第10話 ウィルの気持ち
あの日以来、僕は妙にユイナを意識するようになった。ユイナが他の男子と話しているだけでムシャクシャするし、ユイナと少し離れるだけでも心が落ち着かなくなる。
ユアに見られるから、ユイナが夜、あの格好をするのも嫌だ。
ユイナのあんなあられもない姿、たとえ妹のユアにだって見せたくない。
それは、あの時にユイナ自身が言った『はしたないマネ』ってのが引っかかっているのかもしれない。
誰かが見ている前で、ユイナにはしたないマネをさせたくない。
ユイナが辱めを受けるようなことはさせたくない。
それが女同士であってもだ。
もし、他の男にユイナのあんな格好を見られたら、世界を滅亡させるまである。
でも、なんでだろう……ユアがはしたない格好をする分にはなんの抵抗もない。逆に背徳感が増し、なんだったら……。
……おっとこれ以上は自重しよう。
僕が変態だと思われてしまう。
まあ、そんなこんなで僕は恋しちゃっているのかもしれない。
——「というわけで、明日は校外実習訓練だから、皆んな3人ひと組でパーティー作ってね!」
え……なになにどういうこと? 前説をしていてネイサン先生の話を完全に聞き逃した。
「俺ユイナ様と組みたい!」「私もユイナ様と組みたい!」
そして気がついたらユイナとパーティーを組みたい人が殺到していた。
え、え、え……ユイナとパーティー?
婚約者の僕は優先されるよね?
そんな都合のいいことなど、あるはずもなく、結局ユイナのパーティーメンバーは、くじ引きで決めることになった。
そして僕は見事、くじ引きでユイナとパーティーを組む権利を……。
得られなかった……。
ユイナとパーティーを組むことになったのは、魔法学園ランキング3位のコッツェンとウェイニーだった。
ちなみにランキングとは普段の成績と来月行われる、トーナメントにより決定される。
コッツェンは去年のトーナメントではベスト8止まりだったが、トップクラスの成績でランキング3位に輝いている。
ランキング3位はうちのクラスではトップの成績だ。
しかも中々のイケメンで女子にもモテる、いけすかないやつだ。
そして僕は実力を隠していた関係もあって500人中、369位……。
僕の知り合いだと、ニナが2位、ユアが16位、カレン先輩が9位、セリカが4位、ジーンが27位だ。
——そしてパーティーは次々と決まっていった。
色々あった僕と組んでいいよって奇特なやつは現れないように思われたが……。
「仕方ないから、パーティー組んであげてもいいよ」
「ウィル、あなた明日は私の馬になりなさい!」
セリカとジーンが僕とパーティーを組んでくれることになった。
馬にはなれないけど、素直に嬉しかった。
——この後、各パーティーに分かれてオリエンテーションが行われた。
でも僕は……ユイナの事が気になって仕方なかった。
成績優秀でイケメンなコッツェン……あいつとユイナが仲良さそうに話しているだけでイライラする。
くそっ……何でこんな小さなことで苛立つのだろう。
感情を抑えられない自分にも苛立ちを覚えた。
「……てる、ウィル」
そもそもユイナはなんで僕を指名してくれなかったんだろう。
「聞いてるウィル?」
そしたら、こんな嫌な気分に……。
「ウィル! 聞いてる!」
ハッ……気付いたら膨れっ面のセリカの顔が目の前に……。
そしてセリカはおもむろに僕の両頬をつねった。
「いてっ、いてっ、いてっ!」
「ウィル! 明日は実戦なのよ! いい加減なことしてたら死ぬわよ!」
死ぬ……この僕が? 王国の至宝と謳われるこの僕が?
何言ってんだ……あり得ない。
天と地がひっくりがえってもそんな事あり得ない。
……でも。
セリカの言ったことは正しい。
「ごめん、セリカありがとう」
「わ……分かればいいのよ、しっかりしてよ」
オリエンテーションが終わると今日は解散になった。
不安が残る結果だ。
こんなにモヤモヤした気持ちになるなんて……。
人の話が聞けなかったり……簡単に負の感情が芽生えたり。
こんな状態で僕はユイナを守れるのだろうか。
「ウィル、ちょっといいですか?」
そんなことを考えていた僕を、ユイナが教室から連れ出してくれた。
どうしたんだろうユイナ。
「ウィル、今からデートしませんか?」
で……デート……。
でも、デートってなにを……。
「とりあえず、街に行きましょう」
「でも、みんなは?」
「ウェイニーがいるから大丈夫です。たまには2人で抜け駆けしましょう」
抜け駆け……。
「う、うん」
なんだか、心がじんわりと温かくなった。
さっきまでのモヤモヤとした気持ちが、嘘のように晴れていった。
「ウィル、あの空を歩ける魔法で、街まで連れて行ってくれませんか?」
「え……スタンドで……でも危なくない?」
「あら、ウェイニーには出来て私にはできないのですか?」
ちょっと膨れっ面になったユイナ。
もしかして……ヤキモチ?
——僕たちは裏山に移動してから空の旅に出発した。
「すごい! ウィルすごいですね! 綺麗です!」
子どものように目を輝かせるユイナ。僕からしたら君の方が綺麗だ。
道中ユイナはずっとはしゃいでいた。
「ウィルあれは何ですか?」
ユイナが指さしたのは港街の灯台だった。
「あそこまで行けますか?」
「うん、もちろん」
僕たちは、灯台のてっぺんで休憩することにした。
夕焼けの空と、夕陽でキラキラと輝く海がとても美しい。
ユイナはまた子どものように目を輝かせ、食い入るようにその景色を見ていた。
「ウィルはずるいですね、いつでもこんな景色がみれるなんて」
言われてみればその通りだけど、景色のことなんて意識したことがなかった。
「ウィルと出会ってしばらく経ちますが、こやって2人きりでゆっくり話せる機会はなかなか無かったですね」
確かに。
「ウィル……何故今日は私をパーティーに誘ってくれなかったのですか?」
口をぷくーっと膨らませて僕を見つめるユイナ。
ていうか、声をかけるもなにも、そんな雰囲気じゃ……。
あ……。
ユイナも同じだったんだ。
あの雰囲気で、婚約者だからって僕を誘うことができなかったんだ。
なのに僕はそんなことも気付かないで、子どもみたいに拗ねて……。
「ごめん、ユイナ」
「許さないです!」
え……許さないって……。
「婚約者がいるのに、あんな可愛い子たちとパーティーを組むなんて……浮気を疑われても仕方がないことですよ?」
……そうだ……僕がコッツェンに嫉妬したようにユイナだってセリカやジーンに……。
「ごめん、ユイナ」
「許さないですよ、本当に……簡単に他の女に子にほっぺたつねらせるし、情けないところ見せるし」
ユイナ……。
「私だって、妬くのですからね?」
首を傾げ困り顔で僕を見つめるユイナ……とても可愛い。
「聞いてますか? ウィル?」
「う……うん聞いてるよ」
同じだったんだユイナも……。
僕は自分のことばかりだった。
ユイナが王女だからって、何も感じないわけではない。
景色をみて感動もすれば、ヤキモチも妬くのだ。
「ウィル……」
「はい」
「この間の続き、してくれたら許してあげます」
頬をあからめ伏し目がちに照れるユイナ……この間の続きってやっぱり。
僕が少しためらっていると。
「嫌なの……ですか?」
ちょっと寂しそうな顔をするユイナ。
嫌なわけない、そんなことあるわけない。
「お……王家のしきたりは……」
「ここなら誰も見てませんよ?」
「じゃぁ……念のために」
僕はユイナを抱き抱えさらに上空に移動し、口づけを交わした。
何度も……何度も気持ちを確かめるように。
ユイナと口づけを交わして、あんなにも卑屈になっていた気持ちがどこかへいってしまった。
僕はやっぱりユイナが好きだったんだ。
僕とユイナは街に行くのはやめて、この後も空のデートを楽しんだ。
その間、何度ユイナと口づけを交わしただろうか。
頭がとろけそうになった。
でも、ユイナを守り切る自信はしっかり取り戻せた僕だった。
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