氷上のシヴァ

作者 天上 杏

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★★★ Excellent!!!

単なる「スポーツ青春小説」の範疇にとどまらないこの作品の魅力を、一言で語るのは困難です。
ぜひ実際読んで、感じて欲しいですね。
肉体と精神と氷の関係にここまで肉薄した小説は無いのではないでしょうか。
詩的な文体ですが、エンターテイメントとしても優れているため、次々読み進める事が出来ます。
そして章が変わるごとに様々な違った表情を見せる主人公刀麻の姿は、まるで光によって乱反射する氷のようで、読んだ人の心に鮮やかに記憶されるに違いありません。

★★★ Excellent!!!

これは、ただのスポーツ青春小説ではない。

フィギュアスケートとスピードスケート。氷の世界を舞台に繰り広げられる若者達の成長物語として、リアルで美しい表現が、読む物を先へ先へと導いていく。

でも、それだけではなくて‥‥‥

「+α」の核心部分はどこまでも奥深く、それはきっと筆者が、そして読者が探し求めていく物なのだろう。

貴方には、こちらの世界で生きる事を決めた「刀麻」の姿が見えますか? 
どんな風に見え、何を感じますか?
とても危うくて消えてしまいそうな「刀麻」を、こちらの世界に留めておく事ができますか?
生まれ変わる事を恐れずに生きられますか? ‥‥‥そんな問いが聞こえてきそう。

「氷上のシヴァ」=「芝浦刀麻」とは、いったい何者なのだろう?

★★★ Excellent!!!

私は、この物語の最初から、最後まで、芝浦刀麻に関わる登場人物から語られる彼自身を追っていた、はずだった。

物語の終盤、まるで最初からいなかったかのように、彼は氷上のシヴァという世界から姿を消す。いや、確かにいたのだ。私も、この世界の住人も、彼の放つ金色の光を追っていたのだから。

楽しかった。その一言に尽きる。作者は空間を描くのがうまいと思った。空間の描写は、演目の曲だったり、スケートのブレードが描く軌道だったり、ジャンプという肉体の躍動が複雑に絡み合って表現されている。

そして、偶像めいた描写というか、確かに芝浦刀麻という存在はいたはずなのに、読み終えたあとに、その影を探してしまう、世界と切り離された読後感が素晴らしかった。

作中で語られる「俺は生まれ変わらなきゃいけないんだ。旧い世界なんか足下で叩き割って新しい世界を創る」という言葉が特に印象的でした。
インド神話の神、シヴァの破壊と創造がうまく組み込まれており、作中の登場人物の多くが、破壊(喪失)と、創造(成長だったり進歩)を経験し、青春ものの作品として、読み応えのある内容でした。

芝浦刀麻という存在を、多様な切り口で見せ、繊細な人間関係を描写してくれた作品。大変、満足です。

最後に、私が生きてこなかった人生を見せてくださりありがとうございました。

★★★ Excellent!!!

 取り止めのない感想のようなものになってしまうことをまずご容赦いただきたい。見当違いのことを書いているかもしれないので、まず先に謝罪をいたします。
 もしかすると私はこの小説を大変愛しているのかもしれない。だって私は、この小説があったからユーザー登録だけして何もしなかったカクヨムを本格的に始めたのだ。そして、この小説自身と同じぐらい、霧崎洵を偏愛している(キモくてサーセン!)のかもしれない。


 この小説は「芝浦刀麻」という一人の人外(と表現したい)と深く関わる5人の人間のドラマが展開されている。
 非常に関係性がわかりやすいのが、里紗ちゃんと朝霞先生の章で、前者は芝浦刀麻に純粋に恋をして、後者は彼の指導者になる。理紗ちゃんの刀麻への思慕と彼女の音楽が再び音楽が動き出す瞬間が秀逸で、朝霞先生が闘志を取り戻すシーンは、悪魔と契約したかと思えるほど震えた。
 残りの3人はスケーターで、洸一さんはスケーティングが巧みなマネージャー、雷くんは幼馴染でスピードスケーター、洵くんはスケーター未満として現れる。


 5人の語り手の中、私が一番好きなのは五章の主人公の洵くんである。4人が皆、自分にとっての「芝浦刀麻の輪郭」を見つける中、洵くんはトーマという一人の人間として捉えている。だから「どうもそうでもないらしい」というところにイラつくし、氷の上で自在に存在する刀麻の在り方を見ると焦りのようなものを感じるのだろう。

 5人の語り手で洵くんだけが刀麻の正体を捉えられなかった理由。
 私はどうも、書き手である天上さんが、刀麻に並んで欲しかったんじゃないかと思ってしまった。天上さんがそう思っていて欲しい、という私の願望でもあるかもしれない。



 スケートについて少し補足すると、スケーターの全員が全員、スケーティングという基礎動作が得意なわけではない。それは世界的な名選手であっても、… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

読み始めてすぐに、一文一文が研ぎ澄まされ、凝縮されたものであることに気づいた方は多いと思います。
奇をてらった表現や、珍しい語彙を連ねるのではなく、伝えたいことに沿って丁寧に削り出された文章が印象的でした。
また、登場人物たちの繊細な心の動きに、同じ社会のどこかにこんな人たちが生きていそう、というリアリティを感じます。
劣等感や嫉妬、五里霧中の感覚など、十代のころ、あるいは大人になり切れない二十代で感じた気持ちが随所に詰まっていました。
加えて、音楽やスケートに関するディティールにあふれた知識も、世界観を構築するのに大きく貢献しています。
同じ現代を生きる人々が主人公だからこそ、詰めが甘ければすぐに見破られてしまうポイントかもしれませんが、隙なく考証されており、全体の安定感を支えていると感じました。

★★★ Excellent!!!

スピード、フィギュア、ダンス……スケート業界のキーパーソンが、氷上で輝く「シヴァ」に魅せられて、それぞれの道を大きく切り拓いていこうとするアンサンブル・プレイ。登場人物たちの描写は細やかで個性豊かな魅力に溢れ、氷上に立てば文字からイメージが弾け出し、時に美しく時に激しく脳内を駆け巡る。特に、スピードスケートでライバルと対峙するシーンは、スポ根魂溢れた綴りっぷりで読み手の心を熱く燃やしてくれた。

作者さま自身が、作品に対して「完璧」と納得していない部分もあり(あとがき参照)、読み返せば新しい発見があるかもしれない。これからも、パーソナルベストを更新し続けて欲しい。そう願いたいと思わせる素敵な作品☆

★★★ Excellent!!!

本作は氷上の妖精、神、悪魔とも言われる少年を通して、彼に関わった人物たちが自身の想いや悩みに向き合うというオムニバス作品です。
詩的で幻想的な表現が多く、やや難解な面も否めませんが、読んでいるとその独特な雰囲気に、いつしか呑み込まれていくことと思います。
果たして彼は何者なのか、彼と出会うことで何を得て、何を失うのか、ぜひ作品を読んで確かめてみてください。

★★★ Excellent!!!

 人は何を想い、また何を願って生きていくのか。

 そして憧れる存在を見て、はたまた、自分がなりたい姿をした他人を目にした時……何を感じ、それをどう受け止めるか。

 そんな人間が持つ、微妙な感情の揺らぎ、嫉妬、羨望、競争心、思いやりを、氷上スポーツの世界を通して描いていく物語です。

 特に、人と人との繋がり方によって生まれる多様な感情の機微を、極限まで、でも決してくどくない美麗な筆致で紐解いていく文章は、お見事の一言に尽きます。

★★★ Excellent!!!

 ※思いっきりネタバレのあるレビューとなりました。未読の方や気になる方は作品を読んでからをオススメいたします。

 天上杏さんのツイッターで「氷上のシヴァ」は朝井リョウの「桐島、部活やめるってよ」形式なんだと呟いていたのを見かけたことがありました。
「桐島、部活やめるってよ」はバレー部の部長だった桐島が部活をやめることをきっかけに、同級生5人の日常に変化が起こる、というもの。

「氷上のシヴァ」で当て嵌めると芝浦刀麻という「氷の妖精」や「氷の神」と呼ばれる少年の存在によって、彼の周囲にいる人間の日常に変化が起こる、物語と言うことができます。

 ちなみに、「桐島、部活やめるってよ」の桐島について、社会学者の大澤真幸が面白いことを書いています。少し引用させてください。

「桐島は、部活をやめただけではない。その日以降、学校にも現れない。映画では誰もが強烈に、桐島の帰還を望んでいる。

 中略

 映画においては、どうして桐島はあれほど強烈に待たれているのか? 桐島の存在が、彼ら、他の生徒たちが「救済されうること」を保証しているからである。どこからの救済か。もちろん、学校に象徴される世界の閉塞からの救済(解放)である。」

 という大澤真幸の文章を前提に「氷上のシヴァ」を考えてみると、芝浦刀麻の呼ばれ方の一つ「氷の神」が個人的にしっくりときます。
「氷上のシヴァ」は芝浦刀麻という神様に対して、供物を捧げるような物語だったと思います。
 神様に何を望むのかは、その人の自由ではありますが、信仰の先にあるのは「世界の閉塞からの救済(解放)」とも受け取れる為、桐島=芝浦刀麻と思って読み進めました。

 ただ、最後の登場人物、霧崎洵だけが、この供物を捧げるような物語構造から抜け出し、一人の神様として芝浦刀麻と渡り合おうとします。
 それ故に霧崎洵の目を通して芝浦刀麻を見ると少し不気味で… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

音楽で、スポーツで、はたまた将棋やら何やらに、「選ばれてしまう」ひとがいる。
人知を越えたモノに、囚われ、挑み、畏れ、蔑み、敬い、迷うひとがいる。
彼らはほとんど知らない。苦しみ惑い歓喜に震えるその姿に感じる人々が、とてつもない数で存在することを。そして私も、それに感じるひとりです。
そんなボーダーにある世界の一端が見たいと思う人と、フィギュアスケートやそれに連なるカルチャーが好きな人にお勧め。
133読/133完にてレビュー。

★★★ Excellent!!!

まだ作品を読んでいる途中でのレビューです。
ただ、誰かを好きになったとき、想いが心に閉じ込められず言葉として溢れて告白してしまうように。
この作品に対する、様々な言葉を表現したくて堪らなくなったので、レビューさせて頂きます。

私は数年間ですが、かつてスピードスケートをやっていました。
本作品はフィギュアスケートをメインに話が進みます。
作者さんはスケーターではないとの事ですが“エッジの右、左を使う、エッジの点に乗る”などの表現に代表されるように、私がスケートをやっていた当時を思い出す程にスケートに対する表現がリアルです。
まるで自分がスケート靴を履き、氷を滑り、削る音が聞こえてくる程に。

これは映像では決して表現出来ません。
なぜなら映像で表現した場合、なんの変哲もないフィギュアスケートのワンシーンになってしまうからです。それでは「凄いジャンプだね」「高い得点」だけの感想で終わってしまう。

活字でフィギュアスケートを表現する事で、氷という気まぐれで残酷な無機物との対話を試みるスケーターの心理が見えてくる。
なぜその「曲」を選ぶのか?
どの「曲」で滑りたいのか。
フィギュアスケートと「音楽」の繋がりも私は本作品で知りました。
時にファンタジー要素も散りばめられ、フィギュアスケートを知らない私でもぐいぐい惹き込まれ読んでいます。
ここまで緻密に描かれたフィギュアスケートの作品を、私は他に知りません。




★★★ Excellent!!!

 天才よりも異才という表現がふさわしい高校生が一人います。

 彼は、ただその場にいるだけで、関係者たちの心を高揚させることもあれば、惑わせることもあるようです。なにやら秘密もあるらしく、どこかファンタジーの魔法みたいな効力を発揮することすらあります。

 そんな彼を考察するように、複数の人物の一人称視点が描かれていきます。

 作曲家の女子高生が、新しい才能に目覚めていく過程にも、彼は影響を及ぼしました。

 かつては同じフィギュアの世界にいて、怪我によって挫折を味わった選手にも、彼は再生のきっかけを与えることになります。

 いくつかのマイナス条件が重なったことによって、メンタル面を失調し、フィギュアの世界から退場してしまった大人の女性にも、彼は関わっていくことになります。

 過去である中学時代の話になっても、彼は同期の仲間たちにあがめられていて、また行動パターンがつかみにくい人物として見られていました。

 そしてついに、最大のライバルであろう、努力によってのし上がった選手の視点から、彼を見つめることになります。



 この物語を読み始めたときは、てっきり少女漫画風味の「ステキなカレシの手助けにより、最高の曲を書き上げたわたし」の筋書に沿っていくのかと思ったのですが、一章の終わりに近づくほどに不穏な雰囲気が流れ始めて、ついには「これは特定の筋書に沿った物語ではなく、なにか異質な物語だ」と気づくことになります。

 展開の異質さに驚いていると二章が始まりまして、一章にも登場したとあるキャラの視点から、異才である彼に触れることになっていきます。

 この時点で読者は気づくわけです。これは複数の登場人物の視点から、異才が何者なのかを読み解いていく一種のミステリーなんだと。手法はビジュアルノベルに近いはず。

 そうやって時間軸もバラバラな物語を読み進めていくうちに、お… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

文芸作品として一流の作品。
タイトルがかっこいいなと思って読み始めたら、中身はより素晴らしく正直にメディアワークスなどのライト文芸といった雰囲気。
天沢夏樹を彷彿とさせる部活青春モノの決定版ではないでしょうか。

フィギアスケート、スピードスケートの世界とそれを取り巻く登場人物たちの青春群像を何人かの視点でとらえていて、ノスタルジックでエモい!

★★★ Excellent!!!

音楽×スケート。
題材を選んだ時点で、この作品が面白くなることは約束されていた。

総合芸術としてのフィギュアスケートが、音楽家とスケーター、異なる領域に生きる二人の架け橋となっているのだが――まずこの段階で、作者の着眼点の良さがうかがえる。

どちらも互いにアーティスト。だがひとまとめに芸術といっても、表現の内容が変われば、発想も悩みも目標も、大きくちがったものとなる。それでも何か、目指す理想のいわく言い難い究極に純粋な、共通する何かを求めて、互いに影響しあい高め合っていこうとする手探りのもどかしさ。それがしかも、青春真っ只中の高校生たちの間でなされるとしたら、どうだろう?

二人の主人公の関係は、やはり、恋愛関係に発展していくのだが、ここでまたちがった、新しい問題が発生する。芸術か愛か。どちらか選べばもう一方を捨て去らねばならぬ。またしても答えのない、永遠の難問ではないか。

作品の中で、主人公たちがどのように結論をくだしたかは、ぜひ自らの目で見届けてほしい。

それにしても青春の純粋さ不器用さ性急さ極端さ……すがすがしいほど青臭い。あなたもかつて、同じように青年だった。どんな青春を過ごしただろう。郷愁を呼び起こす美しい日々か、それとも二度とは目を向けられない苦い思い出か。

そのいずれも、この青春小説は持ち合わせている。この小説は豊かである。

あなたもぜひ、夏への扉をもう一度、開いてみてはいかがだろうか。

余談であるが、この作品には誤字脱字がいちじるしく少ない、ないしまったくない。作品がどれほど長く作者の手で温められ、丁寧に磨き上げられてきたのか、愛されてきたのかは、そのことひとつとっても十分な証明になる。