第8章 これからの物語に光あれ

第22話 純白の終結

『ザアアアアー!!』

「きゃあああー!?」


 ──夕方、桜の花が舞い散る花見の帰り道。


 華やかだった花見からして、癒しな優越感ゆうえつかん余韻よいんに浸っていたら、突然、バケツをひっくり返したかのように激しく降り出す無数の雨粒たち。


 俺達は帰る途中にゲリラ豪雨にあい、身体中からだじゅうはずぶ濡れとなった。


「うひゃひゃひゃー♪」


 なお、眼鏡を外した頼朝よりとに関しては完全におかしくなり、やたらとハイテンションになっている。


「……いくらイケメンだからでも、そのギャグ漫画のような笑い方は反則だろ?」

「超刺激的で快感~♪」


 体をウネウネとウナギのようにくねらしている頼朝を眺めると、頭の中ではお調子者の図にしか浮かばない……。


「もう、一生言ってろ……」


 ……やがて、しばらくすると雲から再度、夕焼けの光が射し出し、天気が持ち直す。


 どうやら本当に夕立だったようだ。


 俺は、その狂った頼朝から離れて、女子連中の反応を伺う。


「……大丈夫か?」


 俺はあとさわりのないように、できるだけ優しく彼女らに接する。


「いやーん、気持ち悪い。下着までびしょびしょだよ……」

「これは最悪ですわ……でも一時的な雨で良かったですわね」

「帰ったらシャワー浴びないとね」


 不平不満な口ぶりの由美香達だったが、何やら、こちらも楽しそうだ。


 だけど、何かがおかしい。

 俺は、彼女らへの気遣いの声かけを止めて、そう感じていた。


 まだ3月かは知らないが、この雨に濡れて俺の体は冷えきっている。


 現に俺の体からは体温を奪われ、腕の服の袖をまくると、露出した肌は鳥肌が立ち、わずかに身震いもしているからだ。

 

 ……それなのに彼女達は何ともないのは明らかさまに変なのだ。


「ミコト、やっぱりお前の能力か?」

「当たり。風邪でもひかれたら困るでしょ。今から男性陣も平等に暖めるね♪」

「ありがとうな。まあ、いつぞやの俺が感染した宇宙風邪よりかはマシかも知れないがな。あれはインフルの苦しみを超えていたぜ……」

「あっ、それ懐かしいね~♪」


 ミコト直々で、人にはうつらないウイルスとか絶対発言をしながら、あの時、俺から母さんにうつった宇宙風邪。


『風邪』の言葉がついてる限り、病気が拡散される恐れは十分にあるのだ。


 ──話は少しそれるが、それにしても、あの絶望的な状況で、よくあの複雑かつ重厚な運命を俺は塗り変えたものだ。


 あれは、まさに奇跡の出来事に近い。


 あの時は常に必死だった。

 

 とにかく大切な仲間を誰一人も亡くさないことを心の片隅で約束しながらも頑張がんばり、時に傷つき、時には命を失いながらも乗り越えてきた。

 

 俺は最後の最期で幸せな世界へと人生を塗り替えたのだ……。


****


 俺達は濡れきった体で何とか家に到着した。


 それと同時にミコトが『太陽熱の暖房』とやらの能力を解除したため、一気に寒さが押し寄せる。


 ちなみに『その能力を付けたままで部屋に入れば?』と俺が提案したら、


 この能力は虫眼鏡に光を当てて、熱を収束させて暖めているから、

室内では家具などに当たって燃える恐れがあり、使う場所を選ばないと大変危険な技のようだ。


「ねえ、竜太りゅうた。先にお風呂入っていいかな?」


 帰宅してなり、おずおずと俺の返答を待ち、可愛い仕草を見せる妻の由美香ゆみか


「ああ、いいぜ……ぶぶっ!?」


 だけど俺は何気ない返事をし、とてつもない物を見てしまった。


 雨に濡れて由美香の服が肌に吸いついていて、中の下着が丸見えなのだ。


 まるで天女の羽衣のようにスラッとした純白な下着だ。


 清純な由美香らしい。


 ──いや、違う。


 これ以上、感想を述べ続けるとただの欲情者で、明日からみんなに後ろ指を指されながら、変態へのパレードへとまっしぐらだ。


「どうしたの?」


 だからどうした? じゃない。

 

 このままでは鼻からの出血多量で倒れてしまう。


 由美香、頼むから早く俺の近くから離れてくれ……。


「どう、竜太君。私が選んだ新妻様の下着姿は?」

「……やっぱり美希みき、お前の差し金か!」


 てへぺろと可愛く舌を出す美希だが、

美希自身も透けて見えているのだが……。


 黒をメインとし、フチがピンクのセクシーで大胆な下着が……。


「だああ、美希も俺を誘惑するな!

お前も風呂に入ってこいっ!」


 そうやって美希を俺の前から追い出す。


 彼女はキャハハと子悪魔的に笑いながら由美香と一緒に脱衣所へと消えた。


 ──しばらくして……。


「キャー! 由美香さん。しばらく見ないうちにまた胸大きくなってないですか?

ちょっと計らせてくださいわ!」

「ちょっと、美希ちゃんてば、あまり触らないでよ」

「何? この調子では旦那から毎日揉みまくられてるんじゃないのかしら?」

「だから、くすぐったいから止めてってば!」


 風呂場から黄色い女子トークが丸聞こえである。


「よし。竜太、覗きに行こうか♪」


 頼朝が鼻息をフンフンと荒くし、眼鏡をクイクイと支えながら、劣情れつじょうした犯罪者? のような目つきで俺を見ている。


「お前、それでバレたらただじゃすまないぜ」

「何、イエスギリストのはりつけの刑罰くらいなれてる」

「いや、あれは楽じゃないぜ。最期までそのままの状態で、次第に体が前のめりになり、窒息死で確実にお陀仏だぶつ行きだぜ」

「そ、そうなのか!?」


 長い間、地下牢で生活したせいか、頼朝に学習能力の低下が見られる。

 

「そうか、世界史の勉強までも忘れてしまったか。よしよしだぜ」


 頼朝の頭を年少期の子供のように優しく撫でる。


 こいつは俺にとって、もはや中学生だ。


「何か子供扱いされてるみたいでに落ちないな……」

 

 子供扱いされたことに腹を立てるどころか、逆に落ち込んでしまう頼朝ぼっちゃん。


「まあ、そう言うわけだから覗きは駄目だぜ。男なら声だけ聞いて妄想さ」

「あいよ、分かりやした」


 本当、聞き分けのよいぼっちゃんで良かったぜ。

 かくなる俺も妄想半島に上陸しかけたけどな……。

 

 しかし、地下に長くいたせいか角がとれてすっきりした丸石のような頼朝らしくない発言と態度だな。


 俺の方が年下なのに、これではどっちが年上か分からない。


 俺の微かな記憶では頼朝は、もっと男らしくてサバサバしていたやつだったはず……?


 もしや、マンテに人間には迂闊うかつには逆らわないように絶対服従で教育されたのか?


 まあ、マンテ本人がいない今となっては、頼朝自身の急激な性格の変化は謎となってしまったが……。


「まあ、それよりも頼朝。ちょっと手を貸してくれないか」

「おう♪」


****


「はあ、風呂上がりのコーヒー牛乳は美味ですわね」 

「美希ちゃんオッサンくさいよ」


「──本当、いいお湯加減でしたね。それに浴室も綺麗でした♪」

「ふふっ、ミコトちゃん、ありがとう~♪」

 

 女性連中が風呂からあがった不意を狙い、俺は彼女らを出迎える。


「さあさ、お待ちしていたぜ!」


 んっ? という疑問点を膨らませた3人。


「あっ、これは!?」


 女性陣の肩が揺らぎ、三人して驚きを隠せない。


 リビングの食卓には美味しそうに湯気を立てた夕ご飯の料理が並んでいるからだ。


「まあ、定番のカレーライスとサラダだけどな」

「でも凄いよ。男手二人で作ったんでしょ?」

 

 由美香のさりげないべた褒めが嬉しく、俺は心の底から『ヤホォー♪』と声を大きくして叫びたくなる。


「ふっ、こんなの楽勝だったよな!」

「いや、頼朝はレタスの真ん中に包丁をぶっ刺して遊んでいただけだろ。まさか芯も取り除けないとは……」


 本当、頼朝の料理センスは皆無かいむだったが、彼の話によると美希はもっと酷いとか……。 


 噂では、お好み焼きもマトモに作れないらしい……。


 毎日どんな食生活をしているのか。


 下手な料理好きの相手とやらに想像しただけで悪寒おかんが走る。


「竜太、頼朝。ありがとう♪」


 そんな俺の考えなど知れず、由美香を含めた女性陣はワイワイしながら、俺たちと食卓を囲むのだった。


****


 それから、食後のデザートとしてバニラアイスを平らげて、みんなでゲームを楽しむことにした。


 だが、俺たちの家にはゲーム機種はない。

そこで取り出したるは……。


「……トランプであ~る!」

「わーい。みんなで遊べる定番きたよ。何のゲームにするの?」

「ズバリ、俺が得意な神経衰弱で勝負だぜ!」

「ええ、望むところですわ」


「ちなみにビリは下着姿でこの家の周りを三周な」

「なっ、それはセクハラだよ」

「何の。負けなければいいんだぜ。

このIQ200(大嘘つき)の俺の頭脳をなめるなよ」


──そして、

 見事に惨敗……。


「──何の。次は負けないぜ!」

「もう止めなよ、これでビリ20連敗だよ。

──諦めて罰ゲーム♪」


 ミコトの目がギランと光り、ニタニタと笑いながら俺の服を脱がす。


 そうか。

 してやられた。

 

 俺は楽しさのあまり、この宇宙人の能力を頭の隅へと追いやっていた。


 すべては彼女の仕業だったのだ。


「今さら気づいても手遅れですわ。さあ、堪忍かんにんするですわ!」


 いや、この女子連中は、この遊びをする時からグルだったのか……。


 ──よってたかって下着姿になりかけた俺はその場から脱走し、逃げようとしたがミコトの能力により、強制的に庭へと移動させられた。


 こうなったら恥を忍んで走るしかない。 


 俺自身が言い出したことだ。

 何であろうと勝負に負けたら罰を受けるしかない。


 誠に悔しいが、俺は最初から罠にかかっていたのだ。


 俺は周囲の人々からの痛い視線をひしひしと感じながら走り出すのだった。


「……ふふふ、この世界を救ってくれてありがとう」


 ミコトが小さなタンポポの花の標本を手に、優しい笑みで俺の姿を見つめながら……。


****


 ──みんな、ここまで俺達の旅に付き合ってくれてありがとな。


 みんなが応援してくれたお陰で俺は頑張って幸せを手に入れた。


 これからも辛いことがあると思うけど、精一杯立ち向かえよ。


 過去は変えられない。

 だが、未来なら変えられる。


 この俺がこうやって歴史を変えたように……。


「──なあ、由美香とお腹にいる赤ちゃん……」

「はい。竜太。 

私、元気な赤ちゃんを産みますから。

──それでは、みなさん。また会う日まで」


『さよならー!』


 LOVE(幸せ)なカードを手前に並べて……。


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