第16話 プレゼントは惜しみなく。それが求められていなくとも。

「そっか、わかった。お兄ちゃんも体調に気をつけてね」

「あぁ、悪いな」

 今日はまいに付き添う旨を、公衆電話から唯花へと伝える。


 病室へ向かう最中、なにやら妙な声が聞こえる。クリスマスの夜だから、非モテの怨霊が院内をさまよっているのかもしれない。いささか薄気味悪く感じつつ、足早にまいの元へも向かう。

 ドアの向こうで誰かが泣いている。部屋にはまい一人なのだから、怨霊でないとすれば、まいが泣いている事になる。

「私、どうなっちゃうのかな……?」

 一体何が。病気ならいざ知らず、ここへ来るはめになったのは、事故が原因だ。


「まい、入るぞ」

「うん、どうぞ」

 こちらに背を向けて寝転がっている。涙を隠しているのだろう。

「あの、まい……」

「やっぱり、私、直樹くんのこと、不幸にしちゃう」

「な、なにを言って……!?」

「やっぱりダメなんだよ、ううん、ダメ人間云々の話じゃなくって、その……」


「ごめん、嘘ついちゃった。ホントは私が不幸になっちゃうんだ」

「どういうことだよ……?」

「実はね、この事故、わざとなんだ。ごめんね。私、直樹くんと一緒にいられるのが本当に楽しくって、嬉しくって仕方がないんだ」

「だったら……」

「ううん、でもね、だからこそ辛いんだ。いつかは失っちゃうから。だったら先に死んだ方がまだマシでしょ?」

「勝手でごめんね……さっきは強がっちゃって……」




「直樹くん、別れよう」



 この一年、色々な事があった。そのすべてのきっかけは中野まい、彼女だ。

 僕は膝から崩れ落ちた。このちっぽけな世界と共に。僕は大粒の涙を流した。この広大な世界の慟哭どうこくと共鳴するかのように。


「さよなら、直樹くん♪」

 まいもいつもの元気さはなかったが、最後は笑顔で僕にそう言った。


 気づけば僕は家にいた。唯花は様子がおかしいのを見て慌てふためいていた。そして僕は冬眠した。唯花が何度明るく起こしてきても、僕はひたすらベッドから離れなかった。ワンルームで「一人にしてくれ」など言える訳がなく、そうするしか殻に閉じ籠もりようがなかった。時計の針へ再び視線をやった時には、もう20時を指していた。

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