓います」


 さらに声の主は続けた。


「心から愛しています」


「こ……心から……」


 ってあれ?


「どうした? 続けろ」


 なんか、おかしくね?


 ユア・ギュスターヴって……。




 ん……!




 僕はようやく事態が飲み込めた。



「ユア、テメー!」

 

 この出来事は全部、僕の妹、ユアの仕業だ。


 ご丁寧に精神干渉魔法までかけてやがる……手の込んだことを。


「てへへ、おはよう、お兄ちゃん」


「てへへじゃねーよ! 早くこのテープを剥がせよ!」


「えーっ、やだよ、一番いいところで気付いちゃって! 空気の読めないお兄ちゃんの言うことなんて聞きたくない!」


「そう言う問題じゃねーよ!」


 ユアはノーモーションで、目隠しに使っていたテープを、勢いよくひっぺがした。


「痛っっっっ!」


 かなりの眉毛とまつ毛が抜けた……ただでさえ、眉薄いのに……テメーの方がよっぽど空気読んでねーよ!


「痛い! いてーよ! ユアてめ……」


 そして僕が見たのは。


「な……」


 なんとも際どい下着姿のユアだった。


「ななななな、ゆ、ゆ、ゆ、ユア……なんて格好してるんだよ!」


「あれ? お兄ちゃんユアの下着姿なんか見ても平気なんじゃなかった? いつも言ってるよね?」


 確かにいつも言ってるけど、それは兄妹だから……本当のことなんて言えないじゃん……分かるだろ? ……本当に見せるなよ。


「平気だよね? お兄ちゃん?」


 動けない僕にユアが馬乗りになって、指で首元あたりからヘソのあたりまでをなぞる。


「凄いね……お兄ちゃんの腹筋」


 はうっ……ヤバい声が出そうになる。


 そして、ユアはその豊満な胸の谷間を、挑発するかのように見せつけてきた。


 生つばものだ。


 こ……これは危険だ……ユアの肌の温もりと……際どい下着。


 さらにユアは目の前まで、ずいっと顔を近づけてきた。


「ゆ……ユアさん?」


 そして僕の耳元で吐息まじりに囁く。


「平気だよね……お・に・い・ちゃ・ん」


 へ……平気なわけあるかぁぁぁぁぁ!


 両手両足を縛られてたら、反応するヤツを……隠すことも出来ない。


 このためか……両手両足を使えなくしたのは、このためだったのか……なんてやつだ。


「あれ? 何これお兄ちゃん? ユアに欲情しちゃった?」


 くっ……ころ。


「もっと見せてあげようか?」


 ……本当は見たい……でもユアは妹だ。


「か……勘弁してください」


「あれ? 聞こえなかったけど?」


「勘弁してください! ユア様!」


「ちょっと、思ってたセリフと違うよ」


「じ、じゃぁ何て言えばいいんだよ……」


「妹の下着姿に欲情した変態兄貴をお許しください。ユア様……こんなところかしら?」


 お……鬼か!


 でも、僕は「はい」としか言えなかった。


「妹の下着姿に欲情した変態兄貴をお許しください。ユア様」


「よくできました」


 朝から泣きそうな僕と、朝からご満悦なユア。


 兄妹で対照的な朝だった。


「あ、そう言えばニナが迎えに来てるわよ。一緒に学校へ行く約束してたんでしょ」


 ニナは僕の幼馴染だ。


 聖魔法が使えて、分け隔てなく誰にでも優しい彼女は、皆んなから聖女様と崇められている。


「もうそろそろ出ないと遅刻ね」


「マジかよ……」


「マジよ」


 ユアは上着を羽織り、僕をベッドに縛り付けたまま、部屋から出て行こうとしていた。


「ま、待てよユア! これ、そのナイフで切ってくれよ」


 ユアが僕の近くまで戻ってきた。そして手に持っていたナイフで、僕のパンツを引っ掛けた。


 僕が言った『これ』は勿論パンツではない。手足を縛っているロープだ。


「ニナ呼んであげるから、ニナにもらってね」


 満面の笑みを浮かべるユア。


 そして引っ掛けたナイフで僕のパンツを切った。


「ノォォォォォォォォォォォォォォォ!」


「楽しみだね! ニナがどんな反応するか! アハハハハハハ」


 高笑いでユアは僕の部屋から去って行った。


 つか……まじかよ。


 全裸で大の字になってベッドに縛り付けれられている姿を、幼馴染に見られる……ってなんの罰ゲーだよ……妹に見られるのも、かなりの恥ずかしさだったのに。


 何かできることは、僕に何かできることはないか……こんな姿、ニナに見せられないって!


 精神干渉魔法を掛けられてるから、魔法も使えないし……。


 ……ユア……我が妹ながら恐ろしい。


 ……こんなの、変態のレッテルをはられるどころか、一生口を聞いてくれないまである。


 どうしよう……どうしよう。


 だが、僕にはどすることもできなかった。


「おはようウィル遅い……よ……」


 部屋のドアは開いていた。


 ニナはあまりの衝撃的な光景に、手荷物を全て落としてしまった。


 ……なんかごめん。

 

「や……やあニナ……これには深い理由がって」


 ニナは目を丸くして驚いている。そうりゃそうだ。



「……ウィル」


 ニナの肩がプルプル震えている。僕は色々覚悟した。


「……はい」


「……ついに、そっちの趣味に目覚めちゃった?」


「はい?」


 ……そっちの趣味って何だ?


「……言ってくれれば良かったのに」


 ……何をだろう?



 ニナは落とした手荷物をごそごそしていた、そして振り向きざまに……。


「パチィ——————ン」


「……ッッッッッッッッッッッゥ!」


 ニナが僕をムチで打ち付けた。


「な、な、な?」


「パチィ——————ン」


「……ッッッッッッッッッッッゥ!」


 混乱する僕を、さらにムチで打ち付けた。


 な……なんだ……どういうこと?


「……ウィルは、こうして欲しいからそんな格好してるんだよね?」


「ちがっ「パチィ————ン」ッッッゥ!」


 ニナはその後も容赦なく僕をムチで打ちえた。


 痛い……痛い……心も身体も。


 つか……あいつムチ持ち歩いてるの?




「なんか、運動したら熱くなってきちゃった」


 ニナが僕を見つめながらゆっくりと服を脱ぎ始めた。


「ま、ま、ま、ま、ま、待てニナ……、自分が何をしてるのか分かってるのか?」


 聖女と崇められるニナの下着の色は黒だった。


「何って、ウィルが喜ぶと思って……見たくないの?」


 い……いや、そりゃ見たい。でもまず、この異常なシチュエーションから抜け出したい。


 ニナはそんな僕にお構いなしに、馬乗りになった。


「欲しくない?」


 そしてその豊満な胸を強調して、僕を誘惑してきた。


 欲しい……欲しいに決まってる!


 でも……この流れに乗ってしまうとダメな気がする。


「ウィル……」


 え……これ、もしかして僕、ニナと……。




「ドゥオォォォォォォォォォォォォン」


 な……今度はなんだ……。


 って、もしかして爆発音?


 僕とニナは顔を見合わせた。


「ニナ!」


「う、うん」


 よかった、今の爆発でニナが正気に戻ったようだ。でも少し残念。


 僕は、ようやくロープをほどいてもらえた。そして精神干渉魔法をニナに解除してもらい、身支度を整えた。


 外に出て周囲を見渡すと、学校の方から火の手が上がっていた。


「ニナ、僕は先に行く」


「うん、分かった」


 僕は強化魔法を掛けて学校へ急いだ。




 ——爆発……事故か、賊の襲撃だ。


 もし賊の襲撃なら魔法師か魔法が使える魔物だ。


 でも、魔法師が学園に仕掛けるとは考えにくい。学園には手練れの魔法師が揃っているからだ。


 となると、魔物……リッチとか……やめてくれよ。




 ***




「リッチだ!」「リッチがでたぞ!」「退避! 退避!」


 ……リッチだった。


 ……今日は厄日だ。


 魔力の弱い人間はリッチの姿を見ただけで絶命してしまう。そしてリッチには聖魔法しか効かない。厄介極まりない相手だ。


 聖魔法の使い手は希少だ。


 各国にそれぞれに数えるほどしかいない。


 ……ただ、ラッキーなことに我が学園は聖魔法の使い手が3人もいる。


 ニナと学園長……そして僕だ。まあ、僕が聖魔法を使えることは、限られた人間しか知らないんだけど……それには理由がある。


 僕が『国王直属特務隊』のメンバーだからだ。


 国王からの指令で動き、隠密行動を基本とする特務隊員としては、あまり目立つ行動を取るわけにはいかない。


 もちろんユアにもニナにも内緒にしている。




 ——高等部の中庭に来たところでリッチを捕捉した。


 うん?


 ……誰かが戦っている?


「ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」


 リッチと戦えるってことは相当な実力者だ……。


「ホーリーレイン!」


 ホーリーレインだと? ホーリーレインは聖魔法だ。


 まさか、僕たちの他にもいたのか?


 無数の光の雨がリッチに降り注ぐ、リッチは嫌がっているようだが、致命傷には至っていない。そしてリッチは即座に反撃の魔法を放った。


 まずい! あの聖魔法師、魔法の反動で防御体制が取れていない。


 間に合うか!

 

 僕はタックルするような格好で聖魔法師に飛びかかり、リッチの魔法を回避した。


「大丈夫ですか!」


 なんとか間に合った。


「え……ええ大丈夫です」


 ん……女? 


 帽子とパンツ姿だったから分からなかったが、リッチと戦っていた聖魔法師は僕と同い年ぐらいの女の子だった。


 しかも可愛い。


 でも学園の生徒じゃない?


「あの……助けてくれたことには感謝します。でも、そろそろ、その手を退けていただけませんか」


 ん? ……その手……あ!


 僕の手は彼女のおっぱいを掴んでいた。


「す、すみません…… !」


 僕にラッキースケベイベントが発生している間に、リッチは魔力を高めていた。


 次の攻撃が来る。


「ごめんなさい失礼します!」


「え!」


 僕は彼女を抱きかかえ、リッチの魔法攻撃を回避した。


「きゃっ」


 その攻撃を皮切りにリッチの連続魔法攻撃が続いた。


「お、下ろしてください!」


「今下ろすと、攻撃が当たります! 我慢して下さい」


 リッチはさっきのホーリーレインで腹をたてたのか、執拗に僕たちを追ってきた。


 女の子を抱きかかえ、回避しながら逃げる。


 地味にきつい。


 それにこのままじゃらちが明かない。


 目立つ行動はご法度とは言え……人命には変えられない!


「飛びます!」


「え、え、え、え!」


「スタンド!」


 僕は空間に足場を作るスタンドで空に回避した。スタンドは何もないところに足場を出現させる。スタンドを使えば空を駆け上がることも歩くことも、水上を歩くことも可能だ。


 ——そしてリッチの頭上まで移動したところで……。


「しっかり、しがみついていてくださいね」


「えっ!」


 僕は片手で彼女を抱きかかえ、もう片方の手に聖魔法を凝縮した光の剣を取り、リッチに斬りかかった。


「キャァ————ッ!」


 彼女が悲鳴をあげる。


「ギュァ————ッ!」


 リッチが断末魔の叫びをあげる。


 リッチは真上からの攻撃になす術なく消滅した。




 ——僕は周囲を見渡した。


 リッチクラスの魔物の侵入を許したのに、大した被害は出ていないようだ。これだけの被害で済んだのは、彼女が食い止めていてくれたおかげだ。


「あの……ありがとうございます」


「いえ、こちらこそ、ありがとうございます」


「……強いのですね」


「いえ……たまたまです」


「たまたまでリッチは倒せないと思うのですが?」


「あはは……ラッキーです」


「ラッキー……まあいいです……そんなことよりも」


 ん、そんなことよりも?


「いい加減、私の胸から手を離していただけませんか……」


 あ……。


 抱きかかえた時のどさくさで、おっぱいを鷲掴みにしていた。


 僕は慌てて手を離した。


「ごめんなさい! そんなつもりじゃなかったんです!」


 二人で赤面してしまった。


「私はユイナです。あなたのお名前は?」


「僕はウィルです」


「そう……あなたがウィル」


 ん……あなたがウィル? 僕のことを知っている?


「……ウィル……あなた特務隊ですね?」


 な……なんでバレた。


「や、やだなあ……僕……特務隊なんて知りませんよ」


 とりあえずしらを切ってみた。


「そうですか……では今起こったこと全て、皆さんにお話しても問題ありませんよね?」


 問題大有りです。


「そ……それは」


「黙っておいて欲しいですか?」


 僕は首を大きく縦に振った。 


「黙っておいてあげてもいいですが、ひとつ条件があります」


「……条件?」


「聞いてくれますか?」


「僕にできることなら何でも!」


「何でもですね」


「はい!」


「では……私が学園を卒業するまで、毎日ひとつ、何でも私の言うことを聞いてください」


 え……なにそれ?


「今、何でもっておっしゃいましたよね? 違いますか?」


「いや、確かに言いましたけど……幾ら何でも毎日って……それにユイナさんってうちの生徒なんですか?」


「私は明日、転入する予定です」


 ……転入生だったのか。


「どうされますかウィル、私としてはどちらでも構いませんが」


 どうするも何も……こんなの皆んなに話されたら……特務隊はクビだ。


 僕は「はい」としか言えなかった。


「では交渉成立ですね」


 交渉になっていなかったと思います。


 ……毎日か。


 どんな要求をされるのか不安で仕方がない僕だった。



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