第23話 ちょこっとおまけな裏話

「さて、はりきって作りますわよ」


 私は朝早くから、可愛いヒヨコちゃんのイラストのエプロンを着用し、一人してキッチンに立つ。

 

 そう、今日は恋人通しが愛を深めあうイベント、2月14日、バレンタインデー。


 今年は、美希みきも手作りに挑戦することにしましたわ。


 あのお菓子作りが初めての由美香ゆみかさんが作れたのですから、美希に作れないことはないですわ。


 何せ、美希はあの定番のホットケーキをバンバン作れるのよ。

 

 前日から仕込むのではなく、ぶっちゃけ当日でも、かかってこいな感じですわ。


 さてと、まずは刻んで、湯煎ゆせんをするために金属ボールの中にうつして、ジワジワと溶かしていくと……。


 こんなのスマホの動画を見ながらやれば楽勝ですわ。


『プツン……』


 あら、スマホの画面が映らないわ?

 おかしいですわね、電池が切れたのかしら?


 まあ、心配は無用ですわ。


 ここまでくれば溶かしたのを型に入れて二時間ほど冷やして固めるだけですから、何も問題はありませんわよ。

 

 さあ、美希の華麗なテクニックを、そうご期待ですわ。


 ──ああ、仕事から疲れて帰ってきた愛しのダーリンが美味しそうに癒されながら食べる姿が頭に浮かぶわね。

 

 早く仕事から帰って来ないかしら……。


****


「ただいま……」


 ──ぶるっ、何か寒気がするなあ。

 それに、この部屋中に漂う香ばしい香りはなんだ?


 今日の食事当番は美希だったけど、まともな料理は出てくるのだろうか。


 彼女の料理はいつも独創的どくそうてきだからな……。


 この前もタコの刺し身とか言って、さばかずにそのままで生きている姿を、食べさせられた苦い想い出があるからなあ。


 もういいや、我よと祈りながら足をかじったら、暴れだしたタコから顔面に墨を吹きつけられて──あの時は参ったな……。


****


「お帰り、頼朝よりと。今日の作品は期待していいよ♪」


 帰って早々、俺をリビングのテーブルに座らせる弾けとんだ笑顔の美希。


 見たところ、テーブルにちょこんとある可愛いらしき食べられそうな物体は、少し形が崩れたハートチョコみたいな感じに見えなくもないのだが……。


「そうか、今日はバレンタインか」

「そうそう、召し上がれ♪」

「でも、何で隣にご飯があるんだ?

チョコにご飯とか合わないだろ?」

「まあまあ、そう言わず食べてみて」


 俺は何も考えずにそれをかじる。

 口の中でそれは溶けて中で激しく暴れだす。


「かっ、からいいいー!?」


 口から火を吐くような猛烈な辛味。

 あまりの激辛に耐えきれず、俺は慌ててガラスコップの中の冷たい麦茶を飲み干した。


「何でカレー粉の固まりなんだよ!?」

「いやですわ、もう晩ご飯の時間だから、ご飯ものがいいかなと思ってまして♪」

「しかもこれ、相当辛いんだが?」

「ええ、ハバネロや四川しせん唐辛子をたっぷり入れましたわ」

「余計に食えるかー!!」


 俺は思わずテーブルごとひっくり返そうとしたが、耐震設計の作りで床にネジで止めてあり、微動だもしない。


ひどいわ、DVだわ……」

「まだ何もやってないだろ?」

「今、テーブルをひっくり返そうとしましたわよ……?」

「ただの目の錯覚だろ……とりあえずいいから晩飯にしてくれ……」

「だから、そこにあるじゃないですか?」


 美希がハート型のカレー粉を強引に俺に食べさせようとする。


「だああー! もういい。今晩も俺が作る!

いつもの野菜炒めでいいよな?」

「ええ、ありがとう。頼もしいダーリンですわ♪」


 今なら竜太りゅうた、お前の考えが身に染みて分かる。

 

 夫婦生活も色々と大変だな。

 お前らもいつまでも仲良くしろよ……。


「だああー! 何でバターやマーガリンが大量にあって、サラダ油がないんだよ!」

「ええ、持つべきものは食パンですわ♪」

「もう、お前の飯は毎日パンの耳にするぞ!」

「酷い、やっぱりDVですわよ……」

「何でそうなるんだよ!?」


 ああ、もうキリがないから、この辺で俺達の物語もお別れだ。


 みんなも頑張って素敵なパートナーを見つけろよ。 


 ──あと、万が一のために簡単な料理くらいは出来るようになっとけよ。


 とにかく初めは味噌汁作りから覚えるんだ。


 ──茶碗で計った水に粉末のダシを入れた鍋の中に具材を入れて煮込み、沸騰したら火を止めて、味噌を溶かす──まあ、よく練習を重ねるんだな。


 腹が減っては戦はできないからな。


 ついでに料理ができないパートナーにも料理を覚えてもらえよ。


 夫婦は二人三脚にりんさんきゃくがモットーだからな。


 ──それじゃあな。



 be over……。



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