やっとの思いでケルベロスを倒した一同だったが、その勝利はぬか喜びに終わった。さっき倒したのとまったく同じハルピュイア部隊が大編隊を組んでこちらへ向かってくる。シリウス達が壊滅させたのはたかが一隻の母艦の艦載機にすぎず、大局としては包囲されつつあったからだ。パスファインダーの後方からエクスプローラーがやってきた。ヴィクセン部隊の先頭をゆくのは基地司令が駆るヴルペスだ。ヴルペスはヴィクセンの元になった機体で、高性能だが扱いづらく古参のパイロットだけが愛用している。
《お父様!基地はどうなったのですか!》
《無尽蔵に現れる敵を抑えられず、やむなく放棄した。我々は、もう地球へ降りるしかない。この包囲網を突破できればの話だがな》
《そんな、ここまで来て……》
《閣下、ライラプスがいます。私達は当初の作戦を継続するだけです。できるわね?シリウス君》
「はい」
《そうと決まれば、プロの意地にかけてシリウスくん達を守るよ!》
《了解!》
ハスキィ、サモエド、クィンミク、マラミュートの四羽が四方へ散り、タロンミサイルでレーザー砲台を破壊して回る。爆風の起きない宇宙では大型ミサイルの爆発もほとんど意味がないが、命中さえすれば衝撃波が伝わるので、動かない目標を狙うのにはうってつけなのだ。そうして黒い母艦の自衛能力が封じられてゆき、他の母艦からの援軍には、ケンネルと二隻のガイア艦との援護を受けるヴィクセン部隊が散弾の弾幕で対抗した。そしてとりわけケルベロスにはライカとテウメッサと基地司令が挑み、司令のヴルペスは単騎でケルベロスと対等に渡り合った。
「おじさん、そんなに強かったの!?」
《なぁに、昔取った杵柄だよ。テウメッサを連れ帰ってくれたこと感謝する。顔も知らない異星人との話し合いで戦争を止めるなど、夢物語みたいな話だが……行け少年。我々にできたのだから、君にもできる。君だけが二つの地球の最後の希望だ》
「シリウス、行こう!」
「……ああ!」
敵と味方の流れ弾が飛び交う中、ライラプスハープーンを黒い母艦に撃ち込んでワイヤーを巻き取りつつ、一気に距離を詰めて船体に接触する。エアロックと思われる小さなハッチをライラプスクローで少しえぐってやると、レーザーカッターが一周しないうちに内圧でハッチがちぎれ飛び、それから隔壁が閉じてしまうまでに、シリウスは通路の奥へコアライダーのスクーター部分を滑り込ませた。いっぽう外壁に取り付いたままのライラプスも通信回線を開いていたが、これはシリウスもマイラも、ブランさえも知らないことだった。
ヘルメットのバイザーを上げようとしたシリウスをマイラが制止した。コアライダーのコンソールを見ると、暗い通路を満たしているのがふつうの空気ではないことが分かる。
「窒素……?防火のためならなんで真空にしておかないんだ」
「地上の気圧で宇宙船が潰れないように、かな……」
「こんなでっかい船で地球へ降下してくるっていうのか!?」
「考えたくないけど、誰も見当たらないのに人間大の通路があるし、移民の人達がやってきたとき地上基地になるんでしょ」
「メンテナンス用通路じゃないか?本当に誰もいないのかな」
「警備ロボットならいるかもね。気をつけて進もう」
シリウスは車体が浮き上がらないように気を遣いながら、艦橋を目指してコアライダーを走らせた。いびつな葉巻型のどこが艦橋かなど知るわけがないが、外から見たときは船体のところどころに赤い窓があったので、たぶんそこが何らかのコントロールルームだろう。最悪、端末のようなものが見つかりさえすればどの部屋でもいい。前照灯の明かりの中に現れた最初の扉を二人がかりでこじ開けると、果たして窓のない部屋の奥に端末があった。壁面に埋め込まれたモニタとその下から突き出すコンソールの構成は地球製コンピュータの端末に似ている。装甲作業服の怪力でひしゃげた扉に念のためコアライダーを挟み込んでおき、その明かりを頼りに破壊したパネルの奥から端末のケーブルを適当にひと掴み引っ張り出す。
「異星人のコンピュータでしょ?どうするの?」
「これを使うんだ」
ケンネルでブランがシリウスに手渡した、角砂糖よりも小さい立方体の装置。この中にはマアトのコピーが入っている。被覆を剥いたケーブルを十本も試さないうちに通信回路に行き当たり、宇宙船と接続したマアトは端末のモニタに光をよみがえらせた。母艦は、黒い棘型のアンテナではるか銀河の彼方と連絡を取っていて、地球やガイアよりもずっとずっと遠い系外惑星と交信する権限が、今、シリウスとマイラに与えられた。
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