第07詠唱 新大陸を目指す魔法少女達~ 狩人のわらい ~
— 第2地区(表の世界 / 時刻・イザベル達が五地区に着いた日から一日前の朝
「急に魔力を感じなくなったルル~」
「きっと魔力を消してどこかへ逃げたミポ」
「かなり遠くに来たしもう引き返すこともできなそうニィ......」
ルルーロールとミポルプとニャーラーニィ はアイラから命令され結衣の住みかを見つけ、第5地区から一般的な魔法の箒では3日は掛かると言われている第二地区へ来ていた。
第二地区は山脈に囲まれていて地面も第5地区とは違い凸凹とした茶色の岩で舗装も何もされていなく所々ひび割れている。
この地区は全地区の中で一番ゲートが多いため人も他の地区へ行ったり、金のある者は人間族と良好関係な種族の所へ避難していて周りは逃げることのできないホームレス達のテントが点々と建っていた。
「店も何もないミポ、まぁ自然から出るマジックエネルギーをエネルギーとするミポルプ達には関係ないけど」
この世界には魔法少女や他の魔族が使用する魔法のエネルギー源を出すマジカルコアが地中奥深くにあり森の木々や花が地中からでるエネルギーを放出しているのだ。
ちなみにマジカルコアが無くなると魔法を無制限に出せなくなるんだとか......
「でも肉の味が恋しいルル~もうその味もわすれたけど」
三匹が大きなため息を吐き微かに香る魔力を辿ているその時だった。
「可愛いお人形さんみーつっけたー」
横に並んで浮遊していた妖精達は何者かに全員抱きしめられる。
子供っぽい高い声に細い腕、ルルは上を見て相手の顔を確認すると心臓が止まりそうになり言葉を失くした。
「さっきっから私をストーキングしてる悪い子逮捕~」
そう結衣だった。三匹は彼女からあふれ出る魔力に死を確信し気絶をする。
「あれ?気を失っちゃった?まぁいいや皆行くよ!」
ゲートを率いる彼女は妖精を抱きかかえどこかへ歩いて行った。
* * * *
「るる......」
目を開けると、まるでワッペンで布に空いた穴を隠す様に木の板で舗装されているボロボロな天井が見えた。
「ここはどこルル」
他の二匹も起きて辺りを見渡す、連れてこられた場所はどうやら教会のようだった。
長方形の様な部屋の形で前には蔓(つる)がタコの足の様に絡まった十字架があり、それに向き合うように年季の入ったキノコや苔が生える木製の長椅子が整列して置いてある。
しかし驚いたのはそこではなかった......
「ヒィ!ゲートにぃ!いっぱいゲートがいるにぃ!」
「あっちのドアからもゲートが出てくるミポ!」
ゆらゆらと歩きながら雑巾や箒を持つゲートが入ってくる。
「掃除でもするみたいルル」
「とりあえず逃げるミポ!」
周りには運が良く誰もおらず3人はあらゆる家具や柱の陰に隠れつつ出口に向かう…が
「なっ!奴らそんな所も掃除するルルか...」
三匹が向かっている出入り口にゲート達が十人集まると組体操のようにお互い腕を組み
高いタワーを作り、一人のゲートが天辺に乗り一番高いところにあるステンドガラスを雑巾で器用に拭き始めた。
「と、とりあえず近くにあるあの部屋に隠れるニィ」
後ろに”書庫”と書かれた札が張ってあるドアへニャーラーニィはふわふわと飛んで行き開けると、ルル―とミポルプを手招きをする。
呼ばれた二匹はトテトテと歩いて入り、出入り口からゲートが居なくなるまで様子を伺う事にした。
書庫は毎日掃除されているのかホコリは1つも無く窓もピカピカに拭かれていていた。
周りはやはり書庫というだけあり本棚に包まれていた、並べられているものは全て色あせした革装丁本ばかりだった。
ニャーラーニィが外の様子を心配そうに伺っていると、「これ見るルル」とルルーが自分より少し小さい手帳を抱いてミポルプの所へ行く。
「何ミポ?」
本棚を眺めていたミポルプは振り返り床にいるルルーの所へ、その手帳は特にみんなが使うような物で特徴は無く、昔使われていたのか見たことのない文字が書いてあった。
「見たことない文字ミポ」
「これは魔女の使ってた文字ルル、どうやら日記のようみたいルル」
「何でわかるミポ?」
「ルルーの故郷がこの文字を使ってた魔女の国の近くにあったからルル!」
妖精は皆同じ場所に生息しているわけでなくあらゆる国の何処かで生息しているため、語尾のニィやミポはその故郷の訛(なま)りだとか...
「ミポルプとルルー、ゲート達がドアから離れたニィ!」
「よし、この手帳は借りていこうルル」
ドアを開けて書庫から出て出入口まで来た時だった。
「あれ、か、体が」
「動かないニィ」
すると大きな影が三匹を覆い、ヌッと上からしなやかな手がルルーの持っていた日記を取る。
「人の物を勝手にとっちゃ駄目だよ~可愛い妖精ちゃん、あなた達はこの子達を運びなさい」
結衣だった、ゲートはコクリと頷くと像の様に動かいない三匹を優しく持って彼女のあとをついて行った。
なされるがまま文字通りのぬいぐるみの様に運ばれると周りの部屋よりも綺麗な部屋に着く、白のラインが入った壁紙の部屋でテレビや食器棚など生活感のあふれる部屋だった。
「その子達をソファーに置いて、貴方と貴方は四つアイスティーを」
そう言い鼻歌を歌いながらテーブルをはさみソファーと向き合う形で床に座ると、
人形の様にチョコンと座る三匹を見て「やっぱ妖精は可愛いなぁ、人形みたい」と写真を何枚も撮る。
「私も妖精が欲しいな~もうこの子達を私の物にしようかな~」
「ちょ、ちょっとルル達を捕まえて何が目的ルル!」
一通り写真を撮り終えるとカメラをテーブルに置き、「じゃあ、あなた達は私の後をストーキングしてたけど何が目的だったの?」と彼女はニコリと逆に問う
「そ、それは~......」
「大方予想はつくけどね、リコねぇの事でしょ」
図星だった三匹はビクリと背筋が凍り付く、見た感じリリィと結衣は敵対関係だと思っていた為殺されると思ったのだ。
「どうしたの?滝の様に汗を出しちゃって~」
意地悪そうにクスクスと笑いながらジッと瞬きもせず見る。
「まぁいいや、私は小さい子を虐める趣味は無いから」
前に垂れる長く白い綺麗な髪を後ろにやると指をパチンと鳴らした。
固まっていたからだが動くようになり三匹は前に倒れた。
「私の目的だっけ?私は魔導機動隊に入れてほしいからあなた達を捕まえたってわけ、
あなた達の組織に入って一部の人と道具を使わせてもらう代わりに、私はゲートの事とリコ姉のいる裏の世界へ行く情報を貴方たちに提供する、どお?悪くない話でしょ?ゲートに悩まされてるのなら絶対に知った方が良い情報だよ?言っとくけどこの先もゲートは増え続けるよ?」
三匹は頭を悩ませた、この上ない美味しい話だが下手したら彼女に組織をつぶされる可能性もあるのだ、彼女の溢れ出る強大な黒い魔力が三匹を更に悩ませたのだった。
「私は魔女並み...いやそれ以上に強いよ?」
「何故ミポ?」
「それは~リコねぇを排除する為に私はここ、表の世界に送られてきたから」
「り、リコねぇって誰ニィ?」
「あなた達の言うリリィよ、因みにリリィって名前はこの世界に再び送られてくるときに着けられた偽の名前、本名はリコリス・オストラン」
その名前にルルーは目を見開きタラリと額から汗を垂らす。
「どうしたミポ?」
「その名前、知ってるルル、リコリス・オストラン、黒灰の魔女という種族の悲劇の王女と言われていて一部では有名ルル」
「ふ~ん良く知ってるじゃん」
「死んだ事が知られた時100人以上の作家によって伝記も作られるほどルル、でもなぜ生きてるルル?きっと生きてることが知られたら」
「何故生きてるかは私を魔導機動隊、それも五地区に入れてくれたら教えてあ・げ・る
でも君が心配してる事はもう起きないよ」
「何故ルル?」
「この世から魔女は消えたから」
「えっ!?」
三匹は驚きのあまり次しゃべる言葉を見失う、しかしそれも無理もないだろう
魔女は基本的にどの種族よりも長生きし平均千年以上は生きるんだとか、更に飲むと若返り寿命が10年延びるといわれるユニコーンの血を飲むのが習慣になっている種族だった為、魔女だけは種族の中でも永遠になくならないとまで言われていた。
また魔力も黒灰の魔女を外したらどの種族よりも群を抜いて最強な為、他種族に滅ぼされる事もないらしい。
「まぁそんな事よりどうするの?」
まだ「う~ん」と悩んでいると、彼女はテーブルにあった日記を手に取り「あ、そうそうコレにはリコねぇの専属メイドが記したあらゆる情報が載ってまーす、し・か・も
さっきの書庫にあった本は全て黒灰の魔女や魔法の事が記された物です、歴史的にも価値があり知識的にも価値がある、売ったら毎日豪遊しても人間族なら死ぬまで遊んで暮らせる程だよ?どう?知りたくない?」と釣ると、ルルーは頷いた。
「分かったルル、でもルルー達はリリィを救いたい、だから殺さないでほしい
それなら、部隊長に会わせてもいいルル」
「はいはい、実は殺す気なんてさらさらないんだよ、ただまた一緒に暮らしたいだけだから」
彼女の真っ直ぐな瞳に嘘偽りは無く、その言葉には計り知れない重みを感じた。
果たして彼女達にどんな過去があったのか......
「じゃあ善は急げだよ!今から向かおう!」
彼女はそう言うと三匹を抱いて外へ出る、が直ぐに足を止め三匹に「教会に入ってて」と命令する。
「どうしたニィ」
「心配しないで、命知らずの雑魚が集まってるだけだから」
ミポルプ達は言われた通り教会に入ると、入れ替える様にぞろぞろとゲートが出てきた。
「魔法少女、そこにいるんだろ?3秒間のうちに逃げれば命だけは見逃してやる」
しばらくの沈黙が辺りを支配する、森の枯葉が雪の様に落ちてくる中、ひらりと一枚の枯葉がリコリスの目の前に通り過ぎた時だった。
ズドンッ
動き出したのは向こうだった、空にこだまする耳の奥を突く音と共に弾は風を纏い枯葉を貫き結衣の額に真っ直ぐ飛ぶ
紙一重のタイミングで彼女は大剣を出し弾をはじくと地面をえぐり真上へ飛び上がる。
「見えてるんだよ!」
目では見えて居ないはずの箒につま先をかけると大剣を振り赤い血と共に姿を隠していた体が真っ二つになって姿を現し地面に落ちる。
「たった3人か」
全員スッと姿を現すとカメラを持っている緑色のローブを着た魔法少女は逃げ、それを援護するように他の魔法少女は青のローブから戦闘服であるフリルのワンピース姿に変身する。
「いい歳したお姉さんがそんな派手な格好して恥ずかしくないわけ?」
ゆらりと大剣を後ろに構え腰を低くして前傾姿勢になると、音を置いてく速さで残りの二人も一瞬で血肉の雨にする
「もう出てきても良いよ」
「ミポォ......なんで二地区と四地区がこんなところに」
「ルルー達を知っていて銃を構えてたルル...どうなってるルル?」
「まぁ今はそんな事より早く五地区に行くよ!」
持っていた大剣を消すと左手から箒を出し、第五地区へ飛んで行った。
* * * *
- 魔導機動隊・第二地区駐屯地 / 時刻・その日の夜
「カラリア様、ただいま第ニ地区南西にあるコッツ村から帰りました」
コッツ村、結衣が住んでいた森の中にある人間が一人もいない村で別名忘れ去られた村ともいわれている。
「コッツ村とは随分近い所にいたな」
カラリアは頬杖を突きつつ退屈そうにコーヒーを一口飲む。
「で、妖精達を着けて居ましたらゲートを操る少女と接触していました」
「ゲートを操る少女?」
手に持っていたコーヒーを置き女性の渡す写真を一枚一枚目に焼き付ける様にしっかり見た。
「少女は随分と小さいな、そういやゲートに襲われたリリィという第五地区の子もこのぐらいだよな」
「その少女より2歳ぐらい幼いですよ、あとこれが録音したものです」
胸ポケットからペン型の録音機を机に置いて再生した。内容は戦う時の三匹と結衣の会話だった。
「フッ、これでやっと全てが終わる...かもな、君は五地区へ向かってるゲートを操る少女と妖精を捕らえよ、私は五地区の部隊長アイラと何を企んでいるのか話してみる」
「しかし四地区は?」
「勿論その地区も含めてだ、君には対魔女ようの魔石を7つと人数分の新型の魔法の箒と15人の魔法少女を渡す、よろしく頼むよ」
「じゅ、10人?この地区の6割も使うではありませんか」
「これでゲートの事が知れるのなら当り前だろ、さぁ行け!」
「はっ!アレンカ・バルーテク行きます!」
アレンカは走って外に出た。
「さぁそろそろ店じまいにしようじゃないか......」
狼の様なギラリと冷たく光る八重歯を見せ、口端をつり上げて椅子から立ち上がる。
— 悪魔(アイラ)! -
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