複数の登場人物の視点から、フィギュアスケートの異才を見つめていく作品

 天才よりも異才という表現がふさわしい高校生が一人います。

 彼は、ただその場にいるだけで、関係者たちの心を高揚させることもあれば、惑わせることもあるようです。なにやら秘密もあるらしく、どこかファンタジーの魔法みたいな効力を発揮することすらあります。

 そんな彼を考察するように、複数の人物の一人称視点が描かれていきます。

 作曲家の女子高生が、新しい才能に目覚めていく過程にも、彼は影響を及ぼしました。

 かつては同じフィギュアの世界にいて、怪我によって挫折を味わった選手にも、彼は再生のきっかけを与えることになります。

 いくつかのマイナス条件が重なったことによって、メンタル面を失調し、フィギュアの世界から退場してしまった大人の女性にも、彼は関わっていくことになります。

 過去である中学時代の話になっても、彼は同期の仲間たちにあがめられていて、また行動パターンがつかみにくい人物として見られていました。

 そしてついに、最大のライバルであろう、努力によってのし上がった選手の視点から、彼を見つめることになります。



 この物語を読み始めたときは、てっきり少女漫画風味の「ステキなカレシの手助けにより、最高の曲を書き上げたわたし」の筋書に沿っていくのかと思ったのですが、一章の終わりに近づくほどに不穏な雰囲気が流れ始めて、ついには「これは特定の筋書に沿った物語ではなく、なにか異質な物語だ」と気づくことになります。

 展開の異質さに驚いていると二章が始まりまして、一章にも登場したとあるキャラの視点から、異才である彼に触れることになっていきます。

 この時点で読者は気づくわけです。これは複数の登場人物の視点から、異才が何者なのかを読み解いていく一種のミステリーなんだと。手法はビジュアルノベルに近いはず。

 そうやって時間軸もバラバラな物語を読み進めていくうちに、おそらく読者なりの異才の見え方みたいなものがつかめてくるんだと思います。


 物語の内容に関しては、これぐらいにして、じゃあ作者の技量はどうなのかといえば、かなり高いです。内面描写を通した強烈な演出と、異才によって振り回される視点人物の葛藤を、綺麗に混ぜることによって、ぐいぐい先に読み進ませる筆力があります。とくに各章の締めあたりの熱量は必読ですよ。

 このレビューを書いた時点では、まだ完結していませんが、今から読み始めて最新話に追いつくことをおすすめします。きっとあなたも、作者の技量によって、ページを読み進めていく手が止まらなくなりますよ。

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