フィギュアスケーターたちの苦悩を氷上に投影させた力作

 将来、トップに立つことを期待されたジュニアフィギュアスケーターたちが集まる榛名学園スケート部。
 『氷上のシヴァ』は、そこにやって来た”芝浦当麻”という突出した才能の持ち主の少年を”氷上の神”となぞらえ、コーチを含め、スケート部に所属するメンバーのそれぞれの葛藤や苦悩を卓越した表現力で書き連ねた秀作です。

 特に臨場感溢れるフィギュアの滑走シーンと、不意に現れる白昼夢のような幻想の中で語られる若いフィギュアスケーターたちの心の内は、繊細で、苦悩に満ちて、時に読んでいて胸が苦しくなってしまうほどです。
『そのスケーター、異能。正体は、神か悪魔か』
 キャッチコピーには、そうありますが、芝浦当麻という存在自体も、とても脆くて神のように誰かの上に君臨するような強さを供えているわけでもないところが、彼の魅力をいっそう引き立てているようにも思いました。

 登場人物の中では、私的には唯一、当麻の幻惑に抗った人物と思える霧崎洵と、兄になりたいと心の内で願った双子の妹の霧崎汐音との関係性がとても興味深く、洵と汐音、当麻の3人がこの作品の中で際立って個性が光っていると思いました。

『天上のシヴァ』は、フィギュアスケートというスポーツをモチーフにした小説ですが、純文学のような表現に加え、ファンタジーティストもある読みごたえのある構成で、ぜひ、お薦めしたい作品です。

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