第15詠唱 変わり者

「ご主人バイク運転できるんやね」

「陰陽師の妖術式の乗り物に似てるから運転できるだけ」


 バイクで数時間かけ二人は横浜につく、

健二アシュリーの家のドアを封じる罠札びんふを破壊するためあるところに向かっていた。


「しかし場所わかるん?高雪に聞かなくていいん?」

「わ、分かるわよ!あいたぁ……声出させるんじゃないわよ……っつたく」


 杖をついて歩く彼女はそういうが一向につかず、頭の上に乗る守護紙は呆れたようにため息をつく


「あそこに公衆電話があんで、電話番号を覚えてるなら電話しようや」

「ッチ……」


 そうとう悔しいのか杖のつく音が強くなる。


「え~と、電話番号は046-514-07…っと」


 繋がったのかスイッチが入ったようにカンナは声色を変え高い声で話始めるが会話という会話は特になく直ぐに彼女は受話器を戻す。


「直ぐに来るって、そこで座ってましょ」

「ゆいか?って人は何してる人なん?」


 さっきの電話の相手である。


「由衣香は時計屋よ、マニアや子供持ちの家族に人気のね」

「はーん、時計屋なんて今の時代珍しいなぁ」

「あの人はとにかく変わってるのよ、変わってるものが大好きで人と違うことをやるのが大好き、

だからなのかあの人の周りには不思議と変な魑魅すだまが寄り付くのよね」

「なんかクセの強いヤツが来そやな」


 何を想像したのか守護紙は震え上がり首を縮め丸くなった。


「変わってるっていっても喧しいタイプじゃないわよ……と言ってたら来たわね」


 遠くの方から時代劇を彷彿させる馬の足音が風にのって来ると、カンナは立ち上がりそちらを見た。


「うわ……ありゃ変わり者というよりキチガイや」


 驚いてマジマジとみる人々やカメラの視線を浴びながらも、堂々と掻き分けて道のど真ん中を虹色に染められた馬が一頭優々と歩き、その上に視線をうつすと派手な馬とは逆に、落ち着いた鮮やかな水色の紫陽花がプリントされた着物を着た輪と背筋を伸ばす清楚な女性が股がらずに横に座っている。


 ただ着物の女性で気になる点と言えば……


「なぁご主人、あの人目でも悪いんか?変な眼帯してるけど」

「私もあんな眼帯始めてみたわ、たぶん発明品よ、見せびらかしに来たんでしょ」


 目を隠す部分が時計になっている変わった眼帯をしているところだ。


「おいっす~、カンナちゃんから電話するなんて珍しいこともあるものねぇ」


 ファンシーな馬に乗る彼女は見た目のわりには

透き通った静かな声で、思わず守護紙は「へっ?」と声を出す。


 もちろん着物の女性は守護紙の声どころか姿も見えないため見向きもせずカランっと気持ちいい下駄の音をならし笑顔でやってくる。


「またあの子染めたの?しかも今度は虹色って……」

「ふふっ……可愛いでしょ、お馬さんはやっぱりユニコーンのようなのが一番かわいいの」

「前は"馬は縁起が良い金に限る!"とかって言ってたじゃないの」


 すると彼女は頬をプクーと膨らまし「馬じゃないし、お馬さんだし」と小さな声でいう


「で?今日は私を呼んでなんのようなの?高雪君のお使い?」


 彼女は見た目は20前半のように若く自分でも20前半といっているが高雪とは同級生なんだとか……


 しかしそんなことより高雪と同じ55のわりには20に見えるため、どんな妖術を使われているのか密かに女の陰陽師たちの間で研究されてるんだとか……


「札のことで由衣香に見てほしいものがあってね、ほら得意でしょ?」

「なんだお札ですか、てっきりツチノコを見つけたのかと思った」

「何でそうなる……てかツチノコなんているわけないでしょ、それより翠さんの罠札を解く方法を教えてくれないかしら」


 遊べるのかと思っていた彼女は表情を変えてムスーと心底つまんなそうな顔をしながらコクリと小さく頷いた。


「ワカッタ…じゃあ上にのって……」


 横浜駅から颯爽と駆ける事1時間後、彼女の営む時計屋についた。店の外見もショッキングピンクで染められた巨大なからくり時計があり、とにかく派手でどこかのテーマパークにありそうな雰囲気だった。聞けば人形が踊ったり鳩が飛び出すとにかく人よりも大きいからくり時計は由衣香が一人で作ったんだとか。


 その技術から陰陽師でもどのポジションなのかがだいたい察しできる。


「ようこそ私のお城へ」

「相変わらず人気ね、あんたの城」


 客以外にも、大きなからくり時計を見に子供連れの女性など沢山のギャラリーに囲まれている。


 店のなかは外見とはまたガラリと雰囲気が変わり、静かな音楽が床をソロリソロリと床を這うように流れ棚やテーブルには独特な時計や人気キャラクターの時計、またシンプルな馴染み深い時計が心狭しと並べられている。


「こっちに来て」


 呼ばれたカンナは店員の女性に軽く頭を下げてついていく


「ちょっち待っててね、飲み物持ってくるから」


 陰陽師はある程度偉くなると弟子を雇うのだが、一人が好きなカンナは弟子を雇わないため何から何まで一人でやっていたのだった。


「おっまた~、はい、グリーンティーです」

「緑茶ね、ありがとう」

「でもなんで翠ちゃんの罠札を壊したいの?同じ陰陽師の札を破壊するのは、喧嘩を売るのと変わらない行為だよ?」


 出された熱くも冷たくもない常温の缶のお茶を湯飲みに移した物を一口のんで「分かってるよ」と言う。


「侵入したいヤツの家に使われてたの、妖力の感じからして翠が作ったに決まってるわ」

「ふーん、あの人のは妖術じゃ壊すことが時なくて、決まった札じゃなきゃ壊せない作りになってるの」


 袖から数枚の札を出してどんなものかを見せた。


「案外ふつうね」

「まぁ札だからね、でも今のカンナちゃんはあまり妖力を使わない方がいいよ」


 何が見えたのか、彼女は不安そうな表情をする。


「なんで?解くに問題はないわよ」


 「今は、ね」とやけに"今は"と強調し話始める。


「妖力の他に異術師に似た妖力を感じる……恐らく二つの力がなじまずに喧嘩してるから、その二つの力が馴染むまでは静かしにてた方がいいと思う、体が痛むよ」


 体が痛む、探偵のように目を細めて推理をする彼女の言葉は間違ってなく、カンナは「そ、それぐらい……」と俯く


「それぐらい、でもそのそれぐらいがもしかしたら取り返しのつかないことになるかもしれない、

高雪くんもカンナちゃんのご主人様である恵ちゃんと一緒に暮らすって言ったとき同じことを言ってた、カンナちゃんはもう妖魔じゃなくて人間なんだから体は大切にしなきゃ駄目だよ」


 人間より妖魔は自然治癒能力が高く、一日寝ればほとんど回復する為、由衣香は注意する。


「この札は貰ってもいいのかしら?」

「いいけど本当に気をつけてね、今のカンナちゃんには魑魅がとりついてる気がする。

何でそこまでするかは分からないけど恐れている相手ならわかる」


 由衣香いわく自分は相手の背負ってる悩みやストレスを見ただけで分かるんだとか、更に言葉一つ一つに力があったため占い師をやっていたときは儲かっていたらしい。


 今回も言い当て、カンナはその恐れている相手アシュリーの姿を思い出した瞬間、歯茎を噛み締め額からはポタポタ汗が落ちる。


「そういえば今異術師が急激に減ってるらしいね、目撃した人は皆口を揃えて白銀の髪をした女っていってるらしいよ」

「だからなんなのよ」

「カンナちゃんの戦おうとしてる敵は絶対に勝てない相手、今のあなたじゃ絶対に勝てないよ」

「なんでそんな事分かるのよ!」

「私はその女性を観察してるから」


 懐から1枚の写真をカンナの前に置く


 白銀の長い髪の毛に背筋が凍りそうになる笑顔の女性が写っていた。


「アシュリー……」


 写真を見た瞬間に教会でのあの光景が広がりアシュリーの囁き声が耳元に響く、思わず耳を塞ぎガタガタと震え出す彼女を見て由衣香は「やっぱり」と写真を懐に戻すと「ちょっと待ってて」と部屋を出て動物の革でできた古い大きな本を抱えてくる。


「これの本は助けた三人の異術師がお金のかわりにってくれたものなの、カンナちゃんなら役に立つかもだからあげる」


 本の表紙にはこの国いや、この世界では見たことのない金色の文字が押されていた。


「ありがとう」

「でも戦っちゃ駄目だよこれは身を守るためのものだからね」


 本に伸ばすカンナの小さな手を握り念をおす。


「負けると分かってても、たとえ怖くても、なにかを守るためにはやらなきゃいけない時がある……それが今なのよ、陰陽師の貴方なら分かるはずよ」


 かすかに震える手、「分からないな、私はカンナちゃんや皆と違って強くないから」と由衣香は切なそうに笑う


「ビッグ3の貴方がね……まぁ札ありがとね由衣香、また時計を買いに来るわ」

「楽しみにしてるよ」



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「けんじとおさんぽフンフフ~ン♪」

 

 鼻唄を歌いピョンピョンスキップするリリィと手を繋ぐ健二(アシュリー)も一緒に鼻唄を歌う


 オレンジ色の光に照される二人はあてもなく歩いていると、スッと空気が変わりなにやら明るい雰囲気になる。


「ねぇねぇけんじ~、あれなぁに?」

「あれ?」


 指差す方向をみると提灯ちょうちんがずらりと電柱にぶら下がっていた。


「あぁ、提灯っていうんだよ、しかしこの季節に珍しいなぁ」

「わたしちょうちんにかかれてるあのもじわかる!まつりってよむんでしょ?」

「おっ!良く分かったね、漢字も分かるなんて頭いいなぁ」


 口角を上げ自慢気に言う彼女の頭を撫でて誉める。


「ふふーん!」

「でも12月に祭りって珍しいな、行ってみるか」

「うん!」

 

 早く行きたいのかリリィは健二手を引っ張り走り出す。


 車の音や工事の音は消え、祭りの陽気な音楽と人々の笑い声の一色に変わる。


「なにあれー!」


 リリィは目を輝かせてさらに奥へ歩き始めた。


「ねぇ!なにあれ!おさかなさんだ!」


 無数の金魚が気持ち良さそうに泳ぐプールの前にしゃがんで覗きこむ


「それは金魚だよ」

「へー!かわいい~たべれるの?」

「ハッハッハ!金魚は食べれないな~眺めるんだよ」


 すると「なんだたべれないのかぁ~」とつまらなそうな顔をし立ち上がる。


「やらなくていいの?」

「食べれないならいいや」

「お姫様は花より団子ですか」


 するとまたなにかを見つけたのか健二の手を引っ張り「なにあれー!」と犬のようにトテトテ走り出す。


 ついたところは射的屋だった。ぬいぐるみ、ゲーム機、お菓子、色とりどりの物が棚に並べられていて、それを真剣に狙う客を見て屋体のおじさんがニヤニヤと楽しそうに笑っていた。


「楽しそう!」

「やってみる?」

「やったー!やりたいやりたい!」


 ピョコピョコジャンプするリリィをみて、屋体のおじさんがこちらへのそのそと来る


「お!かわいい挑戦者だな、やってくかい?」

「じゃあ一回お願いします」

「お兄ちゃんは?」

「僕はこの子の応援をしときますよ」

「ガッハッハ!そいつぁ頼もしいな、あいよ」


 大笑いする彼は「サービスだ」と付け加えてこの屋台のなかでも一番大きな銃を渡す、大きさだけでなく見た目もいびつでネジが至るところに打ち込まれ、刺青のように蛇が張ったような模様替え全身に掘られていた。


「あの、これ……」

「そいつ改造して作ったものよ!強力だぜ」


 ボロ儲けしているのか機嫌が良さそうにまた笑いパイプ椅子に戻っていく


「けんじけんじ!はやく!」

「はいはい、じゃあやろうか」


 銃を渡すやいなや「おも!」と地面に落としそうになる。


「一緒にやるか」


 狙う台にリリィちょこんと座らせ、コルクの玉をいれて渡す。


「いいか美羽、落ちやすそうな物を狙うんだぞ」

「うん!」


 食べるのが好きな彼女が狙ったものは小さなお菓子だった。


 もちろん一発で落とすことができ狙撃主はニコーとする。


「凄いぞ美羽」

「ふっふっふー!らくしょうだぜ!」


 そのあとも可愛いぬいぐるみやゲーム機には見向きもせずよだれを滴ながらお菓子を片っ端から落としていった。


「あと3玉だ」

「おかしなくなっちゃったねぇ……なに狙おう」


 すると健二は棚の隅に今年発売された新しい携帯ゲーム機を見つけ、あれを撃ち落とすよう指示をする。


 おじさんも銃口の向きをみて「ガッハッハ!やっと大物を狙いにいくか!頑張れよ嬢ちゃん」と応援する。


「むむむ……てい!」


 しかしやはりそんな簡単にはいかず1発2発と撃つがびくとも動かずすぐに残り1発になる。


「ん~むりだよぉ~」

「がんばれ!美羽ならできる!」

「ん~」


 眉間にシワを寄せ頬を膨らます彼女は再び銃を構えた。銃のズッシリとした重さにリリィはふと大杖を思い出す。


「ドゥテ・アッチェターレ」


 詠唱、しぜんと口からでた言葉に健二は眉をピクリと動かした。


 一瞬銃の全身に赤く光る血管のような筋が浮き出る。引き金を引いた瞬間、モデルガンとは思えない耳を突く轟音と同時に銃口は壊れ、狙われた商品はというと貫通し後ろに落ちていた。


 撃った本人含め回りの客も驚きのあまり破壊した銃を見たまま動きが止まる。


 唯一驚いてなかったのが屋体のおじさんで「ただの改造じゃなくて魔改造だったか?ガッハッハ!」と大笑いして風穴のあいた商品を渡す。


「壊してしまいすみません」

「いいよ、どうせジャンクを改造したもんだからよ、おめっとさん」


 常人なら周りと同じで固まるはずだが、まるでなれてるいるように動揺しないおじさんに眉を潜めるが、最後の「小さな異術師ちゃん」と言う台詞で健二はすぐに彼の本職が分かった。


「さぁ美羽いこうか、もう暗いしね」


 リリィの魔力に黒灰の魔女達が嗅ぎ付けて来ないか心配だった彼は辺りを見渡す


「はーい!いっぱいとれたねぇけんじぃ」


 なんにも気づいていない彼女は満面な笑みで満足気にスキップする。


「戻りつつある……か」

「なぁに?」

「なんでもないよ、早く帰ろうか」

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