第03詠唱 硬貨の持ち主はオートマトン
- 裏の世界
ちりばめられた星が煌(きら)めく夜、健二は朝リリィと来た浜辺に海を眺めていた。
「どうしてあの時居たんだ?」
誰かに話しかける様に言うと、スッと金縁のローブを纏う
綺麗な灰色の髪が特徴的なセミロングヘアーの女性が現れる。
「心配になっただけ」
女性は健二の横に立つ
「心配、か」
「どうするつもりなの?本来殺さなきゃいけないのよ?」
その言葉に健二は悲しそうに眼を細めた。
「僕は、今のままあの記憶の無くした状態のあの子に、
普通の子供と同じように接してあげれば殺さずに全て丸く収まると思う」
「それはなんで?」
「あの子の過去を振り返ればわかる、大切な人を失いすぎた、子供なのにだぞ!
あの子は人のぬくもりを求めてるんだよ」
「でもあの状態ならリスクなしで殺せるんじゃない?」
女性の厳しく冷徹な一言に「そんなの...」とこぶしを強く握り締める。
「気持ちはわかる、私達はあの方に助けられてきたから、でも未来のあの子は鬼になってるの、ただ復讐の為に剣を握るね」
健二は「だからこそだ」と振り返り隣にいる女性の目を見る
「だからこそ、今優しい思い出だけ植え付けてこの先も平和に暮らせばいい、魔法が存在しないこの世界で!」
「健二...いやあーちゃん、私たちがどうあがいてもあの方自ら記憶を思い出そうとするわ、
もう過去のあの楽しい日常には戻れないのよ」
「アイツはリリィの居場所に気づいているのか?」
「いや、まだこの世界に来てないって事は気づいてないと思う、
でも時間の問題よ」
「時間か......」
うつむく健二に「私も本当は辛いのよ」と肩に手をのせて言う
「じゃあなぜ?」
「未来、いやその前に起こる出来事の方がもっと辛いからよ、あの方にとっても、貴方にとっても」
「どういうことだ?」
「このままだと貴方とあの方が戦わなきゃいけなくなる」
女性は健二に背を向けると手から魔法の箒を出す。
「アイツのもとに戻るのか?」
「ええ、二人の元気な顔が見られたからね」
「そうか」
ニコリと笑う
「でもあーちゃんこれだけは絶対に忘れないでね」
「なんだ?」
「家族ごっこは絶対に終わりが来るって事」
それだけ言い残し箒に跨って去っていった。
「そんな事分かってるさ」
プカリと静かに浮かぶ月を眺めながら呟く
* * * *
- 表の世界
墨を垂らしたような真っ暗い夜空の下、
イザベルとドミニカは白いベールの様な霧に包まれた森の奥深くに進んでいた。
「流石は臆病者の森......薄気味悪いな」
ドミニカは生まれたての小鹿の様に、ガクガクと震えながらイザベルの腰に抱き着く。
森は静まり返り野鳥の鳴き声がやけに大きく聞こえドミニカの恐怖心を煽った。
「周りのミチシルダケが発光してるお陰で暗くはないから怖くないでしょ」
ミチシルダケとは臆病者の森にしか生えない色とりどりに柔らかく発光するキノコであり、
その色は東西南北を示しているんだとか......
「で、でででででもどっちに向かうんだ?」
「とりあえず強い魔力を感じる所に向かいましょ」
腰に着いてる筒形のホルスターから杖を出すと「アメール・ラモーア」と唱えて魔力を感じやすくする。
「こっちから感じる、向かってみよ」
イザベルが前に足を踏み出したその時だった、突然強い風と共に頭上を黒い影が通り過ぎていった。
「何今の......」
「ほんと、もう帰りたい......」
泣きそうな声でいうドミニカに「きっとリリィちゃんだって頑張ってるんだから、ほら、私達も頑張るよ」と進む
かなり進んだだろうか水色に発光するキノコを辿って進む2人は強い魔力を感じピタリと足を止める。
「誰?」
「私は敵じゃない、2人を探していた魔女さ」
両手を上げて姿を現したのは、高い鷲鼻と人間とは違う黒い肌、そしてエルフの様な尖がった耳が特徴的なとんがり帽子を被る若い魔女だった。
「魔女さんが何故私達を?」
「きっ、きききききっと殺して食べるつもりなんだ」
すると魔女は大きな声で「ハッハッハ!」と笑う
「そんな事はしないよ、ただあんたらの探している答えは未来を大きく変える可能性があるから、その手助けをしたくてな、ほら、探しものしてるんだろ?私達なら力になれる」
怪しくニヤリと笑う彼女に、何故わかったと思った2人はゴクリと固唾を飲んで更に警戒する。
「まぁどちらにせよココはかなり危険だ、
私に着いてきな」
そういうと魔女は背を向けて歩き始めた。
2人はどうすると言わんばかりにお互いに顔を見合わせるが、「殺されたいんならそこにいな!」という彼女の言葉に渋々着いて行くことにした。
「あのぉさっきの黒い影はなんですか?」
魔女は見てないのか「黒い影?」と首を傾げる。
「さっき私達の頭上を通りすぎまして、一瞬ですが強い魔力も感じました」
「なるほど、それならたぶん黒灰の魔女だろう、あぁ、今の時代だと灰かぶりの魔女と呼ばれてるんだっけ?まぁここら辺をよくウロウロしてるのさ」
「なんで?」
「私達を魔女を一人残らず殺すためさ」
「で、でも貴方人間の言葉が上手いですね......どうしてなんですか?」
魔女は基本的に臆病な為多種族に関心を持とうとしないのだ。
「魔族もアイツらのせいで絶滅寸前になってるから子孫を残すためにいろんな種族の言語を習得してるのさ......さて着いたぞ」
案内された先は特に村もなく更地で、強いて言えば周りよりも枯葉が少ないくらいだった。
「ここなんですか?」
「周りは誰もいないかい?」
ドミニカとイザベルは周りを見て頷く。
「特に誰も居ませんよ」
「ヨシ、私の後ろにいな」
「アップルキャンデー」と唱えて、手を二回叩くと、地面に青白く光る魔法陣がぼんやりと現れ、地面だと思っていた場所は一瞬に消えて下へと続く螺旋階段(らせんかいだん)が頭を出す。
「さ、まいるぞ」
二人は驚きのあまり「は、はぁ」と唖然(あぜん)としながら着いていくことしかできなかった。
「ここは生き残った魔女達の避難所だよ、アリの巣とみんな呼んどる」
「「言われてみれば確かに......」」
アリの巣と呼ばれるだけあり、螺旋階段から下を覗くと目がくらむ程深く、階段の周りには魔女の家であろう楕円型の入り口と窓の様な正方形の穴が掘られていて、そこから料理の匂いやお香の匂いなどが鼻先を通過する。
「あの浮かんでる火は魔法ですか?」
イザベルはアリの巣を照らす綿毛の様なフワフワと浮かぶ無数の火を指差す。
「あぁ、あれは火の玉、ゴーストの類(たぐい)だよ...そうか人間には珍しいのか」
「ご、ごごごゴースト」
「ちょっ!ドミニカ押さないで!この階段手すりがないんだから!」
「だっだってぇ〜」
「ハッハッハ!ドミニカさんはオバケが苦手なんだね」
階段は永遠に続いていると思いきや途中で崩れ落ちた様に途切れていた。
「作るのがめんどくさかったから階段はココで切れてるんだ、こっからは箒だからな」
魔女は指を鳴らすと3本の箒が下から飛んで来ると1本に飛び乗る。
「ほれ、乗らんかい」
「「は、はい!」」
二本の箒をお互いに手に取り跨った、その時だった。
「「キャーーーーーーーーー!」」
突然箒は急降下して浮いてる火を避けながら光の速さで真っ逆さまに落ちていく、底まで行くと衝突する寸前でピタリと止まり二人を振り落とした。
「イダ!」
「アダ!」
二人は振り落とされて頭から地面に落ちる。
その様子にカラカラ笑いながら「今の人間は魔法の箒も乗れんのか?」と優雅に降りて来た。
「こ、こんなアトラクションのような激しい乗り方はしませんよ......」
「この降り方が一番手っ取り早いのだよ、上を見てみ」
魔女の言う通り上を見ると螺旋階段は遠すぎて見えなかった。確かにゆっくり降りていたら朝になっていたかもしれない
目の前にはいかにもリーダーが住んでそうな赤く塗られた木のドアが目の前にあった。
「この部屋は?」
「そこは我々の長が居る場所だ、お前達の知りたい事も教えてくれる」
その言葉にイザベルとドミニカは少し驚く
「ハッハッハ!今何故そのことを?って思っただろう、なぁに簡単なことよ初めから水晶の予言で出てたんだ」
「「水晶?」」
水晶にあまり馴染みのない2人は頭の上にはてなマークを浮かべながら、先に進む魔女の後ろをついていった。
キィ......とドアを開けると、中は意外と広いがやはり穴が掘られただけの部屋で、周囲には本棚や水晶、気味の悪い土偶(どぐう)が囲む様に置いてあり、土がむき出しな天井に火の玉がぶら下がっていて部屋を照らす。
「人間のお客さんか、案外遅かったねぇ、え?ヒッヒッヒ......」
2人は声の方に目をやると丸水晶の前に座る梅干しのようにシワシワな小人みたいな小さな魔女が居た。
「カトリネ様、水晶が語っていた二人を見つけました」
「おぉおぉ、えぇ?まぁ座りなさい、イリス、この二人に温かい飲み物を」
「はい、ただいま」
イリスと呼ばれたさっきの魔女はぺこりと頭を下げ後ろにある部屋に入っていった。
「それで?聞きたいことがあるんだろ?おぉ?なんだい、はやく言わないかい」
被っている自分の頭よりはるかに大きいトンガリ帽子を地面に置くと座れと言わんばかりにポスポスと絨毯(じゅうたん)の上を叩いていつまでも置物のように立っている二人を座らせた。
「じ、実はこの金貨を使っていた種族を探していまして」
イザベルは腰についてる小物入れから一枚の小さい紙を出す。
それは基地で描いた金貨の絵が書いてあったのだ。
それを見たカトリネは少し眉をひそめる。
「この金貨は間に小さな銅の硬貨が嵌(はま)ってなかったかい?」
「そういえばリンゴの模様が刻まれた銅の硬貨が嵌ってました」
「なるほど、主らが探してる硬貨は黒灰の魔女がまだ全大陸を支配し大きな帝国があった時代に使われていた硬貨だ......しかし何故コレを探してるんだ?」
「実はある女の子を探していて、その子がコレを」
「その女の子はこんな感じの肌をしていたか?」
カトリネは水晶に手の平を向けて何やらフニャフニャと何か唱え透き通る水晶に、
肌が灰色で鼻が魔女達よりも高い女性浮かび上がる
「いえ、外見はまんま人間ですよ」
「なるほど、ならこの子を連れて行くと良い」
そう言うと「キャロライン、こっちに来なさい」と大きな声で言った。
すると別の部屋のドアがゆっくり開き、
両太ももから先が無く義足の様な鉄の棒が着いた中学生くらいの背丈の女の子が「なんでしょうカトリネ様」と妖精の様にフワフワと浮いて来る
「そうそう、あの女の子のような感じです」
「そうかいそうかい」
その少女はリリィを少し大人びた様にした整った顔つきだった。
よく見ると足だけでなく両手も無いのか魔法陣が刻み込まれた銀のガントレットをつけて、眼帯で片目を隠していた。
「見ての通りこの子は頭から下がオートマトンなんだ」
少女はチョコンと足を伸ばして座ると「キャロライン・アゼリアです、よろしくお願いします」と
ペコッと頭を下げる
「オートマトンと言ってもこの子は特別で自然から出る魔力で稼働してる、どうだ?この子は役に立つぞ、お?ワシの折り紙つき」
「あのぉ、顔や体の所々に埋まっている色取り取りの宝石って魔石ですか?」
「あぁ、この子は魔法が生命線になってるからより大量に魔力を供給できるように埋め込んだんだ」
カトリネの言葉に二人はゴクリと固唾を飲んだ。
魔石は人間の種族の中ではどんな宝石よりも硬貨なもので、天然の魔石はなかなか見ることができないのだ。
巷で出回っているほとんどは人工で魔力が込められたガラス玉だった。
「で、でもなんでその子が私たちのお役に立つんですか?」
「それはだな」
ニヤリと笑うカトリネは女の子の水色の長い髪を蓄えた頭をポンと撫でると、
キャロラインの口を開く
「その硬貨をリリィ、いやリコ姉さんに渡したのは私だからです」
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