第17話 堕天使は天界を夢みる

 もう引きこもるのは辞めた。悲嘆に暮れる気力すらもはや消え失せた。この一年の成果かもしれないな。唯花と一緒に買い出しにでも行こう。いい気まぐれになるはずだ。何より食料が無いという現状を無視するには、一人で居る必要がある。唯花にそんな事は出来ない。ならば買いに出かける事が避けられない事実なのだ。

「お兄ちゃんは何が食べたい?」

「そうだな、久々に唯花のカレーが食べたいかな」

「オッケー!任せてよ🎵」


 近所のスーパーで買い出しを終え、家の方向へ歩き出すと、誰かに呼ばれた気がした。

「直樹君!」

「中野さん、どうしたんですか!?」

「あ、いや偶然見かけたものだから。妹さんかな?こんにちは」

「こんにちは」

「まいさんはどうですか……?」

「うん、もうすぐ退院だよ。それで…少し話がしたいんだが……」

「唯花、先に帰っててくれるか?」

「わかったよ、晩ごはん作って待ってるからね」


「元気な妹さんだね」

「ええ、まあ。それでお話というのは」

「まいが君に失礼な事を言ったらしいね…」

「……それがどうかしましたか……」

「本当に済まないと思っているんだ。私からも仲良くしてくれ、と頼んだのに、不愉快にさせてしまったね……」

「お気遣いなく。まいさんは悪くないですよ」

「君は優しいね……」

「ただ、本当に好きなだけですよ。なんて相手の父親に聞かせる言葉じゃなかったですかね」

「ありがとう」

 まいの父親は目を潤わし、と言った。そこには謝罪も含まれているのだろう。様々な感情が混ざり混ざって、おそらく本人ですら、細分化は不可能だ。


 僕はただひとつの事を考えていた。まいのの特効薬は何なのか。自殺を防ぐには、死の辛さを知らせる。ヤンデレからメンヘラへと悪化した今のまいには、一体何が効くのか。

 そう、僕はもう疲れていた。二人とも気持ちは同じなのに、幾度となく関係を潰そうとするあの気質に。これで何もかも終わりにしてやる。


 僕は答えを持っていない。ただしこの問題に関しては有効だ。なぜなら、恋愛に関する決め事は恋人の双方で話し合うものであるからだ。本当に別れるべきなら、お互いに納得してから別れれば良い。



 自堕落な生活を送り続けてきた僕が、真剣に愛し、真剣に人の事を考えている。この一年はそういう一年だった。最初は慣れないからか、嫌に思っていた。

 だが、僕は病院へと向かっている。

 来年も、こういう一年にするために。

 まいと新たな世界を知っていく一年に。

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