第5話 修羅場を見たかい?

 僕の周りには可愛いけどアレな女子が多い。むしろ仲が良い女子は妹を含め、皆んなそんな感じだ。


 だから僕はユイナには期待していた。


 戦闘中のどさくさとはいえ、おっぱいを2回も揉んだ僕を、ユイナは引っ叩いたりせず、ラッキースケべにも真摯に対応してくれていた。


 あの陛下を反面教師にすると、真面まともになるんだなぁとすら思っていた。


 でも、違った。


 ユイナは……残念ながら。




 チョロインだ。




 しかも極度のオクテだ。


 きっと2回も純潔を奪われましたってのは、おっぱいを2回揉んだことだろう。それで辻褄があう。


 きっとキスしたら子どもが出来ると思っているタイプだ。


 純情といえば、純情なんだろう。


 それはいい……それはいいんだけど……。




 クラスメイトの僕をみる視線が、冷ややかなものから、殺意のこもったものに変わっている。


 男子も女子もだ。


 うちは魔法学園だ……いくら僕が、王国の至宝と言われる魔法師でも、これをきちんと説明してもらわなければ、色んな意味で終わってしまう。




 ——「だから何だって言うんですか?」


 ……ユイナの言葉に、珍しくセリカが荒ぶっている。


「な……何って今の話、聞いていなかったのですか?」


 ……ユイナ……残念ながら、その理屈は世間一般では通用しない。


「聞いていましたけど、席を譲る理由にならないと思うんですけど」


 うん、そうだよセリカ。君は間違っていない。間違っていないんだけど……。


「婚約者の隣に座る。これは当然のことではありませんか? お母様も常にお父様の隣にいます」


 いやいや、国王と王妃を比較に出しちゃ色々おかしいからね。


「陛下とお妃様は結婚されてますよね? ユイナ様とウィルはご結婚されていないですよね?」


 うん、そうだよ。だって会ったのだって昨日が初めてだもん。婚約者だって知ったのはついさっき、ほぼ皆んなと同じだよ。


「そ……そうですね……結婚はまだですね……」


 謎にダメージを受けるユイナ。


「でも……今日から私とウィルは夜を共にします」


『『えええええええええええええ!』』


 騒めく教室。分かる……分かるよ。僕も一緒に叫びたかったもん。


 だってユイナ……絶対意味間違えて今の言葉使ってるもん。


 皆んなの解釈は一緒のベッドで夜を共にするだろうけど、ユイナが言ってるのは一緒のに住むだからね。




「ウィル……あんたって人は……」


 ヤバい……セリカの声が震えている。


「そう言うわけです、席を譲っていただけますか?」


 勝ち誇るユイナ。




 そして、この騒動は意外な結末を迎える。




「あの……私、席譲ります」


 セリカと反対側の隣の子がユイナに席を譲ってくれた。


「いや、ウィルってキモいなぁと思ってたんで、ちょうど良かったです」


 そのひとこと……無駄に傷つくからやめて欲しかった。




「う……うん、なんか青春だね」


 ネイサン先生がこの不毛な争いを、ひとことで締めた。



 つか、ユイナ……こんな悪目立ちしたら友達もできなくて、この先の学園生活大変だぞ……。




 ——でもそれは、全くの杞憂だった。



 休み時間になるとユイナの周りには人が集まり、セリカともいつの間にか、仲良くなっていた。


 話してみてユイナの世間知らずを理解したのだろか。


 それとも、これが王女パワーってやつか……どちらにしてもコミュ力の違いをまざまざと見せつけられてしまった。




 ——そして昼休み……ついに恐れていた事が……。


「お兄ちゃん」「ウィル」


 満面の笑みを浮かべる、ユアとニナに呼び出された。


 ……笑顔がとにかく怖いです。


 とりあえず僕たちは人の少ない中庭に移動した。


 二人に僕とユイナのことを知られるのは、時間の問題だと思っていたから、覚悟はしていたが……いざその時がくると怖いものだ。

 

 手の震えが止まりません。


「ねえ、お兄ちゃん、婚約者ってどういうこと?」


 ユアの口調がいつもよりもキツい。


「なんか、そうなってたんだよ」


「ウィル……そんなバカなことないよね? 婚約だよ? 王女さまだよ?」


 ニナの口調もいつもよりもキツい……でもこれが真実だから……どうしよう。




「お父様が決められたのです」


 僕が困っているとユイナが現れて助け舟を出してくれた。ナイスだユイナ。


「ウィルこちらの方々は?」


 ユイナにユアとニナを紹介した。


「まあ、妹さんと、聖女様」


 ニナの事は、ユイナも知っていたようだ、流石聖女様だ。


「ユイナ様、どうして、ウィルなのですか? ウィルはとてもユイナ様に相応しいと思えませんが……」


 ニナの評価がよく分かった。


 でも、確かにここ数日、僕の行いはとてもじゃ無いけど褒められたものではない。


「それは私が聞きたいぐらいです。いくら聞いてもお父様は教えていただけません」


 僕も気になる……今日まで冗談だと思っていたけど……。


「ユイナ様、陛下が、仰ると言う事はやはりあの件が関連しているのでしょうか?」


 ユアが不安気に問いかけた。


「あの件?」


「やっぱり、いいです」


 ユア……あの件ってなんだ?


 気になる……しかし、そんなユアの言葉が吹っ飛んでしまうほど、衝撃的な事件が起こった。



「ドオゴォォォォォォォォォォォォン!」



「なんだ!」「何の音?」「なに?」「きゃっ」


 突然、物凄い地響きと共に、土煙が舞った。



「グオォォォォォォォォォォォッ!」


 そして土煙が晴れると、ゴーレムが出現した。……しかも4体。


「ゴ……ゴーレム」


 このゴーレムかなりのデカい……当然ユイナ狙いだよな。


 当たり前のようにゴーレムが襲い掛かってきた。



「に……逃げよう!」


「「「うん!」」」


 みんな賛成してくれた。いくら聖魔法師が二人いても、手加減しながら戦える相手じゃない。


「アジリティ!」


 僕は皆んなに素早さを上げる魔法をかけた。


 しかし、素早さが上がった状態で全力で走ってもゴーレムを引き離せなかった。


 ゴーレムは巨体のわりに素早い。というか歩幅が違いすぎる。


「お兄ちゃん、このままだと追いつかれちゃう」


「分かってる!」


 僕はスタンドをゴーレムの前に展開させた。


 少しだけ速度は落ちたがまだまだ、安全圏ではない。


「ウィル、私、シールド魔法で足止めしようか?」


「だめだ、それじゃニナが危険すぎる」


 足止めするのは簡単だ。僕が引き返して戦えばいい。……でもそんなことをすればユアとニナに僕の実力がバレてしまう。



 どうしたものかと思案していた。



 そして、逃げる進路に人影をみつけた。



 ……あれはウェイニー団長?



 ……すごい魔力だ。


 恐ろしいまでに、ウェイニー団長の魔力が膨れ上がっていた。さすが魔法師団団長。


 ウェイニー団長は魔法の詠唱を行いながらこちらに向かってきた。



 そして「アイスプリズン!」


 

 巨大な氷の監獄を出現させ、4体のゴーレムの動きを封じ込めた。


 そして、ウェイニー団長が「パチン」と指を鳴らすと、ゴーレムたちは、氷と共に砕け散った。


 ……瞬殺だ。


 あのクラスのゴーレムを瞬殺するなんて……さすが『絶対零度の魔女』だ。


 ウェイニー団長がゴーレムを倒すと、魔法師団の部下たちがぞろぞろと集まってきた。


「ウィル・ギュスターヴ」


 ん、名指しで僕?


「はい」


「やはりお前が、姫を狙う刺客だったか」


「はい——っ?」


 なになに? どういうこと?


「クラムの言った通りだったな」


 誰だよクラムって……。


「姫たちを保護しろ」


『『ハハッ!』』


 ユイナたちが僕から引き離された。


 ちょっ……これって。


「ウェイニー、これはどう言う事ですか答えなさい!」


「ユイナ姫、ご無事でなによりです」


 深々と頭を下げ臣下の礼をとるウェイニー。


「大儀でした……しかしこれは?」


「ご安心くださいユイナ姫、御身は我が団が命に変えても、お守りいたします」


 なんだ、なんだ……話が見えない。


「だから、どう言う事なのです!」


「今のゴーレムに昨日のリッチ、それは全て、この男がユイナ様を亡き者にするために仕組んだことなのです」




 はぁ——————っ?




「本当なのお兄ちゃん!」


 ユア……そんなわけないだろ。


「ウィル……どうして? 何故ユイナ様を?」


 ニナまで……信用ゼロか!


「そ、そんなはずありません! だってウィルは私と」


「お下がりください姫……まだ何か隠しているかも知れません」


「しかし!」


「お連れしろ!」


『『ハハッ』』


 ユイナが食い下がるもウェイニー団長の部下によりさえぎられた。


「ちょ、待てよ!」


「おっと、貴様の相手は自分だ」


 引き止めようとする僕の前に、ウェイニー団長が立ちはだかる。


「ウィル!」「お兄ちゃん!」「ウィル」


「どう姫をたぶらかしたかは知らんが、自分が貴様の化けの皮を剥いでやる」


 くっ……最悪のシナリオだ。


 恐らくウェイニー団長は部下の口車に乗せられたんだ。


 このドSバカ女め!


「安心しろ、直ぐに終わらせてやる」


 ……相変わらずヤル気満々かよ。


「覚悟はいいか?」



 僕は心の中で呟いた。


『覚悟をするのはお前だ』と……。


 このドSバカ女。


 絶対にお尻ぺんぺんしてやる。


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