第9話 真相
あんなにも悪目立ちしたのに、ウェイニーはクラスの皆んなに受け入れられた。むしろ僕が諸悪の根源扱いされて、セリカという癒しを失って孤立しただけだった。
ユイナといい、ウェイニーといい……この差は何なんだ。
気分も乗らないし……眠いし……僕は裏山でサボることにした。
——学園全体を見渡せる場所で寝そべっていると、あまりのやるせなさに、涙がこぼれた。
……僕の何がいけないんだ。
確かに僕は、少しエッチなところはある。
妹のおっぱいをしれっと触ることもある。
しかしそれは、思春期の男の子が皆んな通る道であり、僕だけが特別なわけではない。
……まあ、でも……。
……ウェイニーのあれは無い。
『私はいわばペットなのだ』あんなこと言わせてると思われたら……ドン引きされてしまうのも無理はない。
そんなことを考えている間に、僕は眠ってしまった。
——そして、どれぐらい経ったのか分からないが、僕は誰かが近付いてくる気配で目が覚めた。
「ウィルまたサボってる」
寝転んだまま後ろに立つ人影を見上げた。
今日は紫の下着を身に付けたニナだった。
ニナは遠くの方を見ていて、僕が下からスカートの中を覗いていることに全く気付いていなかった。
「いつからなの?」
いつからって何だろう……いつからサボってるってことか?
「隣、座ってもいい?」
ニナが僕を見下ろし目があった。
「ちょっと……何見てるの!」
ニナはやっとスカートの中を覗かれていることに気付いた。
ニナは恥ずかしがる様子を見せながらも、怒るでもなく隣に座った。
「ウィルはいつから特務隊だったの?」
なんだそのことか。
「5年前からだよ」
「随分前からなんだね、全然気付かなかったよ」
ニナはどこか寂し気な表情を浮かべていた。幼馴染の僕に隠し事をされた事が、ショックなのだろうか。
「気付いてなかった?」
すこし間が空いてから、ニナは小さく頷いた。
「黙ってて、ごめん」
「ううん……違うよ、ウィルがそんな大変な状況だったのに、気付いてあげられなかった事が悔しいの」
ニナ……今そんなに優しくされたら僕、泣いちゃうよ。さっきも泣いたけど。
「ねえウィル、あの約束覚えている?」
……あの約束……なんだろう?
「子どもの頃の話だし、やっぱり覚えてないかな」
これはよくありがちな、大人になったらお嫁さんにするとか、そういう系だろうか。
「大人になったら私をウィルの……」
やっぱりか。
「ペットにしてって話」
……うそやん……。
……これ……この約束が仮に本当だったとしても、僕は絶対に意味を分かっていなかったはずだ。それだけは自信がある。
「聞いたよウィル、ウェイニーさんのことペットにするんだってね」
ちょ……そんなひどい噂が広まってるの?
「……ずるいなぁ」
……強く生きよう……僕はそう誓った。
「あ、そうだ、学園長が呼んでるの」
それでニナが呼びに来たのか。
「ニナ、そういえば今って……」
「もう放課後よ」
結局1日サボってしまったようだ。なんか久しぶりにぐっすり眠れた気がした。
***
学園長室には、ユイナ、ユア、ウェイニー、カレン先輩が集まっていた。
「よう、ウェル坊遅かったね、絶景を楽しみ過ぎたかえ」
『『絶景?』』
「いや、あれだよ、裏山にいたんだよ」
僕がニナのスカートの中をガン見していたのをテリトリーで覗かれていたのか……。
「ていうか、このメンバーで集まっているってことは、何かあったんですよね?」
「ああ、ウェイニーから話があるそうじゃよ」
ウェイニーから……ってことは、ウェイニーがこの学園に来た
——僕と対決した話から入ったでの、またウェイニーが僕のペットになりたいと思った経緯でも話されるのかと思ったが、違った。
まともな話だった。
結論から言うと、一連の騒動は全て、王国の弱体化を図る敵スパイをあぶり出すための、陛下とジェイク侯爵の作戦だった。
まさか……あの陛下が……。
ジェイク侯爵がユイナに求婚したのも、それを貴族の前で煽り断ったのも、全て計算づくの事だったのだ。
……にわかには信じ難い。
敵の狙いは王国の武の要、ジェイク侯爵を失脚させること、クラムがユイナを狙ったのもそのためだ。
ジェイク麾下のクラムがユイナを殺せば、当然主人であるジェイク侯爵にも罪が及ぶからだ。
クラムは敵と内通していたのだ。
そして、ウェイニーを学園に送り込んだのは、ユイナの暗殺を敵のスパイに
つまり、ユイナは囮だった。
ユイナもそのことを知っている。
学園内では学園長のテリトリー、学園外では王国の至宝と呼ばれる僕がガードする。
さらにバックアップとしてカレン先輩がいる。
ある意味ユイナは王都にいるより安全だったのだ。
まあ、僕も……陛下とユイナにいっぱい喰わされたということだ。
僕とユイナの婚約は公には発表されていない。
謎の王家のしきたり。
僕とユイナの婚約も作戦の一環だったのだ。
僕も軍のものだ。
作戦上、こういうことも仕方のない事だと、頭では理解できるが……。
……やるせない。
この件が片づけば、ユイナと僕は他人だ。
——この後もウェイニーの話は続いたが、あまり頭に入ってこなかった。
僕は、ユイナとの婚約が偽装だったことに、思ったよりもショックを受けていたようだ。
心のどこかでユイナに惹かれ始めていたのだろうか。
***
夜、いつもより早くユイナが僕の寝室を訪ねて来た。
「今日は早いね」
「朝約束したヒーリングをやってあげようと思いまして」
ヒーリング……そう言えば、今朝そんな話になっていたな。
ウェイニーの話の衝撃が大き過ぎて、今日の出来事は殆ど頭から飛んでしまった。
「ウィル、横になってください」
ヒーリングが……もうそんなこと、どうでもいい。
どうせあと数日の我慢だ。
後少しで、以前の日常が戻るのだから。
ユイナとウェイニーがいなくなれば、僕の誤解も解けて、セリカも戻ってくるはずだ。
後少しで、全部元通りだ。
「いや、別にいいよ」
「遠慮しなくてもいいのですよ? 私とあなたは婚約者なのですから」
婚約者……このままは婚約を破棄する予定でも婚約者。
言葉というのは便利だ。
「だからいいって……もう僕に気遣わなくてもいいから」
「ウィル……何かあったのですか?」
何かあったって……白々しいにも程がある。今日のウェイニーの話を聞けば、いくら僕が愚かでも、この婚約が偽装だと分かる。
これ以上惨めな思いはしたくない。
「ユイナ……もういいよ、無理して婚約者のフリをしなくても、僕は最後までユイナを守り抜くから」
ユイナはきょとんとした表情を見せたかと思うと、急に笑い出した。
「ふふふ……やっぱりそうだったのですね」
やっぱりって……。
「ウェイニーの話を聞いてからずっと様子がおかしかったので、もしかしたらとは思っていましたが……やっぱりそうだったのですね」
え……どういう意味だ……。
「私とウィルの婚約は今回の作戦とは関係ありませんよ?」
関係ないってどういうことだ……。
「はっきり言わないと分からないですか?」
はっきり言って欲しい。
「ユイナ・ラーズとウィル・ギュスターヴの婚約は、王家の正当な手続きにのっとって受理された婚約です。一連の騒動がおさまれば、王都の教会で洗礼の儀を執り行うことになっております。どうか末長くよろしくお願いいたします」
婚約は本当?
「これで安心しましたか?」
……安心した。
僕は心の底から安心した。
「偽装の婚約で……あんなはしたないマネする女だと思いましたか?」
……はしたないマネ……布面積ギリギリの下着のことか!
「ウィル……私のことが好きになりましたか?」
好き……僕は恋愛らしい恋愛なんてしたことがない。
好きという感情がどんなものかは正直わからない。
「私は……ウィルのことが好きかもしれません」
もし、このドキドキする感覚が好きだというのなら……。
僕はユイナが好きだ。
ユイナがとろんとした目で僕を見つめる。
もしかしてこれは……キスのサインなのか……。
僕が顔を近づけるとユイナは目をつぶった。
王都のしきたりが気にはなったが、流れに任せ、ユイナと唇を重ねようとしたその時……。
「あー! あー! ユイナ様抜け駆けズルイ!」
ユアが、乱入して来た。
「お兄ちゃんも何やってんのよ!」
ユアはバッチリ布面積ギリギリの下着姿だった。
目のやり場に困る。
結局このあと、僕はナニをするわけでもなく、悩ましい下着姿の2人に挟まれていつものように眠りについた。
この関係が続くことに少し安心した僕はもしかして……。
それは考えすぎか。
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