概要
群馬県高崎市、フィギュアスケートの名門榛名学院に一人のスケーターが転校してくる。
彼の名前は芝浦刀麻。
北海道での幼馴染、山崎里紗は彼を氷の妖精と恋い慕い、かつて強化合宿で練習を共にした星洸一は再会した面影に氷の神を見る。
一方、彼を指導することになった朝霞美優は放埓な彼に悪魔を重ね、もう一人の幼馴染、スピードスケート選手の荻島雷は彼について「氷は友達」と語る。
誰もが芝浦刀麻に自身の幻想を投影する中、ただ一人、世界ジュニア銅メダリスト、霧崎洵だけはその正体を捉えきれずにいた。
芝浦刀麻とは何者なのか?
心に渦巻く問いは、いつしか氷上に魔を呼び起こす。
☆ ☆ ☆
・2019年第32回小説すばる新人賞二次選考通過作品です(第一章~第五章)。
・2020年第44回すばる文学賞一次選考なら
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!フィギュアスケーターたちの苦悩を氷上に投影させた力作
将来、トップに立つことを期待されたジュニアフィギュアスケーターたちが集まる榛名学園スケート部。
『氷上のシヴァ』は、そこにやって来た”芝浦当麻”という突出した才能の持ち主の少年を”氷上の神”となぞらえ、コーチを含め、スケート部に所属するメンバーのそれぞれの葛藤や苦悩を卓越した表現力で書き連ねた秀作です。
特に臨場感溢れるフィギュアの滑走シーンと、不意に現れる白昼夢のような幻想の中で語られる若いフィギュアスケーターたちの心の内は、繊細で、苦悩に満ちて、時に読んでいて胸が苦しくなってしまうほどです。
『そのスケーター、異能。正体は、神か悪魔か』
キャッチコピーには、そうありますが、芝浦…続きを読む - ★★★ Excellent!!!生まれ変わる事を恐れるな!
これは、ただのスポーツ青春小説ではない。
フィギュアスケートとスピードスケート。氷の世界を舞台に繰り広げられる若者達の成長物語として、リアルで美しい表現が、読む物を先へ先へと導いていく。
でも、それだけではなくて‥‥‥
「+α」の核心部分はどこまでも奥深く、それはきっと筆者が、そして読者が探し求めていく物なのだろう。
貴方には、こちらの世界で生きる事を決めた「刀麻」の姿が見えますか?
どんな風に見え、何を感じますか?
とても危うくて消えてしまいそうな「刀麻」を、こちらの世界に留めておく事ができますか?
生まれ変わる事を恐れずに生きられますか? ‥‥‥そんな問いが聞こえてきそう。
…続きを読む - ★★★ Excellent!!!音と、人と、氷上の執念を書ききった物語
私は、この物語の最初から、最後まで、芝浦刀麻に関わる登場人物から語られる彼自身を追っていた、はずだった。
物語の終盤、まるで最初からいなかったかのように、彼は氷上のシヴァという世界から姿を消す。いや、確かにいたのだ。私も、この世界の住人も、彼の放つ金色の光を追っていたのだから。
楽しかった。その一言に尽きる。作者は空間を描くのがうまいと思った。空間の描写は、演目の曲だったり、スケートのブレードが描く軌道だったり、ジャンプという肉体の躍動が複雑に絡み合って表現されている。
そして、偶像めいた描写というか、確かに芝浦刀麻という存在はいたはずなのに、読み終えたあとに、その影を探してしまう、世…続きを読む - ★★★ Excellent!!!本物の条件は「それ自身と対等で恐れない」こと
取り止めのない感想のようなものになってしまうことをまずご容赦いただきたい。見当違いのことを書いているかもしれないので、まず先に謝罪をいたします。
もしかすると私はこの小説を大変愛しているのかもしれない。だって私は、この小説があったからユーザー登録だけして何もしなかったカクヨムを本格的に始めたのだ。そして、この小説自身と同じぐらい、霧崎洵を偏愛している(キモくてサーセン!)のかもしれない。
この小説は「芝浦刀麻」という一人の人外(と表現したい)と深く関わる5人の人間のドラマが展開されている。
非常に関係性がわかりやすいのが、里紗ちゃんと朝霞先生の章で、前者は芝浦刀麻に純粋に恋をして…続きを読む - ★★★ Excellent!!!純度の高い文章が紡ぐ青春物語
読み始めてすぐに、一文一文が研ぎ澄まされ、凝縮されたものであることに気づいた方は多いと思います。
奇をてらった表現や、珍しい語彙を連ねるのではなく、伝えたいことに沿って丁寧に削り出された文章が印象的でした。
また、登場人物たちの繊細な心の動きに、同じ社会のどこかにこんな人たちが生きていそう、というリアリティを感じます。
劣等感や嫉妬、五里霧中の感覚など、十代のころ、あるいは大人になり切れない二十代で感じた気持ちが随所に詰まっていました。
加えて、音楽やスケートに関するディティールにあふれた知識も、世界観を構築するのに大きく貢献しています。
同じ現代を生きる人々が主人公だからこそ、詰めが甘けれ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!技術点&構成点どちらも高得点☆
スピード、フィギュア、ダンス……スケート業界のキーパーソンが、氷上で輝く「シヴァ」に魅せられて、それぞれの道を大きく切り拓いていこうとするアンサンブル・プレイ。登場人物たちの描写は細やかで個性豊かな魅力に溢れ、氷上に立てば文字からイメージが弾け出し、時に美しく時に激しく脳内を駆け巡る。特に、スピードスケートでライバルと対峙するシーンは、スポ根魂溢れた綴りっぷりで読み手の心を熱く燃やしてくれた。
作者さま自身が、作品に対して「完璧」と納得していない部分もあり(あとがき参照)、読み返せば新しい発見があるかもしれない。これからも、パーソナルベストを更新し続けて欲しい。そう願いたいと思わせる素敵な…続きを読む - ★★★ Excellent!!!芝浦刀麻は誰よりも世界の閉塞からの解放を望んでいる。
※思いっきりネタバレのあるレビューとなりました。未読の方や気になる方は作品を読んでからをオススメいたします。
天上杏さんのツイッターで「氷上のシヴァ」は朝井リョウの「桐島、部活やめるってよ」形式なんだと呟いていたのを見かけたことがありました。
「桐島、部活やめるってよ」はバレー部の部長だった桐島が部活をやめることをきっかけに、同級生5人の日常に変化が起こる、というもの。
「氷上のシヴァ」で当て嵌めると芝浦刀麻という「氷の妖精」や「氷の神」と呼ばれる少年の存在によって、彼の周囲にいる人間の日常に変化が起こる、物語と言うことができます。
ちなみに、「桐島、部活やめるってよ」の桐島につ…続きを読む