第09詠唱 新大陸を目指す魔法少女達~ ライバル ~

— 魔導機動隊第4地区駐屯地


 この地区は製造がメインな為、地下都市内には薄っすらと黒い煙が立ちこみ地区の魔法少女達はガスマスクを着けて生活していた。


 しかし他の地区の地下都市とは違い、ホームレスは一人も居ず皆魔導機動隊として製造業をしていて一番隊員は多いだとか。


 戦う技術はそれ程ないが、多い隊員と数えきれないほどの武器を持つ4地区はある意味で最強と言われていた。


「ミラベルさん、イザベルさんとドミニカさんは泥のように寝ました」


 落ち着きなく部屋をうろうろするミラベルは「あ、さっちーさんご苦労様です」とどこかホッとした顔をする。


 ドミニカに抱きかかえられていた少女はあの後二人を風呂に入れさせ部屋まで案内したのだ。


「本当はご飯もって言ったのですが寝たいとのことで......」

「それでも良いですよ、ではさっちーさん大会議室に向かいましょう!」

「アイラさんの救出ですか?」


 聞かれた彼女は「もちのろんです!」と小さな彼女の手を握ると大会議室へ向かった。


 二人はオレンジ色い電気で照らされた廊下を歩き目的の部屋に入るとやはり集合している皆は口々に「今日が命日か」や「最後くらいママに会いたかった」など言い煙突のようにため息を吐いた。


「1、2......40人、全員いますね、それではアイラ救出にあたり作戦の説明を行います!」


 ミラベルの声にスイッチを切り替え全員は声を合わせて返事をする。


「恐らく第二地区は五地区と組んでいた私達も襲いに来るでしょう、さらに私たちの戦力と魔法の技術を考え恐らく第2地区の転移扉から全隊員でくると思います、なのでそこに40人待機をします」


 一人の女性が小さく手を上げるのに気づき「どうぞ」と指す。


「あ、ありがとうございます、2地区の今の隊員数は何人何でしょうか」

「確か全員で11人ぐらいでした」

「では30人でいいのでは?」


 周りは「確かに」という人もいれば「11人ならもっと必要なんじゃ......」と意見が分かれる。


「向こうは人数が少なくても全員猛者もさなので40人で勝てるか勝てないかでしょう......武器と隊員の数でしか戦えない我々はむしろ50人くらいで立ち向かいたいぐらいなのですが」


 全員は首を傾げる。


「この地区の存在意義は人々の暮らしを快適にする事なので、将来の為にも戦えない人達には無理やり戦わせたくないのです」


 その言葉に「その通りだ!だいたい魔法少女同士が争うのがおかしい!」と賛成の声が上がり会議室内を震わせる。


「それと先程連絡がありまして、サポート妖精とゲートを操る少女を3地区付近で保護したのでその少女に力を貸してもらいましょう、それが一番勝ちに近づける作戦でしょう」


* * * *


— 魔道機動隊第2地区駐屯地(第4地区転移扉の前)


 遺跡の様な分厚い石で出来た両開き扉の前に、変身した紫のワンピース姿のカラリアが立ちその前に10人の隊員が整列する。


「みんなこの戦いでやっと裏切り者は消え、ゲートも増えなくなるだろう、今回の戦いはこの悪夢から解放される大きな一歩になるだろう!魔法は必ず善人の見方をしてくれる!だから命を燃やして戦うぞ!」


 カラリアが持っている血の様に赤いワインで満たされたグラスを高く掲げると、全員は「おー!」と言う掛け声と共に持ってるワイングラスを掲げ飲み干すと地面に叩き割って変身をする。


「ミラベルの頭(かしら)を取ってこい!」


 カラリアの手からグラスが地面に落ちた瞬間それが合図となり全員扉に向かって走り始めた。


「カミラ、君が秘書で良かっよ」


 彼女はニコリと笑い魔武を出す、微かに見える額の汗に心配の表情をするカミラは「カラリアさん」と手をとり強く握る。


「大丈夫です!きっと上手くいきます!

私が貴方の盾になり絶対に離れませんから安心してください!」

「ありがとう、本当にキミは頼もしい」


 二人も扉に入り転移するとそこは嵐が過ぎ去った後の様に周りは燃えて所々崩れていて床には4地区の40人の屍が絨毯の様に床を覆っている。


「上出来」

「カラリアさん、作戦通り地下都市へ繋ぐエレベーターを止めたようです」

「了解、この転移扉も壊しておこう」


 後ろにおいてある扉を魔法で破壊する。


「じゃあ我々も急ぐか」


 ここまで順調に行くとは思っていなかったカラリアは駐屯地を包み込むサイレンの音が気持ちよく感じた。


* * * *


— 第4地区付近上空


 結衣と3匹の妖精は第四地区の5人の魔導機動隊に連れられ駐屯地に向かっていた。


「同じ種族同士が争うなんてもう終わりだニィ...」

「しょうがないよニャーラーニィ、第4地区は平気なんですか?」


 猫を撫でる様に泣きそうなニャーラーニィの頭を撫でる結衣は心配そうな表情をする。


「こちらも2地区に襲われたみたいで、連絡を取っていたのですが途絶えてしまい......」

「そうですか、未来の魔導機動隊員として私も手を貸しましょう!」


 自信満々な表情で胸を叩く彼女に不安そうな表情をしていた4地区の機動隊員達は少し笑顔になった。


「ありがとうございます...あ、見えてきました、あそこです!あそこが4地区です」


 砂漠地帯に山の様にそびえ立つ円状の高い壁があり、その内側に街が栄えている。


「壁の周りにゲートがいますね」


 下を見ると壁を叩いたりよじ登ろうとするゲートの海が広がっていた。


「結衣が呼んだミポ?」

「いや私は呼んでない、きっと自分から来たんだと思う」

「でもどうして来れるルル?」

「実はゲート達は1つの脳みそによって動かされてて、一人のゲートがこの世界に行く方法を覚えたら他のゲート達にも同じ情報が送られて来れるようになるの、恐らく誰かがこの世界への行き方を覚えたんでしょう」

「なるほどう」

「あの、結衣さん」

「何ですか?」

「あのゲート達は操ることできないんですか?」


 4地区の魔導機動隊員の質問に「う〜ん」と考える


「言葉は通じるだろうけど、聞いてはくれないと思いますよ」


 意外な返答に全員驚いた顔をする。


「と、言うのも私の操ってるゲートは感情のない完璧に私の司令しか聞かないロボットなの、あぁいう暴れるゲート達は未完成で中途半端に感情を持ってるから復讐心で自分から暴れてるの」

「さっきの話から考えると1人に謝って許して貰えば暴動も治るって事ですか?」

「その通り、あの子達は単純だからすぐに許してもらえるかもね」


 フフンと笑う結衣に5人の魔法少女はなるほどうとメモをする。


「でもそんな直ぐに許すって事は目的は魔法少女を消す事じゃないルル?」

「そう、ゲートの本当の目的はリコねぇ、別名リリィをもう一つの世界に送る事、でも魔法少女に攻撃される事によって未完成品のゲートのみいつしか目的が変わってきちゃったんだよ」

「何故リリィるる?」

「いろいろあるの、話が長くなるからまた今度ね」


 若干表現に陰を落とす結衣はトンっと箒から降りる。


 がどうしたのか「止まって!」と皆を止める。


 人々が行き来するいつもと変わらない風景の大通り、全員見渡すが怪しい魔力を感じるどころか姿も見えず緊張の固唾を飲み込む、結衣は目を閉じると深く空気を吸った。


「そこにいるのはベティさんでしょ」


 その瞬間ドッと風が吹いて全員は目をつむると、いつのまにか6人の銀縁ローブをまとった女性が結衣達を囲んでいた。


 3匹の妖精と魔導機動隊はその強大な魔力に足を震わせる。


「さすが結衣さん、匂いで分かるとは」


 結衣の前に立つベティはフードを外す。


「しかしその様子だと結衣さんのお仲間なんですね」

「そう、私は機動隊員になるから」


 その言葉に「それは何故?」と驚いた顔をする。


「そんなのリコねぇを助けるために決まってるじゃん」

「それなら我々の所に来ませんか?お姉さんもいますよ」

「へ〜お姉ちゃんが」

「はい、我々愛国者もリコリス様を助けるつもりですから」

「分かってる、ベティさんはリコねぇに危ない事はしないって知ってるから」

「なら!」

「私は昔から守られてきてばっかりだったから、だから今度は自分で大切な人を助けたいの、これを成し遂げれたら自分の中で何が変わる気がするんだ」


 彼女の言葉に昔の自分を見ている様な感じがしたベティは「そうですか、なら仕方ありませんね」と言い微笑むとポケットに手を入れて再び灰色の煙となって消えていった。


「な、なんだったんだルル......」

「みんな!早く行こう!」


 流石どの地区よりも栄えてる場所なだけあり、色とりどりの綺麗な建物が建っている人々の笑い声が宙を飛び交っていた。


「魔法少女も地上に住んでるんですね」

「ゲートは1匹も居ませんから、あ、ココが地下都市に行くエレベーターです...が何でしょうこの魔法陣...」


 エレベーターの扉にデカデカと描かれた怪しく光る魔法陣は呪術除去魔法を唱えても消えなかった。


「呪術じゃない...強化魔法か」


 結衣は魔武の大剣を出し「みんな少し下がってて」と皆を下がらすとドアを突き破り破壊する。


「やっぱりね」


 壊れたドアからは魔法陣が消えウォンと稼働する音と共にエレベーターが動き始め全員乗る。


「エレベーターにも細工されていましたから油断はしない方がいいですよ、爆発とかするかも」


 そう言うと一人の機動隊員はバリア魔法を唱えてエレベーター内に結界を張った。


「もしもの為に今のうちに全員の名前を紹介しときましょう、私はアウレリアーナです」

「私はバルトロメア」

「私はブルーナです」

「自分はマグダ、よろしく」

「私はモニカ!」


 結衣はうんうんと頷き「私は結衣、結衣・バレッタ、よろしくお願いします」と言いぺこりと頭を下げる。


 一通り紹介が終えるとタイミングよくエレベーターはガコンと大きく揺れて止まった。


「やっぱり細工はドアだけじゃなかった様ですね、この後何か起こるかもなので様子見てから結界を解きます、なので結衣さんとモニカとマグダは人が通れる程度の穴をくり抜いてください」


 静けさが再び室内を漂う、これから何かが起こるかもしれないという緊張から思わず唇をキュッと噛み締めて各々に武器を構えた。


「何も、起きないようですね、では結界を解きます」


 カウントダウンをしてから「ベレモーネ!」とバリアを解くと間髪入れずに三人は床に剣を突き刺す。


「かった!ナニコレ」


 岩のように硬い床に舌打ちをし痺れを切らす結衣は床に手の平を置いて息をスーと吸い込む


「みんな壁に背中をつけてください、ゴリ押すんで」


 全員ぺったりと背中を壁に密着させる


「ディ・ディストルツィオーネ!」

 

 唱えた瞬間、耳を狂わす爆発音と共に歪(いびつ)な大穴を開けた。


「素手で爆発魔法を放った...」

「素手で魔法だすとなんか危険なんですか?」

「いや上手く出せなかったら手が怪我するんですよ、杖はそれを防止して更に魔法を出しやすくする為の道具なんですよ」

「へーまぁいいや基地まで後もう少しです!急ぎましょう」


 ゴォゴォと風の音がする穴にちゅうちょなく飛び入る結衣に「お、おう」と驚いた表情をする。


 下へ降りドアを大剣で壊すと地下都市の奥に黙々と黒煙が上がってるのが見える。


「遅かったんですかねぇ」

「まだ間に合います、ほら箒出してください」


 駐屯地に移動してミラベルのいる所を目指す結衣一行、もう遅かったのかやけに廊下が静かだった。


「あれ?そこにいるのはミポルプ達?」


 聞こえてきて、振り返ると部屋から顔だけをヌッと出しているドミニカとイザベルの姿があった。


「イザベルとドミニカみぽ!なんでココに?」

「私たちも4地区の機動隊員に保護されたの、今から助けに行くつもり!さっきまで天井が揺れてたからまだ間に合うわ!」

「なら私に任せて全員この部屋にいてください、貴方たちが行っても無駄死にするかもしれませんし」


 ドミニカとイザベルはリリィより少し背の高い結衣をみて「貴方がゲートを操る少女なの?」という


「そう、機動隊員は少しでも多く生き残って欲しいので、あと私が戻る間にゲートの話はこの人達から聞いてください」


 全員はじめは不安の表情を隠しきれなかったが、ピリピリと感じる魔力と背筋が凍りつくほどの殺気に「わ、分かった」と何度も頷く。


「あとそのミラベルさんは何処に居ますか?」

「5階です」


 答えるブルーナに「ありがとう」と微笑む


「ツァンプフェン」


 9本の槍を魔法で創造すると天井を突き破り5階までジャンプする。


「向こうから声が聞こえる」

 

 声のする方へ行くと突然真横の壁が壊れて第2地区の死んだカミラが飛んでくる。


 結衣は間一髪スタントマンの様に前にジャンプして転がり避ける。


 「っぶな〜......」


 ガチャリと大剣を両手でしっかりと構えてその穴にそろりと入る。

中は人が百人以上は余裕で寝っ転がれるほど広く、そこには2地区の魔導機動隊の死体が空き缶の様に点々と転がっていてミラベルとカラリアがにらみ合っていた。


「さすが元第1地区のエリートと言われてただけあって骨があるな、まだ2地区には染まってなかったか」

「あの姿が本当の私だと勘違いされたら困るわ、アンタの所こそ大した奴がいないじゃない、ヘソで茶が沸かせちゃうわ」


 ミラベルは鼻で笑うがかなり押されていた、左腕は折れたのか鎖の様に垂れ下がりフリルのワンピースはボロボロに破けて足は限界がきているのかプルプルと震えていた。


「それにしちゃあ足が震えてるな、どうしたバンビーちゃん」


 余裕そうなカラリアは大笑いする。


「ちっサイコパスが!」


 太刀を片手で構えるとフローリングの床を蹴り間合いを縮める。


「まだそんな元気があったのか」


 槍で冷たく光る刃(やいば)を弾くと掬(すく)うように槍をあげてミラベルを天井に飛ばす、ミラベルは宙で体をヒラリと翻し魔法の箒をだすとそれを壁のように蹴り地面へ戻る。


 結衣ならいつでも助ける事は出来たがこの2人の間にただの争っているのではなく特別な何かを感じ、他人が手を出してはいけないと思い、姿を消して遠くで見ることにした。


「ミラベル、懐かしいと思わないか」


 睨むミラベルはニヤリと笑い「くだらないことをまだ覚えてたのね」と血の混じった唾を吐く。


「くだらない?出征をかけた大勝負だったじゃないか、どちらかが第2地区の部隊長になるかっていう」

「このすぐ部隊長になれる現在で改めて思ったら笑い話ね、ほんとくだらない喧嘩だったわ」


 太刀を捨てて腰から先っぽにガラスで出来たハートのオブジェクトがついた杖を出す。


「あの時はアンタが勝って私は第1地区に行ったのよね」

「そうだな、勝ったはずなのにあのエリートが集まる第1地区に行ったお前を見て負けた感覚がしたよ」

「今度は私は負けない」


 カラリアは「久し振りに戦闘魔法を使う人間が戯言を」と鼻で笑う


「ヴィント・クライメット!」


 杖を振って辺りの死体や瓦礫を巻き込んだ強風起こしてカラリアの視界を奪いうと、直ぐにカランと床に杖を捨て胸の前に両手でハートの形を作る。


「エターナル...」


 首に掛けている変身ペンダントの魔石に亀裂が入り、衣装が白く光り始める。


 光に包まれる彼女の姿を見てカラリアは「ッツ……」と驚きのあまり言葉を失い思考が止まる、しかし体が自然と前に突き動かす、彼女の頭の中に残っていた″死にたくない″という本能の叫びによって。


 ミラベルはニコリと笑い「アンタと死ぬ前にこうして戦えてよかったよ」


「貴様アァァァァァァァア!!」

「ラブウェーーーーブ」


 パリンと魔石は砕けて手からハート型の燃えるような真っ赤な光線がカラリアを襲い一瞬にしてチリにする。


 ミラベルが唱えた技は魔法少女だけが使える自分の命と引き換えに、くらった生き物を跡形も残さない程の強力な必殺技だった。


「ふっだから言ったでしょ......私は負けないって」


 瞳に光がなくなると糸が切れたように地面に倒れた。


 だが結衣は見逃さなかった、最後にミラベルがこちらを見て″後は頼んだ″と口だけを動かしウインクをした瞬間を...


「ミラベルさん!」


 姿を現し走って駆け寄るが体は氷のように冷たく皮膚は硬くなっていた。


「後は任せた......か」


 ミラベルの死体を魔法で浮かせるとドミニカ達の所へ行く


「ミラベルさん!」


 モニカ達はピクリとも動かないミラベルを抱きしめて静かに涙を流す。


「ミラベルさんは最後に″後は頼んだ″と言っていました、もしかしたらアイラさんは2地区の何処かにいるのかもしれません」


 ドミニカとイザベルは「ありがとう」と静かに言う


「私達は結衣さんと共にアイラのいる2地区へ行きます、すみません最後まで何も出来ず」


 モニカ達は涙を拭い「気にしないでください」と言うとバルトロメアは立ち上がる。


「地下に新型の箒があります、それで行けば一日掛からずに飛べるでしょう」

「そんな、新型なんて悪いですよ」

「気にしないでください、残ってる地区は四地区と五地区だけです、助け合いましょう」


 彼女はニコリと笑い2人を抱きしめ「戦えない私達にとって貴方達は最後の希望ですから」と静かに言った。


「ありがとうございます、貴方達の分まで精一杯頑張ってこの地に平和をもたらしたいと思います」


 ドミニカ達も彼女を強く抱きしめる。


 バルトロメアの言う通り地下へ行くと大きな製造機械があり倉庫にピカピカの箒が山のようにあった。


「さ、急いでアイラさんを助けに行こう!」

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