第4話 モーニングロッキー

 チュンチュン……チチチチッ……


 小鳥の囀ずる声……暖かな陽射しに照らされて目を覚ますとそこはベットの上であった。体を起こすと頭が酷く重い……きっと夕べの飲み過ぎが原因でアレが起きていた。



泥酔翌日の後悔モーニングロッキー



 俗に言う二日酔いである。後悔先に立たず、限界を超えて飲み過ぎると翌日は辛い……やはりお酒は程々が良いようだ。


「ああっ!!」


 昨夜の事を思い出し、辺りを慌てて見渡すが、そこに女子高生の姿は無かった。


「ふぃー……」


 安心して肩を下ろす直樹。昨夜のやり取りは全て夢だったに違いない……モテない男の煩悩が生み出した欲望に満ち溢れた夢。どうせ夢落ちなら一線を越えてしまっても良かったんじゃないかと悔やんでいる直樹であったが……


 トントントントン……

 ジャー……

 カシャラカシャ……


「んん?何の音だ?キッチンが方からだよな。それに……何だか良い匂いも……」


 恐る恐るキッチンを覗くとそこには昨日の女子高生『晴希』が何やら料理を作っていた。


「美味しくなぁれ!美味しくなぁれ!!……ふふふっ」


 ゴクリっ……ガタッ!!


 唾を飲み込みながらその様子を伺っていた直樹だったが……動揺して扉に肘を当ててしまう。

 その音に気付いた晴希は直樹の方を見ると何事も無かった様にニッコリと笑顔で挨拶して来るのだった。


「あっ直樹さん、おはようございます。すぐに朝食にしますからね」

「えっ……なななっなんでいるの?それに朝食?えっ?ええっ?」


 まさかの事態に驚きを隠せず、またも頭を抱えてしまう直樹。一方、晴希はというと……口に手を当てながら体をモジモジとして、どこか照れくさそうな表情かおをしてながら近づいてくる。


「なんでって……私達、昨日あんなに愛し合ったじゃ無いですか。直樹さんったら私の事を押し倒してあんな事やこんな事まで……うふふふっ」


「あっ……あああ…………」


 晴希の言葉に直樹は声を失った……己の欲望のままにこの純粋な少女を犯し、一生消えない傷をつけてしまったのだから。


 後悔……絶望……深い罪悪感にさいなまれると、その顔は青白く……まるで死人の様に変貌してゆくのだった。


「ごめん晴希ちゃん。僕は……僕は……とんでもない過ちを……。この罪は一生掛けて償うから……だから……その……」


 自らが犯した罪の重さを犇々ひしひしと感じながら直樹はただ必死に謝った。本当に申し訳ないという気持ちで胸がいっぱいだった。そんな直樹を見て晴希は……


「ふふふっ……冗談ですよ。昨日は直樹さんが突然倒れちゃったからエッチな事は何もしてません。ベットに運ぶ時にキスをせがまれたのには流石に焦りましたけどね……えへへっ」


「えっ?あっ……酔った勢いで襲ったんじゃ無かったのか。ふぃー……ヒヤヒヤした。でもキスをせがんでいたなんて……なんかごめんな」


 晴希との間には何も無かった事にホッとしていた直樹だったが、晴希はここでも追撃の一言を発っするのであった。


「じゃあ直樹さんも起きた事ですし、昨日の続きをやりますか。はいっ、私の『』を……」


「ダァー。もうやめてくれー」


 夢じゃ無かったのは良かったけど……いや返って夢だった方が良かったのかはわからないけれど、この日から晴希との不思議な関係が始まる事になった。


 証明行為を引き止めた事により、少し不機嫌そうな晴希は眉をグイっと吊り上げると当然の様に直樹へと詰め寄って来るのだった。


「好きな気持ちを証明しろって言ったのは直樹さんじゃないですか。どうしてそんなに拒否するんですか?もしかして私の事……嫌いですか?」


 今度は眉をハの字に曲げて少し不安そうな顔をしている晴希。嫌いな訳が無い……寧ろ、好き過ぎて今すぐにでも抱き締めたいとすら思っていた直樹であったが……相手は華の女子高生。


 グッと手を握り締め、高ぶった気持ちを抑えると大人な対応でその場を乗り切ろうとする直樹であったが……

 

「いやいやいや好きとか嫌いとかそう言うんじゃ無くてだな。その……こういうのは結婚を前提にしたカップルとかが普通やる事でしょ?晴希ちゃんが本気だっていうのは十分わかったからさ」


「じゃあ付き合ってくれるんですか?」


 必死に説得を試みる直樹だったが、一向に折れる気配の無い晴希に内心焦っていた。


「いや……その……こんなオッサンが彼氏じゃ格好悪いだろう?それに晴希ちゃんのお父さんやお母さんも悲しむと思うけどな」


 直樹としてもここで食い下がる訳にはいかなかった。なぜならここで認めてしまえば晴希と……女子高生と付き合う形になってしまうのだから。


 それだけは何としてでも避けなければならなかった。

 

「私の両親はだいぶ前に亡くなってますから……大丈夫ですよ。気にしないで下さい」


 それこそ問題あるんじゃないか?っとツッこみたい直樹であったが、両親の話になった途端、急に悲しそうな表情かおをした晴希の事が気掛かりだった。


「なんかごめんな。ご両親の事を……辛い事を思い出させちゃったみたいで……。でも晴希ちゃんには自分の体をもっと大切にして欲しくてさ。すっごく可愛いんだし、僕なんかよりずっと素敵な人がきっと現れるから……だから……」


「ふふふ……優しいんですね。私、直樹さんの事を益々好きになっちゃいましたよ。あっそうだ!!泊まらせて貰ったお礼に朝食を用意させて貰いました。良かったら冷めないうちにどうぞ」


 結局、何の解決にも至らなかったけれど、話題が朝食へと移った事で直樹は小休止を得る事には成功した。


「あっ……ありがとう」


 ちゃぶ台の上には……綺麗に焼かれた目玉焼きによく染みている大根のお味噌汁、鮮やかな緑際立つキャベツのソテーとシンプルだが色合いも栄養バランスも考えられた見事な朝食が並べられていた。


「こんな美味しそうな朝食久し振りだよ。頂きまーす。もぐもぐもぐ……おっ凄く美味しいよ。晴希ちゃんは料理が上手なんだね」


「ありがとうございます。冷蔵庫の物を勝手に拝借させてもらいましたが、お口に合ったなら良かったです」


 晴希の作った朝食は本当に美味しかった。特に味噌汁の味付けは格別でアッと驚く程、出汁がいていた。もしかしたら実家にいる母よりも料理の腕は良いのかも知れない。


 美味しい食事で脳に活力が戻ったのか直樹の脳裏にはこの状況を打破する素晴らしい名案が浮かんでいた。


 この作戦が成功し、上手いこと誘導する事が出来ればきっと晴希の恋愛対象からも外れる事が出来る。

 この圧倒的に不利な状況からも脱する事が出来るだろうと目論む直樹の顔はただならぬ自信に満ち溢れていた。

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