第10詠唱 黒雲へ向かう小さな箱舟
新型の箒は桁違いに早く流れ星にでも乗っているようだった。
普通の箒で3日間はかかる第2地区も3時間で着き急いで地下牢へ行く、イザベルとドミニカは研修で何回か訪れた事があり自然と足が導いた。
「クッサ......」
意識が飛びそうになる程臭う地下牢獄、まるで生ごみが並々と入ったプールに潜っている様だった。
結衣は思わず足を止めるがドミニカ達は走り続けるやはりアイラの事が心配なのだろう、この牢獄はフランスパンのようにながーい作りになっていてここ以外に部屋もなく結衣はハンカチで鼻を押さえて歩く事にした。
「これは......」
歩いてたからこそ気づけた、数歩進んだ真横の檻に目を向けるとボロ雑巾の様な服を来た機動隊員がいたことに
「イザベルさん!ベティさん!もしかしたらこの牢に居る人たち全員五地区の機動隊員かもしれません!変身ペンダントをつけてます!」
イザベル達は周りにある牢の中を確かめると確かに彼女の言う通り機動隊員達が綺麗に寝かされて入っている。
全員死んでいるのか腹に握りこぶしくらいの大きなクモがそろりそろりと歩いていても人形のように動かなかず、股や顔や至る所にヒルがくっついていて餌になっていた。
「皮膚がまだ綺麗だ肉は腐ってないという事は生きている?」
すると再び遠くから結衣の声がこだまして耳に飛び込む
「呪術で仮死状態になってるみたいです!私がこの人たちを助けますから、そちらはアイラさんを願いします!」
「分かりました!そっちは任せます!」
イザベルとドミニカはぬかるんだ地面を走って行くといかにもという所々錆びついた鉄の扉に着く
「いかにも拷問する部屋ね、ドアの取っ手に血の跡がついてる」
「古いからアイラさんのではないだろう」
ベッタリとついている血に悪い予感が頭によぎる2人は急いで鍵のかかったドアを魔法で破壊して入る。
「お前達は派手に入るのが好きなのか?
ココは人の基地だぞ」
頭陀袋(ずだぶくろ)をかぶらされて、天井から伸びる鎖に両腕を拘束され吊り下げられたアイラは2人の魔力を感じ取り呑気に言う
「アイラさん!」
「はいアイラさんだよ、下ろすときは慎重にな、傷が痛むから」
全裸のその体には無数の刃物で切った傷や何かで焼かれ爛(ただ)れた跡などがあり、アイラを捕獲して第4地区に襲撃する短時間で何が行われていたのかが容易に想像がついた。
2人はアイラの頭から袋を取りゆっくり下ろす。
「すみません、遅くなりました」
「良いよ、私はこうして生きてるんだ、お前達も良く生きてたな、ハッハッハ!」
ほうれい線が上に上がる彼女の表情を見て2人は心の底から安心を感じ脱力した。
「とりあえずこれを着てください、少しブカブカかもしれませんが」
「ハッハッハドミニカのか、長身のお前のは少しどころじゃないだろ」
ドミニカはアイラにローブを着せて背負うとちょうど良いタイミングで結衣も捕らえられていた隊員達を率いて来る
「おお、その子がゲートを操る少女か」
結衣は笑顔で「初めまして、結衣・バレッタです」とお辞儀をした。
「君を見ているとリリィを思い出すな......助けてくれてありがとう結衣ちゃん」
「いえ、仲間を助けるのは当たり前ですから」
「仲間?」
「はい、ゲートともう1つの世界の情報と引き換えに私を第5地区魔導機動隊に入隊させてください、魔力は誰にも負けません」
すると頭を下げる結衣にアイラはハッハッハ!と笑う
「当たり前だろ、ここまでしてもらったんだもう私の家族だよ、それに君の魔力の色はとても綺麗だ敵になるとも思えない」
「ようこそ地獄へ」とドミニカの後ろから手を指し述べるアイラに「よろしくお願いします」とガッシリ手を握った。
「とりあえずココをでるミポ、ここに居ると鼻が取れそうミポ」
「それもそうだな、さぁ我が家族よ家に帰るぞー!」
全員は基地から箒を手に入れ飛び去って行った。
その後第五地区駐屯地へ戻り休憩を挟まず中庭で会議に移る。
「基地内は崩壊してるから20人全員が集まれるこの中庭で会議を始める、眠いだろうが寝たら給料を引くからな」
全員は表情を引き締めて、アイラと入れ替わりホワイトボードの前に立つ結衣を見た。
「改めまして私は結衣と言います、リリィ救出任務の指揮を行う事になりましたのでよろしくお願いいたします。」
彼女が頭を下げる、リリィと変わらない小学生の様な見た目のせいか聞いていた全員は少し不安が入り混じる拍手をした。
「ではこれから2点お話をしますお話しをします、
まずはゲートから、ゲートの正式名称はDifferent dimensionウォーカー訳してDウォーカーといいます、彼らはこの後説明する裏の世界にある1つの大きな脳みそによって動いています、そこを叩けばこの長年の悪夢が終わります。
その脳みそのある場所は私の家です、何故かと言うと表の世界に送られたリリィを連れ戻し殺す為にDウォーカーが作られた為脳みそもそこにあるのです。
なので本来Dウォーカーは魔法少女を襲う生き物ではありません」
皆が頷く中1人がスッと手をあげる
「では何故、Dウォーカーは魔法少女を襲うようになったんですか?」
「確かに気になりますよね、Dウォーカーは1つの脳で全員動いている為、魔法少女に攻撃されると脳は殲滅するよう指令を出し、その結果この状況が生まれたんです、突然現れるのも同じ構造で転移の仕方を覚えた1人のDウォーカーにより全員ができるようになったと考えられます。
しかし、襲うDウォーカーは全員未完成で中途半端に人間の心が残っている者ばかりな為復讐心が芽生え更に過激さを増しました。
因みに私の操っているのは完成品のみで私の命令でしか動かない者ばかりです」
全員は驚いた表情を見せる。それも無理はないだろう、ゲートが大暴れするようになった引き金が自分達だったのだから
「では続いて裏の世界について説明をします。
裏の世界は魔法というのが存在しなくて、魔法を使えば使うほどその分疲労感に襲われます。RPGゲームに出てくる魔法使いを想像すると分かりやすいでしょう
あとあと調べたところマジカルコアが存在せず、向こうの世界はアンチマジカルコアが存在していた為魔力の供給がされず回復が遅くなるという仕組みでした。
その世界に住んでる種族は人間族以外存在しておらず実に平和な所です。行き方は...」
なんとなく服のポケットに手を入れた時、紙の感触が指先に伝わり反射的にポケットから出す。
「結衣ちゃんどうしたの?」
見覚えのない紙だが見覚えのある字体
いつ渡されたか思い当たる節はなく思わず言葉が途切れる、が隣にいるアイラの声で我にかえる。
「行く方法はここから南東のゴーマ樹海にある洞窟の中にある黒い門です」
(いつベティはこのメモ帳を私のポケットに......)
思わず気になり過去を思い出す結衣にアイラは「そこまで分かっていたのか」と顎に手を乗っけて感心する。
「指揮をとる私が一応裏の世界へ行き安全かどうか調べてきます...で良いですか?アイラさん」
「もちろん、サポート妖精と食糧を用意しよう」
「ありがとうございます、では次の指揮は私が戻ってきてから行います、各自それまで良く休むように」
結衣は少しモヤモヤしつつ上を見上げる。
この選択が魔法少女にとって平和に近づく大きな一歩となるが、魔導機動隊にとって更なる危険に近づく大きな一歩になるとは誰もが思わなかったのだった......
- ???(裏の世界)
墨を零した様な空に金縁のローブを纏う女性が一人、箒に乗ってプカリと浮いていた
「ルイズ様、ただいまリコリスとアシュリーが旅行先のホテルに到着しました」
すると<この世界では雪と呼びなさい>とルイズと言われた人物の無声音が耳の奥で響く
「はつ!申し訳ありません雪様、
それとベティが小さな少女を連れてこちらの世界に来ました」
<そう、まったくあのメイドは何を考えてるんだか>
「監視をしますか?」
「いやいい、命令通り動きなさい」
金縁のローブの女性は「御意」と言い数人の魔女を連れて北へ飛んで行った。
「ホッカイドウへ向かうぞ!」
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