第12話 涙と感情論
妹と無事和解できてよかった。
もうパンツは懲り懲りだな。
有栖におやすみと告げ、俺は自分のベッドの上で体を休める。
色々あったな…。
たった1日の出来事なのに俺には数年間の出来事にすら感じてしまう。有栖との距離はこの1日で更に近付いた気がした。
この様子だと、数年後にはどうなっているのだろう。有栖に彼氏でも現れては俺はそれを認められるのだろうか。
……愚問だな。
有栖の幸せは俺の幸せだ。
何故か有栖に親心が働く俺自身に可笑しく、腹を抱えて笑った。
少し収まると俺は1人の女友達を思い出した。
桃井………あいつは大丈夫だろうか。
俺がパンツの極意を伝授してからは毎朝俺にMINEで”パンツおはーパンツ♪”と送ってくる始末だ。
俺もパンツの洗脳を計ったわけではないがどうやら今の桃井はパンツにご執心らしい。
まぁ桃井のことだ。
ボロは出さないだろう。
そう思い俺は意識を預け眠りについた。
朝
いつも通り有栖と一緒に登校する。有栖は昨日のアニメの話などを楽しそうに話している。俺も相槌を打ち、時々突っ込んだりして会話を成立させていた。その中で俺は桃井のことを考えていた。彼女のことは家を出てすぐ視界に入った。いつも美少女に決まっているルックスが何だか今日は少しぎこちない。口元が何かを言いたさそうにニヤついている。
大丈夫………だよな?
俺は桃井だから大丈夫…。と思い込んで見ていたがいざその姿を目にすると悪い予感しかしなかった。
俺が教室に着くと桃井が駆け寄ってきた。そしていつもより大きな声量で俺にあの言葉を言ってきた。
「パンツおはーパンツ!」
予感が当たってしまった。
とにかく周りの目が今はやばい。俺は桃井の手を掴み屋上へと駆け上がった。
偶然にも屋上の鍵が空いており、俺たちは屋上へ飛び出した。屋上から見える大きな入道雲が春の訪れを感じさせる。
「ちょ、ちょっとー。なんで屋上??あ!もしかしてフーちゃん私のパンツ見たいんでしょ〜」
「…何故そうなる。」
「ツンケンしちゃってぇ〜、ほらほらご覧あれ〜」
桃井は本当に自分のスカートをめくろうとしていた。俺は桃井のパンツっ!?見たい!!……と理性に負けそうだったが何とか耐えて桃井の腕を掴み制止させる。そしてそのまま顔を近付け警告する。
「桃井………気をしっかりもて。お前、、パンツに洗脳されてるぞ。」
桃井はキョトンとしている。
そして何か考える様なポーズをとる。
そして状況を理解したのか、少し青ざめた顔色で俺に問うてきた。
「も、もしかして……”パンツ”………とか…」
「…………連呼してたりした??」
俺は不愉快に笑い、淡々と告げた。
「してたぞ。それはもうおかしなぐらいな。」
「……………………………」
しばらく沈黙が流れた。
風の通る音が沈黙をより深くする。
そして桃井を見ると彼女は泣いていた。
笑うわけでも怒るわけでもなく
ただ泣いていた。
「見てんじゃないわよ……ばか。」
そう言い残し彼女は屋上から去って行った。
俺は少しやりすぎたとやるせない気持ちと同時に……いやそれ以上に別の感情があった。
桃井の涙……すげぇ綺麗だった。
この時、心臓の鼓動が少しはやくなっていたことに俺は気づかなかった。
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