第18詠唱 魑魅(すだま)
「翠さんあなたは誰なんですか……」
「私か?私は子供の時に陰陽師達に誘拐されて無理矢理陰陽師にさせられた一般人さ……いや違うな、訂正しよう陰陽師の皮を被った魑魅さ、もちろんこの子達も同様……」
手を二回叩くと周りにいた弟子は高雪に武器を向けて構える。
「ようこそ、我ら
その言葉にショックのあまり高雪は返す言葉を失う、信じていた、尊敬していた、目標だった人が自分の大切な人を奪った魑魅だった事が信じられず。
「私とベドナルドの師匠だった貴方が……何故」
「あたしゃ陰陽師が憎い、己の間違った正義を振りかざして威張ってる陰陽師が憎く死ぬほど嫌いだった、だが魑魅たちで立ち向かうのは自殺行為と同じ、ならどうする?」
不適に笑い手を左右に広げると、翠の弟子以外に醜い姿の魑魅が次々と出てくる。
「陰陽師の頭になり同士を見つけて仲間にし時が来たら復習するためだよ、そうだ良いことを教えてやろう、高雪どうしてお前が30という若い年齢で他の頭を負かす程の力を手に入れたか分かるかい?」
これ以上知りたくなかった、聞きたくなかった、だが真実を知りたいという矛盾な気持ちに負け「な、何故」と恐る恐る口が動く。
「お前の使う術は
言うならば異術師達に近いな、力は最大の防御って事さ」
あの時と同じ感覚、手足が震え周りの音が聞こえなくなる。
「大丈夫か?あの時みたいだぞ?恵が消えたときみたいな」
翠の最後の一言で完全に思考が止まった。
「何も成長しとらんなそんなんでよくカンナを助けに行くと言ったものだ、まぁアタシは端からお前達弟子を殺す気はないけどね」
手のひらを下にさげて弟子達に武器を下ろさせる、沸き上がる疑問、口を動かそうとしたとき「何故私たちを殺さないのデスカ?」とベドナルドの怒りを含む悔しそうな声が聞こえた。
「何故?そうだねぇ、師匠と弟子は親と子みたいなものさ、親は子の考えを尊重すべきなんだ、しかもこの世に絶対的な答えなんかないんじゃ理屈の通った否定もできない、だろ?気にくわないから殺すんじゃ猿と一緒さ、だから私は私に刀を向けるまで殺しはしないのさ」
一つあくびをしてクルリと背を向け弟子たちと家へ帰ろうとする。
「ま、待ってくれ!」
「眠いから待てないよ、お前はもう一人前の陰陽師だろ?己の間違った正義を貫きな」
ガラガラとドアを開けて入る前にチラリと横目で高雪とベドナルドを見てニコリと口を開く。
「風邪引くんじゃないよ」
自分の敵になる事を分かっているのにも関わらず、母親のような暖かい言葉に高雪とベドナルドは"本当に自分は正しいのか?"と気持ちが揺らぐ。
「ベドナルド、僕達は間違ってたのか?」
「……」
「この世界には絶対的な答えは無い……か」
息を吐いて気持ちを切り替える様に寒さでうっすら赤くなる頬を叩いて鳥居へ歩き出す。
「何処へ行くんデスカ?」
「陰陽師の本拠点、北海道へ行く」
眼鏡をはずすと優しそうな大きな目は細くなり上がっていた広角は下へ下がる、人が変わったように表情を変えた高雪は「僕が昔の僕に戻る為に」と残して後方から吹く風と共に消えていった。
― 秋田県のとあるラーメン屋 ―
「ここ?」
《そうだよ、こっからは私に体を貸しな》
「あい」
体は無体僧侶に操られラーメン屋に入る。
「へいらっしゃい!何人で?」
やはり中も普通で深夜帯にも関わらず元気な声が飛んでくる。
「0人だ、注文はステーキ定食焦げるまで良く焼いてご飯は固めだ」
《ここラーメンやさんだよ?おにくないでしょ》
「まぁ見ててみな」
店員は一瞬驚くがすぐに「一番置くの個室へどうぞ」と鍵を投げ渡した。
周りの麺をすする客は不思議な顔をしてこちらを見るが、彼女はなれているのか気にせずすたすたと歩き女子トイレに鍵をさす。
《トイレだけど、どうするの?》
「ケケケまぁ見ててみなって」
鍵を右へ2回左へ4回まわしドアを開けると綺麗な洋風の部屋に入る。
「ワープさ、驚いたかい?」
《うんうん!だれのおうちなの?》
「ケケッ、私の友達さ」
スーツ姿の女性に鍵を渡し中央にあるソファーに腰を下ろしくつろぐ、応接室なのか広い部屋のわりには、家具は壁に背をつけたファイルだらけの本棚3つに叫んでるような悪趣味な人間の魚拓の絵が一つだけ。
壁にかかっている魚拓を指差し「あれ誰のしたいかわかる?」とリリィに問いかける。
《こわ……だれなの?》
「陰陽師だよ、殺して魚拓にしてやったのさケケケ
魚じゃないから
気味悪そうにクックックと画を眺めながら出された白い湯気が立つお茶をすする。
《ドアおおいいねぇ、てんじょうにもある》
蜂の巣のように四方八方にビッシリとつけられているドアは一つ一つ柄が違いまるで扉の展示場だった。
「天井のは霊体用で壁のドアは人間用さ」
《にんげん?すだまさんってみんなオバケじゃないの?》
「カッカッカ!面白いねぇ、魑魅ってのは人間でもオバケでもない命を持つ者達の心にある黒い部分の事を言うのさ」
《ふーん》
「霊体になるのは死神に命を渡す代わりに力を貰ったときになるのさ、因みにお化けは霊体化した魑魅なんだよ……ケケッ」
一通り説明が終わる無体僧侶はすでに冷えたコップをさわり「アイツ相変わらず遅いなぁ」と呟いてクイッと飲む。
時計すらなく沈黙が漂う部屋の中で周りにいるスーツ姿の女性達がコソコソ話す声に耳を傾けながらまつ。
「いやぁメンゴメンゴぉ~★」
一瞬で底が知れるキャピキャピした声に「遅いぞ……」と振り返らずにため息をはく
「いやはや、ちょっとパチンコで勝ちまくっちゃってね~もうテン上げ……ってあれれ~?」
リリィ達が入ってきた客用のドアから入るセーラー服を着た彼女は無体僧侶の後ろ姿を見ると走って目の前に立ち舐め回すように見る。
「ぶっちんその体どうしたの?え?天使?小さくて凄い可愛いんDESUKEDO!!!」
抱きついて頬を擦る彼女になれているのか「ケッ……この体は私のじゃないよ」と小さな手で引き剥がす。
「自分の体じゃないってことは契約?」
「そうだよ」
ふーんとウェーブのかかったピンク色の髪の毛を手で溶かしながらドスッと対面で座る。
「綺麗な黒髪に赤い瞳……可愛い、良いなぁ~」
ヨダレを垂らし息を荒くする彼女に怖く感じるリリィは《誰なのこのお姉さん》と警戒した。
「この人は死神の使い、元陰陽師の人間さ」
「やっほー!死神の使いだよ~なになに?その体の子は私の声聞こえてるの?」
「ケケケしっかり聞こえてるよ、お前さんのその顔もね……」
「ねぇ、女の子はなんて名前?」
「谷川美羽だよ」
「美羽ちゃんかぁ……」
すると彼女の緑色の瞳がふんわり光りリリィの瞳を覗きこんだ
「ふーん面白い子だねぇ~ますます興味が湧いてきちゃった……」
組んでる足を下ろし「美羽ちゃんちょっとここに来て」と膝を叩いて呼ぶ。
《やだ、いきたくない……》
「ケケケ、嫌だとさ怖がられてるぞ」
死神の使いは頬を膨らませて自分から来て強引に膝の上に座らす。
「よちよち~お姉ちゃんは怖くないゾ~
私はね人に関することなら何でもできるの
心を読んだり殺したり蘇らしたり、思いのままなのよ、でも不思議」
リリィの頭を撫でながらドアだらけの天井を眺める。
「この脳に刻まれた妖術は見たこともないし解き方も分からない」
「やはりお前さんでも分からないか」
鼻で笑う無体僧侶に「は、ハァ?今のは冗談だし!分かるし!」と顔を真っ赤にする彼女はリリィの頭に額を着けてムムムと念仏のようなものを唱え始める。
「しかし死神に近い力を持つお前も無理なら諦める方が良いのかな」
お茶に揺らいで写る自分の顔をみて言うと死神の使いは「諦めるのは早いよ」と何か分かったのか自信ありげに口角を上げる。
「分かったのかい?」
「ふっふーん!神の私に不可能は無いってことよ」
「ケッ勿体ぶらず教えなさんな」
「全くわからん!」
「分からないんかい……」
「けど、住んでた家にある白い扉の部屋に行けば何か分かるよ、その子の記憶がそう言ってた」
「ケケケなるほど、もし良かったらだがお前さんもこの子と契約してくれないかい?」
「そうだねぇ……」と迷っているのか小さな体に覆い被さるように抱きついて「うーん」や「あ~」と悩む声を上げる。
「無理にとは言わない、ただこの子の器は凄く大きく将来も有望だ、損は無いぞ」
「まぁそうなんだけどねぇ……マーリンになることも無いだろうけど…………」
《ぶたいそうりょさんマーリンってなぁに?》
「マーリンって言うのは妖力を納める器が壊れ妖力に喰われて醜い姿になることさ」
《ふぇ~、こわいねぇ》
すると死神の使いはリリィを膝の上から下ろし立ち上がるとピッと指を指し「決めた!」という。
「ケケケ、契約するか?」
「いや、記憶が戻った時に契約をする」
「そうか」
返事を聞いた無体僧侶はソファーから降り伸びを一つする。
「だからまたここに来てよね!その時は私の全てを美羽ちゃんにあ・げ・る」
「それじゃあこの子が住んでた家に行くとするかねぇ」
手をヒラヒラ振って部屋を出た。
「あの子は未来を明るくする……
ふふふ面白くなってきちゃった★」
彼女はゆっくり閉まるドアを見ながら怪しく笑う。
「ちょっと後ろをつけちゃお」
新訳・少女と少女は鏡面世界をさまよう キュア・ロリ・イタリアン @kyuareiko
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