新訳・少女と少女は鏡面世界をさまよう

キュア・ロリ・イタリアン

第一章・新大陸編

第01詠唱 聞こえ始める不協和音

― 時は魔王がまだ存在していない時代


 人間族には一定以上の魔力を扱える女性が存在していた。また、その女性の事を年齢関係なく“魔法少女”と人々は呼んでいた ―


「ここは......」


 雪の降る浜辺に少女はポツンと立っていた。


 不思議と海の波の音は聞こえず、前を見ると顔はボヤけて見えないが白髪の若い女性がこちららを見て微笑んでいる。


 その笑顔はどこか見たことがあり、安心感を覚える。


「どうしたんですか?」

「へ?あ、いや」

「ふふふ、時々見せる貴方のそういう所好きですよ」

(女性の声がやけに大きく聞こえる)

「ここは何処?」

「この場所は全てが始まり全てが終わる場所」


 女性の言っていることが分からず「どう言う事?」と聞き返す


「覚えてないのも無理はないでしょう、でもカゴの外に出れば何か覚え出しますよ」

「カゴの外?」

「待ってます」


 するとリリィの体がズブズブと砂浜に埋まり始める。


「え?ちょっと!まだ聞きたいことが!」


 底なし沼の様にハマっていく体は踠もがいても出ることができずあっという間に首元まで埋まった。


「待ってます、この浜辺でいつまでも、だから早く......」


― 思い出して、あの時の約束を ―


* * * *


「またあの夢か」


 頬を一筋流れる涙を袖でゴシゴシ拭く、全く知らない女性だったがまた会いたいという気持ちで心がモヤモヤする。


「むぅ……」


 頭をグシャグシャかきむしり気分を切り替え機械のようにたんたん支度をし始めた。


「リリィ、おはようルル」

「おはよう、仕事始まる、早く」


 重たい瞼を擦しながらフヨフヨ浮いてやってくる妖精に言うと大きなあくびが帰ってきた。


「んもぉ~起きてすぐに動けるなんtって!まだ朝御飯が!」

「ルルー遅い」


 ルルーは無言の圧力を感じ仕方なくそのまま部屋をでた。


「リリィ、おはようミポ!」

「おはようリリィちゃん、相変わらず無表情だな」


 後ろからルルーと同じ小さな妖精とショートカットの明るい女性がやって来て、ワシワシとリリィの頭を撫でる。彼女は背が小さいのを気にしているのか「おはよう」と頭にある手を払う。


「も~子供なんだからもっと笑わなきゃ駄目だぞ~!」

「……」

「無視かい」

「リリィは朝からご機嫌ななめルル、ドミニカもあまり怒らせない方がいいルルよ」


 リリィはいつもロボットのように表情を変えなかったからか、ドミニカは「怒ってるのか?」と首をかしげた。


 二人と一匹はしばらく歩いてある部屋まで行き「アイラさんドミニカとリリィ入ります」とドミニカが言いドアを開ける


 部屋は、右の壁には本棚が並んでいて、左の壁には綺麗な色をした剣や弓など、いろんな種類の魔武のレプリカが飾られていて、部屋の中央に大きな机が置いてあり、アイラはそこでお茶をすすっていた。


「おっきたか、イザベルさんが怒ってるぞ」


 ニヤニヤする彼女はチラッとイザベルと呼ぶ水色の長髪が特徴的な女性を見た。


「おはよう二人とも、良く寝られた?10分も遅刻よ?良いご身分ですねぇ」


 静かな人ほど怒った時が怖い、改めてそう感じたドミニカは「そういや」と話を無理矢理変えてアイラに話しかける。


「さっき手紙を読んだんだけど、なんで私たちが第02チームなんだ?前は第30チームだったのに」

「あぁそのことなんだが、今日の早朝任務に行ったチームがほとんど消えてしまってな」

「え?」

「生還した娘に聞くと、どうも突然200人以上のゲートが湧いて出てきたらしい」


 イザベルは「あともう少しで地下生活も終わると思ったのに......」と悔しそうに歯を食いしばる


「ミポルプ達の仲間も消えたミポ?」

「まだ分からないけどたぶん消えたな、だから3人には町の調査にいってほしい、何か変わった事があれば報告する事、ゲートは特に強くなったってわけではないけど油断するなよ」


* * * *


ー 第5地区(地上) ー


 地上に上がると「そういえばニャーちゃん昨日作った薬持ってきてる?」とイザベルは隣で浮いてニャーラーニィという妖精に聞く。


「持ってきてるニィ」


 ニャーちゃん(本名ニャーラーニィ)は小瓶をポーチから出して皆に配る。


「その薬で魔力を消して今回は街を探索するわよ」


 全員は苦い薬を飲み干すと白い息を吐きながら忙しなく歩く人の行き交う道を足早に歩き始めた。


「やっぱり第5地区のゲート増えてるな、一般の人には迷惑をかけてないみたいだけど……」

「石を投げたらゲートに当たる確率で増えてるミポ、こんなにいてミポルプ達のいる地下都市に来ないのは不思議ミポ!」

「そうねぇ、地下と地上はかなり距離があるからかしら」

「わたしたち魔導機動隊が実は怖いんだろ!ハッハッハッ!」

「調子にのってダメだにぃ……」


 2人と2匹が話す中リリィはどうしたのか足を止める。


(またか)


 げっそりとした白い顔のゲートを見ると脳裏にノイズがかった映像が流れ激しい頭痛がするのだった。


「なにしてるルル?」


 真冬にも関わらず真夏の様に汗を滝の様に流し頭を抱えるリリィにルルーは近寄る


「どうしたの?」

「いつものことルルよ」


 リリィは「うるさい」とルルーの額にデコピンをして歩き始めた。


 ドミニカとイザベルは「なんだいつものか」と安心して行こうとしたその時だった。


「巨大な魔力を感じるルル!それもすごい速さで近づいてきてる、皆んな避けるルルー!」


 全員はとっさに横へ飛んで避けると青白い光線が辺り一面凍らせて通過した。


「来る」


 感じたことのある魔力に自然と体が動き、片手から黒い半分に割れた盾を出すとドミニカ達の前に走る。


 天に鳴り響く重い金属の音


「クッ!」


 巨大な金槌で腕を潰される様な衝撃がリリィの左腕を襲う。


「ダメよリリィちゃん!魔力が少ない今、魔力で強度も威力も変わる魔武は使い物にならないわ!!」


 イザベルが叫んだ時には遅かった。


 盾を下ろした瞬間直ぐそこにはリリィと同い年か年上の少女が目の前にいた。

背筋を凍りつかせるほどの臭う殺気にリリィは思わず睨まれた蛙の様に動けなくなる。


「やっと会えた、リコ姉」


 少女はそう言うと自分よりもはるかに大きい大剣を振り上げそのまま勢いよく下ろす。


「誰」


 右手に黒い片手剣を出して振り下ろされた大剣の刃を間一髪受け流した。


「やっぱり記憶が消えてるか」


 リリィの背中を取るとブンッ!と横に大剣を振る。


「ガハッ!!」


 盾でガードするものの軽々と綺麗な放物線を描き遠くへ飛ばされる。


 レンガの地面を蹴り一瞬で間合いを縮めると畳み掛ける様に攻撃をして更に遠くへ飛ばす。


「リリィー!」


 ドミニカは腰につけてる筒型のホルスターから杖を取り出し護衛をしようとしたが、イザベルに腕を掴まれた。


「今ココで魔法を使ったらゲートに襲われるだけ!仲間を集めてからよ!」


 魔力に反応したゲート達は自分たちを避けてリリィの方へ走っていくのを見てドミニカは舌打ちをし杖を下げた。


「もう遅いみたいルル」

「え?」


 ルルーの指差す方を見るとブラックホールの様な黒い楕円だえんの幕がいくつも見える。


「リリィちゃん......」


 襲われているリリィもその幕に気づいた時には遅く、突然ドッと風が起こるとあらゆるものが吸い込まれリリィは地面に剣を刺し耐える。


「やっぱり記憶が消えてるんだねリコ姉」


 謎の少女は平気なのか平然と地面に立っていた。


「あなた、誰」

「もうリコ姉にはどうでもいい事、直ぐにアイツもあの世に行かせるから」


 ゆっくり大剣を構える少女に「チッ!」と舌打ちをして、握っていた剣から手を離しゲートの手のひらから作られた幕に吸い込まれ、間一髪逃れた。


「逃げられたか、まぁそこで全てを思い出せれば、きっと未来は......」


* * * *


ー ??? ー


「谷川先輩!」

「健二先輩!」


 スーツ姿の若い男女は、右の頬に刻まれたクマに引っかかれたような一本の大きな傷跡が特徴的な50歳ぐらいであろう銀縁メガネの男に話しかける。


「もうお帰りですか?」

「あぁそうだ、早く帰ってゲームがしたいからな」


 二人の残念そうな顔に「どうかしたの?」と首をかしげる。


「実は私たちでこれから飲みに行くんですが先輩もどうかなと思いまして」

「ごめんな、また今度誘ってね!」


 ハハハ!と笑いながら肩をポンポンと叩き、傘とカバンを持ち会社を出た。


 しばらく歩いていると髭面の太っている男が、小さい女の子に話しかけているのが見え、明らかに怪しいと思った谷川は携帯の動画を起動し胸ポケットにカメラを出るように入れる。


「おい、いい年こいて何やってるんだ?」



 髭面の男は「ひ、ひぃ!」と振り返らずに逃げていった。



「まったく気がくるってやがる」



 怖かったのか小さく震えている少女に「キミ大丈夫?」と優しく話しかける。


 少女は黒の宝石付いたペンダントをぶら下げてこの世界では見慣れないローブを着ていた。


「......」


 そうゲートに幕に吸い込まれたリリィだった。

リリィは吸い込まれた時のショックのせいで自分が誰なのか、記憶を失っていたのだ。


「親に捨てられたのか、かわいそうに......」


 健二は初めて会うリリィをただの捨て子と思い、自分の家で保護することにした。


「どうだうちに来ないか?外は寒いだろ」


 リリィは話す言葉が理解できなかったが、とりあえずコクリと頷く


 家は二階建ての日本家屋で家の中はお香の香りがしていた、リリィを風呂に入らせてから、二人で食事にした。


「お魚さんは嫌いかな?」


 あまり箸が進まないリリィに話しかけるが、本人は首をかしげる


「言葉が通じないかぁ」


 食べ物に警戒するリリィに食べ物が安全で美味しいという事を証明する為、口に掻き込んで見せる。するとその姿が面白かったのか、クスクスと笑い真似をした。


「まさか......な、そんなはず、あの子が戻ってくるわけ」


 彼女の笑った顔は見覚えがあり、まさかとジッとリリィを見た。


 すると今まで気づかなかったが、ペンダントの石に薄っすらと彫られた魔法機動隊の紋章に気がつき表情に影が落ちる。


(あの子だ……)


 全て食べ終わると、リリィは右の頬についている傷が気になったのか、自分の頬をさすってまじまじ見つめた。


「あっあぁ僕のこれが気になるか」


 コクリと頷く


「これはだなぁ......」


 数秒考えてから「転んじゃったんだ」と笑うと、リリィは伝わらなかったが笑う彼を見て大丈夫なことが分かりニコリとした。


 その表情が再び彼の古い記憶を思い出させ思わず口から言葉をこぼす。


「何故、戻って来たの?オストラン様」


* * * *


- 魔法機動隊第5地区駐屯地


「なに?リリィがゲートに拐われた!?」


 いつもの余裕そうな表情が消えガタッと椅子から立ち上がる。


「はい、ただ今回は変わったことがありまして襲ったのはゲートではなくリリィちゃんと同じぐらいの少女でして、見ているとゲートを操っていた様にも見えました」


 説明するイザベルに「そうそう!しかも魔力は普通の魔法少女以上の魔力だったルル!


魔力の感じといい魔女に近かったルル!」とルルーは加える。


 妖精は魔力に敏感でルルーの言っている言葉にアイラはツーと額から汗を流した。


「魔女に近い魔力量の少女……肌の色は?」

「普通の人間と変わらない肌色の肌だよ」

「他に何かその少女について情報は?」

「そういえばリリィちゃんの事知ってたみたいだったよね」


 イザベルはドミニカの方を見ると「そうそう、でも"リコ姉"とかって言ってたな」と頷いた。


「リコ姉、か......実はリリィは記憶が曖昧なんだ、初めて会った時に過去の事を聞いても何も答えなくてね、もしかしたらリリィって名前もホームレス時代誰かからつけてもらった名前かもしれない」


「そういえば謎の少女も"やっぱり記憶が消えてるか"とか言ってたニィ」


「ゲートを操ることができ、リリィの事を知っている謎の少女......」


 椅子に座ると顎に手を置き考える。


「謎の少女とリリィの事を調べるとゲートの事について何か分かるかもな......アイラとドミニカは、第5地区のスラムイラ横丁にイルマというホームレスがいるからその人にリリィの事について聞き込みをしてくれ、 彼女はリリィと共に長い間生活していたから何か分かるだろう」


「分かりました、しかし謎の少女は?」


「ミポルプ、ニャーラーニー、ルルー、君らでまずは少女の居場所を探して来てくれ」


 3匹は「はーい」と手を挙げた。


「リリィの救出はほかのチームに任せる事にする。これでやっと長い悪夢から覚めることができるかもしれないな......」


"長い悪夢"全員はその言葉に固唾をのむ。


「この任務は5地区と4地区の極秘任務にする、全力で行くぞ!」

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