ガイア軍の地下基地は激しい爆撃を受けながらも健在だった。大きすぎるケンネルは整備ドックのハッチを通れず、シリウスとブランを乗せたライラプスがライカのグレイホークとともに衛星軌道上で一旦パスファインダーへ移乗して、パスファインダーごと入港するという面倒だが安全確実な手順を踏んだ。ライラプスの狭いコックピットで長身のブランはシリウスの背中にかなり密着していたが、それでもコアライダーが後ろへスライドするとき天井に頭をぶつけた。

「気をーつけいっ!」

 ドックではガイア兵が踵を揃えてずらりと整列しており、工具を持ったロボット達がパスファインダーに群がる中、基地司令自ら一行を執務室まで案内してくれた。執務室に着くと、自己紹介もそこそこにブランが本題を切り出した。衛星軌道上をケンネルが周回している。このままでは狙って下さいと言っているようなものだ。

「閣下、私達は同じ敵に攻撃されています。テラにご助力頂けるという確約が欲しいのです」

「即答はしかねる。正式な軍事同盟の申し入れであれば、最高司令部に報告し、討議のうえ決めねばならん。ひとつ訊いておくが、仮に手を組むとして見返りはなんだ?我々の過去を帳消しにするほどのものか?」

「……敵の正体」

 司令の目が鋭く光った。こんな話はライカもシリウスも初耳だ。

「もっとも、確証を得るにはいささかガイア側の情報が足りません。機密でなくとも新聞や雑誌のアーカイブから手に入る情報でよろしい、端末を使わせて下さい」

「いいだろう。こちらも通信網が寸断されていてな、本部とのやりとりは人手に頼らざるをえず時間がかかる。連絡がつくまで当基地にて自由に過ごしてもらって構わない。上空の宇宙船には私の権限の範囲内で補給をさせよう」

「ありがとうございます」

 司令は交渉の場ではテウメッサの名を一切出さなかったが、二人きりになると娘を強く抱き締めた。

「お父様……!」

「よく帰ってきたな。分かっているよ、あの方々はおまえの命の恩人だ。邪険になど扱うものか。……それにしても、こんな最果ての基地に飛ばされて預かった艦隊は壊滅、免職も覚悟していたところへ隣星からの使者との交渉役になれるとは。私も運が向いてきたらしい」

「なぜです?」

「いま地球で一番テラに近いのはこの私だからだよ。テウメッサ、情報は力だ。本部の連中はテラの情報を欲しがり、こぞって私に問い合わせてくるだろう。彼女達が月にいるかぎり、あらゆる情報交換が私を介して行われることになる」


 荒涼とした地表から周回軌道上のケンネルに約束どおりヴィクセンが物資を運び、ガイアとの連絡用の再突入カプセルを積んだロケットが大気のない殺風景な黒い空の彼方へ飛び立っていった。基地での日々はたいして自由ではなく、客室から一歩踏み出せば私服のお目付役が運動場や公衆トイレにまでつきまとい、異星人の身体は未知の病原体の巣窟だとかで毎日検査を受けたうえ食事のたび薬を飲まされたが、そんな中でもシリウスとテウメッサはライカの仲介で改めて話し合いの場を持つことができた。初めてとか見られたとかいうのは、なんのことはない、模擬戦で人生初の敗北を喫し恥を晒したときのことだったのだ。地球の周回軌道上でケンネルに投降したのはノーカウントらしい。ライカは気まずそうなテウメッサをシリウスもろとも抱き締めてくれた。あとでブランさんにも話しておかなきゃ……。それから十日ほどののち、ガイア防衛軍最高司令部からの返事が、行きとは別のロケットでテイアに届いた。

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