最終話 生命(いのち)の種

 

 テイア基地のマスドライバーからパスファインダーで衛星軌道へ上がったシリウス達は、エクスプローラーを中核とする基地守備隊と銀の鳥部隊に守られながらケンネルに移乗した。格納庫ではマイラとおやっさん達がライラプスのために新たな武器を用意してくれていた。超硬度ワイヤーガン、通称ライラプス・ハープーン。ライラプスの全高ほどもある細長い筒の後端に四角いリールボックスがあり、全体的なシルエットは狙撃銃のようだ。機械油まみれのマイラは、ライカのグレイホークに乗って基地へついてくることもできたが、博士が考えたライラプスの最終仕様を完成させるべく、自分の気持ちよりもシリウスのことを優先して船に残っていたのだった。

「……そんな作戦にオッケーしたの!?ブランさんが行けばいいじゃない!」

「ライラプスに乗れるのは俺だけだ」 

「わたしも行く」

「帰ってきた機体の補給はどうするんだよ!」

「ロボットがいるわ。ねえおやっさん?」

 おやっさんは任せとけと言うように腕組みをしてうなずいた。

「シリウス、この状況は地球とガイアの関係に似てる。わたし達は遠くの星から一方的に攻撃されてるんだから、今度はこっちがメッセージを送る番なのよ。ブランさんがどういうつもりかは知らないけど、あの夜の約束、二人で果たそう?」

 ケンネルの艦首に二基ある電磁カタパルトの一方から最後のグレイホークが勢いよく飛び立ち、あとはライラプスを残すだけとなった。艦載機の発着中はバリアが使えないので、火器管制のため艦橋に残っているブランは気が気ではないようだ。

《なにをしているのシリウスくん。早く発進しなさい》

「マイラが乗ってるからって、戦闘になったら加減はできないからな?」

「うん!」

 ブースターごと後ろにスライドしていたコアライダーを胴体に格納して、重武装のライラプスは両足をカタパルトに乗せた。

「ライラプス、行きます!」

 ライラプスの両眼が点灯する。カタパルトの作動とともに背中のブースターが武者震いをするように咆哮し、マシンガンの火線が飛び交う無音の戦場へと機体を押し出した。


 最前線へ近づくにつれ、ホークアイのせいでライラプスのモニタ上をマーカーが埋め尽くし、慌てるシリウスの後ろからマイラが手を伸ばして、こちらの味方機にロックオンされている敵や衝突の危険がない遠くの味方機を非表示に設定した。コアライダーには以前のスクーターよりもしっかりした“へその緒”が二本あり、マイラはそのうちの一本に装甲作業服を接続している。この二本目の“へその緒”は予備と考えるのがふつうだが、ひょっとすると博士はシリウスとマイラの二人乗りを見越していたのかもしれない。高速飛行形態のアロペクスが接近してきた。

《遅いぞシリウス、乗れ。敵艦まで運んでやる》

「ありがとうテウメッサ」

《その台詞はまだ早い……って、貴様、増槽もなしにそんな大荷物で来たのか!?機体が重い、こっちまで推進剤が足りなくなる!》

「いけない、忘れてた……」

「今さら忘れてたって、マイラ!」

《彼女連れか!?なんでマイラがいる。戦場は遊園地じゃないんだぞ!》

「合意の上です!」

《呆れた奴らだ……。死にたがりの面倒までは見ないからな!武器なんかさっさと使ってしまえ!》

「使い捨ての武器っていうと、マイクロミサイル?」

「大きな声で元気よく!」

「マイクロミサイル発射!!」

 シリウスは降下してくるオルトロス部隊に対して小型ミサイルを全弾発射すると、空になった四つのミサイルポッドをパージした。目指す敵艦はマスドライバーからの長距離ミサイルをオルトロス軍団に迎撃させて、ガイアとテイアの重力が釣り合うポイントのひとつに留まっている。ところがそのポイントは途方もなく遠いので、ライラプスを背に乗せたアロペクスは増槽によって推進剤と酸化剤を上積みしなければならなかった。いまケンネルとパスファインダーは、それぞれの艦載機に守られて、包囲されないようにじりじりと敵を押し返しながら進みつつあり、その前方で孤立した二体の前には黒い艦隊が待ち構えていた。

 ロックオン警報が鳴り、なめらかな船体のレーザー砲が一斉にこちらを向いた。

「避けて!!」

「ライラプス!!」

 二体の間で赤く膨れ上がり蒸発したのは、テウメッサが射線上から逃げながら捨てた空の増槽だった。アロペクスほどの急加速ができないライラプスは、とっさにライラプスハープーンを艦隊直掩のオルトロスに撃ち込み、リールの巻き取り機構を作動させて難を逃れた。弾頭を起爆してワイヤーを自切、切断したワイヤーの先端に砲身内部で新たな弾頭を自動装着する。リールと弾頭のどちらが尽きてもライラプスハープーンは使用不能になるが、予備弾倉と予備リールボックスを持ってきているので当分は戦えるだろう。博士はよほどライラプスの格闘能力に自信があるらしく、ライラプスハープーンで敵を引き寄せ、ライラプスクローでとどめを刺す戦法を想定していたようだが、いざ実戦で使ってみると、で敵の装甲に食い込んだうえ炸裂する弾頭が強力すぎて、いちいち接近戦に持ち込むまでもなかった。ライラプスハープーンは、つまるところ砲弾と砲身とがワイヤーでつながっているだけの大砲だった。ふつうの大砲より便利なところといったら、機体の制動に利用できるところと、弾頭の起爆タイミングを選べるところぐらいだろうか?

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