音と、人と、氷上の執念を書ききった物語

私は、この物語の最初から、最後まで、芝浦刀麻に関わる登場人物から語られる彼自身を追っていた、はずだった。

物語の終盤、まるで最初からいなかったかのように、彼は氷上のシヴァという世界から姿を消す。いや、確かにいたのだ。私も、この世界の住人も、彼の放つ金色の光を追っていたのだから。

楽しかった。その一言に尽きる。作者は空間を描くのがうまいと思った。空間の描写は、演目の曲だったり、スケートのブレードが描く軌道だったり、ジャンプという肉体の躍動が複雑に絡み合って表現されている。

そして、偶像めいた描写というか、確かに芝浦刀麻という存在はいたはずなのに、読み終えたあとに、その影を探してしまう、世界と切り離された読後感が素晴らしかった。

作中で語られる「俺は生まれ変わらなきゃいけないんだ。旧い世界なんか足下で叩き割って新しい世界を創る」という言葉が特に印象的でした。
インド神話の神、シヴァの破壊と創造がうまく組み込まれており、作中の登場人物の多くが、破壊(喪失)と、創造(成長だったり進歩)を経験し、青春ものの作品として、読み応えのある内容でした。

芝浦刀麻という存在を、多様な切り口で見せ、繊細な人間関係を描写してくれた作品。大変、満足です。

最後に、私が生きてこなかった人生を見せてくださりありがとうございました。

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