第3話 エクスカリバー
男達から逃げる様にして家へと向かう直樹と謎の女子高生。次第に強さを増してゆく雨の中をただひたすら走っていた。
降り
「あぁもう……酷い雨。中までびっしょり」
「あちゃ……結構濡れちゃったな。今、タオルとか出すから適当に腰掛けててよ」
「あっ……はい。ありがとうございます」
―直樹の部屋―
一人暮らしにしては割りと広い1DK間取り。日焼けして哀愁漂うアイボリーの壁に床には黒地のカーペットが敷き詰められていた。その上には小さな1卓のちゃぶ台とシックなスチール製ベッド。
シンプルながら綺麗に整頓された部屋の中を慌ただしく駆けてゆく直樹とは裏腹に女子高生は口を半開きにして興味津々と言った様子で部屋の中をじっくりと見回していた。
「はい、タオル。濡れた服なんかは仕方無いからハンガーにでも掛けとくか……あと嫌じゃ無ければ服が乾くまでおじさんのTシャツでも着て……ハッ!!」
ハンガーへブレザーを掛けている女子高生を見て気が付く……『濡れて透き通ったスクールシャツ』
緊急事態だったとは言え、見ず知らずの女子高生を部屋へと招き入れてしまったのだ……これはきっと許される事では無い。
近所に知れたら噂になるだけじゃなく、きっと犯罪者扱いだろう。雨が治まったら早々に帰さなければと頭を抱える直樹であったのだが……
「こんなに色々して頂いてすみません。Tシャツお借りしますね」
「あわわわ……ちょっと待った」
直樹は目を見開いて引き止めた……何故なら女子高生が徐にシャツの胸元のボタンへ手を掛け、今にも服を脱ごうとしていたからだ。
「着替えは脱衣所で……」
「ふふふ……冗談です。脱衣所をお借りしますね」
悪戯な笑顔で軽く会釈をすると何事もなかった様に脱衣場へと入ってゆく女子高生。
渋い顔をしながらその場でただ固まる直樹だったが、この時、心の奥底では1つの煩悩が芽生えていた。
そう卑猥なる悪意が……
『女子高生の
きっと一生で一度……今しか御目にかかれない千載一遇のチャンス。だけどそんな事をしたら完全に犯罪者である。一度は
善意と悪意がぶつかる度に巻き起こる嵐の様な
目を閉じて深呼吸をするとまるで瞑想でもするかの様に心を鎮めてゆくのだが……澄んでゆく心に一縷の黒い光が差し込んだ。
これを人々は魔が差したというのだろう……目を見開いた直樹には1つの光明が浮かび上がっていた。
『
脱衣場の扉は上半分が曇ガラスの窓になっている。こから見えるシルエットならば直接見る訳じゃないし、怪しまれる事も無いだろう。
勝手な解釈で納得した直樹は般若の面の様に不気味で悪意に満ち溢れた笑みを浮かべながら脱衣所へと近付いてゆく。
ドックン……ドックン……ドックン……
扉へと近付くにつれ早くなる鼓動。
ゴクリっ
勢いよく唾を飲み込んだ。
この先では女子高生が着替えをしている。そんな妄想だけが膨らんでゆき……気付けば夢の扉の前……
「ふぃーーっ」
覚悟を決めた直樹は目を凝らし、窓へと手を伸ばすと誰かに後ろから肩を叩かれた。いったい誰が?ゆっくりと振り向くとそこには……
「草原さんも早く着替え無いと風邪引いちゃいますよ」
「うぉだぁああああーーー」
なんと直樹の後ろにはTシャツ姿の女子高生が立っていた。あまりに突然の事に言葉にもならない声を出す直樹だったが、当の女子高生はクスクスと笑っている。
「ふふふ……草原さんってばリアクション大き過ぎですよ。どうしたんですか?」
「なななっ……なんでこっちにいるの?だって……」
なぜ脱衣所にいるはずの女子高生が今、後ろにいるだろうか?
それは簡単な事だった……直樹が目を閉じ葛藤している間になんと女子高生は脱衣所から出ていたからである。
すっかり自分の世界へと入り込んでいた直樹は目の前の女子高生にも気付かずに哀れにも覗き見を企てていたらしい……
誰もいない脱衣し所を……
自らの悪態に苦笑いしながら脱衣所へと逃げこんだ直樹の表情は暗く、妙な脱力感と後悔の念にかられていた。
着替えながら先程までのやり取りを整理していると……ふと違和感を感じた。直樹は咄嗟に扉を開けと直ぐ様、女子高生に問い質すのだが……
「きっ君。さっき僕の事を草原さんって呼んだよね。まだ自己紹介もしてないのにどうして僕の名前を……?ねぇ」
「やだぁ草原さん……チャック開いてますよ。ほら可愛いパンダさんが……」
「えっあっ……ごめんごめん」
ズボンの窓から顔を覗かせていたのはキャラクター物のパンダ……慌ててチャックを締める直樹を見てまたもや笑っている女子高生。
「ふふふっ……可愛いパンツを履いてるんですね」
「こっこれしか無かったんだよ……そんなに笑うなよな」
すっかり話を反らされてしまったが、どうにも腑に落ち無い直樹は核心へと迫る様に話し掛けた。
「君はどうして僕の名前を知ってたの?ひょっとして透視能力とかあったりとか?」
「ふふっ……私にはそんな力は無いですよ。草原さんって本当に面白い人ですね。ヒントは……玄関です」
「あっ!表札か」
聞けば簡単なカラクリだが、どうにもこの女子高生にはペースを乱されてばかりいる。
「ふふふ……」
「ははは……」
だけどこの眩しい……まるで太陽の様な笑顔に照らされていると不思議と心地が良かった。
「そう言えば自己紹介がまだでしたよね。おほん、私は聖女高3年の【
「せっ……聖女高?」
正式名称『聖典女子高等学校』
この辺りでは有名なお嬢様学校である。やはり正真正銘の女子高生……しかもあの名門校の生徒が相手では尚更の事、手など出せる訳も無い。
現状、ここにいるのも危険では無いかと頭を抱え
「今度は草原さんの方も自己紹介してくださいよ。ほらっ
「えっ?あっああ……僕は【
その話を聞いたとたん晴希は口に手を当て目を丸くした。それもそのはず、だって今日は晴希の……
「えっ?草原さんも今日、誕生日なんですか?実は私も誕生日なんですよ。えへへ……なんか運命を感じちゃいますね」
誕生日の日に同じ誕生日の人に巡り会い、今まさに同じ部屋で会話をしている。どれだけ数奇な確率なのだろう。
初めは作り話じゃないかと思って警戒していた直樹だったが、嬉しそうに話をする晴希を見ているとそれが現実であり、運命的な出会いだった事を物語っていた。
しかし直樹はというと……
「凄い偶然だよな。でも晴希ちゃんは可愛いんだし、彼氏とかもいるだろ?それに年齢だって一回りも違うおじさんが運命の人だなんて
思った事をただ口にした直樹だったが、この軽はずみな発言は晴希の頬を膨らませていた。晴希は少し前屈みに人差し指を立てると激しく反論をしてくるのだった。
「恋愛に年齢は関係無いですよ。それに私には彼氏なんていませんから」
「ははは……そっかそっか。でもまあ僕みたいな
晴希に彼氏がいなかったのは意外だったが所詮は女子高生。きっとからかっているだけだろうと軽くあしらうつもりの直樹だったが、話は思いもよらない方向に進んでしまう。
「じゃあ、付き合っちゃいましょうよ。私、草原さんの優しそうな顔とか面白いところ……結構、好きなんですよ」
「なっ……」
晴希の発言に一瞬、凍りつく直樹。だが冷静になって考えれば、やはり大人をからかって楽しんでいるだけだろうという結論に至る。
所詮は女子高生の戯言……きっと本気で付き合う気なんてサラサラ無いはずだと高をくくり聞き流している直樹であったが……
「ははは……こんなオッサンと付き合うなんて正気じゃないよ冗談キツイって……。それに僕は貧乏人だからお金とかも持って無いよ」
「あぁ~草原さん本気にしてないなぁ。私、真剣なんですよ」
「だったら証拠は?ん?……ほらっ結局、口先だけだろ?あんまりオッサンをからかうもんじゃ……」
なかなか引いてくれない晴希を諦めさせるつもりでけしかけた直樹だったのだが、これが見事に地雷を踏むのであった。
「(ボソボソボソ)」
「ん?なになに?」
晴希は頬を赤らめながらスカートの裾を強く握り締めていた。
「私の……(ボソボソ)」
「そんな小さい声じゃ聞こえないよ」
何も知らない直樹は煽る様に追い打ちをかけた。すると晴希は突然、スカートを
「私の『
「しょっ……処女?……えっ……あっいや……なななんて事を……あっ……いや……ダメだ……」
露になる白いパンツ……赤いリボン柄。パンツ姿の晴希を前に直樹はキョロキョロとしながら目のやり場に困っていた。
「えっ?……ちょっと……冗談だろ?ええっ?」
激しくぶつかり合う感情が全身を駆け巡る血液と共に激流の様に押し寄せると加速してゆく鼓動。期待と不安が入り混じり、今まで感じた事の無い緊張感と高揚感に支配されてゆく直樹の心は完全に崩落した。
トサッ……
スカートを床へと下ろし、一歩……また一歩と近付いてくる晴希は……止まらない。
そう晴希は本気だったのだ。
その思いの全てを悟ると男として受け入れなければならないと良くわからない使命感に駆られてしまう直樹。そして……その下半身には聖なる剣が錬成されるのであった。
そう伝説の聖剣が……
【
不気味に脈打つこの剣は怪しげな光を放ちながら、この汚れなきこの少女の体を突き刺し、一生癒えない傷を負わせてしまうのだろうか……
晴希は体へ触れられる距離まで来るとゆっくりと目を瞑った。どうやらその時をジッと待っている様である。
ドクン……ドクン……ドクン……ドクン………
張り裂ける程に高鳴る心臓に呼吸も次第に荒くなる……脳内アドレナリンは限界へ達し、体を駆け巡るマグマは今にも爆発寸前であった。
そして……
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