第14詠唱 術師の休日
「この手紙を金縁のルイズ様に渡して」そうベティから手紙を託された箒に跨る魔女は、夜風に金縁のローブをなびかせ空に浮く帆を張った大きな船に降りる。
「ベティから連絡は受けてる、珍しいねアイツから手紙なんて、内容は?」
渡された手紙を受ける彼女はチラリとこちらを見る。
「裏の世界に行く新たな門とそこに住んでいるアシュリーの提案が書かれています」
「なるほど」
手慣れた手つきで赤いロウで止められ便箋を開け手紙の内容を直ぐに読むと、改めて顔を向けた。
「アシュリーの提案は確実に通らないと思うけどルイズ様に渡しておくよ、お疲れ様」
にこりと笑う彼女に女性は頭を下げ去ろうとすると再び彼女の声が足を止める。
「ルイズ様はアシュリーの事はもう信じていない、それの肩を持つベティもそろそろ危ないと伝えなさい!」
警告するそのセリフに「危ないねぇ、あのツートップに勝てるのかしら?」と鼻に付く言い方をし飛んで行く。
「勝てなくてもやるさ、まだ時間はあの時のままなんだから」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
― 表の世界 ―
時刻は結衣が裏の世界に来る3日前の朝
「けんじぃ〜おっきして〜」
ペチペチとヒゲがちびりちびりと生えた顔を叩かれ健二、いやアシュリーは「起きてますよぉ〜起きてるからあと1時間だけ」とソファーの上で横になって寝返りをする。
「む〜!きょうあそんでくれるんじゃないの?」
昨日、教会の件の後家に帰ってからというものの寂しかったのかずっとこんな感じである。
「ねぇねぇ〜あーそーぼー」
「おじさん疲れたよぉ〜」
「あそべばつかれとれるよ」
にゃーにゃーと健二の上にまたがり、
小さな額をスリスリとこする。
「若いっていいなぁ…ふぁ〜」
アシュリーはアクビをする、すると移ったのかリリィも顔の半分まで口を大きく開いてアクビを一つ
「むぅ〜」
諦めたのかそれとも本当にアシュリーのアクビが彼女の体を侵食したのか、眠たそうに両まぶたをこするとそのまま猫の様にお腹の上に寝転がる。
「これこれお姫様、重たいですよ」
「や、ここがいいの〜」
ガッシリしがみつく彼女に「しょうがない子だなぁ」とセリフとは真逆に何処か嬉しそうな優しい表情をする。
「なぁ美羽?」
「おりないですよ〜」
「違う違う、旅行の話、明後日行くからね」
「どこにいくの?」と満面な笑みでリリィはアシュリーの顔の真横に来る
「ん〜?ないしょ」
意地悪く返す彼女の頰に「おしえろぉ〜」とグリグリ頭を押し付ける。
「遠い居場所」
「とおいいばしょ?どこまでとおいいの?」
「さぁ、世界の果てかな」
「ふぇ〜帰ってこれるかなぁ」
何気ない一言、しかしその一言はアシュリーのごちゃごちゃした記憶の箱から暗い記憶を引っ張りだし、同時に浜辺の波打つ音が耳の奥に静かに響いてきた。
「帰ってこれるさ、私達二人なら」
自然と出た言葉、自分でもポツリと口から溢れた言葉に驚き「さぁね」と慌てて別の言葉で上書きする。
「ふーん、でも楽しみだな!」
「そうだね」
(リコリス様はもうあのことを覚えてないのか……いや、これで良いんだこれで)
今までは今が幸せだと思っていたが、同一人物のはずの彼女が別人の、本当に道端で拾った人物に思えた瞬間に、寂しさと恋しい気持ちが微かに心の底から上がる。
「どうしたの?」
悲しそうな表情をしているアシュリーに、リリィはそんな彼の太い首に腕を回し慰める様に抱きしめる。
「なんでもない……」
すると更に煽る様にもう一シーンが鮮明に映った。
ー アシュリー、お前は今幸せか? ー
別れる間際にリリィが問いかけた言葉だ、アシュリーは結局その問いの意味がわからず
「私は幸せでした」、と、その一言だけ返しただけだった。
なんとなく同じ問いをしてみたいと思ったアシュリーは「美羽?今しあわせ?」と聞く、帰ってきた言葉は予想通り「もちろん、幸せだよ」というたった一言だった。
一言だが嘘偽りなくどこまでも真っ直ぐで不思議と心が満たされる気持ちになり、アシュリーは(あの時のリコリス様はこんな答えを待っていたのかな)と後悔し、顔に刻まれた小じわがより一層が深くなる。
「そうか……お外に行くか」
「うん!」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
リリィとアシュリーがのんびりと散歩へ行ってるその頃……
(居なくなったで主人!)
(オーケー、今いくわ)
昨日の約束の通り魔方陣が刻まれた例のドアを開けるため、
リリィの頭に乗っていた守護紙は家に戻っていた。
無声音で呼んでからというもののどうしたのか彼女はいっこうに来る気配がなかった。
「どうしたんやろ……」
心配になりピョピョイッと飛んで行き探すとどうしたのか翠(みどり)の乗ってる亀に乗って移動していた。
「ご主人どうしたん?動けないんか?」
「全身筋肉痛なのよ、高雪いわく他人の妖力が大量にはいるとなるんだって、酷いときは一生うごけなくなるときもあるらしいわ」
本当に筋肉痛が辛いのか、怒ってばっかりの彼女も今日は静かで素直だった。
のっそのっそ亀の上で揺られながら数時間、ようやくつくとさっそくカンナは「嫌な予感がするわね」と目を細める。
「嫌な予感?」
静かに頷く彼女は杖を使って立ち、ドアに片方の手を当てる。
「このドアは開かないわ、
「札なら剥がせるやろ」
「翠さんのは別よ」
腰の長方形のホルスターから一枚札を出し「試してみるけどさ」とドアに張り付ける。
「
妖術を唱えると張った札は一瞬で白い炎に包まれ杯となった。
札が燃える炎と色にいろいろ意味があり、その中でも白い火は相手の妖術に負けたときに起こるもので、カンナは「やっぱりね」と呟いた。
「しょうがない、高雪の知り合いで札に詳しい陰陽師が居たからその人に聞きましょ」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
― 京都 ―
アシュリー、カンナがそれぞれ活動しているまたまたその一方、翠は巨大なカラスの背中にのり京都にあるとある神社に来ていた。
「お前から来るなんて珍しいな……しかもたのみごとだなんて」
仙人という言葉が似合う長い顎髭をリボンで束ねる老いた男は警戒する。
「なぁにただのお願いさ」
「なら寺の中で話そう、外は冷えるしお茶がのみたくなった」
翠の右手にぶら下がる饅頭の袋に目が自然といく。
「まぁまぁ、これは一人で食べるといい、ここで話すぞ」
「ん゛~、なら早く言わんか」
彼女は深呼吸をして真面目な表情に変える。
「お前の所に所属する人造陰陽師の子供を五人ほど借りたい」
すると彼は目を見開き驚いた顔をする。
「お前、本気か?、え?凄い反対してたじゃん」
「あれに反対だが今は必要なんだよ」
そう言い寺屋の根を眺めた。
「どうしたんだ?
「いや、近い未来この間違った世界を正す勇者を目覚めさせるためさ」
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