第11話 校外実習

 なんて清々しい朝だ。


 絶好の校外実習日和だ。


 僕は舞い上がっていた。


 もちろん昨日ユイナと……キスしちゃったからだ。


 僕の両隣で、半裸の妹と半裸の婚約者が寝ている頭のおかしな状況が、全く気にならないぐらいに舞い上がっていた。


 


 もう色々、吹っ切れたといってもいい。


 ありがとうユイナ。




 ——僕は2人より先に起きて、改めて2人の姿を眺めていた。


 本当にすごい格好だ……。


 こんな格好の女の子と一緒に寝ていて、よく我慢しているものだと、我ながら関心する。


「ん……おはよう、お兄ちゃん」


 先に目覚めたのはユアだった。


 いつも思うけど、そんな際どい下着で、よくポロリもせずに眠れるものだ。


「おはようユア」


 そして、ユアとおはようの挨拶を交わしたタイミングで、僕の声に反応したのか、突然ユイナが飛び起きた。


 飛び起きてもポロリは無かった。


「お……おはよう、ユイナ」


 挨拶をしても反応がなかった。


 寝ぼけているのだろうか。


 そして、ユイナはそのまま僕に馬乗りになり……。


「んんっ……」


 糸を引いてしまうほどの、濃厚なキスをしてきた。




 ユイナは何度も何度も、濃厚なキスをしてきた。




 ヤバい……また頭がとろけてしまいそうだ。




「な、な、な、何やってるの2人とも!」


 そして少しすると、キスに満足したのか、ユイナはバタンと倒れ、そのまま眠ってしまった。


 ……本当に寝ぼけていようだ。



「おに、おに、おに、お兄ちゃん……」


 ユアが結構動揺していた。


 心配するな、僕も同様に動揺している。



 そして僕は、ユアの耳を疑うような発言で、さらに動揺することになる。


「ユアもする!」


 え……なに言ってんのこいつ。


 ユアはいきなり飛びかかってきて、両手首を掴み、そのまま僕を押し倒した。


「ちょ……ちょっと待てよ……冗談だよなユア?」


「冗談じゃないよ、ユアもするんだから」


 ユアの目は本気だった。


 しかも、ユアのやつ、中々力が強い。


「お兄ちゃん」


 瞳を閉じたユアの顔が目の前に……。


 つか、なんて色っぽい唇なんだよ……吸い寄せられそうだ。


 このまま禁断の関係になってしまうのか……そんなことを考えていると、突然ユアの顔が遠ざかって行った。


「ちょっ、ちょっと! 2人とも、兄妹で朝から何をやっているのですか!」


 ユイナがユアを羽交い締めにして、僕から引っぺがしてくれていた。


 これ以上この関係がややこしいことにならなくて、正直ホッとした。


 しかし……あの下着でユイナがユアを羽交い締めにする姿は、刺激が強すぎた。


 妄想が膨らむ。


 夢に出てきそうだ。


 


 ——朝からハプニング続きだったけど、今日は校外実習。


 敵のスパイがユイナを狙ってくる可能性だってある。


 気を引き締めていかなければならない。


 しかし、敵スパイが未だにウェイニーと接触する様子がないのも気持ち悪い。もしかしたら警戒されているのかも知れない。


 

 


 ——学校に着くと昨日決まった各パーティーメンバーに分かれ、早速校外実習が実施された。


 校外実習とは魔物を相手にした実戦訓練だ。


 ポイント毎に教師達が生徒を見守っていいるので、近年、大きな事故はないが、過去には多数の死者を出す大惨事がおきた事もある、危険を伴う訓練だ。


 そんなわけで油断は禁物だ。


「ウィル、私が守ってあげるから、しっかりついてきてね」


「うん……ありがとうセリカ」


 女の子に守ってあげるって言われる僕……なんか嬉しいやら悲しいやら……でも、500人中369位じゃその扱いにもなる。


「ウィルは休憩の時の、椅子にだけなっていればいいわ」


「あはは……」


 これは無理に戦闘に参加しなくて大丈夫だという、ジーンなりの心遣いだろう。


 なんか色々、気使わせちゃってるな。




 特務隊である事を隠すために、今までは情けない自分でしかいられなかった。


 でも、その設定は飽き……いや陛下から許しがでたので、力を隠す必要がない。


 皆んなまとめて、僕が守る。





 ——とは言え、実習の目的は戦闘経験を積むこと。強い魔物と戦ったりはしない。駆け出しの冒険者でも倒すことのできる、比較的弱い魔物が中心なので滅多なピンチにはならない。


 2人ほどの実力者になれば尚更だ。


 それでも、いくら敵が弱くても実戦は違う。


 ある者は恐怖に打ち勝ち、ある者は心の弱さに打ちひしがれる。


 実戦経験を通じ、良き魔法師になるために、何が必要なのかを学ぶのだ。


 ——僕たちパーティーの訓練は順調そのものだった。もちろん2人の活躍でだ。


 セリカもジーンもいい腕前だ、きっと一流の魔法師になれる。


 ——しかし、折り返し地点の森の湖まで、もう少しと言うところで異変が起こった。


「う……嘘……なんでこんなところにアンデッドが」


 気がつけば、僕たちは森に居ないはずの、スケルトンやグールに取り囲まれていた。


 ていうか、僕たちより先に、ユイナたちがここを通ったはずだ。


 なのに何故……?


 何かおかしい。


 もしかすると、これはユイナたちを孤立させるための、敵国スパイの罠かもしれない。


「ウィル逃げて! ジーンも一緒に」


 セリカが僕とジーンに逃げるように促す。状況的に、3人揃って逃げるのは不可能と判断したのだろう。

 

「ダメですわセリカ、あなただけに良い格好はさせませんわ! ウィル、私たちが、食止めている間に、あなただけでも、お逃げなさい!」


 ジーンは、セリカだけでは食い止められないと判断したようだ。


 セリカ……ジーン。


 泣きそうなぐらい嬉しかった。


 2人は自らが犠牲になってでも、僕を助けようとしている……こんなの……本当に僕が無力だったとしても逃げられるはずがない。


「ダメだよ2人とも……僕は戦う」


 僕の言葉にいち早く反応したのはセリカだった。


「ウィル、分かって! あなたが一緒に戦ったところで、死体がひとつ増えるだけよ……私はあなたに生きて欲しいの」


 セリカ……君の気持ちは嬉しい。


「私もですわ!」


 ジーン……いつもはあんなんだけど、僕を大事に思っていてくれたんだね。


 2人とも覚悟を決めた、良い目だった。


 僕がそんな、2人を死なせるはずないだろ。


「セリカ、ジーン……勘違いしないで」


 2人が僕を見つめる。


「僕が2人を守る」


「「ウィル……」」


 2人は悲しげなでありながらも、すこし喜んでいるような表情を浮かべていた。まだ皆んなで助かるイメージが浮かばないようだ。


 そんな僕たちの感動的な会話の空気を読まずに、数体のスケルトンが仕掛けてきた。


「ホーリーブレイド!」


 聖魔法を凝縮して作った光の剣、ホーリーブレイドで仕掛けてきたスケルトンどもを瞬時に蹴散らした。


「ウィル……あなた……」


 2人とも目を丸くして驚いていた。


「ごめんねセリカ、ジーン……僕は嘘をついていたよ」


「ホーリーレイン!」


 そして、僕は聖なる光の雨降り注がせ、残りのアンデッド共を一気に掃討した。


 聖魔法はアンデッドには絶大な効果を発揮する。


 セリカもジーンも、僕がアンデッドたちを掃討するその様子を、口をポカーンと開けて見ていた。


「う……ウィル……あなたそれ?」


「うん……聖魔法だよ」


「ウィル……あなた聖魔法なんて使えましたの?」


「うん……ごめんね今まで黙っていて」


 聖魔法でアンデッド共を駆逐していたと思っていたが、どうやらまだだったようだ。


 森の奥から一際強い闇をまとった、首のない馬にまたがった首のない騎士が現れた。


 デュラハン……上位アンデッドだ。


「な……なんでデュラハンが……」


 リッチにしろデュラハンにしろ、聖魔法が使えないと苦戦する相手だ……だが……。


 僕は心配する2人をよそに、一気にデュラハンとの距離を詰め、ホーリーブレイドで馬もろとも一刀両断した。


 デュラハンなど、聖魔法が得意な僕からしたらただの雑魚だ。


 僕は2人の元へ戻った。


「ウィル……私たち助かったの?」


「ああセリカ」


「ほ……本当ですの?」


「本当だよジーン」


 2人は緊張の糸が切れたのか、その場にヘナヘナと座り込んだ。


「あなた……本当にウィルなの?」


 まあ、今までの情けない僕を見ているとそうなるだろう。


「そうだよ」


「嘘つきね後でお説教よ」「意地悪ですわ」


 2人はようやく安堵の表情を浮かべてくれた。


 ——そして僕はようやく事態の深刻さに気づく。


 ていうか……これ、ユイナたちに同じことが起こっていたら厳しくないか?


 ウェイニーは氷魔法は一流だが、アンデッドとの相性は悪い。


 コッツェンのやつは分からないが、ユイナの聖魔法の威力ではリッチに通用しなかった前例もある。


 ウェイニーが居ることに安心しきっていたが、早く追いかけないと危険だ。


「2人ともごめん、後ででいくらでも怒って!」


 僕は座り込んでいた2人をそれぞれ脇に抱き抱え『スタンド』で空に出た。


「きゃっ! 何よウィル?」「嫌ですわ! 嫌ですわ!」


 またアンデッドが湧くかも知れない。


 こんなところに2人を置いていくわけにはいかない。


 僕は空からユイナたちを探すことにした。


 無事でいてくれ!


 

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