第22話 封印

 僕がギュスターヴ家に来たのは10歳の頃、つまりユアとニナの付き合いはそこからだ。


 僕は、レイを失い世継ぎがいなくなった、ギュスターヴ家に養子として迎えられた。


 これは死に瀕したレイ・ギュスターヴが陛下に願った、最初で最後のわがままだった。


 ユイナの話によると、僕とジュンナは戦災孤児で、僕は7歳の頃から王都でレイ・ギュスターヴに魔法を師事し、寝食を共にしていたそうだ。


 故郷を失ったショックからか、誰にも懐かなかった僕が、何故かレイにだけは心を開き、そんな僕をレイは弟のように可愛がっていたらしい。


 王都時代、僕とユイナはよく遊んだそうだが、僕は覚えていない。



 それについては、ジュンナが教えてくれた。


 僕は、王都に来る前の記憶。


 そしてレイと王都で過ごした日々の記憶。


 これらを自分の封印魔法で封印したと言うのだ。


 

 ……今の僕なら、そんなことは絶対にしない。


 でも、そうでもしなければ当時の僕は、耐えられなかったのだろう。


 衝撃の事実だが、話をややこしくしたのは僕自身だったってことだ。


 ちなみにジュンナが学園に編入して来たのは、まだ病み上がりの僕が、しくじった時のリザーブ要員だと聞いた。実はカレン先輩の家で世話になっていたらしい。


 なぜ擬態していたのかは教えてくれなかった。


 でも、恐らくそれは嘘だ。


 陛下はきっと、失った僕の記憶、或いは力を取り戻したいのだと思う。


 ジュンナはそのきっかけだ。


 どこに何の狙いがあるのかは、今は分からない。


 でも、何か得体の知れない力が働いているような気がする。


「ウィル、平気なのですか?」


「うん……」


「お兄ちゃん、もっと取り乱すのかと思ってた」


「いや、なんか落ち着いてるよ」


「レイの時はウィル凄かった」


「まあ、今回は誰かが死んだわけじゃ無いしね」


「ウィル……」


 それでもユイナは心配そうに僕を見つめる。


「……多分皆んなが居るからだよ」


「お兄ちゃん……」


「今の僕が、その場所に居たら同じ結果にならない」


「ウィル、強くなった」


「うん、レイが鍛えてくれたこの力で、僕は僕の大切なものを全て守るよ」


 なんか何か恥ずかしい事を言っているような気がした。


 でも、敢えて言葉にした。


 ……レイが聞いているような気がしたからだ。


 意識の中でレイに会ってから、彼の存在を強く感じる。


 記憶は封印されてしまったけど、僕の心の中で彼は生きているのかもしれない。



 うん……、



 つーか、待てよ。



 今の話、冷静に考えると、僕とユアは実の兄妹じゃないって事だよね……。


「どうしたの? お兄ちゃん?」


「いや、何でもないよ!」


 ダメだダメだダメだ。


 ユアは妹だ! 誰がなんて言おうと僕の妹だ!


 3人がジト目で僕を見つめる。


「と……とにかくだ、まずはトーナメントを無事勝ち抜くことだね!」


「まあ、そうですね」


 明日のこともあるので今日は、これで解散となった。



 ***



 ——翌日、皆んなはあえて多くを語らなかった。誰が何についてどこまで知っているのかは分からないけど、僕は皆んなの優しさに甘えることにした。


 とにかく気を引き締めて行かないと!




 ——「ウィル・ギュスターヴ」


 Hブロックの会場に着くと早速誰かに声をかけられた。


 振り向くとそこには、腰まであろう長い黒髪の美女がいた。


 大人っぽさを醸し出す妖艶な赤い瞳。口元のほくろに、ぷるんぷるんの唇。


 そしてとどめのダイナマイトバディー。


 


 ……完璧だ。


 こんな美女が学園にいるだなんて知らなかった。


「私は、次の君の対戦相手、フェイミンだ」


 見た目と裏腹にちょっときつめの口調。このギャップもいい!


「どうも……」


「君は、闇の使い手らしいな……ラーフラが教えてくれたよ」


 何だよ、あいつ僕にだけこそっと教えてくれたんじゃないのかよ。


「昨日の試合も見させてもらったよ……強いね君は」


 言葉とは裏腹に、自信満々の表情。あの程度? と言わんばかりだ。


「とんでもないです」


 フェイミンんさんの目力の方が強いです。


「胸を借りるつもりで頑張るよ、今日はよろしくな」


 目は口ほどに物を言うとはよく言ったものだ。胸を借りるどころか見下しているまである。


「はい、こちらこそ」


 ても僕は、その胸をお借りしたいです。



 ……しかし、あんなショッキングな真実を告げられたというのに、美女を見るとついつい反応してしまう。


 僕の下心って……節操がなさすぎる。


 少しだけ自己嫌悪だ。


 そんなことを考えていると、


「ダーリン!」


 聞き覚えのある声のロリっ子が僕の腕にしがみついてきた。


「ダーリン、今日も頑張ってね」


 屈託のない笑顔を向けるサージェシカ。


「サージェシカさん? ゼルドは?」


「ああー、何か昨日は盛り上がっちゃったけど、冷静に考えたら、なんであんなことしたんだろう? ってなっちゃって……」


 ……まじかよ。


 めっちゃ低いトーンで、淡々と答えるサージェシカ。


「そんなわけで、ダーリン、今日もよろしくね!」


 女、怖ぇぇぇぇ……ロリっ子、怖ぇぇぇぇ……サージェシカに比べたら、僕の節操のなさなんて、まだまだだ。


 うん、ある意味勇気をもらったよ。サージェシカ。





 ——そんなサブイベントを交えつつ、フェイミンさんとの対戦が始まった。


 地味に闇と闇で戦うのは初めてかもしれない。


「ウィル・ギュスターヴ、まずは小手調べだ。これ食らうといい」


 小手調べといいフェイミンが放ってきたのは、


「黒雷龍撃!」


 ブラックサンダーの強化版とも言える魔法だった。


「ダークブレイド」


 僕は、精度が高く強力なブラックサンダーをダークブレイドでなぎ払った。


 驚いた……ブラックサンダーを進化させるとは。


「ほう、流石だな……だが、まだまだだぞ」


 フェイミンは続け様に黒雷龍撃を放ってきた。


 ……これは、まさか。


 黒雷龍撃は、ブラックサンダー長所はそのままに、短所だけを克服した魔法だった。


 つまり……連射できる。


 次々と迫り来る、黒雷龍撃。


 これ……地味にやばいんじゃね?


 ダークブレイドだけで捌き切るのは、限界に近かった。


 だが、


「楽しんでもらえたか」


 フェイミンは攻撃をやめた。


 つーか、なんでこの人、攻撃を止めたんだろう。あのまま押し切られたら危なかったのに……。


「ダークバレット!」


「いっ!」


 次にフェイミンが放ったダークバレットも僕の知るダークバレットではなかった。


 威力も……速さも……数も!


 1度に無数の闇の弾を放つ、フェイミンのダークバレット。めっちゃ改良してるやん!


 僕はこれを、黒炎龍とダークブレイドでなんとか凌いだ。


「アハハハハハハッ! やるなウィル・ギュスターヴ!」


 フェイミンは高笑いの後、また攻撃を止めた。


 これも、このまま押し切られたらやばかった。


 強い……確かにラーフラの言った通りフェイミンは強い。


 だが、


「ぐふっ……」


 僕は、フェイミンが高笑いしている間に、一気に距離を詰め、ダークブレイドの打撃で彼女の意識を刈り取った。


「勝者ウィル!」


『『ブ————————————————————————っ!』』


 僕の勝利に、会場から野次と共に凄まじいブーイングが起こった。


「不意打ち卑怯だぞ!」「もっとフェイミン様の美貌をみせろ!」「なんでフェイミン様に勝ってんだよ!」「空気読め!」


 勝負の最中に高笑いなんかされたら、いろんな意味で、攻撃をするなって方が無理だ、それに隙を見せる方が悪いと思う。


 初級魔法であの威力、もしフェイミンが本気だったら、さすがの僕も危なかったかもしれない。


 事実、フェイミンが披露した二つの魔法、あのまま押し切られたら、かなりのダメージを受けていたと思う。


 もし、ダークプリズンあたりが改良されてたら……考えるだけでゾッとする。


 去年の試合を見ていないから、何ともだけど、きっと、この隙の多さが、彼女を序列6位に甘んじている理由なんだろうなと思った。

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魔法学園でドSな彼女達のオモチャな僕は王国の至宝と謳われる最強の魔法師です 逢坂こひる @minaiosaka

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