氷上のシヴァ

作者 天上 杏

119

41人が評価しました

★で称える

レビューを書く

★★★ Excellent!!!

スピード、フィギュア、ダンス……スケート業界のキーパーソンが、氷上で輝く「シヴァ」に魅せられて、それぞれの道を大きく切り拓いていこうとするアンサンブル・プレイ。登場人物たちの描写は細やかで個性豊かな魅力に溢れ、氷上に立てば文字からイメージが弾け出し、時に美しく時に激しく脳内を駆け巡る。特に、スピードスケートでライバルと対峙するシーンは、スポ根魂溢れた綴りっぷりで読み手の心を熱く燃やしてくれた。

作者さま自身が、作品に対して「完璧」と納得していない部分もあり(あとがき参照)、読み返せば新しい発見があるかもしれない。これからも、パーソナルベストを更新し続けて欲しい。そう願いたいと思わせる素敵な作品☆

★★★ Excellent!!!

本作は氷上の妖精、神、悪魔とも言われる少年を通して、彼に関わった人物たちが自身の想いや悩みに向き合うというオムニバス作品です。
詩的で幻想的な表現が多く、やや難解な面も否めませんが、読んでいるとその独特な雰囲気に、いつしか呑み込まれていくことと思います。
果たして彼は何者なのか、彼と出会うことで何を得て、何を失うのか、ぜひ作品を読んで確かめてみてください。

★★★ Excellent!!!

 人は何を想い、また何を願って生きていくのか。

 そして憧れる存在を見て、はたまた、自分がなりたい姿をした他人を目にした時……何を感じ、それをどう受け止めるか。

 そんな人間が持つ、微妙な感情の揺らぎ、嫉妬、羨望、競争心、思いやりを、氷上スポーツの世界を通して描いていく物語です。

 特に、人と人との繋がり方によって生まれる多様な感情の機微を、極限まで、でも決してくどくない美麗な筆致で紐解いていく文章は、お見事の一言に尽きます。

★★★ Excellent!!!

 ※思いっきりネタバレのあるレビューとなりました。未読の方や気になる方は作品を読んでからをオススメいたします。

 天上杏さんのツイッターで「氷上のシヴァ」は朝井リョウの「桐島、部活やめるってよ」形式なんだと呟いていたのを見かけたことがありました。
「桐島、部活やめるってよ」はバレー部の部長だった桐島が部活をやめることをきっかけに、同級生5人の日常に変化が起こる、というもの。

「氷上のシヴァ」で当て嵌めると芝浦刀麻という「氷の妖精」や「氷の神」と呼ばれる少年の存在によって、彼の周囲にいる人間の日常に変化が起こる、物語と言うことができます。

 ちなみに、「桐島、部活やめるってよ」の桐島について、社会学者の大澤真幸が面白いことを書いています。少し引用させてください。

「桐島は、部活をやめただけではない。その日以降、学校にも現れない。映画では誰もが強烈に、桐島の帰還を望んでいる。

 中略

 映画においては、どうして桐島はあれほど強烈に待たれているのか? 桐島の存在が、彼ら、他の生徒たちが「救済されうること」を保証しているからである。どこからの救済か。もちろん、学校に象徴される世界の閉塞からの救済(解放)である。」

 という大澤真幸の文章を前提に「氷上のシヴァ」を考えてみると、芝浦刀麻の呼ばれ方の一つ「氷の神」が個人的にしっくりときます。
「氷上のシヴァ」は芝浦刀麻という神様に対して、供物を捧げるような物語だったと思います。
 神様に何を望むのかは、その人の自由ではありますが、信仰の先にあるのは「世界の閉塞からの救済(解放)」とも受け取れる為、桐島=芝浦刀麻と思って読み進めました。

 ただ、最後の登場人物、霧崎洵だけが、この供物を捧げるような物語構造から抜け出し、一人の神様として芝浦刀麻と渡り合おうとします。
 それ故に霧崎洵の目を通して芝浦刀麻を見ると少し不気味で… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

音楽で、スポーツで、はたまた将棋やら何やらに、「選ばれてしまう」ひとがいる。
人知を越えたモノに、囚われ、挑み、畏れ、蔑み、敬い、迷うひとがいる。
彼らはほとんど知らない。苦しみ惑い歓喜に震えるその姿に感じる人々が、とてつもない数で存在することを。そして私も、それに感じるひとりです。
そんなボーダーにある世界の一端が見たいと思う人と、フィギュアスケートやそれに連なるカルチャーが好きな人にお勧め。
133読/133完にてレビュー。

★★★ Excellent!!!

まだ作品を読んでいる途中でのレビューです。
ただ、誰かを好きになったとき、想いが心に閉じ込められず言葉として溢れて告白してしまうように。
この作品に対する、様々な言葉を表現したくて堪らなくなったので、レビューさせて頂きます。

私は数年間ですが、かつてスピードスケートをやっていました。
本作品はフィギュアスケートをメインに話が進みます。
作者さんはスケーターではないとの事ですが“エッジの右、左を使う、エッジの点に乗る”などの表現に代表されるように、私がスケートをやっていた当時を思い出す程にスケートに対する表現がリアルです。
まるで自分がスケート靴を履き、氷を滑り、削る音が聞こえてくる程に。

これは映像では決して表現出来ません。
なぜなら映像で表現した場合、なんの変哲もないフィギュアスケートのワンシーンになってしまうからです。それでは「凄いジャンプだね」「高い得点」だけの感想で終わってしまう。

活字でフィギュアスケートを表現する事で、氷という気まぐれで残酷な無機物との対話を試みるスケーターの心理が見えてくる。
なぜその「曲」を選ぶのか?
どの「曲」で滑りたいのか。
フィギュアスケートと「音楽」の繋がりも私は本作品で知りました。
時にファンタジー要素も散りばめられ、フィギュアスケートを知らない私でもぐいぐい惹き込まれ読んでいます。
ここまで緻密に描かれたフィギュアスケートの作品を、私は他に知りません。




★★★ Excellent!!!

 天才よりも異才という表現がふさわしい高校生が一人います。

 彼は、ただその場にいるだけで、関係者たちの心を高揚させることもあれば、惑わせることもあるようです。なにやら秘密もあるらしく、どこかファンタジーの魔法みたいな効力を発揮することすらあります。

 そんな彼を考察するように、複数の人物の一人称視点が描かれていきます。

 作曲家の女子高生が、新しい才能に目覚めていく過程にも、彼は影響を及ぼしました。

 かつては同じフィギュアの世界にいて、怪我によって挫折を味わった選手にも、彼は再生のきっかけを与えることになります。

 いくつかのマイナス条件が重なったことによって、メンタル面を失調し、フィギュアの世界から退場してしまった大人の女性にも、彼は関わっていくことになります。

 過去である中学時代の話になっても、彼は同期の仲間たちにあがめられていて、また行動パターンがつかみにくい人物として見られていました。

 そしてついに、最大のライバルであろう、努力によってのし上がった選手の視点から、彼を見つめることになります。



 この物語を読み始めたときは、てっきり少女漫画風味の「ステキなカレシの手助けにより、最高の曲を書き上げたわたし」の筋書に沿っていくのかと思ったのですが、一章の終わりに近づくほどに不穏な雰囲気が流れ始めて、ついには「これは特定の筋書に沿った物語ではなく、なにか異質な物語だ」と気づくことになります。

 展開の異質さに驚いていると二章が始まりまして、一章にも登場したとあるキャラの視点から、異才である彼に触れることになっていきます。

 この時点で読者は気づくわけです。これは複数の登場人物の視点から、異才が何者なのかを読み解いていく一種のミステリーなんだと。手法はビジュアルノベルに近いはず。

 そうやって時間軸もバラバラな物語を読み進めていくうちに、お… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

主人公は普通の男子高校生なのか、それと氷神か?
最初から最後まで頭の片隅に謎めいたまま、引き込まれていく作品。
フィギア、スピード、アイスダンスとスケートのシーンは、作者の真骨頂。
コスチュームの鮮やかさ、氷の削れる音、風が頬に触れる感触、五感を通して
迫ってくる物語は天晴れ。

ロマンチックな恋の香り、スポーツ精神のビターな苦さ、時にミステリアスな
主人公の存在。これはどのジャンルでもあり、またジャンルを超えた文学作品でもある。軽く読める本格的な物語は一読の価値あり!

★★★ Excellent!!!

文芸作品として一流の作品。
タイトルがかっこいいなと思って読み始めたら、中身はより素晴らしく正直にメディアワークスなどのライト文芸といった雰囲気。
天沢夏樹を彷彿とさせる部活青春モノの決定版ではないでしょうか。

フィギアスケート、スピードスケートの世界とそれを取り巻く登場人物たちの青春群像を何人かの視点でとらえていて、ノスタルジックでエモい!

★★★ Excellent!!!

音楽×スケート。
題材を選んだ時点で、この作品が面白くなることは約束されていた。

総合芸術としてのフィギュアスケートが、音楽家とスケーター、異なる領域に生きる二人の架け橋となっているのだが――まずこの段階で、作者の着眼点の良さがうかがえる。

どちらも互いにアーティスト。だがひとまとめに芸術といっても、表現の内容が変われば、発想も悩みも目標も、大きくちがったものとなる。それでも何か、目指す理想のいわく言い難い究極に純粋な、共通する何かを求めて、互いに影響しあい高め合っていこうとする手探りのもどかしさ。それがしかも、青春真っ只中の高校生たちの間でなされるとしたら、どうだろう?

二人の主人公の関係は、やはり、恋愛関係に発展していくのだが、ここでまたちがった、新しい問題が発生する。芸術か愛か。どちらか選べばもう一方を捨て去らねばならぬ。またしても答えのない、永遠の難問ではないか。

作品の中で、主人公たちがどのように結論をくだしたかは、ぜひ自らの目で見届けてほしい。

それにしても青春の純粋さ不器用さ性急さ極端さ……すがすがしいほど青臭い。あなたもかつて、同じように青年だった。どんな青春を過ごしただろう。郷愁を呼び起こす美しい日々か、それとも二度とは目を向けられない苦い思い出か。

そのいずれも、この青春小説は持ち合わせている。この小説は豊かである。

あなたもぜひ、夏への扉をもう一度、開いてみてはいかがだろうか。

余談であるが、この作品には誤字脱字がいちじるしく少ない、ないしまったくない。作品がどれほど長く作者の手で温められ、丁寧に磨き上げられてきたのか、愛されてきたのかは、そのことひとつとっても十分な証明になる。