第13話 リミットブレイク

 ドラゴンゾンビと対峙して思う。


 ドラゴンってやっぱりゾンビでも大きい!


 


 ——そして、この大きさってのが、結構厄介なのだ。


 さっきのホーリーレイン。


 空におびき寄せるために使ったが、僕としては手加減をしたわけじゃない。


 森の中で、アンデッドどもを始末した時と同じ威力だ。


 そして、ドラゴンゾンビも同じアンデッドだが、致命傷には程遠い。


 ダメージは与えている。


 しっかりダメージは与えているのだが、その大きさ故に生半可な攻撃では、かすり傷程度になってしまうのだ。


 極端な話、ドラゴンに剣をぶっ刺したところで、それだけでは致命傷に至らない。


 まあ、痛いとは思うけど、ダメージとしては浅いのだ。


 眉間にクリーンヒットすれば別かも知れないが、それも普通のドラゴンの場合で、ドラゴンゾンビはそれに当てはまらない。


 既に死んでいるからだ。


 この戦いの厄介なところはそこだ。


 聖魔法で、存在を消滅させる程のダメージを与える必要があるのだ。


 ——だからと言ってウダウダしていても始まらない。


「ホーリーソード!」


 先手必勝とばかりに、先ほどリッチを瞬殺した、ホーリーソードで仕掛けた。


 ドラゴンゾンビはその巨体を回転させ、尻尾でホーリーソードをなぎ払った。


 クソッ……あっさりと……お前の苦手な属性だろ! 化物め!


 そしてドラゴンゾンビはブレスを吐きながら、突進してきた。


 巨体だから動きが遅く見えるが、実際は速い。


 この辺の錯覚も厄介だ。


 僕は、スタンドと強化を駆使し、なんとかかわす。


 そして、ホーリーレインをみまってやった。


「グルゥォオォォォォォォ」


 致命傷には程遠いが、かなりの広範囲にヒットした。さっきよりも全然嫌がっている。


 しかし、今ので火に油を注いだのか、すぐに転身しブレスを吐きこちらに向かってきた。


 そして、僕の回避コースを予測したのか、空中で急ブレーキをかけ、巨体を回転させ、尻尾で攻撃してきた。


 ダメだ、間に合わない!


「プロテクト!」


「ぐっ!」


 咄嗟にプロテクトを展開して、直撃だけは免れたが、プロテクトごしでもドラゴンゾンビの尻尾の打撃は中々の破壊力だった。 


 結構なダメージをもらってしまった。


 素早い上に、あんなにもトリッキーな動きができるだなんて……。


 ドラゴン系は本当に厄介だ。


 これは、距離を取ると逆に危険だ。それに流石の僕もこんなにも大技ばかりだと、魔力がもたない。


 ここは覚悟を決めてやつの懐に入るしかない。


「ホーリーブレイド」


 ホーリーブレイドを手に懐に飛び込む僕を、ドラゴンゾンビはブレスで迎撃する。僕はスタンドで何とか回避し、ドラゴンゾンビとの距離を詰めようとするが、中々思うようにはさせてくれない。


 ならばと僕はホーリーソードを囮にした。僕の思惑通りドラゴンは巨体を回転させ先ほどと同じように尻尾でホーリーソードをなぎ払った。


 背中を見せてくれた……スキだらけだ。


 一気に距離を詰めた僕に待っていたのは、尻尾による打撃だった。


「ガハッ!」


 咄嗟にプロテクトを展開したが、モロにくらってしまった。深刻なレベルでダメージを受けてしまった。


 読まれてたのか?


 ドラゴンはプライドも知能も高い。


 ゾンビになってもそれは変わらないようだ。


 


 ……このままでは勝てない。


 素早さが足りない。


 多分威力も足りない。


 



 ……手がないわけじゃない。


 だがアレを使うと……。






 僕が、悩んでいる間も、ドラゴンゾンビの攻撃は続き、森は燃え広がっている。


 それに、魔族の男を追いかけたウェイニーも心配だ。


 そうだ、悩んでいる場合じゃなかった。


 手加減して勝てる相手じゃないのだから。


 僕は覚悟を決めた。




 ***




「ユイナ様!」


「コッツェン、そちらはどうですか?」


「こっちはもう大丈夫です。皆んな避難しました」


「ユイナ様もう大丈夫だよ。私たちが、最後よ」


「そうですか」


「ウィル……大丈夫ですかしら」

 

 ジーンの言葉で、皆んな空を見上げた。


 ウィルの姿は見えないけど、ドラゴンのシルエットの近くで聖魔法の輝きが見える。


 流石のウィルも、ドラゴンには、苦戦しているのね……でも、きっとウィルなら。


「ウィルなら大丈夫ですよ! 何と言っても『王国の至宝』ですからね」


「それもそうね」「ですわね」「パネエな」


「さあ、私たちも行きましょう」


「「「はい」」」


 ウィル……ウェイニー……ご無事で。




 ***




 魔力が高まる。体中に力がみなぎ


 禁呪『リミットブレイク』によるものだ。


 生物には精神を、身体を守るためのリミッターがある。


 このリミットブレイクは、そのリミッターを外し限界を超えて能力を発揮することができる、究極の禁呪だ。


 もちろん、限界を超える代償は身体と精神に返ってくる。


 最悪、死に至ることもある。


 まあ、何もしなくても待っているのは死だ。


 それなら……。



 僕はホーリープレイドをもう1本顕現させた。


 通常、2本のホーリープレイドを扱うなんて不可能だけど、リミットブレイク中なら問題ない。


 僕の身体を聖魔法が包み込み、蒼く輝く。


 そして一気にドラゴンゾンビとの距離を詰め、双剣で滅多斬りにした。


「グルゥォオォォォォォォ」


 聖属性の斬撃に悶えるドラゴンゾンビ。まだまだだ、まだ開放してやらないからな!


「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」


 僕は高速移動を繰り返し、ドラゴンゾンビを斬りまくった。


 流石のやつも、リミットブレイクの素早さに翻弄され、苦し紛れの反撃も残像を捉えるだけで、僕に触れる事すらできない。


 因みにこれが、もう一つの異名『蒼い稲妻』の所以ゆえんだ。


 蒼く輝く僕の残像が、稲妻のように見えるからだ。


 しかし、デカイ……。


 いくら滅多斬りにしても、やつの総面積が広過ぎて、一気に消滅させることができない。


 斬っても、斬ってもキリがないってやつだ。


 こうしている間にも、少しずつ回復していやがる。


 やっぱり厄介な相手だ……。


 こうなったら……。


「ホーリーソード!」


 リミットブレイクでのホーリーソード。


 僕も実際に使うのは初めてだけど……なんて数だ。


 これ、先端恐怖症の人は耐えられないまである。


「行けぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」


 数えきれない程の、ホーリーソードによる斬撃と、二刀流ホーリーブレイドによる滅多斬り。


 ドラゴンゾンビを、聖魔法の蒼い輝き輝きが、包み込み激しく輝く。


「グルゥォオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」


 最強クラスのアンデッド、ドラゴンゾンビも流石にこの攻撃には耐えきれず、断末魔をあげ、消滅した。


 この光景から後に、この日のことは『蒼い月が輝いた日』として語り継がれることになる。


 それにしても、ドラゴンゾンビ……やっぱりヤバかった。


 もう二度と戦いたくない相手だ。


 っと、敵はドラゴンゾンビだけじゃなかった。


 ネクロマンサーもだ。



 ……ウェイニーが心配だ。




「……」



 ……おかしい。



 ウェイニーが戦っているのなら、大きな魔力が感じられるはずなのに、それが感じられない。


 まさかウェイニーの身に何か?



 周囲を見渡すと、一際大きな氷柱を見つけた。

 

 僕は氷柱の元へ急いだ。



 相手は仮にも魔族で、ネクロマンサーだ。いくらウェイニーでも相手が悪すぎる。




 胸騒ぎがした。


 嫌な予感がする。




 ——そして、僕の嫌な予感は……。




「お、ご主人様、もうドラゴンゾンビを倒してしまわれたのか、流石だな」



 外れた。


 よかった……本当によかった。



 巨大な氷柱の中には魔族の男が閉じ込められていた。


「もう、面倒くさくなってな、これに閉じ込めておいた」


 流石、絶対零度の魔女。


「ていうか、ご主人さま……傷は大丈夫なのか?」


 リミットブレイク前にやられたダメージが結構残ってる。


 これはリミットブレイクを解いた途端、凄い反動のくるヤツだ。


「大丈夫……かすり傷だ」


 無理とは言えないので、強がっておいた。


「その、出血……とてもかすり傷とは思えないのだが」


「この通りピンピンしてるよ」


「そ……そうか……ご主人様はタフだな」


 リミットブレイクが掛かっている間はね。


「それならご主人様、すまないがここに人手を寄越してくれまいか? 自分はこのままこいつを、ジェイク閣下に送り届けようと思う。」


 こんなのここに放置できないもんな。


「分かった……でも1人で大丈夫か?」


「自分を誰だと思っている?」


 まあ、魔族を氷漬けするようなヤツにする心配ではなかった。


「あ……」


「ん?」


 僕が立ち去ろとするとウェイニーが、モジモジしはじめた。


「ご主人様……じ……自分は頑張ったのだ……だから……ご褒美を」


 ご褒美……嫌な予感しかしなかったが、頭を撫でてくれという可愛いものだった。


「よく頑張ったな」


 僕はウェイニーの頭をくしゃっと撫でてやった。




 ——帰る道すがら、森の火事を鎮火しておいた。リミットブレイクのレインは、自分で言うのもなんだが、半端なかった。

 



 ——そして、ようやく学園の校外実習部隊と合流した。


 騒ぎの大きさに、軍も応援に駆けつけていた。とりあえず指揮官に事件が解決したことを伝え、ウェイニーの応援をお願いした。


 指揮官はウェイニーの名前を聞くと、即座に部隊をまとめ出発した。


 ウェイニー……どれだけ恐れられているのだろう。



『ウィル!』


 軍の部隊を見送っていると、皆んなが僕を見つけてくれた。


 そして……「ウィル!」


 ユイナが目に涙を浮かべ、近づいてきた。


「ウィル……酷い怪我です……」


「こんなの、かすり傷だよ」


 ウェイニーにしたように強がって見せた。


「嘘です……こんなに血を流して……かすり傷なわけありません」


 まあ、確かに嘘だ。


 リミットブレイクを解くとどうなるか分からない。


 セリカ、ジーン、コッツェン……皆んな心配そうに僕を見ている。


 ていうか、皆んな無事だったみたいで、良かった。


「ウィル!」


 僕の帰還を聞いたのか、ニナが駆けつけてくれた。


「やあ、ニナ」


「やあ、じゃないよ、どうやったらこんな酷い怪我を……」


 聖女であるニナの目はごまかせなかった。


「回復魔法するよ……ウィル楽にして」


 リミットブレイク中は回復魔法の類を受け付けない。


 回復魔法を受けるには、リミットブレイクを解く必要がある。


 回復魔法でニナの右に出るものはいない。


 リミットブレイクを解くならニナの前だと決めていた。


 覚悟を決めて、リミットブレイクを解くと、僕はあまりの激痛に気を失ってしまった。


『『ウィル!』』


 慌てて駆け寄って来る皆んなの様子がスローモーションに見えた。


 これが噂に聞く走馬灯なのか?


 僕は死んでしまうのか?


 ……もう一度、ユイナとキスしたかったな。


 魔法を解くと死んでまうかも知れない。


 この恐怖感が、リミットブレイクの1番の代償だ。


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