第二章・夢時間編

第12詠唱 ようこそ鏡面世界へ ー上ー

「美羽だいじょうぶ?」


 ライオンに化けて稲妻の様に屋根や電信柱を飛び越えリリィの言う神社のある山を目指すカンナは、足と手だけで必死に振り落とされまいとしがみつくリリィを心配する


「む、むりー!だいじょばなーーーい!」

「アンタ軽すぎるのよ!いったい何キロよ!」

「わからんキロぉー!」

「くだらない事言ってんじゃないわよ!振り落とすよ!」


 すると薄っすらとだが確かに嗅いだことのある匂いが風に混じって頰をかすめた。


(ッチ、こんな時にほんと最高な奴らね)


 人間の姿に変えて赤ん坊を抱く様にリリィをしっかり抱きスピードを上げる。


「どうしたの?」

「黙ってなさい!」


 カンナは逃げ道はないかと目を動かす、がどこも住宅地で逃げ場などなくギリリと歯をくいしばる。


(異術師の数は3人......2人はまえ襲ってきた奴らね)


 煽る様に足がジワジワと岩の様に重たく感じてきて、額から汗が吹き出る。


「このかんかく......」


 魔力が濃くなってきたからか、リリィは懐かしさを覚える。


「異術師よ!ほっんと良い奴らね!こんな時にったく」


 電信柱に足をつけようとした時だった、後ろから飛んできた火炎が破壊し、カンナは踏み外した。


「ちょっと飛ぶわよ!」


体を翻しバスケットボールよろしくリリィを空へ飛ばす。


「雷斬り!」


 雷を纏わす右腕を刀の様に横に振り数メートル先の電柱を根本から切ってこちらに倒し足を掛けて上に乗る。


「やっぱり目的は美羽だったか」


 姿を現わすカラスの様に黒い金縁のローブで身を包む3人の黒灰の魔女は、空に飛ばされたリリィへ一直線に向かって行った。


「背中を向けられるなんて舐められたものね」


 ゆっくりと傾く柱を踏み台にして上へ飛び、腰のポーチから札を一枚取り出す。


「荒らせ!突風!!」


 持ってる札が緑の炎で灰になるりカンナを巻き込む嵐の様な風が全員を軽々と吹き飛ばした。


「美羽!手を伸ばして」

「むりーーーー!」


 誰よりも軽い彼女は風に乗ってくるくると飛ばされる。


「楽しそうだな、ツン子達」


 酒焼けした低い声にカンナは「いいから美羽を助けなさい!」とどこか安心した様な表情をする。


 声の主は礼司だった、小さな竜巻に乗った彼はリリィの所に行くと太い両腕でキャッチし振り向くリリィに「もう安心しなお姫ちゃん、何故かって?お兄ちゃんが来たからさ!」とニカッと歯ぐきを見せて笑ってみせる。


「うしろ!あぶない」

「危ないって言葉は僕の辞書には載ってないな」


 後頭部に目でも付いているのか、飛んでくる魔法を踊るように避けてウインクをする。


「な、言っただろ?」

「もしかしてさっきっから居た?」


 猫の姿に戻り礼司の広い肩に着地しホッと一息つく。


「何を言うツン子、ヒーローってのは遅れてくるもんだろ?」

「いちいち気持ち悪い言い方ね」

「それよりちゃんと肩につかまってな、遊びは終いだ」


 口に咥えていたタバコを吸いふぅと軽く吐いて黒い楕円の幕を作るとそこに入り黒灰の魔女達から逃げた。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 幕から出るとそこは光を遮るほど木々が鬱蒼と生える場所で、長くいると今が朝なのか夜なのか分からなくなる。


 人の気配がなくリリィ達を追い出す様に野鳥達がキェーキェーと鳴いた。


「くらい......どこ、ここ」

「大丈夫だよお姫ちゃんここは神社のある森さ、天辺に行けば神社がある」

「ホントいつからいたのよ……」

「ツン子が美羽ちゃんに大聖堂を教えるところからかな〜ハッハッハ!」

「ハッハッハ!って、それ犯罪よ」


 礼司は携帯のライトを起動させ足元を照らす


「ぬかるんでるから転ぶと危ないし手をつなごう」

「ありがとう、おにいちゃん」

「デゥフフ〜良いよお姫ちゃん」


 鼻の下を伸ばし小さな手を握る。規則性もなく散りばめられた様に生える木々を避けながら進むが、空が見えず木以外ないせいか今自分がどっちに進んでいるのか不安になり、気分は海底をさまようダイバーの様だった。


 不安になるリリィは何回か礼司に話しかけるが、「天辺まではまだ距離はあるけど安心しな」と笑うだけだった。


「うぅ〜......」

「大丈夫よ、コイツ方向音痴だけどココだけは自分の家みたいに詳しいから」

「誰が方向音痴だツン子」

「ツン子いうなし!」

「なんでツンこなの?」

「いつもツンツンしてるからだよ、子猫の時は可愛かったんだけどなぁいつも甘えてきて一緒に遊んでたのに、なんでこうなったんだか」


 大きなため息を吐く彼に「うっ、うっさい!黙ることができないわけ?」と顔を赤くしてペチペチと猫パンチをする。


「まぁこういう素直じゃないところも可愛いんだけどねぇ」

「キモい!100回死ね!」


 結構歩いただろうか、上を見るとやっと鳥居が頭を見せた。


 所どころ焼かれヒビが入る鳥居が神社の状況を語っていて、カンナは「数年ぶりだけど随分とボロボロね、なんでこんな所に用があるの?」とカンナに不思議そうに首をかしげる。


「いいからいこ!」

「そうだね、お姫ちゃんがこう言ってるんだ、行くぞツン子」


 リリィに引っ張られるがままについてくる礼司に「ツン子じゃないっつーの」と息を吐く。


 絵で描いた様な急な坂を地面に張り付きつつ四つん這いで上がり、頂上に着く頃には一言も話さずただ「辛、疲れた」と繰り返すだけになった。


「こわれてる......」


 リリィは礼司に背負われ頂上まで来たからかまだ体力があり、2人を置いてトテトテと寺の鳥居をくぐる。


「何があるん?こんな場所に」


 寺の周辺は1人の人物によって破壊されたのか、賽銭箱や屋根の瓦など枯葉みたく散らばる地面にはしっかりと1人の足跡が刻まれていた。


 荒らしたのは女性なのか、踵(かかと)の部分は丸い跡でピンハイヒールに近い足跡だった。


「破壊魔は随分と冷静やったんやな」

「なんで?」

「地面の足跡を見ればわかるやろ、まっすぐについとる、これを見ると殺しに慣れてる強者(つわもの)やな」

「ふ〜ん」


 リリィは足跡をたどり、巨人にかじられた様に半分崩れた寺の前までくる。


 焦げた木の香りが鼻の中に入り、そこから感じる不気味さが足を止めた。


「しゅ、しゅごしん、おねえちゃんとおにいちゃんを…よんできて」

「しゃあないなぁ」


 ピョピョイと肩から飛び立ちすぐゼエゼエと肩で呼吸をする2人を連れてくる。


「どうした......お姫ちゃん」

「ここ、ここのなかになにかあるの!いっしょにいこ?」


 明らかに嫌そうな顔をするカンナはほっといて礼司の大きく硬い手を握って上目遣いで頼む


「もちろん!この礼司は何処まででもついて行きますよ!」

「ほんとチョロイわね、私はココで待ってるわ2人で行ってきなさい」


 背を向ける彼女に「分かった、そこは頼んだよ」と礼司はリリィの手を引っ張り中へ。


「うわ、中も酷いなぁ」


 寺内は1つしか部屋がなく、もちろんそこも嵐の過ぎ去った様に家具やあらゆるものが原型をとどめていなかった。


 しかし、部屋の中にも関わらず足元に握りこぶし程度の変わった石が転がっているのに気づき彼は拾い上げる。


「紫の大理石?半透明......」


 周りをよく見るとその石はいくつもある、一つ一つ所どころ加工されている部分がありパズルのようにくっつけると一つのオブジェクトが完成しそうだった。


(異術の香りもするってことは、何か特別なものがここにあったのか?......)

「お姫ちゃん、もしかしてコレ見にきたの?」

「うん、なにかこころがもやもやしてね」


 リリィもつま先に当たる石を手に取る、すると鉄パイプで後頭部を殴られた様な激痛と共に脳裏に白い靄で包まれた記憶がフラッシュバックをする。


「そうだ、このばしょにどこかへいけるもんが......」

「しかしなんでこんな所に、まるで誰かから隠しているようだね、とりあえず今長居するのは危険だお姫ちゃん一旦戻ろう!ウチのばあちゃんなら何かわかるかもしれない」

「うん、わかった......」


 礼司は部屋内を携帯のカメラで写真を撮り、出来るだけ石を札の入っているウエストポーチにねじ込んだ。


「アンタ達早くしなさい!奴らが来たわよ!」

「ほんとアイツらはなんなんだ」


 寝癖のついた頭をボリボリかく


「とりあえず俺の寺に戻ろう」


 札を近くの大木に貼り付け「来い大鷲」と言うと青い炎に包まれ人よりもはるかに大きい大鷲に変わる。


「きからとりさんにかわった......」


 目を丸くし驚くリリィを「ただの錬金術よ」と抱き上げてヒョイッと鷲の背中に乗り礼司が乗ると翼を広げて空へ飛びたった。


 やはり待ち伏せていたのかライフルや弓の魔武を構えるさっきの3人が森から出てくるリリィ達を確認すると矢と魔弾の雨を降らす。


「背中はまかせなさい、礼司」

「頼んだ!」


 カンナは殺意の感じる雨に向かって数枚の札を飛ばす、一瞬チカチカと白い光が点滅すると轟音をたてながら爆発する。


「ちょ!?ツン子何してるんだよ!一瞬で雲がなくなったんだけど!コワ!」

「ただの高雪が作った爆札よ!それよりいつ着くの?」


 大鷲はスピードは速いが大きすぎて俊敏な動きができず攻撃を避けることが基本的にできない為、どんどん壊れていく


「あと少し!」

「ッチこのデカブツほんと欠陥品よね」


 魔女達から距離は縮められてないが、遠距離攻撃を受ける為ただただ焦りと不安が心を蝕んでいく


「もう一発いくわよ!」


 次は10まい魔女に向けて飛ばす、流石にあの威力をみた3人の魔女達も散らばり飛んでくる札を逃げる様に更に上空へ逃げる。


「逃げても無駄っつーの」


 パチンと指を鳴らし爆発させて周りの雲をかき消す、がそこには魔女が1人もいずカンナは雲一つない空を慌てて見渡した。


「奴らがいなくなった!......この感じは逃げたって感じじゃないし」


 その時だった、一瞬まるで誰かが走って横切る様な風が足に感じた。


(風?でも足元に)


 礼司も気づき立ち上がったがその頃には遅く、その風は人の形へ変わりさっきの魔女へ姿を変える。


「ッツ......!?」


......気がつけば息がかかる程の距離まで詰められ冷たく光る剣の刃が喉元にあった。


「やめて......」


 1人の金縁のローブを纏う女性は右手を差し伸べ「王女様、貴方がこちらへ来れば貴方と関わるものは誰も死なずに済むのです、さぁこちらへ、城へと戻りましょう」とニコリと微笑んだ。


 しかしその一方で左手はローブの中に隠れて別の事を語っていた。


 この後の展開が子供の頭でも容易に想像がついた、リリィはジリジリと近づく女性に腰を抜かし後ろへ逃げる。


「た、たすけて、けんじ......」

「さぁ、こちらへ」


 女は剣をスッと抜きギラリと光る刃を上に振り上げる。


 何処かで似たような光景が見たことあったリリィは自然と無意識に、息をするように口が動く


「ナシェーレ、ヴィント・クライメット」


 リリィの首にぶら下がっているペンダントがカッと光り周りからいろんな形をした槍や剣が無数に生成されると強風に乗りまるで矢のように飛ぶ。


「複合魔法か!なぜリコリス様が魔法を」


 3人の魔女はバリアをカンナと礼司も札を使い結界を張る。


 気を失ったリリィは強風で軽々と遠くへ飛ばされた。


「お姫ちゃん!」

「美羽!」


 カンナと礼司は金縁の魔女から離れて飛ばされるリリィの所へ走って向かう


 落ちていく彼女をカンナが手を取り掴んで地面に着地をする。


「良くやったぞツン子」

「でも今のは何かしら」


 リリィの放った魔法の威力は弱く、結界に当たると生成された剣は砂のように砕けたのだった。


「とりあえず逃げるぞ!」

「戦わないわけ?」

「勝てねぇよ!アイツら強すぎ!」


 空から追ってくる金縁の魔女達から2人は逃げている時だった。


「娘を頼む」


 その一言が2人の耳に聞こえ、聞き覚えある声にカンナは振り返った。


「アイツ......」

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