第15話 赤十字での聖夜
僕は唯花に待ってるよう伝えると、無我夢中で病院へと向かった。
「まいは、中野まいはどこに!!」
「落ち着いてください。関係者の方ですね、中野さんは現在治療中です。失礼ですが、院内ではお静かに願います」
正直、看護師にあたってやろうかとも思ったが、そんな事をしたからといって、無事に終わる訳でもなく、まいも気を悪くするだろうからやめた。
意味もなく僕は廊下を往復した。遅れてまいの家族が来た。
「君が直樹君だね?いつも娘がお世話になっています。この度はとんだことに……」
「すみません……」
「君は何も悪くないじゃないか……」
【手術中】と表示された明かりが消えた。
「先生、娘は」
「ご心配なく、何の問題もないでしょう」
「そうですか、良かった……」
「そうね、あなた」
まいは少しの間入院だそうだ。
「良ければ直樹君、少し話さないか」
「わかりました」
僕らは院内の喫茶店へと向かった。
「とりあえずまいが無事で良かった」
「そうですね」
「まいはね、毎日君の話をするんだ」
「僕のですか」
「そう、それこそ父親としては『どこの馬の骨だ!』と怒鳴りつけたくなるくらいにね」
「そ、そんな」
「いや、冗談だよ。しかし、君と出会ってから、まいは睡眠薬を断薬し始めてね。家内とも喜んでいたんだ。時折哀しげな顔を独りでしていたあのまいが、家でよく笑うようになった。本当に君のおかげだよ」
まいの父親は頭を下げた。僕はどうしていいか分からず困るのと同時に、まいの自宅での姿を思い浮かべる。
『病んでいた まい』
ほんの些細な事がきっかけで好きになり、ヤンデレ化したまい。なんだか懐かしく思う。
「これからも、まいを支えてやってくれないか」
「はい……!」
目の奥が熱くなる。まいの病みは、とりもなおさず、僕の病みでもあったからだ。ようやくここまで来たんだ。廃人になりかねなかったあの僕が。なのに、何故。どうしてまいがこんな目に。
しばらくしてまいの両親と別れの挨拶をして、まいが休む部屋へと一人向かった。今日はクリスマスという事もあって、気を使わせてしまった。
コンコン
「入るぞ、まい」
まいは入院用のパジャマに身を包み、ベッドに横たわっている。
「直樹くん……」
「まい……」
「ごめんね、デート、出来なくなっちゃった」
「また、別の日にすればいいさ」
「でも……」
「それに」
「なに?」
「まいさへ良ければ、今日はずっとここに居るつもりなんだ」
「ホントに?」
「まい、愛してる」
僕は密かに買っておいた、赤いカチューシャを贈る。
「ありがとう……!」
「どう?似合う?」
僕は思わずキスをした。まいは驚いていた。無理もない。
「似合ってるよ」
「私も……」
「私も直樹くんのこと、愛してるよ」
そうだ、大切なものは宝箱に入れた時ではなく、戻ってきた時にこそ痛感するものだ。
その夜僕らの手が離される事はなかった。
やっと始まるんだ、本当に「二人だけの世界」が。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます