第13話 ガールズノーライフ
電気をつけたまま布団も掛けず寝ている直樹。昨夜、なかなか寝付けなかった事もあり、今日はお昼を過ぎてもグッスリ眠っていた。
チャラチャン……チャラチャン……
スマホから鳴り響く着信音……また晴希からのLINKだろう……想いが膨らみ過ぎて既にオーバーヒートしている直樹はそのまま放置して寝る事にしてしまったのだが、夕方になっても何度も鳴る着信音に違和感を感じ、恐る恐る内容を確認するとそこには……
【緊急招集】
うっすらと浮かんだ雲が茜色へと染まる頃、一人駆けてゆく直樹。額から流れる汗は宙へ舞い、夕空のオレンジに照らされ光り輝いていた。
直樹が向かった先は……
魔導集団
『
魔導集団と言っても別に魔法を使える訳でも手品が出来ると言う訳でも無い。実際のところ
メンバーにはそれぞれ戦隊ヒーローを彷彿とさせるようなコードネームがつけられており、一番
『
正直、かなり恥ずかしいネーミングだったが直樹自身は案外と気に入っている様である。どうやら今日は直樹の30歳の誕生日を記念してリーダーの
ピーンポーン
「すみません遅れてしまって……」
『
アジトではハイマジシャン達が仁王像の様な険しい面持ちで立ち並んでいた。彼等の表情が物語っていたのはこれから訪れるであろう嵐の前触れ……
「おせぇぞ『ピュアグリーン
甲高い怒鳴り声と共に後方から現れたのはリーダーの安倍だった。時間に遅れた事もあり、鬼の様な形相で睨みつけてくる安倍……怒髪天を衝くとはまさにこの事を言うのだろう。
あまりに突然の事ですっかり動揺した直樹は汗ばんだ右手をギュッと握り締めながら必死に言い訳をするのだったが……
「すみません。あっあのでも……気付いたのが夕方で……どうしても間に合わ……」
「言い訳すんじゃねぇ。だいたいお前はなぁ……」
安倍からの誘いに気付いたのは夕方だった。寝ていてスマホを見ていなかった直樹は勿論悪いのだが、当日になって急に企画する安倍にも全く否がない訳では無い。
苦し紛れに言い訳をする直樹だったが……この言い訳が完全に安倍の怒りへと火をつけてしまったらしい。
―安倍の怒りが爆発する事 10分―
直樹の目からは大粒の涙が零れていた。鼻水と入り混じりながら床へと滴り落ちる水滴を見て流石の安倍も言い過ぎたと頭を掻きながら苦笑いをしている。
リーダー
『
最年長の
他のメンバーに慰められ直樹が落ち着きを取り戻すと安部が気を取り直した様に号令を掛けるのだった。
「え~この度は我等が
「よってここに協定を結び、この
プシュ……プシュ……プシュ……
全員立ち上がり、まだ霜のついた缶ビールを手に取ると一斉に蓋を開けた。この宴を待ち侘びていたかの様に溢れ出す白く細やかな泡は腕伝い床へと垂れている。天井にビールを掲げると一同は一斉に叫んだ。
「新たなるマジシャン誕生と更なる発展を祈りまして……ガールズノーライフ」
「ガールズノーライフ!!」
【
ファントムグリフでは恒例の乾杯の
「くうぅぅ美味い」
「最高ぉ」
手に持ったビールを一気に飲み干すと瞳を閉じ、その余韻に浸ってるマジシャン達。暫しの歓談の後、ハイマジシャン達が直樹の下へとやって来た。
だいぶお酒も入っているのか彼等は上機嫌だ。首に腕を回したり肩に寄りかかったりといつもよりも手荒い歓迎を受ける直樹だが、その表情は明るかった。
「ははは……ついにピュアグリーンも俺達の仲間入りか」
「今日はめでたい日だ。盛大に祝ってやろう」
「安部さん傲りらしいから沢山飲もうぜ……ははは」
「あっ……はい。ありがとうございます。皆さんには本当に感謝しています」
久し振りのご馳走を目の前に楽しく飲んでいる様に見せ掛けている直樹だったが、実際のところはかなり複雑な心境であった。
晴希の事もあり、みんなを騙している罪悪感から中々お酒には手が伸びず、暗く
―宴会 2時間経過―
殆どのメンバーはスッカリと出来上がっていた。気付けば妬みや恨みが入り交じる恒例の愚痴大会が始まり、お酒のペースも次第に加速……宴は更にエスカレートしてゆくのだった。
「たくっ……あの若僧がのろけ話ばっかりしやがって俺の気持ちわかってんのか?」
「ハハハ……リア充爆発しろ」
「モテ男はみんなモゲれば良いのだにぃ」
「そうだリア充核爆発しちまえ」
モテない男の末路……実に見苦しい光景である。人間こうはなりたく無いと感じる一方、こうやって愚痴を吐き出す場も必要なのだと理解し、ただ聞き入っている直樹だったが、そんな直樹に1人ツっかかってくる男がいた。
「おい草原。お前も今日から正式に『
『
角刈り痩せ型のチンピラ風。普段は物静かな性格をしているのだが、こと恋愛話やお酒が入ると人が変わったかのように周りへと当たり散らす気難しい人物であった。
「あっ……ささっ佐武さん……僕が抜け駆けなんてそんな事……」
口とは裏腹に……思い出すのは晴希のあの言葉。
『私の処女を……』
既に抜け駆けの様な事をしている直樹に取って佐武の言っている事はあまりにも的を得ていた。
「まあまあまあ……佐武さん。今日は草原君の記念すべき誕生日ですし、ここは穏便に穏便に……」
鬼の様な形相で迫ってくる佐武。激しく揺さぶられている直樹だったのだが見かねたメンバーの1人が仲裁へと入ってくれる事になった。
『
金色の長髪に黒縁の四角い眼鏡が特徴。メンバーの中では一番まともな顔立ちと言うか実は結構イケメン。性格も穏やかでメンバーのまとめ役なのだが……今日は相手が悪かった様だ。
「おいピースホワイト……テメェこそ何シラフ決め込んでんだよ。お祝いなんだろ?ほらっ良いから飲めよ……おいっ」
お酒は弱いからと拒否する城崎であったが佐武は強引に一升瓶を口へと押し込んでしまった。城崎の顔は見る見るうちに赤くなり、目は虚ろ……ふらふらと部屋を徘徊するとそのまま倒れてしまった。
その様子にすっかり満足した様子の佐武は部屋の隅へと移動すると一人でチビチビと飲んでいた。
―宴会 3時間経過―
安部と直樹以外のメンバーは床に寝そべり大イビキをかきながら酔い潰れていた。あれだけ浴びる様にお酒を飲んでいたのだ……当然の結果と言えるだろう。
その様子を見ていた安部は眉をハの字にしながら呆れた様にため息をつくのだった。
「いい歳こいて酒に呑まれやがって……たくっしょうがねぇヤツラだな。コイツらはウチに泊めてくから草原は帰れ。布団も6枚しか無いしな」
「あっはい。今日は本当にありがとうございました。このご恩は一生……」
「いちいちオーバーなんだよお前は、まぁ気を付けて帰れよな」
安部達に感謝しながらも深い罪悪感に苛まれた直樹は肩を落としながら家へと足を進めた。
ビュー……
少し湿気を帯びたその風は春の終わり告げると共に夏の訪れを告げる初夏の風の様であり、更なる波乱を予感させるのだった。
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