余韻を噛み締めた後で、ぜひもう一度読み返してみてほしい作品です。
短編という限られた文字数の中で広げられた世界の広さと厚みにまず驚きました。
そして作品の各所にそっと忍ばせた伏線が物語の進行と共に読者の脳内で一つずつ回収されていきます。
謎が解けていく心地よさを感じながら物語が進み、最後は温かい感情が胸に押し寄せてきます。
そして全てを読み終えた人もぜひもう一度冒頭に立ち戻って読み返してみてください。
彼が視線を向けた先はどこにあったのか、どんな思いで彼女が執筆したのか、そして長年捜索し続けた彼女達の胸中を想像してみてください。
それらは束ねたら美しい花束にならないでしょうか。
本当に素晴らしい作品だと思います。
売れない作家の受賞シーンから始まるこの物語、一体全体どう話を広げるのか…と思いきや、突然切り替わる場面。そのまま彼の介護アンドロイド・一花の独白によって、二人のストーリーが語られていきます。
一花の語り口に垣間見える、ALSを患う作家水瀬の人柄と温かい日々。社会に根付く差別の視線。人類の業と優しさを同時に描くという、もの凄い荒技がサラリと違和感なく物語に落とし込まれています。
短編という少ない字数で、こんなに壮大なお話を読めるとは思っていなくて、読み終わった後しばらく動けませんでした。飲み込まれてしまった。
これ以上はわたしの語彙力が機能しないです……自分の目でご覧になるのが一番かと。
おすすめの一作です。
この物語の完全なるポイントはそこです。大賞とか、融和とか、差別とか、多分そういうことじゃない。勿論それがないと物語が物語にならないのはあるでしょうけれども。
そのポイントはこれです。
マスターは、信じていた。
これ。これ以上はバレるので書けない。何を信じていたかは、本当にネタバレになるので書けないのですが、人に何かを頼むときに大前提となる条件と言ったら。
半信半疑で信じていたんじゃないんですよね。本気で信じていたんですよ。本当に本当に、本気で。
これに気がついたとき、なんて強烈なヒューマンドラマなんだと思いました。
今書いてて思いましたが、ここでやっと差別区別が生きてくるんだなと思いました。その人への思いは対等。
一読でわかる人は相当です、言葉を探りながら、これが成立するときの条件ときたら、そういうのを意識して読んでみて下さい。
繰り返しますが、信じないと出来ない行為です。
車椅子の作家さんが文学賞を受賞して始まります。なぜ彼がその小説を書くことになったのか。そして、ヒューマノイドとの絆を感じる物語です。
短編で、ここまで感動するとは思いませんでした。SFのジャンルで、あらすじにヒューマノイドと書いてあったので、未来の技術の話なんだろう。と勝手に思っていましたが、そうではありません。
『絆』と『想い』を描いた物語だと思いました。もう、後半の真ん中辺りで視界がぼやけてきます。
そして、切ない物語でもあります。
人間と動物は寿命の長さが違うので、何度もつらい思いをした経験がありますが、人間とヒューマノイドもまた、寿命に差があります。そこが読んでいて、切ないなと思いました。
さすが書籍化される物語です。あまり書きすぎると作者さんに怒られてしまいそうなので、ぜひ読んで確かめてみてください。
作家の水瀬先生について、でしたよね。
そうですねえ。うーん。一言で言えば、変わり者でしたね。ははっ。
ただまあ、なんて言うか、一本線が通っているって言うんですかねえ。うん。
単に変人とか変態って言うのではなくて、そうですね……彼は本当に純粋だったんだと思います。
「これだ」って思ったことはまっすぐに信じて、決して疑わない。その信念が物凄いんですよ。並ではない。
だから作家なんてできていたんでしょうね。
——え? ああ、私ですか? うーん、いやまあ確かに同業者ではありますけど、虚仮ですよ虚仮。あの人に比べたら私なんて。
ただまあなんていうか、今回の『ノーカラー』は、一緒に暮らしていた『一花』さんのおかげだとも語っていましたからねえ。彼の純粋さだけではなく、一花さんの支えがあったからというのもあるんでしょうね。
——え? なんで私なんかが水瀬先生についてそんなに詳しいか、ですか?
えー、そりゃー、ファンでしたもん。三流作家と呼ばれて周りの文豪の方々から蔑まれていた頃からずうっとね。信じていたんですよ。なんかこう、固い意志みたいなものを貫いている作風がとっても好きでね。いつか世界を変えちまうんじゃあないかって。ずっとずっと思っていた。燻っている時代からずっとずっと、ね。
いやしかし、信じる力ってのは凄いなあって思いません? こうして私の信じていた水瀬先生が輝かしい賞を受賞したわけですから。私のおかげじゃあないですけれども。
まっ、それでも文豪の方々は「あんなくだらない賞を受賞したくらいで粋がるな」とかなんとか言うんでしょうねぇ。どっちがくだらないんだか。……そういうくだらない連中を、そいつらを崇め奉る社会を作り上げて来た民衆どもの愚かしさと滑稽さは、皆さん『ノーカラー』を読んだなら解るんじゃないですか? あれ? ああ、そう言う風に読んでないんですね。すいませんすいません、また私の悪い癖だ。はははっ。
そうですね。あの『ノーカラー』は、ただただ一花さんとの穏やかで希望に満ち溢れた日々が綴られていただけだ。でもそれが奇跡みたいだって、私は思ったんですよ。こんなくだらない世界で、あんなにきらきら輝く日常を送るなんて、無理じゃあないですか。
きっと今も水瀬先生は一花さんのことばかりを考えているんでしょうね。
——はい、ええまあ、そりゃ信じているでしょうよ。
さっきも言ったでしょう。信じる力は強いんです。
水瀬先生もあの変わらない強情さで、ずっとずっと信じているはずです。
そしたら奇跡だって起きますよ。
絶対にね。
AIの発展スピードが加速し、シンギュラリティなる単語が頻繁に聞かれるようになった現代。AIやロボットに職を奪われないか、存在を否定されないかとビクビクする現代人。2世紀前のラッダイト運動の再来だ。
暫くすると、本作品に描かれた世界が出現するのだろう。
でも、アンドロイドは人間に危害を加えない。
軍拡に勤しむ国家か、狂ったテロリストが殺人アンドロイドを作り上げない限り。
だから、本作品で描いた通り、何かのキッカケで、こんな世の中に移行するんだろう。
その過渡期には軋轢があるはずで、それを乗り越えるには一種のヒーローが求められる。
本作品は、そんなヒーローとヒロインの人情物語である。
老い先の短い私がヒーローとなる可能性は少ないが、SF好きの私としては、そんな心意気で未来を迎えたいものだ。
短編にはMAX2つが信条なんですが、星3つ付けました。
あまり長いお話ではないので、ご自身の眼で確かめるのが一番!
短い中に、ぎっちりもっちり「世界」が詰まっています。
真空状態に〇年も放置されたアンドロイドが果たしてまともに動くのか? とか、可動エネルギーは何処から? とか 放射線とか太陽フレアとか大丈夫だったのか? とか おそらく人間にそっくりと言う事は、皮膚(表皮組織)に水分が含まれる素材だろうから宇宙空間で水分が逃げちゃってカッサカサにならないのかな? とか……
もう、もう、もう……!
そーいう、その他もろもろの邪推や蛇足を全部、全部、ぜ~んぶ吹っ飛ばす位、ピュアで爽やかで心温まる作品です。
あらすじとか聞かずに、とりあえず、読め!!!
後悔はないから!!!
主人公のマスターが残した12文字。
心が無いはずのアンドロイドに宿ったものは何だったのか。
どうして、心を持つまでに至ったのか、そして、たった一つの花の決断は。
これぞ、文学!!!